表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Master Code  作者: 覇牙 暁
70/90

第七十話

第七十話「ダークヒーロー」




 ―――再生された世界。


 あの日から、早一年が過ぎ……。


 誰よりも一早く、ケンブリッジにて“破片”を回収した私は、今はアールヴヘイムへと移り住み、涼子ママや松岡さんとの穏やかで平和な日々を過ごしていた。


 とはいえ、別に何もしていなかったという訳ではなくて、私自身は情報収集や自身の力を高める為に粉骨砕身の想いで鍛錬に明け暮れていたんだけれど。


 一年というこの猶予期間は、最初から私が予定していた物だった。


 世界がどんな風に変化するのかを見極めるという意味でも重要な時間だったし、何より私個人の力でアールヴヘイムを平定へと導く為に奔走する為の準備期間でもあったから。


 イロイロと考えたのだ。


 エルフ達と共に過ごす世界。

 そこに於ける自身の役割を変化させ、国を背負わずに目的を遂げる為の方法を。


 何故、そんな事をするのか?


 理由は幾つかあったけれど、一番重要だったのは、“的”を小さく絞る為。


 人間って奴は不思議な物で、人が何かを成し遂げる時、その人が所属する組織を一括りにして事態を判別する。


 例えば、政治的な思想を以てある国に攻撃を仕掛けた場合。


 それはテロリズムとして対処が開始される訳だけれど、その対象となる人物を含む組織の規模によって国や国連という組織は対処法を大きく変化させる。


 デネフ教団なんかが良い例だし、以前のアールヴヘイムもそうだ。


 国連という大きな組織は、中核を成すアメリカという国の意思を尊重し、テロリズムに対して行動を起こした。


 中東の紛争地帯へ対して武力介入した国連の戦力はかなりの規模だったと聞くし、アバターラと人間との軋轢から生じた争いに関しても国連は容易に先進国一つを滅亡させられるだけの戦力を投入していた。


 まぁ、実際には人間程度の尺度で測られた数字だったが為に、国連はアバターラに大敗を喫していた訳だけれど。


 それでも、だ。


 そうした事象は、私が目指す目的の上で厄介な障害であるのは紛れも無い事実で。


 結果として“枝”の収集に手間取る事になった。


 大前提として、“世界の崩壊をタイムリミットまでに防ぐ”という必要性がある以上、そうした邪魔は極力排除したい物だし、同時に私が守るべき物をよりコンパクトに纏めて狙いを絞らせない事が肝要になる。


