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Master Code  作者: 覇牙 暁
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第七十三話

第七十三話「妖刀月読」




 倭の国で宿を取り、何時しか一月近く時が流れた。


 潜入初日から国主のお家騒動に巻き込まれ、あれよあれよという間に話しはどんどん大きくなって行く。


 家老ヨイチ派と将軍家直系カネツグ派による水面下での抗争は激化の一途を辿り、つい先日もカネツグ派旗本ミヨシ・ジンパチとその家臣3名がヨイチ派と思われる浪士10名に襲撃され、命を落としたという。


 やはり一方的な展開になってきた。


 血筋を重んじるこの国で、将軍家の家名を継ぐカネツグをヨイチは決して見逃せない。


 その血筋を絶って初めて、ヨイチは名実共に倭国の国主として名乗る事が許されるからだ。


 対してカネツグ派には、それに対抗し得る力が無く、盟主であるカネツグは身を隠す以外に術がない。


 しかも、何処から情報が漏れているのか、ミヨシのようにカネツグ派の人間が次々とヨイチ派による襲撃を受け、数少ない有力者をカネツグ派は失い続ける一方となっていた。


 このまま行けば、遠からずカネツグ自身の身柄もヨイチ派に押さえられてしまうだろう。


 そうなっては、私にとっても非常にマズイ展開なのだが……。



 「どうにかして、カネツグ派と連絡を取らないと……」



 旅籠屋の客室でそう呟き、私は畳に大の字で寝転がる。


 何度か接触を試みたのだけど、どれも全て空振り。


 毎日のように町に繰り出し、情報収集も行っているんだけど、ヨイチ派のように物量で行動する事も出来ず、結果として後手後手に回り続けている。



 「はぁ〜……、お煎餅がうめぇ〜……」



 茶請けに出された煎餅をボリボリしながら、寝返りを打ち。


 正直、行き詰まってしまってやる気が起きないのだ。


 もういっそ、このまま放置して倭国を出る事も考えるべきか? なんて事まで頭を過る始末。


 勿論、それが出来るならとっくにやっているワケで……。



 (もう見捨てるとか、そういう次元の話しじゃなくなっちゃってるのよねぇ……)



