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Master Code  作者: 覇牙 暁
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第七十一話

第七十一話「鬼人族の国」




 ―――鬼人族。


 人間と見紛うような姿を持つ、鬼の血を引いた亜人の一族だ。


 その特筆すべきは、何を置いても“怪力”。


 凡そ人の身からは想像出来ない膂力を持ち、片腕で1トンもの重量を易々と持ち上げる個体も存在するという。


 しかし、怪力という面に於いては近縁種であるオーガやトロルに彼らは劣る。


 その代わりに発達したのが、人間と同様の器用さだった。


 つまり、彼らは化物染みた膂力と人間のような技巧を同時に併せ持つ亜人種の中でも稀有な種族と言える。


 そんな彼らだからこそ、この都市を作り上げる事が出来たとも考えられる訳で。


 文明レベルとしては、日本でいう所の戦国時代に相当するだろうか。


 都市の構造や建築物もやはりそれに準ずる物で、土や木材、焼物などを巧みに用い、他の亜人族とは一線を画す様式美すら感じさせる。


 此処まで来ると、これはもう都市というより“国”と呼ぶべきかも知れない。


 実際、都市の中央に座す城郭はそこに住まう者の権威を示しているようで、それは一国一城の主を名乗るに相応しい人物なのだろう。


 故に……。



 「此処、城下町って事よね……」



 見渡す景色はまさしく戦国時代の城下町その物といった風で、幹線道路を歩いて行けば両脇にはビッシリと家屋が建ち並び、町割をして門を作り、所々に袋小路や虎口を設けたりしているのが覗える。


 これは、この都市が戦の際に城攻めを困難にさせる為の工夫だ。


 そういった備えを必要と考えられるだけの高い知能を有している証拠でもあり。



 (こりゃ質の良い情報が手に入りそうだわ)



 なんてホクホク顔で、大きな通りを歩く。


 道行く町人達の服装は、完全に日本の着物だ。


 違いなんて、額に角が生えているかどうかってくらい。


 強いて言えば、男女ともに美形が多い気がする。

 勿論、中には如何にもな“ゴリラ”みたいのも混じっているけど。


 男は総じて身長が高く、女は見事なプロポーション。


 武士や浪人みたいな連中も沢山いて、帯刀していても何ら訝しがられる事は無さそうだった。


 そうこうしている内、何時しか周囲が活気付き始めている事に気付き。



 (あ……この辺り、“市”が開かれてるんだ……)



 広くなった道幅。


 両脇には茶店や雑貨屋、料理屋が並び、織物屋や鍛冶屋なんかも見受けられる。


 アールヴヘイムの王都とはまた違った雰囲気だけれど、それは何処か似通っても見えて。


 でも、何故だろう?



 (確かに活気はあるんだけど、なんか妙な感じね……)



 覇気が無い、とも違うし……そう、強いて言うなら―――空元気? って感じ。


 武士や浪人風の鬼人族が多いのも、何か理由があるのかも知れない。


 そう考え、私は一先ず、人の多く出入りしている一軒の茶店へと足を踏み入れた。



 「いらっしゃーい! そっちの席にどーぞー」



 入った所で直ぐに給仕の女の子に声を掛けられ、席へと案内された。


 快活な雰囲気のある子で、年齢的には今の私と余り差がないように見受けられるけど。



 「ご注文は?」


 「あー、そうね……」



 当然か。此処は茶屋なんだから。


 店に入って来た奴は基本客であり、何かしら注文するのが当たり前だろう。


 だけど、お金って私が持ってるアールヴヘイムの通貨“クローネ”で大丈夫なのだろうか?


