異なる世界 異なる視点
俺の名前は日高 真一。
高身長で成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能、親は大企業の社長をやっている。
そんな完璧高校生の俺がこの異世界に召喚されたのは2週間ほど前のことだ。
最初は戸惑ったが勇者として色々してもらって、嫌な気持ちではない。
むしろあのうるせぇ親父がいなくてせいせいするね。
今日も退屈な訓練とやらをするらしい。
本当に嫌になる。
こういうことって大抵役にたたねぇんだよな。
と、いうことで!
抜け出して遊びに行こう!
1日くらいしなくても大丈夫だしな!
俺、勇者だもん!
「つーことで、馬場、ついてこい」
「え、そ、そんな、ダメだよ日高くん!ちゃんと真面目にやらないt......」
「うるせぇんだよ、何様のつもりだテメェ」
馬場のがら空きのボディにパンチを食らわせてやった。
「ぐちぐち言わずについてこい」
「は、はい......」
「相澤は来るか?」
「じゃ、行こうかな」
その他数人のツレも一緒に抜け出すことになった。
そうと決まればあとは早い。
勇者のスキルを使うだけだ。
「『隠密剣』!」
スキルってのは召喚されたやつしか使えない技で、名前を口に出せばあとは勝手に発動する。
技能成長樹に経験値を稼ぐと手に入るSPを振れば使えるようになる。
枝分かれしたりしているからツリーなんだろう。
『隠密剣』は姿を消すスキルで、半径2メートルの中にいるやつも一緒に消える。
消えてるやつ同士は見えているからぶつかったりはしない。
「ここが王都か、なかなかでかいな」
「そうだね〜、東京よりは小さいけど」
「そりゃそうだよ、相澤さん」
「話しかけんな、クズ」
そこからは自由行動になった。
俺たちは制服だったがマントを羽織っているから大丈夫だろう。
顔を見られても、この世界のやつは日本人っぽい顔が多い。
たまにアジア系の人とかヨーロッパ系の人とかいるけど。
街並みは中世ヨーロッパ風だから違和感が少しある。
「ん?この匂いは?」
「多分あそこだよ、日高くん」
そう言って馬場が指差した方を見ると、たこ焼きのようなものを焼く露店が......って、たこ焼き?
「なぁ、そこの兄ちゃん、食ってかねーか?王都名物『スライムの内臓の包み焼き』!」
「スライムの内臓?」
「そ、コリコリしてうまいんだこれが!」
店の親父はそう言って底の深い皿に入れて渡して来た。
見た目は完全にたこ焼きだ。
「そこに特製ソースがあるだろ、たっぷりかけて食ってくれ。それは王都に来たあんたらへのプレゼントだ!」
「なんで俺たちがここの奴じゃないとわかった?」
「見ない顔だからな、わかるさ」
「そういうもんなのか?」
「そういうもんだよ。さ!冷めないうちに食ってくれ!」
ソースをかけて食ってみるとなかなかに美味かった。
スライムの内臓だと思うと少し気持ち悪い気がするが、食感はタコみたいだし、味はホルモンに近い。
......たこ焼きより美味いな。
ソースが酸味強めについていて、これが味を引き締めている。
食べれば食べるほど腹が空くようなクセになる味だ。
「親父、これ3皿くれ。」
「お、気に入ってくれたか?」
「ああ、美味い」
その3皿もペロリとたいらげ、出て行こうとするときにお礼を言うと、
「じゃ、贔屓にしてくれよ」
といってくれた。
彼は勇者として、まだ未熟だ。
肉体的にも、精神的にも。
覚悟や決意があるかと問うのなら、答えは否だろう。
しかし、それで彼が勇者失格となることはない。
未熟さの中の強き心と、
青臭さの中の小さな覚悟が顔を出したなら、
彼は本当の意味での『勇者』となるだろう。