 しがらみって奴だ。


 ナエちゃんやソウベイさんには本当に良くして貰っているし、他の町人の人達もとても私を可愛がってくれている。


 若干鬱陶しく感じてしまうのは、この見た目の所為なんだけど。


 それでも、だ。


 そうやって仲良くしてしまった事で繋がれた絆っていう名の鎖が、もうとっくに私を首輪で縛り付けてしまっていて。



 「にゃぁあああああ〜〜〜〜〜っ! 誰かどーにかしてーっ!」



 思わず叫び出し、手足をバタバタ。―――と、その瞬間に客室の襖が開いた。



 「「あ……」」



 入って来ようとした人物と声が重なった。



 「カ、カスミちゃん、なんて恰好を……」


 「ぬぅおわああああああッ!!?」



 畳の上でバタバタと足を上げていた事が災いした。


 その場で固まってしまったが為に、大開脚状態で“お出迎え”してしまったのだ。


 部屋着用にナエちゃんに貰った着物を着ていたから、そりゃもう全開なワケで。



 「ちょっ! ノックくらいしてよ、キンさんっ!」


 「ノ、ノックて何だい!? いや、一応声はかけたよ!?」



 そう言えば、この国には“ノック”っていう習慣自体が存在しないんだった。


 が、兎にも角にもと慌てて起き上がり、居住まいを正して。



 「……み、見た?」


 「だ、大丈夫! 見てない!」



 顔が真っ赤だった。


 見られたな……、確実に……。



 「不覚……っ」



 恥ずかしい……。

 ラッキースケベには慣れたつもりだったけど、そうでもなかったようだ。


 で、“キンさん”ってのは、この人の事。


 以前、木材の束に頭をぶつけて、転びそうになっていた所を助けてくれた人だ。


 結局、あの後刀の話しでイロイロと盛り上がってしまい、こうして部屋に遊びに来るような間柄にまでなっている。


 この人、こう見えて結構面白い人物で、巷では“遊び人”なんて呼ばれてるクセに、女性はからっきし駄目っていう。


 私くらい幼い容姿だと気にならないそうなんだけど、ちょっと上の年齢層になると殆ど話しをする事すら出来ないっていう筋金入りらしい。


 物凄い美形で、スリムながら筋肉質で、浮いた話しの一つや二つ有りそうな物なのに。


 と、まぁそれはさて置き。



 「まぁ、どぞ。―――んでも、今日来るなんて言ってたっけ?」



 とりあえず、座布団を部屋の隅から引っ張り出して来て。


 で、向こうも慣れた物で、「どうも」なんて言いながらそれに座り。


 二人で座卓を囲みながら、私が用意したお茶を啜る。



 「いや、今日はたまたま近くを通りかかったから、寄ってみたんだ」


 「な〜る。けど、珍しいね? この時間って、何時もなら家に居る時間じゃない」


 「まぁ、そうなんだけど、ね……」



 歯切れの悪い、返事だった。


 本当に、珍しい。

 彼はあまりこういう態度を取らない人物だし、それにさっきも話していた通り、夕刻過ぎくらいにはもう帰宅しているのが常の生活をしている筈なのだ。


 だから、それが妙に気になって。



 「……なんかあったの?」



 と、聞いてみたんだけど、表情が暗く沈み。


 直ぐには答えず、何かを悩んでいる風で。



 「ちょっと……ね。昔から良くしてくれていた、近所のお爺さんが、その……亡くなってしまって、ね」


 「あ、あらら……」



 マズった、と気付いた時には既に遅し。


 どうやら、かなり仲の良い身近な人だったらしく、そう簡単に立ち直れるような雰囲気ではなかった。


 当然、空気は重く、どんよりとした物になっていって。



 「あー……私ってさ、ほら、子供だから……こういう時、何言って良いか良く解んないんだけどさ……」



 うん、実際良く解らないのだ。


 子供だと言われればそうだし、涼子さんが死んでしまった時の事を思い出すと、気持ちも判らなくもないしで。


 結論、私はバッと立ち上がり、キンさんの後ろへ走って回り込んで。



 「人の部屋来ていきなり暗い顔すんな、心配するだろ!」



 なんて、ペチペチ頭を叩きながら。



 「パンツ見られてそんな顔されたんじゃ、私も女として立つ瀬が無いな!」


 「ええっ!? ぱ、ぱんつ見て落ち込んでるワケじゃないよ!?」



