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Master Code  作者: 覇牙 暁
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第六十三話

第六十三話「離別」





 ―――跳躍。


 濃い黒煙が発ち込める地上1000メートルの空。


 ミミを抱えたまま、私は飛行を開始する。



 「落ち―――て、ない!?」


 「向こうで覚えたの。結構スピードも出るから、舌噛まないようにね!」


 「ひぇぇ〜〜〜っ!」



 私の首に腕を回してギュッとしがみ付くミミ。


 多少苦しいし、下が見え難いけど……仕方ない。


 兎に角、今は目的地に向かう事だけを考えよう。



 (とは言ったものの、さっきの爆発音……いったい何処から?)



 かなり遠く離れた場所で発生した音だって事は解ったけど、此処は上空1000メートル。


 ただでさえ地上から離れているのに、その上各所で何かが小爆発を起こしたり、瓦礫が崩れたりして、炎の熱で音が歪められて聞こえて来る。


 これじゃ目的地を割り出そうにも音からの判断は難しく。



 (それに、さっき程の大きな音はもう聞こえて来ないし……)



 発ち込める煙で視界も悪いけど、あれ程の爆発が起きるような戦闘なら、この高さから見下ろせば直ぐにでも見付けられそうな物なのに。


 いったい、みんなは何処で何と戦っているのか……。



 「チッ、広過ぎる……ッ」



 この国がそれだけ繁栄していたっていう証拠でもあるけど。


 此処は何かを探すには余りにも広過ぎた。



 (せめて、もう一度でもあの爆発音が拾えたら……っ)



 外に居る今なら、場所の特定も出来る可能性が高いっていうのに。


 ―――と、そんな風に苛立っていた時だった。



 「姫様、アレ……神官長様では!?」


 「え……」



 下を見るのも怖がっていたミミだけど、どうやらそれを堪えて一緒に目的地を探してくれていたらしい。


 それ自体は嬉しいし、有難い事なんだけれど。



 (“神官長”って……)



 ミミやエルフ達がそう呼ぶ人物は、私が知る限りただ一人。


 彼女が指を差すその場所を目で追えば、それは紛れもなく。



 「涼子さんッ!?」



 高度をある程度下げていた事が幸いした。


 城から少し離れた場所にある大きな倉庫街。

 激しい戦闘の影響か、崩壊したその倉庫街の一角で瓦礫に背を預けて座り込んでいる女性が私の目でも確認できた。


 周囲には騎士鎧に身を包んだエルフの騎士たちの亡骸も覗える。


 この場所で、いったい何があったというのか。



 (いや、そんな事より、今は―――!)



 私は一気に急降下し、その場所へと降り立った。



 「涼子さん! ……ッ」



 着地と同時にミミを降ろし、俯いたまま反応を見せない涼子さんの下まで駆け寄るが。


 そこで事態の深刻さに気付かされた。



 「香澄……ちゃん?」



 辛うじて返事をし、顔を上げた涼子さんの肌は……蒼白。


 全身が傷だらけだが、それ以上に右腹側部の傷が酷い有様だった。



 「その傷……! ちょっと待ってて、直ぐに回復を……っ」



 真っ赤に染まる服を割いて見えるその傷は、とてもじゃないが助かるようには見えない物だった。


 内臓の一部が食み出してしまっているし、何より出血量が尋常ではない。


 それに、この血……。



 (ドス黒い……これ、肝臓が……っ)



 心臓にせよ、肝臓にせよ、欠損すれば人間はほぼ助からない。


 拳銃などで撃たれた際、その血の色が黒ければ大抵の場合は誰もが諦めてしまうものだ。


 でも、私にはまだ“生命の霊薬”がある。


 ミミの重傷も一瞬で回復させてしまう程の効力があるこの薬なら―――と、インベントリから取り出してアンプルの口を開けたのだが。



 「―――ダメよ、優先順位を……間違え、ちゃ……」


 「優先、順位って……そんな事言ってる場合じゃっ!」



 アンプルを握る私の手を抑え、首を振った涼子さんが視線を向けた先。


 そこには、もう一人。

 私が見知った顔があった。



 「カ、ナ……、なの……?」



 待って、待って、待って。


 ナニコレ、どういう事?


 私はその余りの惨状に、自分の見ている物が何なのか理解出来なかった。


 血の池に沈む、肉の塊。

 そうとしか思えないような、凄惨な有様だった。


 下半身を失い、内臓は地べたに張り付いて、片腕も欠損した上、顔半分には激しい火傷。


 純白のローブは今や深紅に染まり、もう彼女は死んでしまっているのでは、と思える程だというのに。



 「―――コホッ、か、は……っ」


 「生きて……っ!?」



 まだ、生きている。

 助けなければ……と、そう思い、一瞬で思考が停止した。


 カナはアバターラだ。


 アバターラは、死なない。


 このままでも、放っておけば最悪ヴァルハラに送られるだけの事。


 優先すべきは涼子さんの筈だ。

 だって、涼子さんは……ただの人間なんだから。


 ―――そう、自分で自分を騙そうとしている。


 その薄汚い考え方に、私自身反吐が出そうになった。



 「理由は……解らない。でも……“アイツ”の攻撃は……、アバターラのみんなも……」



 息も絶え絶えの涼子さんが、そう語る。


 私にも、それは解ってた。


 ただ、見ないようにしてただけ。


 だって、この場には、他にも沢山……。



 「なんで……、アバターラが、死ぬのよ……ッ!?」



 こうならないようにする為に、私はアッチの世界で例のウィルスサンプルを回収したのではなかったのか?