 情報戦なんてのは特に顕著で、極論、奪える情報が無ければ相手も奪い様が無いって事。


 だから、敵対者の目を私一人に釘付けにする事が出来れば、これ以上ない成果が得られる訳だ。


 なんせ、相手は私一人を狙うしかないというのに、その的が小さ過ぎて狙いが定まらず、大きな戦力を動かす事も出来なければ、何かを質に取る事も出来ない訳だから。


 ところが……。



 「―――はぁ〜……」



 今、私は酷く面倒な状況に置かれていた。


 深い深い溜め息を吐いたのは、他ならない私自身。


 アールヴヘイムでエルフ達と共生する村を出た私は、世界樹の祭壇で再び“alaya”から許可を取り、世界中に散逸した“破片”の情報を入手していた。


 そして、それを収集する過程でアールヴヘイムの北方に陣取る亜人族と対峙する事になったワケだけど、それが問題だった。



 「囲めぃッ! たかが人間のガキ一人に、何をやっているッ!?」


 「「「うおおおおおおおおおッ!!!」」」



 以前、ツバサが守護していたノースウェッグ要塞の更に北方。


 ヴェッシュモント山脈の涸れ谷を越えた辺りで亜人族の関所にブチ当たり、そこで侵入者を排除しようとする亜人軍と一戦交える事になってしまったのだ。



 「面倒臭い……」



 砂利と砂と岩。


 崖と僅かな雑草しかない涸れた川の谷の底。


 少し視線を遠くへ向ければ、そこには確かに石造りの関所が建っていて、周囲には木々が生い茂っているのも見える。


 が、しかし、だ。



 「一斉にかかれぇーッ!!」



 雄叫びを上げ、私一人に群がる亜人軍の総数は1000人強。


 数え切れない程の頭数に眩暈を覚える物の、それは別に戦力的に追い込まれているからとか、そんな理由からでは一切なく。



 「ぎゃああああああ!!」


 「ひ、怯むな! 前へ出ろ! 押し返せぇー!!」



 これは……そう、言うなれば、“単調な作業に萎えて辟易としている”だけの事。


 剣槍を持ち、爪牙を剥き出し、鎚斧を振り回しながら殺意を露わに襲い掛かってくる亜人達はしかし。


 “太刀”を抜くまでもなく、無造作に突き出されただけの私の手に触れた隙から燃え落ちて行く。



 「もう止めときなさいって……」



 と、そう告げる私の言葉に耳を傾ける者など居る筈も無く。


 剛力に任せて振り下ろした戦鎚ごとオークの上半身は消し飛び、敏捷性を生かして視界の外から襲い掛かって来たヴァラヴォルフは指先の一撫でで一瞬の内に頭が蒸発した。


 突進力を駆使して槍の穂先を突き出したリザードマンは半身を黒炎で削ぎ落され、数を活かして同時攻撃を行おうとしたゴブリン達はその悉くが私に触れる事さえ出来ずに火達磨と化す。


 これは、戦闘と言えるのか?


 しつこいようだが、亜人軍は総数1000体を超える屈強な戦闘特化の怪物達だ。


 しかし、それがまるで私の相手にならない。


 最初こそ優越感があった。それは事実だ。


 自分がこの一年、どれだけ鍛え上げられて来たのか、それを実証出来たのだから、高揚感もあったのは言うまでもない。


 だが、それでも、だ。


 最初の10体〜20体程までは、まだ良かった。


 それが、30〜40と数を増やす事にダレて来て、100を超えた辺りからは完全に“作業”になってしまっていた。


 命を賭けた戦いは刺激的?

 痛みが興奮を駆り立てる?


 そんな次元には、とてもじゃないけど届かない。


 だって彼らは“モブ”だから。


 経験値稼ぎに使われる、十把一絡げの有象無象で、そもそも倒されるのが前提の“そういう運命”を背負って生まれた者達だから。



 「参ったな……、ちょっと可哀相になってきた……」



 傲慢でも怠慢でもなく、ただただそう感じてしまう。


 頭上から降り注ぐ無数の矢は、それが只人なら剣山で全方位から圧殺する程の威力を有しているというのに。


 飛び交う飛礫は当たれば致命の一撃で、鋼の兜や鎧すら難なく陥没させて肉に減り込む程の破壊力を宿しているというのに。


 それら総ては、私の周囲で黒炎に阻まれ、ただの一発たりともこの身に届かない。


 しかもこれが、私にとっては意識外で殆ど自動的に処理されているというのだから救いようがない。


 対槙島用にと必死になって会得した剣術だけど、これでは試す事も出来そうになかった。



 「いい加減にしておけ。貴様らでは、仮に百年経とうが私には及ばんよ……」



 淡々と、粛々と、ただ手を翳して前に進むだけ。


 それだけで、1000からなる軍勢がまるで手も足も出せず、私の侵入を許してしまう。



 「ば……バカ、な……」



 外連味など一切無く、成るべくして成る結果は想像通り。


 亜人軍は私にただの一度も太刀を抜かせる事さえ出来ず、ほぼ壊滅。跪く事になるのだった。



 「せめて落ち着け。話しくらいさせろ。これ以上、無駄死にを増やすなよ、阿呆が」


 「あ、阿呆……だ、と!?」



 愕然と膝を着く関所の隊長格に、私は気だるげに言い放つ。


 一言余計だったかも知れないけど、文句の一つも言わせて欲しい気分だった。


 だってそうだろう?


 コイツの取った行動は、判断は、関所という国の要衝を守る指揮官として余りにも無能過ぎた。


 相互の力関係を認識した段階で兵を引いていれば、こんなにも被害を拡大させる事は無かったのだから。


 振り返れば、私の背後には700を超える死骸の山。


 その大半が黒い炎に今も尚焼かれ、燻ぶり、煙を発てている。


 これをやったのは確かに私だけれど、そうさせたのは他ならないコイツなのだから。



 「兵を下げろ。私は別に、貴様らと戦争をしに来た訳ではないんだ」


 「こ、これだけの事をしておきながら……良くもそんな事がッ」


 「貴様が勝手に嗾けて来たんだろうが。私はただ、降り掛かる火の粉を払ったに過ぎん。勘違いをするな」


 「ぬ、ぐぐぐ……っ」



 いよいよ以て救いが無いのは、こうして説教されているのが身長2メートルを超える長身のオークキングで、私は精々150センチも無いような人間の幼女にしか見えないって所だろう。