 ちなみに、パンツという概念はこの国にもあったりする。



 「知るか! だったらせめて、もう少し嬉しそうにしろ! ヘンタイめ!」


 「変態!? う、嬉しそうに、って……プッ、フフッ、ははっ」



 どうやら、その身を切るような苦肉の策が功を奏してくれたらしく。


 顔が真っ赤になってる私を差し置いて、キンさんは一頻り涙を浮かべながら笑い続けて。



 「フフ……っ、すまない。ありがとう、元気付けてくれて」


 「べ、べつに? そういうんじゃ、ないし」


 「うん、でも、ありがとう」



 まぁ、何とかなってくれたようだった。


 しかし、と話しを蒸し返すつもりは無かったんだけど、私も思わず口を滑らせてしまって。



 「その話しじゃないけどさ……。ここ最近、ロクな事ないよねぇ……」



 再び自分の座布団に腰を降ろし、そう呟きながら卓上の湯飲みを手に取った。



 「私の行き付けのお茶屋さんにさ、ナエちゃんって気立ての良い看板娘の子がいるんだけどね」


 「うん?」


 「その子がさ、やっぱお客さんに話し、聞くんだって。暗い話しばっかだ〜って」



 事実、ここ最近の町の様子は、私がやってきた頃と比べても日増しに荒んで来ているのを感じる。


 やれ何処で辻斬りが出ただの、窃盗団が盗みを働いただの、罪人の晒し首だの磔だの。


 余りの惨状に国を出ようとする人達も居るらしく、それが御上の目に留まって捕縛され、見せしめに殺されたりなんて事もあって。



 「“シドウ様”ってのは、一体何がしたいのやら。“モリ様”も何処で何してるのかさっぱりだしさ」


 「……あぁ。あぁ、そうだね……。私も同じ気持ちだよ……」


 「え……?」



 そう聞き返してしまったのは、その答えが彼らしくなかったから。


 何時もなら、滅多な事を言うもんじゃないだとか、そうやって諫められるくらいなのに。



 「全く……、何も出来ない自分が、情けないったらない……」


 「キンさん……?」



 座卓の上に乗せられた彼の拳が、鬱血する程強く握り込まれていた。


 その表情はとても悔しそうで。

 別に、キンさんに責任があるワケでもなかろうに。


 そんな時だった。



 「ん……?」



 部屋の外からバタバタという足音が響いて来て、それが次第に近付いて来るのを感じ。


 襖の方へと振り返った直後、ピシャリと激しく開け放たれた。



 「た、大変だぁっ!」


 「ちょっ、なに!?」



 つんのめりながら転がり込んで来たのは、この旅籠屋のご主人。


 私達の活動にも協力してくれている人で、普段はとても物腰の柔らかい落ち着いた人なんだけど……。



 「と、隣町のヨヘイさんトコに……火がぁっ」


 「え、ヨヘイさんトコって、大水屋? が……火事!?」



 驚いて手にしていた湯飲みを取り零しそうになった。


 同時、外からは警鐘が鳴り響いて来て。


 たかが火事で、って思うかもしれないけど、コレがそう短絡的に済ませられるような話しではないのだ。


 日本の近代的な建築物でさえ、火事となれば大騒ぎをするものだけど、それが他人の家や物件なら所詮他人事と割り切れる人が殆どだろう。


 でも、この国……日本の古い時代でもそうだったけれど、木造建築が一般的な生活環境では、火事というのはとんでもない大事なのである。


 理由は、“飛び火”だ。


 一軒が燃えて火の粉が散れば、風に煽られて次々と別の家屋へと火が移る。


 その結果は、都市を焼き尽くす程の大火災にも繋がる恐れさえあるのだ。


 実際、日本史に見られる史上最大の火災である“天明の大火”も、最初はたった一軒の空き家へ放たれた火が原因だった。


 火災発生から二日も燃え続けた炎は、御所や二条城までもを焼き、京都市中1424町にまでその被害を及ぼした。


 公式記録によれば死者は150名とされているが、これには値引きの疑いがあるらしく、実際には1800名もの命が失われたとさえ言われる。


 故に、迅速な対処こそが肝要なのだけど。



 「火消に連絡は?」


 「そ、それが、他にもあちこちで火の手が上がってるみたいで、とてもじゃないが手が足りないって……」


 「はぁ!? なによそれ……!」



 聞き返した私に、旅籠屋のご主人は何度も頷き。



