東の河川
東の湖から流れ出ている河川はいくつかの滝を流れ落ちたあと、曲がりくねりながら東へと向かっている。
東に進むほど水の透明度は落ちていき、底を見ることもできなくなっていった。そのためどのような生き物が生息しているのかも把握できない。水深もおそらく数メートルはあると思われ、河川の幅は十メートルあるかないかというそこそこの幅がある。
なので簡単には河川の向こう岸に渡ることはできないのだが、紬は今いる岸とは反対の岸にとある植物が実をつけているのを見つけてしまった。
やや距離があるのではっきりとはしないが、あの見覚えのある赤くて丸い果実はトマトなんじゃないかと思う紬。
もしそうならばぜひとも回収して拠点に持って帰って栽培できるようにしたいと紬は考える。
しかしトマトらしきものが生えているのは河川を隔てた向こう側だ。向こう岸に渡る方法を考える必要があるだろう。
水の流れはそこそこ速いが泳いで渡れなくはない程度だろう。
しかし濁った水の中に危険な生物が潜んでいるとも限らないので慎重にいきたいところである。泳いで渡る方法をとるのは他に手がなかった場合の最終手段にしたい。
結局紬が出した結論は浮遊の魔法で浮かび、水面を進んでみるというものだった。
浮遊の魔法を手に入れた当初は水面を進むことはできなかった。最初は水面ではなく底の地面から少し浮いている状態となっていたが、浮遊の魔法の習熟によって今では水面の上も滑るように進むことができるようになっているし、やろうと思えば壁を垂直に歩くように壁から少し浮いて進むことも可能となっていた。
そんなわけで斥候役の羊が一頭、浮遊の魔法を使って河川の水面を慎重に進む。
しばらくは何事もなかったのだが、斥候役の羊が河川の真ん中辺りにまで進んだ時にそれは下から現れた。
水面が僅かに揺れたかと思うと、斥候役の羊の足もとの水中から大きく開かれた魚の口がざばりと飛び出し、一口で丸呑みにしてしまったのである。
まさに一瞬の出来事であった……。