 これでは、指揮官としても、オークキングとしても、立つ瀬がない。


 そんな事は百も承知だけれど。


 私は新調した皮製の軽鎧とケープのような短い外套を肩に、それを翻してチョイチョイ、と地面を指差す。



 「ちょっとそこに座れ。喋り難いだろう? 首が疲れる」


 「ひ、膝立ち、なんだが……」


 「やっかましいわ! 私は見ての通りちっさいんだ、少しは気を遣え! 幼女を敬え!」



 言ってて悲しくなってくるが、これが事実。


 中二病全開の黒くてベルト増し増しなレザー装備一式も、腰からぶら下げた大振りな特注品のポン刀も、短く切り揃えて後ろで結い直した新しい髪型も、どれをとっても以前のような威厳には程遠く。


 でもこれが、12〜14歳くらいにしか見えない今の私の、精一杯の背伸びなのだ。


 少しは察して欲しいと願って何が悪い。



 「これで……満足か?」


 「むぅ……まだ、ちょっと高いが……仕方ないか」



 地面に胡坐をかいて猫背気味に座るオークキングと、それに説教する幼女。


 なかなかシュールな構図だけど、今は気にしない事にした。



 「さっきも言ったが、私は別に貴様らと戦争をしに来た訳じゃない。貴様らの一族が住む北方の集落に、大きな神殿か……遺跡のような物は無いか? 私は、そこに用があるのだ」


 「遺跡……だと? 聖地ヴェムムトの事か?」



 難しい顔で首を傾げ、そう呟くオークキング。


 聞いた事の無い名前だし、遺跡が幾つもある事を想定するなら必ずしもそれが正しい情報なのかどうか、判断し兼ねる所だ。


 しかし、妙にアッサリと口を割るなぁ、なんて、全く関係の無い所に疑問を感じていると。



 「敗北した以上、オレは勝者であるオマエの問いに答える義務がある。亜人族の掟故だが……」



 あぁ、そういえば。


 確かに、亜人族にはそういった掟があるのを私も思い出した。


 力を示した者には敬意を払う。そして、己の矜持に背かぬ限り、勝者の言葉には最低限従わなくてはならない。


 それが嫌だというなら、力を以てその意を示すべし。


 要は、それが例えどんな力であっても勝った者勝ちって精神だ。


 事実、そうやって亜人族は種族の壁を越えて強い結束を固めている。


 だから、つまり。

 戦闘に勝利して力を示した私に、コイツは最低限従う義務があるって事なんだろう。


 亜人族の鉄の掟って奴だ。


 でも、それにも限度って物があるらしく。



 「オマエの言う神殿や遺跡というのは、恐らくそのヴェムトト遺跡の事だろう。だが、あの場所はオレ達亜人族の聖地。如何に力を示したとて、人間であるオマエにその場所を教える事だけはできん」


 「例え、殺すと脅されても?」



 その問いに、オークキングは力強く頷いた。


 ―――なるほど、ね。


 敗者にも敗者なりの矜持ってものがあるんだろう。


 どうやら、こればかりは鉄の掟を以てしても覆せないらしい。



 (ヴェムトト遺跡……か。聖地なんて呼ばれる程知名度の高い場所なら、コイツじゃなくても情報を持ってる奴は居そうね……)



