岩山
岩猿の思考を占めるのは驚愕と困惑……そして焦りだった。
追い詰めたと思った先に獲物の姿は無く、いつの間にか背後を取られ気付いたら攻撃を受けていた。
先程まで圧倒的に数で勝っていたというのに、あっという間にその差は無くなってしまった。
一瞬の出来事で群れが壊滅に追いやられ、周囲に息をしている者は運良く攻撃を躱せた数匹と岩猿のみで、岩猿自身も攻撃は防いだが飛んできた物がそのまま巻き付いてきたために行動を制限されてしまっている。
血の海に沈む手下たちの亡骸を見て岩猿は焦っていた。
群れが潰されたのは痛いが、また別の群れのボスを倒して乗っ取ってしまえばいいのだ。今はそれは重要なことではない。
今は一刻も早くこの場を離れなければならない。こんなにも血が、死体があるこの場所に長居するのはマズいのだ。このままだとアレがこの場にやって来てしまうと焦っていた……。
岩猿が現状に焦っていることなど一号たちは気がついていない。やや怯えるような様子もこちらの攻撃で群れが壊滅した事で恐れをなしているのだと思っていた紬。
特製ボーラが巻きつき行動を制限することができてはいるが、腕力強化の魔法の力は侮れないので不用意に近づくことなく、遠距離から確実に仕留めようと思っていたその時に、紬は僅かに地面が揺れたような気がした。
気のせいかとも思ったがすぐにまた揺れが訪れた。岩猿がなにかしてきたのかと思ったが、その岩猿の様子がおかしいことに気が付く。
その様子はこちらではないどこか別の場所を見て怯えているように紬には見えた。
そして視界の端で動く何かを見た紬。そちらに視線を動かした紬は目を疑うこととなる。
今までただの背景だと思って全く気にしていなかった、離れた場所に存在していた岩山。それが二本の足で立ち上がり動き出していたのだ。
立ち上がった岩山は見上げるように大きな巨体で高さは十メートルを超えるだろうと思われ、その姿は岩猿を大きくし体表のみでなく全身すべてが岩のようになったような存在だった。
それがこの場所へとゆっくりと歩み寄ってきている。その巨大な足が地面に着くたびに大地が揺れる。
この場所と岩の巨人との距離は残り僅か数十メートル。
紬の元に過去最大の脅威が迫り来る……。