遠距離攻撃
まず手始めに紬が試したのは眠りを誘う煙の魔法である。
これが効くのならば楽だったのだが、人面樹には効果がないようだった。煙をもろに食らっているのに目に灯る赤い光には変化がない。
ある程度は予想していたことなので紬にはそこまでの落胆はない。
おそらく脳がないということが効果が出ない原因だろうと紬は思う。睡眠は脳を休めるために必要なものだ。紬も羊が成るまでは睡眠することがなかったことを思えば当然の結果だったのだろう。
というわけで眠らせてから一方的に攻め立てるというわけにはいかなかった。
気を取り直しての次の攻撃……というよりは検証であるが人面樹の枝の一本を切り落としてみる。
黒曜石のナイフを動かす魔法で人面樹の方へと飛ばし、細い枝を切り落とした。
動かす魔法で動かせるのは紬が干渉した魔素を含んでいることが条件であるのでそのままでは黒曜石のナイフは動かせない。
この黒曜石のナイフには動かす魔法の対象とするために刃の部分以外に羊毛を巻きつけてから更に上から樹液でコーティングしている。
そうすることで動かす魔法の対象としているわけだが、まだ動かすことができるのは軽いものに限る。なので今回使ったナイフもかなり小ぶりで薄いものだ。
そして小枝を切り落としたことでわかったことがある。
バロメッツの羊毛や葉っぱも同じであったが、切り落としたものは時間が経つと光へと解け消えていくということだ。
案外、伐採したら幹か切り株のどちらかが光へと変わってしまったりするかもしれない。もしそうなるのならば残るのは種のようなものが含まれている方だろうか? などと紬は思案する。
とはいえ、伐採可能な手立てが思いつかないので試すことはできそうにない。
次に用意したのもは、いくつかの水のレンズだ。太陽光を焦点に集めて火をつける試みである。
ちなみにだが、同時に展開できるレンズの数はその操作に思考を割いた羊の頭の数に比例する。単体だと頑張って三つほどであるが、魔法の制御に割り当てる頭の数が多いほど魔法の同時制御数や精度・安定性などの向上に繋がる。
さて、水レンズによる発火を狙った攻撃がどうなったかといえば、成果は今ひとつといったところである。
やはり水分を多く含んでいるためか、なかなか着火しない。
まあ、樹海の木々に燃え移っても困るし、人面樹を燃やしてしまうと種のようなものを回収ができるか怪しいところなので火攻めは最初から期待薄だった。
最後に紬は今現在可能な最大規模の遠距離攻撃をかますことにした。
その攻撃は蜘蛛の異形が使っていたのと基本は同じだ。
ただ落とすだけ。重力の力を借りたその大質量の水の威力は推して知るべし。
紬は動かす魔法と水を生成する魔法で集めに集めた水塊を人面樹の頭上から叩きつけた。