 「何処もみんな、“解放同盟”に参加してる店ばかりが狙われてるみたいで……」


 「な……! チッ……、派手に動き過ぎたか……ッ」



 私ともあろう物が、匙加減を読み違えた。



 「カスミちゃん、私たちも手を貸すべきだ!」


 「判ってる。っていうか……これ多分、私の所為だしね……」


 「え……?」



 その呟きに、キンさんは驚いていたけれど。



 「説明は後でする。悪いけど、キンさんも協力して!」


 「ああ、勿論だ!」



 答えるや否や、私とキンさんは揃って旅籠屋を飛び出した。


 真っ先に向かったのは、最寄りの火災現場である“大水屋”。


 隣町と言っても距離はそれ程離れてなくて、走っても直ぐに辿り着ける場所だ。


 でも、外に出て直ぐに気付く。


 幾らなんでも、町の様子が異常過ぎた。



 「なにこれ!? どうなってんの!?」


 「人が……何故っ!?」



 町割用の柵や木戸が悉く閉じられ、門番が立っていて人の出入りを阻害しているのだ。


 その所為で、避難したい人と救援に向かう人とが濁流の中で渦を巻き、ごった返して身動きが取れなくなっているのである。


 完全にしてやられた。

 まさか、未だ大した力も無い反抗勢力一つに此処までやるとは、誰が想像出来るものか。


 どうやら私は、シドウ・ヨイチという鬼人を甘く見過ぎていたようだ。



 「ちょっと、そこ開けなさい! どういう状況か見りゃ判んでしょ!?」



 と、門番に食ってかかるけど。



 「ならん! これは上意である。何者も通すなとのお達―――」



 当然そう答えるのは目に見えていたから。



 「じゃかぁしいわボゲェー!」


 「んがっ!!?」



 おもっくそ蹴り飛ばして“マスターキー”にしてやった。



 「だわばっ!」



 柵に設けられた木戸ごと門番が吹っ飛んで行き、一瞬周囲が静まり返ったけれど。



 「責任は全て私が取る! 救援に向かう者は皆、私に従いなさいッ!」



 その声に鼓舞されたのか、濁流のように荒れ狂っていた人の波が一纏まりで動き出し。



 「オレ達も連れてってくれ!」


 「隣町にゃ息子夫婦が暮らしてるんだ、指咥えて見ちゃおれん!」


 「協力させてくれ! 何でもするぞ!」



 次々に駆け寄ってくる男衆を前に、私は腰の得物へと手を伸ばし、それを抜刀して高々と掲げ。



 「全員私の支持に従って動きなさい! 現場に到着し次第、下手に井戸水を使って消火しようとせず、近場にある燃えそうな物を片っ端から壊すの!」


 「こ、壊す!?」


 「破壊消火っていってね、それ以上火が燃え広がらないようにするの。それが現状最も適切な処置よ!」



 各所から「なるほど!」なんて声が上がるの聞き、掲げた昏天黒地の切っ先を向かう隣町の方へと振り下ろして。



 「各員散開! 三人一組で協力し合い、火災現場周辺を徹底的に破壊し尽くせッ!!」


 「「「おおおおーっ!!」」」



 同時、私すら置き去りにして、町民達で結成された臨時の消防隊が走り出した。


 つい“昔のノリ”で兵を指揮するような口振りになってしまったけど、みんな納得してくれたようだし、まぁ良しとしよう。


 なんて、そんな事を思いながら鞘に刀を収めたのだけれど。



 「カ、カスミちゃん……、君は、いったい……」


 「ふぇ?」



 直ぐ背後で聞こえた、そんなキンさんの呟きに振り返ると、私を見ていた彼の表情が酷く強張ってしまっていた。


 で、ふと冷静になって。


 一切臆する事無く数十の大衆を先導し、さも当然と指揮を執る幼女。


 抜刀までした挙句、兵を鼓舞するような気合の入った的確な指示出し。


 よくよく考えてみると、キンさんにとってはそれが異常な光景である事など言うまでもなく……。



 「あ、あー……えっと」



 バツが悪くて。


 咄嗟に私がとった行動は?



 「え、えっとね、昔ね、同じような事があってね、カスミね、その時にね、おべんきょーしたの!」


 「とって付けたような誤魔化し方だね(汗)」



 ですよね!


 ってかやめて! その生暖かい目で私を見ないで!


 これでも姿は幼女なのよ!?


 何もおかしなトコなんて無い筈なのに、なんでこんなに違和感ばかり!?