 なら、無理にコイツから聞き出す必要はない。


 それに、どうにも私は、こういうタイプの奴を憎めないもんだから。



 「OK、分かった。それだけ聞ければ十分よ」



 座り込んだままのオークキングをそのままに、私は彼の横を悠然と抜け、関所へと向けて歩き出す。



 「オレが許可出来るのは、関所を抜ける所までだ。それ以上先の事は保証せんぞ!」


 「ああ、分かっている。だが、最低限上には“しっかりと”報告しておけ。私も、これ以上無駄に血を流したくはないのでな」



 正直言うと、こんな何の得にもならない戦闘は御免被りたい。


 何より、妙な後味の悪さが残って好きになれないから。


 そう思いながら、私は背を向けたままでオークキングにユラユラと手を振り、そのまま真っ直ぐに関所の門を潜る。


 行く手を遮る物は何もない。


 この関所の指揮官であるオークキングの敗北は、即ち彼の部下全員の敗北という事なんだろう。


 力を示した者には敬意を。

 その掟は十全に効力を発揮し、関所内に残っていた防衛戦力もオークキング同様に膝を折り、私に道を譲ってくれる。


 お陰で、その後は誰に邪魔される事もなく関所を抜け、私は亜人族の領域である深い森林の中へと足を踏み入れる事が出来たのだった……。


 それから―――かれこれ三日。


 兎に角広大な森林は何処まで行っても同じ景色が続いていた。


 高さ10メートルを超える様々な種類の樹木に、地を這う蔦や岩肌を覆う苔。


 湿った空気は気温を下げ、日中でも10℃を下回る程だ。


 この辺りは既に寒冷地に差し掛かりつつある。

 気候区分としては、ツンドラに近いだろうか?


 時期によっては霜が降りる事もあるらしく、北へ行く程より環境は厳しくなるらしい。


 しかも、野性のモンスターも多く生息していて、この森林に入って以降、私も何度となくそうした獣に襲われた。


 一度に襲ってくる数こそたかが知れているんだけれど、それぞれがなかなかクセの強い奴ばかりで戦闘ではワリと体力を消耗する。


 特に、神経毒や腐食毒、血液毒なんかを持つ奴が厄介で、アバターラの強靭な肉体を以てしても無効化は困難だ。


 だから、解毒アイテムは常時切らさないように心掛ける必要があり。



 「お……、あった」



 と、私が今喜々として地面から毟り取った幅広の葉を持つ植物は、そうした毒を中和する解毒薬の材料になる植物。


 こういった数種類の薬草を調合する事で解毒薬は作る事ができ、またそれぞれの毒に対応した植物が有毒モンスターの生息域に自生しているというのもお約束だ。


 だから、適当に目についた物を片っ端から引っこ抜いて、合成を行い、随時解毒薬を補充しつつ歩みを進めている。


 しかし、何だってそんな思いまでして亜人族の領域に深く足を踏み入れているのかっていうと、勿論理由がある。


 “枝”こと“破片”の回収だ。


 ただし、ただ手当たり次第に回収してるって訳じゃなく、優先すべき順序って物があって。


 “世界樹の祭壇”から新たに得られた“破片”の情報は、その総数と所在。


 情報の取得には“alaya”の許可が必要だったし、管理者権限による制限もかけられていたから以前の世界では確認出来なかった情報なんだけれど、相応にその価値は極めて高く。


 私は誰よりも先んじて重要な“破片”の回収を優先していた。


 現在までに私が回収出来ている“破片”の数は、24。


 総数は108あるらしいから、まだまだ先は長い。


 それでも、以前のように他国が余り介入して来ないのは作業効率を飛躍的に高めてくれていたし、何より人間に対するストレスが軽減されたのが喜ばしい事だった。


 それに、と私はチャットログへと目を向け、微苦笑する。



 「やっぱ私、ボッチのが向いてるわ……」



 前の世界では状況に流されて他人との交流を余儀なくされ、何時しか慣れてしまっていたけれど。


 今にして思えば、やはり様々な部分で気を張ってしまっていたんだと思う。


 最近になって一人で行動する事が増えた所為か、それが顕著に感じられるようになったのだ。


 元々、私はそういう人間だ。


 一人で居る事が好きで、誰にも気兼ねせずに好きな事をやる。


 そういう時間をとても大切にしていたのを思い出し、だからこそ近頃は余計に“仲間”って物の存在を意識するようになってしまった。


 多分、私にとって仲間っていうのは、たった数名居るだけで良い物なんだろう。


 多過ぎても面倒で、ベタベタされるのもダルくて、付かず離れず、適切な距離を保ってくれるそういう仲間がほんの少しだけいれば、それで十分なんだ。


 ワイワイ楽しく、なんてのは私の性に合ってない。


 だからだろうか?

 今みたいな生活は、実際悪くなくて。


 ただ、だからといって昔の仲間達の事を忘れた訳でもなく。



 「なんつーか……ままならんね、ホント」



 呟いて、また微苦笑する。


 今頃、彼らはどうしているだろう?


 世界は以前のそれ以上にグダグダになってしまっていて、巷じゃアバターラ同士徒党を組んでモンスター退治を専門にする組織なんかを運営してる連中も居るらしいけど。


 こういうのも、一種の傭兵稼業とでも言うんだろうか?