 此処まで発達した国だ。ひょっとすると独自の通貨を設定しているかも知れない。


 そうなると……ちょっとマズイ。

 で、咄嗟に私は。



 「実は、ついさっき武者修行の旅から戻ったばかりで、外のお金しか持ってないんだけど……“クローネ”って使えるの?」


 「えっ!?」



 ヤバイ。やっぱりマズかったか? と、一瞬肝を冷やしたんだけれど。



 「クローネ以外のお金って聞いた事ないよ。外の国じゃ違うお金も出回ってるもんなの?」


 「あ、あー……うん。ミッドガルドの一部じゃ国毎に通貨が違ってね。円とかドルとか、その時々の為替レートで取引されてたりするんだ」


 「へぇ〜! お客さん、すごーい。私とそんな歳変わらなさそうなのに、物知りなんだね!」



 ニコニコ。


 どうやら、何の疑いも無く純粋に話しを信じてくれているらしく。



 「ねぇねぇ、私この国から出た事ないの、良かったらもっと他にもお話聞かせてよ! すっごく興味あるんだっ」


 「あー……うん、いいよ。でも―――」



 と、私が苦笑気味に話しを区切ったのは、別に疑われるのが怖いとか、ボロ出しそうとかそういうんじゃなく。



 「―――後ろ。ご主人がコッチ睨んでるよ? 大丈夫?」


 「え……」



 その視線に釣られて振り返った彼女は、店の主人のこめかみ辺りがピクピクしている事に気付いたようで。



 「わひゃあっ! ごめんなさい! 直ぐお仕事に戻りますぅー!」


 「おう、そうしてくんな。悪いねぇ、お客さん」


 「いえいえ、お構いなく」



 苦笑気味で私の席へと近付いて来たご主人が、ペコペコお辞儀して別の席の給仕に向かっていった彼女と交代し。



 「良い子なんだけどねぇ、元気が良過ぎて会話が弾んじまうお客さんも多くてな。こうやってたまぁに喝入れてやらんと、何時までも喋くってて仕事にならんのですわ……ハハ。面目ない」


 「いえ、分かります。でも、そんなだから、お客さんも足繁く通ってくれるんじゃないですか? 彼女が給仕してる席のお客さん、ホント嬉しそうですし」


 「まぁね、自慢の看板娘ですわ」



 なんて、ご主人もまんざらでも無い様子だった。


 しかし、だ。

 ハプニングではあった物の、コレはコレで悪くない。


 折角話しが出来る機会が得られたんだから、“予定通り”情報収集に努めようと考え。



 「とりあえず、何かお勧めを一つお願いしても?」


 「へい、まいどあり!」



 一先ず注文を済ませ、客足が引くのをしばらく待って……。



 「お待たせー! ちょっとだけ休憩時間貰えたから、お話し聞かせて貰ってもいい?」



 一時間くらい経った辺りで、ご主人に休みを貰った彼女が私の席の向かえに快活な笑顔を浮かべて座った。


 この国の外の情報が本当に楽しみだったらしく、その目は期待に溢れていて。


 で、真っ先に思ったのは。



 (この子の人懐っこさ、ちょっとカナっぽくて、可愛いな……)