 「だーも! その辺込みで後で説明するから、今は消化活動が優先!」


 「あ、あぁ、それもそうか……。よし、私たちも行こう!」



 とりあえず場の流れで誤魔化した私は、キンさんと共に先を行く救援隊の後を追うのだった。


 見上げる空には、立ち昇る黒煙と共に舞い散る火の粉。


 夜も更けていた所為で、その色は闇夜に一層鮮やかで。


 近付く程に強くなるキナ臭さ。


 人々の悲鳴と怒号。


 もう何度目かの“あの日”の焼き増しみたいな光景に、だからこそ私は嫌気がさした。



 「これを……人の意思で、人為的にやるなんて事……ッ」



 正義の味方面なんてするつもりはない。


 自分だって、似たような事はやった経験があるのだから。


 でも、だからと言って、親しくしてくれた人達が同じ目に合うなら、それを許せる道理などあろう筈もなく。


 人間は身勝手な生き物だから。

 ならばこそ、それ故に。



 「シドウ・ヨイチ……。アンタ、完全に私を敵に回したわね……ッ」



 誰にともなくそう呟き、私は走った。


 目指すは眼前。


 今正に炎上し、黒煙を吹く“大水屋”。


 辺り一帯の喧騒を押し退け、その炎の熱を肌に感じるまでに近付き。


 私はそこに立っていた人物に大きな声をかけた。



 「ヨヘイさん!」


 「カ、カスミさん! ご無事で……っ」



 反物屋のご主人である彼の着物は、造りがしっかりとした高級感のある物で。


 しかし、何時もなら汚れどころか埃一つさえ気にする彼が、今や顔まで煤に塗れていた。



 「私は大丈夫。そっちは?」


 「ええ、自分も大した怪我は……。ですが、妻と娘が裏手の蔵に取り残されていて……っ」


 「え、逃げ遅れたってこと!?」


 「助けに向かおうとしたんです! ですが、周囲に止められちまって……。もう自分は……、どうすりゃいいのか……っ」



 多分、実際助けに行こうとしたんだろう。


 煤けた彼の服は全身水浸しになっているようで、その沈痛な表情からは、今も尚生存を信じているのがありありと伝わってくる。


 けど、これ程の炎の中に飛び込むのは、完全な自殺行為。


 周りが止めるのも無理はない。



 「蔵ってのは、この真裏にあるのよね?」


 「えぇ、ですが……」



 周囲を見渡すけど、一面火の海だった。


 先行していた臨時の消防隊も、今は少しでも被害を抑えようと付近の建物を軒並み倒壊させる事に注力している。


 火災の規模は、既にこの区画一帯にまで広がっていて、たとえ鬼人族でもこの中を抜けて人二人を救出するなんて事は不可能だろう。


 だから、もう悩んでいる暇なんてなかった。



 「キンさん、怪我人の救護をお願い。私は一っ走り逃げ遅れたヨヘイさんの家族を救出してくるわ」



 淡々とそう告げる私に、しかしキンさんは。



 「む……っ、無茶だ! そんなの、ただの自殺行為でしかない!」


 「大丈夫だって、まぁ見てなさい」


 「カ、カスミちゃん!」



 声を荒げるキンさんにニッコリ笑い返し、私は一歩ずつ燃え盛る炎の渦へと近付く。


 そして、再び腰の得物へと指をかけ、語り掛けるように小さく呟いた。



 「さぁて、初仕事よ。喰らい灼け―――“昏天黒地・月読”ッ!!」



 鯉口を切ると同時、抜き放たれた漆黒の刀身に大気が震え上がった。


 空間が罅割れる程の超振動を引き起こし、はばきから刀身へと迸る紅黒の焔が轟と燃え盛る。



 「な……、なんと……っ!?」



 その光景に驚愕し、信じ難いと声を発したのは他ならぬキンさん。


 それは、正しく“妖刀か魔剣か”と思わせるに足る異彩を放ち。


 事実、物理現象を捻じ曲げた。



 「炎が……焼け焦げる!?」



 僅か一振り。それだけで、切っ先に触れた火災の炎が紅黒に“焼き焦がされた”のだ。


 まるで、炎を描かれた絵巻物が燃え盛る焚き木の火にくべられたかのように。


 黒く燃え上がり、灼け焦げて灰になるのだ。


 有り得ない現象はしかし、事実として火災の炎を真っ二つに斬り裂き。



 「じゃ、行ってくるわー」



 私は軽い調子で唖然としている後ろのキンさんとヨヘイさんに手を振り、炎の渦中へと身を投じるのだった。

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