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 へその緒のように繋がった茎を出来る限り伸ばして吾妻紬(あづまつむぎ)はかなり遠くに生えた草を食べようとしていた。

 なんとか口が届き草を喰んだかと思うと、ゴムのように伸びていた茎が掃除機のコードを巻き取るボタンを押した時のようにシュルシュルと一気に根本まで羊部分を引き戻した。

 すでに周囲の草はあらかた喰い尽くし、茎の長さが届く範囲を片付けたその様は掃除機のようにも見えたかもしれない。コード付きの。

 コードレスにできればだいぶ違ったのだろうが、まだ羊部分を茎から切り離そうとは思わない。

 切り離してその後どのようになるのか全くわからないからだ。

 もしかすれば羊部分を遠隔操作できるのかもしれない。だが切り離した途端に動けなくなる可能性もある。

 気軽に試せることではない。もし試すとしたら新しい枝が伸びきり、その先に羊が成った後だろう。ストックもなしには挑戦できないのだ。


 すでに数日ほど検証に費やし、それをふまえたうえで最初に紬が出した答えは羊部分か根のどちらかを盆地の中央に広がる湖にたどり着かせることだった。


 中央の湖は盆地に降った雨水が貯まってできたものだと思われる。

 ただ雨水が貯まっただけではなく、周囲の土壌の栄養が少なからず溶け込んだ水が低い土地へと流れて溜まっているようで、その湖のほとりには盆地の傾斜部とは比べ物にならない量の草が生えている。

 羊部分がそこに辿り着けば食事には困らないし、根をそこまで伸ばせれば栄養の溶け込んだ水分を吸収することができるはずだ。


 茎を長く成長させるにせよ、根をもっと伸ばすにせよ、どちらにしても成長するためには栄養が足りていない。

 結局食べられる範囲にあるものはどんどん羊の口の中へと消えていった。


 そして紬が最終的に選んだ答えは根を湖へと伸ばすほうだった。

 理由は必要なコスト。羊が草を食べに動くだけでもエネルギーの消費は起こる。動く事、食べること、消化することにエネルギーが使われるのだ。

 それに比べ根を湖まで伸ばしておけばずっとライフラインとして利用できる。

 紬がこの結論に至るのは至極当然のことであった。


 生き残るために今必要なのは節制であると紬は考える。

 茎や羊部分への栄養を絞り、根を重点的に成長させる。かつては根の成長方向など決められなかったが今ではその縛りはない。

 真っ直ぐに湖の方向へと地下を根は進んでいった。


 また、羊部分から意識を離すこともできるようになり、より省エネ化が進んだ。その状態だと羊部分が魂の抜けたかのように眠りにつき、羊部分の五感などを利用することができなくなる代わりに消費されるエネルギーがほぼなくなる。パソコンのスリープモードのようなものだ。


 それでもある程度の空腹感はやってくる。だがすでに周囲の草はあらかた喰い尽した。

 しかしその問題に対してもすでに対処法は検証済みである。あまりやりたくはないのだが……。


 その対処法、それは自身を食べることである。



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