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牝鹿
吾妻紬は野生の鹿にエンカウントした。
ちなみにエンカウントという英語は存在しない。遭遇という意味を持つ英語はencounterでありエンカウントは和製英語であるそうだ。
閑話休題。ともかく紬の視界に茶色の毛皮を持つ四足歩行の野生動物、鹿が現れたのだった。
その鹿には角がない、その体格から子鹿ということはなさそうなので牝鹿なのだろう。
鹿は当然草食動物。それも毒を持つようなものを除き、植物ならなんでも食べる。シカの食害で森の木が全滅に追いやられることすらあるという……。
どう考えても植物な紬の天敵である。
まだこちらの存在には気づいていないのか水辺に生えている草を食べているが、こちらは二メートルを越す高さの植物だ。見つからないハズがない。
紬はかつてないピンチであると感じ、同時ににっちもさっちも行かない現状を破るチャンスだと思った。
成長するためには水分が足りていない。湖の水が引き離れていったからだ。
だが今新たな水分が向こうからやってきたのだ。
紬は知恵を絞る。あの牝鹿を殺しその血を奪う。生き延び生を謳歌するために……。