保湿の魔法と保温の魔法
次に紬が確認を行ったのは保湿の魔法と保温の魔法である。
字面が似ているこの魔法の効果は保湿の魔法が対象の湿度を保つ効果で、保温の魔法が対象の温度を保つ効果をもたらす魔法となっているのでどちらも似たタイプの魔法といえるだろう。
保湿と保温と聞くと生活に役立つ便利な魔法程度の認識であったが、いろいろと検証していくうちに紬はこのふたつの魔法が使い方次第では、かなり危ない魔法になると判断した。
このふたつの魔法の効果は魔法をかけた時点の湿度あるいは温度を保つというものだ。より正確にいうと湿度と温度が変化しなくなるというのが正しい。
例えば保湿の魔法をかけた場合だと、魔法をかけた時点から魔法を解除するまでの間は水分が増えたりも減ったりもしないという状況になる。
水分が減らないというのは保湿という言葉のイメージ通りでわかりやすいだろう。だが、この保湿の魔法には水分が増えないという効果も存在しているのだ。
なので保湿の魔法をかけた状態でカルデラ湖に入っても濡れないという不思議な現象が起きたりする。
また、カラカラに渇ききったプランターの土に保湿の魔法をかけた状態にして、そこに水をかけてみると本来ならばすぐに吸収されるはずの水が撥水効果でも受けたかのように弾かれてしまう。
極めつけにこの魔法がかかった状態だと何故か水が飲めなくなるという効果まであったので魔法というよりも呪いの類じゃなかろうかと思う紬であった。
保温の魔法も似たようなものだ。やっぱりこっちも呪いの類だというのが紬の感想である。
極端な話だが、熱いものに保温の魔法をかければ魔法の効果がある間はずっと熱いままであるし、冷たいものに保温の魔法をかければ魔法の効果がある間はずっと冷たいままなのである。
例えば敵を燃やしてそこに保温の魔法をかけてやると炎が消えたとしても燃えていた部分は保温の魔法の効果でずっと炎が燃え上がっていた時と同じ熱さを維持しているようになるのだ。
逆に冷えきった身体に保温の魔法をかけてやると、いくら温めようとしても冷たいままとなる。
こんな使い方をすれば使われた側にとっては呪いのようなものに感じられるだろうことは想像に難くない。
まあ、使い方さえ間違わなければ便利なのは便利であろう。やろうと思えば炎の中でも活動が可能になるほどだ。
普通の状態、つまり常温で保温の魔法をかけると周りの温度変化が気にならなくなるどころか炎の中に突っ込んだとしても温度が変わらないため熱くもないし火傷もしない。流石に酸素はどうしょうもないので実際に炎の中で長時間活動するようなことは無理であろうが……。
ともかくこのふたつの魔法でできることはなかなかに多そうなので紬は今後も上手い使い方というものを考えていく事にした。