 って事で。


 久々に歳の近い? 女の子との会話を雑談と共に楽しみつつ。



 「―――へぇ、じゃあ随分長いこと外で武者修行の旅ってのを続けてたんだねぇ〜」


 「うん、まぁ……ね」



 私の今の設定は、幼い頃に両親と共にこの国を出て、剣の修行の旅をして来たってカンジ。


 彼女にとって、それはとても新鮮な刺激のある話しであったらしく。


 終始目をキラキラと輝かせながら、私の話しに耳を傾けてくれていた。


 とはいえ、幾ら会話が弾んだにしても、これ以上雑談に終始する訳にもいかない。


 休憩時間もそう取れる筈が無いから、私は一つ切り出してみる事にした。



 「それはそうと、何となく町の人達に元気が無いね。最近、何かあったの?」


 「あぁ〜そっか。戻ってきたばかりじゃ、知らないのも無理ないかぁ」



 と、その話しに彼女は上手く乗っかってくれた。


 でも、案の定というか、それは余り楽しい内容ではないらしく。


 彼女も微妙な面持ちで小さく声を絞り、少し前のめりにになって、囁くように続きを話してくれた。



 「実はね、ついこの間、お殿様がお亡くなりになったらしいの」


 「お殿様、が……?」



 それが誰で、どんな人なのかも知らないけれど。


 ただ、一国の主が何かしらの理由で死亡したというのなら、なるほど確かに市井が不安を感じるのも頷ける。


 しかも、話しは予想外のベクトルを見せ始め。



 「病死って事らしいけど……」



 そこから、彼女は更に声を潜め、私により耳を近付けるようボディーランゲージで合図を見せ。



 「でもね、実は殺されたんじゃないかって噂も流れててね……」


 「……穏やかじゃないわね」


 「うん……」



 聞く所によると、その殿様。


 これまでは善政を布いて市井からも強く支持されていたそうなんだけど、その分直属の家臣には厳しく、不正は絶対に許さないっていう精神の持ち主だったらしい。


 そうなると、当然富と権力に目が眩んだ一部の家臣からは煙たがれるワケで。


 詰まる所、良くある“お家騒動”って奴だ。


 そうした不満を抱く家臣の誰かが、主君である将軍に毒を盛った、と。


 噂の出所は定かじゃないけど、彼女から見てもお殿様の死には不自然な点が多くあったようで。



 「お殿様ってね、下町にもちょくちょくお顔を出される方で、町のみんなとも随分懇意にして下さっていたの。だから、お亡くなりになる直前にも、私達は元気なお殿様のお姿を拝見させて頂いているのよ」


 「それが、何故か突然の病死……か。確かに、暗殺が疑われるのも無理は無いわね」


 「でしょー?」



 まぁ、心臓や脳の病気なら、突然死ってのも珍しくは無い話しなんだけど。


 ただ、やはり状況から考えて不信な点は幾つもあった。



 (あー……、これ、出来れば関わり合いになりたくない類の話しだなぁ……)



 彼女やこの国の人達には悪いけど、私にとっては全く無関係の話しだった。


 情報収集の一環として、この国の内情を知っておく必要があると感じ、聞き出した話しだけれど、これ以上の深入りはしない方が良さそうだ。


 だから、これも市井の噂程度に認識を留めておくべき……と、そう思って話しを切り替えようとした、その矢先。


 突如、暖簾を潜って店内へと入り込んで来た数人の男達が大きな声を上げた。



 「―――頼もう! この店の主人はどちらか!」



 そんな大声を張り上げて呼び出されては、当然ご主人も驚くってもので。



 「へ、へぇ、自分がこの店の主人で……」



 少し怯えた様子の主人に、しかし男達は。



 「この店に“ナエ”という給仕の娘が居る筈だ。その者を出せ」



 その名前が出た瞬間、私の向かえに座っていた彼女の表情が凍り付いた。


 あぁ、嫌な予感しかしない……。



 「い、いえ、そのような娘、自分はとんと存じ上げませんで―――」



 やっちまった。と、時点で私は頭を抱えた。


 瞬間、先頭に立って声を張り上げていた男の顔が見る見る険しくなり、その手が腰の得物えと伸びたのを見て。



 (もうヤダ……)



