消音の魔法
新たに得ることができた種類の能力を順番に試して行く事にした紬。
能力を得た時点でおおまかな効果はなんとなくであるが自然とわかるのだが、やはり一度は使ってみなければ詳しくはわからない。今のうちにしっかりと効果を把握しておく必要があるだろう。
まず試すのは消音の魔法である。この魔法が蜘蛛の異形が持つ本来の能力らしい。
効果対象か効果範囲を指定して発動するタイプの魔法らしく、その効果は音が聞こえなくなるというものらしい。
紬は試しに自身を対象に使ってみたが、最初はいまいち効果がわからなかった。
というのもてっきり何も聞こえなくなるのかと思っていたのだが、魔法を使ったあとも周囲の音を羊の耳は拾い続けているのだ。
これはどういうことだろうかと訝しむ紬であったが、いろいろと試していくうちに消音の魔法の効果の全容を掴むことができた。
音が聞こえなくなるという消音の魔法の効果は、魔法の効果の対象となった者の耳が聞こえなくなるのではなく、魔法の効果の対象となったものの発するはずだった音が消えて聞こえなくなるというものだったのだ。
なので現在、紬自身に魔法をかけている状態ではいくら騒ごうとも音が消えてしまうのだ。メーだとかバーだとかいろいろと鳴声をあげようとしても声は出ない。ただ羊の口がパクパクと音も無く動くだけである。
周囲を歩きまわってみるが消音の魔法の効果で羊の蹄は足音をまったく立てることはなかった。
初めて蜘蛛の異形と遭遇した際に音も無く現れたと感じたが、この消音の魔法を使っていたのかもしれないなと紬は推察する。
更にいろいろと試していくうちにいくつかわかったことがある。
カルデラ湖の湖岸を歩いてみたのだが、水の中に脚が入る際の音は消えて聞こえないのだが、跳ねた水飛沫が水面に落ちた時の音は消えずに聞こえたのだ。
それを受けて効果の適応範囲を検証をしてみた紬。
そこらの石ころを蹴り飛ばしてみると蹴った瞬間の音は鳴らないが蹴り飛ばされた先で石ころが発する音は消えていなかった。
どうやら魔法の対象が触れている間は音が消えるが、接触状態から離れてしまったものが発する音は消えないようである。
次に範囲を指定して消音の魔法を使った場合だとその範囲内で発生するはずの音が消えて聞こえなくなる。あくまでも範囲内から音が出ないというだけなので遮音状態にあるわけではなく、範囲外からの音は消えずに指定した範囲の中に居ても普通に聞こえてくる。
こっちの場合は範囲内であれば水の中に脚を入れても音はすべて消えて聞こえなくなる。単体に魔法をかけるよりもその周辺までを効果範囲に指定してしまった方が確実に音が聞こえなくなるので、とりあえず範囲指定のほうが使い勝手が良さそうだった。