毒性付与
蜘蛛の異形は網に捕らえた分枝の羊にとどめを刺そうとしてくる。
その鋭い牙が分枝の羊を捉えるのをただ黙って待つようなことを紬はしない。
網に囚われて手も足も出ないが、そんな状況下でも魔法は出せる。むしろ至近距離で魔法を当てられる絶好の機会であると考えた紬は眠りを誘う煙の魔法を使用した。
まさに蜘蛛の異形の眼前で放出された眠りを誘う煙を至近距離で浴びることとなった巨大蜘蛛。
煙の眠りを誘うという効果を受けて蜘蛛の身体がふらついた。
しかし身体がふらついたのは一瞬のことで、すぐに蜘蛛は体勢を立て直してしまったのだった。
全く効果がないわけではないが、隙を作る程度にしか効果が出ていない。以前蜘蛛相手に眠りを誘う煙の魔法を使った時は触れる前に避けていたのでどれくらいの効果があるのか不明であった。その時はサラマンダーが煙を出した際に蜘蛛の異形が察知の魔法かなにかで煙の危険性を感じ取っていたはずだ。
本来の眠りを誘う煙の魔法ならばもう少し効果が見込めたのかもしれないが、今回は使うすべての魔法が劣ってしまう分枝の羊が放ったものだったから効果が薄くなってしまったのかもしれない。
眠気に打ち勝った蜘蛛の異形の牙が分枝の羊の身体に突き刺さる。
その牙に何らかの毒があるということを分枝の羊が発動しておいた状態異常に対する耐性を得る魔法が効果を発揮したことで確認した紬。
蜘蛛の異形が毒を持つという情報を得ることができた時点で囮となった分枝の羊は御役御免……とはならない。
最後の抵抗として毒性付与の魔法でその身体にはピラニアに飲み込まれた時に使った毒性を付与してある。
ちなみにこの毒は樹海で見つけた極彩色のキノコを状態異常に対する耐性を得る魔法を使ったうえで食べたことで使えるようになった毒である。
だがその毒性を付与した分枝の羊に噛み付いた蜘蛛にこれといった変化はなく、噛まれたことで傷を負った分枝の羊は魔法の行使で消耗していたこともあったのだろう。光へと変わり消えてしまった。
毒キノコから得た毒も蜘蛛に効果がなかったようだ。
それは毒を持つ蜘蛛には毒の耐性があるのか、それとも単純にこの毒が蜘蛛に対しての毒性がなかっただけなのかは判断がつかない。
人間に対して毒であっても他の生物に対しては違うということはよくある話で、その逆もしかりというわけで犬や猫にネギを与えてはいけないというのも人間にとっては問題なくとも犬や猫にはネギは毒性があるという話だ。
今回使った毒も蜘蛛に対して毒性がないだけなのかもしれない。
他の毒ならば効果が出るというのならば紬には蜘蛛に効きそうな試してみたい毒があった。
眠りの煙を顔面にくらったことで少し警戒を強めている蜘蛛の異形にその毒を仕込むチャンスを紬は探す。
それが上手くいくならば大蜘蛛との戦闘も有利に展開できそうだった……。