 まぁ、兎も角。


 ちょっと話しを逸れてしまったから本筋に戻すと、どうして亜人族の領域にある“破片”の回収を優先してるのか、ってトコで。


 その理由は、前の世界で起こったガーディアンモドキとマーシアハのアールヴヘイム襲撃に関係してる。


 前の世界で涼子さんから得た情報。

 それに加えて、カナやミミから得た情報。


 これらを統合した結果、ガーディアンモドキは亜人族の領域にある北方の古い遺跡から出現した可能性が濃厚だったのだ。


 しかも、そのガーディアンモドキが出現したらしい遺跡に“破片”が存在するという。


 それらにどんな因果関係があるのか、私はそれを調査しに来た訳だ。


 と言っても、大凡の予想は出来てるんだけれど。



 「繋がってんだろーなー……、中東に」



 中東か、それに近い何処か。


 そこから侵入したマーシアハがガーディアンモドキを遺跡内で起動し、ポータルの管理施設を襲撃。


 その後、数名の部下を引き入れて、王都へ攻撃を行った。……って所だろう。


 多分、ポータルの襲撃は私に対する“撒き餌”の一つだ。

 それで冷静さを欠いてくれれば、奴にとっては御の字ってくらいの。


 ってなワケで、その遺跡とやらで“破片”を回収した後は、そこから中東のデネフ教団に接触を試みるつもりでいる。


 恐らく、奴も“記憶を引き継いでいる”筈だから。


 ―――始末する必要があるのだ。


 アイツが持つ思想と知識は、間違いなく私の目的の障害になる筈だから。


 それに、聞きたい事だって山ほどある。


 どうやって“alaya”と接触したのかとか、会話の中で垣間見えた私に対する“畏敬”だとか。


 何となくだけど、アイツは普通じゃないって思う。


 何か、私やこの世界、そして“alaya”に深く関係しているような気がしてならない。


 だから、先ずは会って話しを聞き出す。


 その上で、恨みは晴らすつもりだ。



 「でも、その前に……っと」



 私には、まだまだ先に、やらなければならない事がある。


 差し当って、目の前にある大きな“集落”だ。



 「へぇ……、思ったより文明的な生活してんのねぇ、亜人族も……」



 そこには、深い森林を切り開いて平地に築き上げられた一つの都市が完成されていた。


 集落と呼ぶにはイメージとして些か規模が合わないと感じる程のデカさだ。


 アールヴヘイムの王都程ではないにせよ、その広さは半径数キロに渡っているように見える。


 外周を石垣や土壁で囲い、見張り台として櫓を幾つも建て、各所にはモンスターの侵入を防ぐ為の先を尖らせた丸太で組まれた外柵も見える。


 その向こうに広がるのは、木造建築の街並みと……。



 「すげ……、城まで建ててんだ」



 そう、城。まるで日本の城だ。


 石材を積み上げ、その周囲を堀で囲み、橋を渡して大きな5〜6階建ての城を築城している。


 私の居る辺りは少し距離の離れた小高い丘になっていて、その中でも特に背の高い針葉樹を足場に見渡しているんだけど、それだけにデカさや造りの精密さがハッキリと見て取れて、思いの外驚かされた。


 此処に住んでる連中は、多分人間にかなり近い種の亜人族なんだろう。


 でなければ、これほど生活環境が似通る事は無い筈だから。



 「―――ん、やっぱりね」



 朧気にだけど、道行く亜人達の姿が見える。


 まるで、人と見紛うような姿だ。

 けど、このアールヴヘイムに、人間は今数人しか存在しない。


 つまり、彼らは人間ではないのだ。


 その証拠に。



 「やべぇ〜、中二病心が擽られるぜぃ……♪」



 額に天を衝く立派な黒角。


 間違いない。彼らは“鬼人族”だ。


 近縁種にはオーガやトロルなんていう蛮族も居るけれど。



 「前の戦争では見なかった連中ね……。戦闘能力は極めて高い種族の筈なんだけど……」



 どういう理由があるのか、それも気になる所。


 情報収集も兼ねて、これは潜り込むしかないだろう。



 「角生やせばいけっかな……?」



 と、私は意気揚々、喜々として足場にしていた樹木から飛び降りるのだった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