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遊び人は復讐の道を行く  作者: 魔女の弟子
第2章 竜人種はあなたと共に
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TEACH 1 この世界の真実を教えよう

『ハイドアンドシーク』を解除してから、静かに城から脱出した。

『ハイドアンドシーク』を使ったままだと『鬼』に居場所がわかってしまうから。

どこへ行くともなく彷徨った。

武器も持たず、松明も持たず、夜の森を彷徨い続けた。

なんども転び、なんども枝が頬を切り裂いた。

しかし、痛みも苦しみも、決して心を埋めてはくれなかった。

うわごとのように緋色の名を呼び続けた。

あの人懐っこい笑顔も、聞くものを安心させる声も、もう戻っては来ない。

その事を認められなかった。

そのうちに、明るくなってきて、ロックリザードがいるのを見つける。

......丁度いい。


「くそっ、くそっ、くそっ、くそっ!なんで、なんでなんだよ!奴らは!日高は!奪うしか能がねぇのかよ!僕は!は!奴らを!」


素手でロックリザードの硬い鱗を殴り続ける。

当然抵抗されたが、そんなことは御構い無しに、ただひたすら殴り続ける。

皮膚が擦り切れ、肉が潰れ、血が朝日を反射していた。

急に視界が霞む。

自分が泣いていると気付くのに少し時間がかかった。

それが痛みからくるものではないと、簡単に理解できた。

きゅおん、とロックリザードが鳴き声をあげる。


「......なんだよ」


そいつは悲しげな顔をしながら、僕の顔を舐めてきた。


「慰めて......くれてるのか?」

「きゅおん」

「......ありがとう」


どれほどそうしていただろう。

少なくとも、そんなに長い時間ではなかった。

ガサガサと木々を押しのけながら進む音が響いたからだ。

それは人にしては大きすぎる影だった。


「これは、まさか!」


熊のような魔物だった。

熊との相違点は、その大きすぎる爪。

その爪を使えば、簡単に人を殺せるだろう。

佐々木さん・・・・・をそうしたように。


「あ、あああ、ああああああああああぁぁぁぁぁ」


僕は、きっとここで死ぬだろう。

つい、背中を向けてしまった。

鋭い痛みが走る。

生暖かい、一度触れたことがあるものが流れて行く感覚と寒気が体を包んだ。

意識が朦朧とし、世界が輪郭を失っていった。






「...ん.........げ............れ.........」

「......る.........で...」


ここはどこだ......。

天国にでもきたんだろうか。

それでもいいかな、緋色に会えるなら。


「う、あ、はぁ、はぁ」

「あ、目が覚めたんだね。自分がどうなったか、覚えてる?」

「た、確か、デカイ魔物に、襲われて、それから......」

「まだ起きちゃダメ!危なかったんだよ、あと少し傷が深かったら助からなかったかも」

「あ、あの、ここはどこ、ですか。あなたは......」

「え、ああ、ここはね、『アリアスの村』だよ。ええと、あなた達人間の言い方だと『竜人種』っていうのかな。それが集まって暮らしてる集落。私はね、『ミーサ』っていうの。竜人種の古い言葉でね、『花』って意味なの」


竜人種、ということは人間ではないのか。

ミーサと名乗った女の子は、俺と同じか、少し下のように見える。

人間ではないというのが信じられないくらい、人間と変わらない。

目も、耳も、鼻も口も手も。

何もかもが人間と同じだった。

違うのは、その差から生える、鱗に覆われた翼くらいだろうか。

でも、きっと、この子も人間を殺すのだろう。

今はまだそうじゃなくても、そのうちに。

それが戦争で、それがこの世界だ。


「君は人間だよね。獣のような耳も鱗も羽も牙もない」

「は、はい」

「私、ずっと人間に聞きたいことがあったんだよね。『どうして、人間は他の種族を殺すの?』」

「どう......して......?」


どうしてって、戦争だからじゃないのか?

戦争に理由なんて存在しない。

始める理由はあっても、続けるのは、殺すのは『戦争だから』だ。

戦争なんてそんなもの。

こっちも殺すしそっちも殺す。

だからどうしてなんて疑問は出てこないはずだ。

なのに、なぜ?


「ミーサ、人間様がいらっしゃったというのは本当かい?」

「長老様!今目が覚めたの」

「あなたは......?」

「これはこれは、人間様。私は『ベイローク』。この村の長老をしております。まずはあなた様の名前をお伺いしてよろしいでしょうか」


そう言った竜人種はかなりの高齢に見えた。

人間よりも竜に近い見た目をしている。

木製の車椅子がガタガタと音を立てていた。

ひとりでに動く......か。

今がもう少し余裕のあるときなら驚いていたかもしれないな。


「そ、そんなにかしこまらないでください。蓮、萩月 蓮といいます。」

「ハギツキ殿、何の御用でこの辺境へ?」

「い、いえ、別に用があったわけではありません。森の中をさまよっていて魔物に襲われたときに、そこのミーサさんに助けていただいたんです」

「そうでしたか......」

「あの、ベイロークさん。教えていただきたいことがあるのです」

「なんでしょう。私にお答えできることなら何なりと」

「僕は、召喚されたときに、人間の王に言われました。『人間と他種族が戦争をしている』と。でもミーサさんと話しているとどうも違うような気がするのです」

「戦争......。人間にはあれが戦争に見えるのでしょうか」

「あれ?」

「......ミーサ。私の予備の車椅子を。ハギツキ殿にもあれを見ていただこう」

「......うん」


木製の車椅子がもう1つ用意され、そこに乗る。

車椅子なんて乗ったことがなかったが、少なくとも楽になるものではないということがわかった。

ミーサに押されて寝ていた小屋を出ると、村の全貌を見ることができた。

火山地帯というのが一番近いだろうか。

草木は多くなく、山々は煙を吐き出している。

その中腹あたりに村が作られているのだろう。


「きゅおん!」

「おまえ!付いて来ていたのか?」

「その子、離れたくないとでもいうようにくっついて来たんだよ」

「きゅおおおん!」


ミーサが僕の車椅子を押すと、ロックリザードもテクテクと付いて来る。

どうやら気に入られてしまったらしい。



30分ほど歩いただろうか。

だんだんと木々が増え、森のようになっていった。

さらに進むと、不自然に開けた場所があった。


「向こう側、覗いてみればわかるはずです」


ベイロークさんに言われたようにして見る。


そこは、村のような場所だった。

人間の村ではないだろう。

『人間に襲われている』のだから。

小さな家から、羽の生えた奴が出て来た。

獣人種の一種だろうか。

大人と子供が一緒だった。

おそらく家族だろう。

逃げようとしているようだった。

子供を抱えて走り出す。

その瞬間には魔法で作られた炎の矢で撃ち抜かれる。

別のところでは女性がひとかたまりに集められていた。

このあと起こる事に想像ができないほど、ぼくは無知ではなかった。

何より恐ろしかったのは、これを人間の正規軍が行なっていた事だ。

正規軍の装備は魔法がかけられている。

現在地が常に城に知らされ続けるのだ。

盗んだりすれば、簡単に捕まる。

だからこそ、装備さえみればわかるのだ。


「これが、この世界の真実です。『人間と他種族が戦争をしている』のではなく、『人間が他種族を蹂躙している』世界なのです」


真実は、いつだって味方のふりをして近づいて来る。

しかし、信用すれば、簡単に喰われる。

幾度となく教えられた、この世界の掟。

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