水圧
魔法の射程ギリギリの距離にいた羊たちの膝丈ほどまで流れてきた水。四方に散った余波でこれだと、直接浴びた人面樹に掛かった圧は計り知れない。
最近わかったことであるが、水を生成する魔法で用意できる水量は使った場所によって変わってくる。
カルデラ湖周辺>拠点に作った溜池周辺>樹海>岩場といった具合に水気が多い場所であるほど生成可能な水の量が多くなるようなのだ。
今回のこの場所も東の湖にだいぶ近づいたからか、予想よりも多くの水を生成することができたために威力の方も想定よりも高くなったわけである。
水塊による大質量を受け止めた人面樹はほとんどの枝は水圧に耐えられずにへし折れ小さなものから順に光へと変わっていっている。
人面樹の目に灯る赤い光も弱々しく点滅するようにちらついており、とどめを刺すには至らなかったようだが、かなりのダメージを与えることができたようだ。
人面樹の根本の土も抉れるように流されており、何度か続ければまっすぐ植わることもできなくなるだろうと紬は思う。
そう、何度か続ければだ。
この場で光に変わっていっているのが人面樹の一部だったものだけということからわかるように、まだこの場に溢れている水は紬の魔法の制御下から離れたわけではない。
ゆっくりとだが再び宙に舞い上がる水たちが、弱った人面樹の頭上へと集まっていく。
そして落とされる水塊。
根を張っている人面樹にこれを避けるすべはなく、根を動かして庇うように頭上へと上げていたようだったが効果は薄く、水圧に圧し潰された。
それから何度か同じ光景が繰り返され、思った以上に生命力が強かった人面樹の目の光が消えたのは、通算五度目の蹂躙の後だった。
目から光が消えただけで、まだ死んではいないなんてことも考えられるので紬は慎重に確認を行った。
その時熱を見る魔法によって捉えた視界にとある変化があった。
人面樹の口の奥の方に熱が集まっていく様子が見て取れたのであった……。