生物であるか否か
幸いにも岩巨人が一号たちを追いかけてくるようなことはなかった。
むしろこちらのことを視認しているのかすら怪しいものだと紬は思うようになっていた。
十分に離れたことで魔法が使えるようになったところで、水のレンズを利用した望遠鏡を用いて岩巨人を観察していた紬。
そのレンズに映る岩巨人の顔はどこか作り物めいていて、その目はガラス玉のように紬には見えたのだ。
そして先程まで戦闘を行っていた猿たちの血の匂いが満ちるその場所にまでやって来た岩巨人は食事を始めた。
血の海に沈む猿の死体も、辛うじて息はしているものの四肢を欠損するなどして逃げられなかった生き残りも関係なく大きく開けた口に放り込み、のべつ幕無しに貪り続けている。いや、カレーは飲み物と豪語するフードファイターの如く咀嚼することなく飲み込んでいるので貪るというよりも流しこんでいるという表現のほうが正しいだろう。
そしてその場に存在していた猿の群れの成れの果てをあらかた平らげた岩巨人はその場にうずくまり、まるで電源が落ちてしまったかのようにピタリと動きが止まり、しばらく観察を続けたが全く動かなくなってしまった。
そんな岩巨人の姿を見ていた紬は、この岩巨人は本当に生物なのだろうかと疑問を持つに至った。
これまでの手足の動きはどこか不自然で、さらには外見だけでなく開かれた口の中の見える範囲までも生身と呼べる部分を紬は確認できなかったのだ。
それらのことから紬が岩巨人に持つ現在の印象は出来の悪い大型ロボットといった感じである。なので呼称も岩巨人というよりは岩人形のほうがあっているというものもいるかもしれないが、そもそも岩巨人といってはいるが人ではなく岩猿の姿に近いので細かく言えば岩巨猿だとかのほうがあっているのかもしれない。しかし岩巨猿は語呂が悪いし、岩人形だともっと小さなイメージになってしまうと考えた紬の中では岩巨人が適当な呼称だろうとなったわけだ。
ともかく紬は岩巨人が何者かに造られた存在ではないかと思った。ただあくまでも紬の持つ印象がそうだというだけで、この岩巨人が造られたものであるだとかの証拠になるようなものは何もない。むしろ生物でないとするならば死体を食す必要性がわからない。
なんともちぐはぐな印象を与えてくる岩巨人について紬は考察を続けるのだった……。