後悔、先に立てばいいのに
目が覚めたのは半日後、次の日の昼ごろだった。
「......何が、『遊び人じゃないお前』だよ。結局助けられないじゃないか......」
だめだ。
強くならなければ。
そうしなければ、この世界で生きることは許されない。
でも、どうしても、もう一度立ち上がる勇気は湧いてこなかった。
「う、ううう、ああ」
言葉にすらならない心の叫びが、口からこぼれ落ちる。
緋色......。
心が膝をつきそうになっている。
彼女の面影があるものがないと耐えられない。
「日記帳......」
そうだ、日記だ。
あれを......。
縋るような気持ちで鍵付きの引き出しを開ける。
そこには日記帳と共に入れた覚えのないものが入っていた。
それは......金属製のカードの束と、手紙。
『それ、私のと鍵穴同じだよ』
震える手で手紙を手に取る。
それは、こちらの世界の質の悪い紙とインクで書かれてはいるが、確かに緋色の文字だった。
蓮へ
あなたがこれを読んでいるとき私はもうこの世にはいないでしょう......ってね。遺書って言ったらこの書き始めじゃないと。まぁ、そんなことはどうでもよくて。今、私の未来について占ったら、私は......死んでしまうそうです。それも近いうちに。なのでこれを残しておこうと思います。
まず始めに、これはお願いです。私のあとを追うだなんて考えないでください。あなたは、とても弱い人。そんなことは知っています。でも、私には許されなかった未来を生きることがあなたにはできるんです。ありきたりだけど、生きて。
次に一緒に入れておくつもりのカードについて。金属製のタロットカードのことです。あれは、こっちの世界に来たとき、なぜか最初から持っていたものです。あなたに託します。どう使おうと構いません。私のことを忘れたいのなら、捨ててしまってもいいです。もし使おうと思ったのなら一緒に書いておいた使い方をみてください。きっとあなたの力になってくれると思います。
最後に、私の思いを綴ります。......ずっとあなたが好きでした。最初に会ったのは幼稚園の頃だったっけ。迷い犬が入って来たとき、必死に守ってくれたのを覚えています。自分も震えて怯えているのに抱きしめて大丈夫だよって言ってくれたのは嬉しかった。この恋心に気づいたのは小学5年生の頃だったと思います。林間学校のとき、森で迷ってしまっていた私を先生たちと一緒に探してくれたと聞きました。次の日に声が枯れていたのに何でもないと言って男子の列の方へ行ってしまったの、照れ隠しだってわかってます。それが私の目にはなぜか、とてもかっこよく映りました。こう見ると私、トラブルメーカーみたいだね。もしかしてあなたは私に手を焼いていたのかな?もしそうだったらごめんね。
あなたはとても弱い人。でも、同時にとても優しくて、信頼できる人でもあります。
そんなあなたが大好きでした。あなたは気づいてくれなかったけれど。本当はあなたのそばにいて、あなたを支え続けたかった。でも、それはもう叶わないそうです。それならせめて、あなたの記憶のすみっこでいい。私の場所をくれませんか。それが私の、最後の望みです。 一ノ瀬 緋色
「ああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
何が、何が『応援したい』だ、萩月 蓮!
ふざけんのも大概にしろよ!
本当は気づいていたんだろう!
緋色の気持ちも!
自分の気持ちも!
好きだったんだろう、彼女が!
ただ怯えてたんだろう!
今の心地いい関係が壊れるのが!
そんなのは......甘えじゃないか......!
「緋色......緋色......」
『スキルルート(ゲーム)が解放されました!』
『解放条件:深い悲しみ』
『新しいスキル(ハイドアンドシーク)が追加されました!』
『解放条件:激しい後悔』




