新たな芽生え
はっと紬の意識が目覚めたのは天高く太陽が真上に登った昼間だった。どうやら満腹となり、眠ってしまっていたようだ。
空腹感と同じように、この仔羊の脳を休めるために睡眠を必要とするようになったようだ。
食べてすぐ寝ると牛になるという言葉があるが、羊の代わりに牛が生えたりしないよね? などと適当な思考が巡るのもまだ頭が完全に覚醒してないからか……。
完全に満腹となったことなどいつ以来のことだっただろうか。苦学生であった紬は食費も削れるところは削っていたため空腹で気を失ったことはあっても、満腹で眠くなったことなどはなかったのだった。
記憶が確かならば草を食べるために地面に脚をつけていた筈だが、起きた時には茎は上方向へとまっすぐ伸び脚は空中に投げ出されブラブラとしていた。つまりは最初に自身がバロメッツだと認識した時の体勢になっていたわけだ。
この状態って傍から見れば羊が地面から生えた植物に串刺しにされてるみたいに見えそうだなぁ……などと自身を見下ろしながら思っていると、ふと気が付いた。
自身の身体が眠る前よりも成長していることに……。
仔羊と呼べるか怪しい程には羊部分は成長し、植物部分は茎も伸びてさらに高さを増していた。
変化はそれだけでなく茎の半分ほどの高さまでそれまでの倍以上太くなり、その位置には新しく芽ができていた。
この芽から新たな枝が伸び、その先にも仔羊が成るのだろうと紬は直感していた。
ずいぶんとまた大きく成長したなと思う紬。
そしてまた感じる空腹感。
これだけ成長すればあれだけ摂取した栄養も使い果たすのも無理はない。眠っている間にも植物部分は周りから水分と養分を吸い取ってはいたようだが収支は釣り合っていないようだ。
このペースで周りの草を食べていくと直ぐに食いつぶしてしまいそうな気がする。
流石に雑草の根まで食べてはいないので、そのうちしぶとく生えなおすとは思う。
だが本当に大丈夫だろうか? この身体はなかなかのペースで周りの養分を吸い取っているのだ。こんな思考が出てくるのも不思議ではない。雑草すらも生えなおす事が難しくなるのではないかと……。
かつては自身が草であったならどれほどの寿命があるのかと心配していたが、自身がバロメッツという木だとわかり寿命については気にならなくなっていた。
しかし新たな問題が紬に降りかかる。このままでは木の寿命が来る前に栄養不足による終わりが見える。
この現状を打破するために何が必要か、紬はあるかどうかもわからない答えを探し始めるのだった……。