 今にも泣き出したい気分だった。


 が、そんな私の事など視界にも入っていない様子で、事態は正しく急転直下。



 「貴様……、隠し立てするつもりなら、容赦はせぬぞ」


 「お、お待ちください! 隠し立てなど……っ」


 「ええい埒が明かん! どけ、勝手に探させて貰う!」


 「そ、そんな! どうか、どうかご勘弁をっ」


 「喧しい! 邪魔立てするなら―――ッ!」



 そして、遂に男の手が得物を掴み、鯉口を切って白刃を鞘走らせた。



 「ひぃっ」



 抜き身の刀身を振り上げ、今まさにご主人の頭頂目掛けて叩き下ろされようとした瞬間。



 「お、お待ちください、お侍さまっ!」


 「ムっ!?」



 当然、目の前の彼女は立ち上がり、店主を庇おうと駆け寄って。



 「私が……私が“ナエ”にございます!」


 「そうか、貴様か……」



 そんな事をして、この男が刀を鞘に納める筈もない。


 私の予想通りなら、コイツは多分……。


 だから、振り上げられたその白刃は、ただ振り下ろす目標を店主から彼女……“ナエ”ちゃんに切り替えられてしまうというだけで。



 「在らぬ噂を立て、人心を惑わせた罪により、この場で貴様を―――斬るッ!!」


 「―――っ」



 眼前に迫る刃。


 如何に鬼人族の娘と言えど、相手もまた鬼人族。


 屈強な男達に抜き身の刀を向けられ、今正に“殺す”と告げられれば、それが恐ろしくない筈も無い。


 膝を付き、肩を震わせ、涙を浮かべて恐怖に慄き。


 男の刃は一切の迷い無く彼女を切り伏せる―――筈だった。



 「な―――ッ!?」



 鬼人族の少女の目の前に飛び出した黒い影。


 その背は、紛れも無い“私”の物で。



 「あぁ〜……、何となくだけど、状況が見えて来たわ……。出来れば、関わり合いにはなりたくなかったんだけどねぇ……」



 私のその呟きと同時、男の手が握る白刃にピシリと鋭い亀裂が走り―――次瞬、粉々に粉砕される。



 「なん……だ、と」


 「悪い事は言わない。直ぐに店から出て行きな」



 私は自身の持つ太刀を鞘へと静かに収め。


 下から、これでもかと殺意を込めた目で睨み付けた。



 「早死に……、したかないだろ? アンタもさ」


 「う……っ」



 こんなドスの利いた声出すのは久しぶりだった。


 数万人の人間と数千人の亜人、そして、数え切れない程の獣を屠殺した正真正銘殺人鬼の気迫だ。


 たかだか一兵卒風情のロクに人を斬った事も無いような若造に、それが耐えられる筈もなく。



 「な……っ、何者だっ、貴様……っ」



 恐怖に駆られてか、尻餅を付いて後退るその男に、私は構えを解いて。



 「それ、ビビリながら聞く事?」



 そう指摘され、自分の有り様を認識してしまった彼は。



 「ク、クヌギ様……っ」


 「この娘、只者ではございませんっ」



 呆然自失となったその男を抱え上げ、進言する部下と思しき後ろの男達。


 しかし、ふむ。……“クヌギ”様、ね。



 「どうせ、見せしめに一人か二人“殺って来い”とでも言われたんだろ? 宮仕えは辛いねぇ……。黙っててやるからさ、ほら、さっさと行きなよ。“ク・ヌ・ギ”様」


 「ぬ、ぐ……っ、貴っ様ぁ……覚えておれッ」



 とまぁ、見事に小悪党な捨て台詞を残し、しかし自分の足で立ち上がる事も儘ならず、部下に支えられて店を出て行く“クヌギ”様。


 外まで見送りに出てやったんだけど、私の顔を見た途端に「早く走れっ!」と部下に指示を飛ばして逃げ出す始末。


 ありゃ完全にパシリだ。

 人の上に立つ器じゃない。


 そこで一つ、深い溜め息を吐き、振り返ったその瞬間。



 「すげぇーッ!!」


 「やるじゃねぇか、嬢ちゃん!」


 「いやぁー、オラぁスカッとしたね!」



 え、なに? この感じ。



 「あ、あの……っ、ありがとう、お客さん……っ」



 涙ながらに私の前に膝を付き、頭を下げるナエちゃん。


 その後ろでは、店主の親父さんも彼女を抱えて何度も頭を下げていて。



 「いや、別に……大したことしたワケじゃ……」



 そう、別に特筆して大した事をした覚えはない。


 今まで仲良く喋っていた相手が、解り易い不当な理由で斬り殺されそうになんてなっていたら、誰だって助けようと思う筈だ。


 私に言わせれば、むしろそれが出来ない奴なんてのはクズだって話しで。


 だから、これは至極当たり前の事。


 まぁ当然、誰にでもそれが出来るかって言えば、NOだって事も解ってはいるんだけれど……。


 ただ、こうなってくるとちょっと事情が変わってしまう。



 「ふぅん……、これは一考の余地があるかもねぇ……」



 どうやら、今の連中は市井に酷く嫌われているようだ。


 でも、嘗ての殿様にはみんなが感謝や敬意を感じている。


 って事は?



 「ねぇ、ナエちゃん、それにご主人、ちょっと詳しく話しを聞きたいんだ。今は追い返す事も出来たけど、今後もこれが続くとは思えないし」



 さっきの“クヌギ”様。


 ああいう根っこから腐ったヤツってのは、一度や二度ボコにされたくらいじゃ諦めない。


 絶対に何かしらの報復を考えている筈だし、何より。



 (その背後に居る奴、コイツが重要だ)



 旧体制に不満を持っていた将軍家の家臣。


 そんなのが居るなら、当然逆の思考を持つ派閥も存在する筈。


 上手く話しを転がせば、私の目的を達する上で有益な関係を築けるかも知れない。


 なら、折角の状況だ。

 此処は“ヒーローを気取って見せる”なんてのもアリだろう。


 私の考えを、ナエちゃんやご主人が拒否する筈も当然無く。



 「確かに、お客さんの言う通りだ……。ココじゃ何かと騒がしいですし、一先ず中へ。奥でお話し致しやす」



 私は誘われるまま、他の客達の大歓声に手を振って応えつつ、店の奥へと案内された。


 襖を札てた廊下の先。

 そこでは二人が共同生活をしているらしく、古い木造家屋ながらも手入れが行き届いていて、床や柱まで綺麗に磨き上げられていた。


 決して広くはないけど、良い家だ。


 木や土の自然な香りに、仄かに感じる線香の匂い。

 何となく気持ちが落ち着く辺り、私も元は日本人だったという証拠だろうか。


 そんな風に思っていると、店主とナエちゃんが足を止め、襖を一つ開けて。



 「コチラでお待ちを。オレぁ他のお客さんと少し話しをして、店を閉めてきやすんで」



 そう言い残し、背を向ける店主を見送って。



 「どうぞ、今お茶も用意するね」


 「うん、ありがと」



 ナエちゃんに言われた通り、私はその和室へと足を踏み入れ、座卓を前に用意された座布団へと腰を下ろすのだった。



 「フフ……、なんか懐かしいな……」



 思わず、そんな思いが口から零れた。


 昔、ほんの少しの間だったけど、剣術を学ぶ為に道場へ通っていた事がある。


 その頃、何度かこうした和室にも出入りさせて貰っていて、畳の香りを気に入ってしまった私は、行儀が悪いとは思いながらもその畳の上でゴロゴロしていたものだった。


 この部屋は、その時の和室にそっくりだ。


 障子の向こうには縁側と狭いながらも庭が広がっていて、障子紙を通して差し込む陽の光が室内を幽玄な明かりで満たしている。


 畳六畳ほどの部屋。


 和箪笥や仏壇。


 この場所は多分、居間に相当するのではないだろうか。



 「そっか。外での生活が長かったんだものね。外の国じゃ床に座ったりせず、家の中でも草履を履いていたりするんでしょう? 久しぶりに戻って来たっていうなら、そりゃ懐かしいよね」



 なんて言いつつ、お茶を運んで来てくれたナエちゃんが座卓を挟んで対面するように座布団へと座る。



 「まぁね。でも、外国でだって床に座る所はあったりするし、草履でなくても“スリッパ”とか中履きを履いて生活している国もあるのよ?」


 「へー! 初耳だよ、そうなんだぁ〜」



 やはり、こういう話しが彼女は大好きらしく。


 先ほどまでの怯えて蒼褪めた表情も、少しは和らいでくれたようだ。


 そうこうしている内、店のご主人も店を閉めて合流し。



 「悪いね、お客さん。お待たせしちまって」


 「ううん、お気遣いなく。それより―――」



 そう、雑談は此処までだ。


 私にもそれ程時間に余裕がある訳じゃない。


 目的である“聖地ヴェムトト”の攻略を少しでも円滑に進める為、私は彼らから情報を集める事に専念するのだった。

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