 それが、いったいどういう理由で、カナを含めるアバターラ達まで死ぬような目にあっているのか。


 混乱する。

 だって、霊薬は二つしかなくて、一つはミミに使ってしまっていて。


 残った一つは、どっちに使えばいい?


 数少ない親友のカナ?

 大切な家族の涼子さん?


 どちらかを生かせば、どちらかが死ぬ。


 そんな選択を、生きている間に本当に迫られる事になるなんて思ってもいなくて。


 だけど、そんな風に混乱する私に、涼子さんは。



 「カナちゃんを……助けて、あげて……。カナ、ちゃんが……回復、すれば……、蘇生、魔術が……」


 「ッ!」



 そうだ。カナは戦場で聖女とまで呼ばれた治癒魔術のエキスパート。


 カナが回復すれば、涼子さんのこの怪我だって直ぐに治してくれる筈だ。


 私は涼子さんの言葉の意味をようやく理解して、その場で振り返り。



 「ミミッ、涼子さんをお願いッ!」


 「は、はいっ!」



 ミミも多少の回復魔術が使えた筈。


 彼女が涼子さんに延命処置を施している間に、私がカナを回復させなければ。


 口の開いたままのアンプルを手に、私は急いで立ち上がり、カナの下まで駆け寄って。



 「……カナ、これ飲んで!」


 「カ、スミ……っち……?」



 最早声は掠れ、私の事も良く見えていない様子のカナは、辛うじて声に反応しているだけといった状態だった。


 むしろ、生きている事が不思議な程の重傷。


 早く、無理矢理にでも飲ませなければ、今この瞬間にでも、彼女の命の灯が消えてしまいそうで。


 私は咄嗟に霊薬を自分の口に含み、それをカナの口へと直接流し込む。


 喉に入り込んだ薬に咽、吐き出してしまはないようにする為に。



 「―――んっ、んぐっ」



 案の定咽てしまうカナだったが、私はそれを無理矢理抱え込んで我慢させ、何とか薬を飲ませる事に成功した。


 結果、その効力は瞬時に発揮され、彼女のボロボロになった身体に劇的な変化を引き起こした。



 「ぁ……かっ、熱……っ」



 肉体の構造情報が瞬く間に上書きされ、欠損した手足までが描き足されて形を取り戻して行く。


 顔の火傷も炭化した状態からケロイド状に、次いで炎症さえ立ちどころに消えて。



 「ぅ、ぅ……」


 「カナ……!」



 全ての怪我が回復し切った所で呼吸が安定し、目にも意思の光が戻って。



 「カスミ、っち……霊薬、使ったんだ……」


 「あの怪我じゃ……、他に方法がなかったからね……」



 カナの上体を抱き起し、まだ頭の芯がボウっとした様子の彼女の瞳を覗き込む。



 「病み上がりで悪いけど、涼子さんが酷い怪我を負ってるの。お願い、助けて……っ」


 「涼子さんが……っ!?」



 私が振り返り、涼子さんの方を指差して。


 そこには、力なく項垂れる涼子さんと、必死に回復魔術を使うミミの姿。


 カナは直ぐに自力で立ち上がり、私の手から離れて涼子さんの元へと駆け寄る。


 けど、その場に膝をついて涼子さんの手首と首の頸動脈から脈をとったカナは、そこでピタリと動きを止めてしまった。



 「ちょっと、カナ! 何やってんの、早く治療を―――ッ」



 俯いたまま動かないカナの肩を掴み、そう叫ぶけど。



 「姫、さま……っ」


 「ミミっ、アンタもっ! ……あ、ひょっとして、魔力切れ!? だ、だったら、エーテルだってある! ほら! だからコレ飲んでもう一回―――ッ!!」



 インベントリから手当たり次第に回復アイテムを取り出して、二人の前に差し出すけど、どっちも受け取ってくれない。


 それどころか、ただ涙を浮かべ、私に向き直って。



 「ごめん……なさ、い……っ」


 「なん、で……? どうして、ミミが……謝る、のよ……。なんで……ッ!!!」



 声を荒げる私に、ミミは遂に両手で顔を覆い、涙をボロボロと流して泣き崩れ。



 「ゴメン……。アタシの、所為だ……」


 「カナまで……っ、なんでよ!? どうしてっ!!?」



 振り返ったカナは、ミミ以上に酷い顔で涙を流していて。



 「ゴメン、なさい……、助け、られなかった……っ」


 「―――――――――」



 その一言で、私も悟ってしまった……。


 もう、涼子さんは、二度と私に、話しかけてくれる事は無いんだ、と。



 「………っ、……ぁ、ぁあ……ッ、ぁあ゛ぁあああああああああああああああああッ!!!!」



 叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。


 それがどんなに意味の無い事だと解っていても、そうせずには居られなくて。


 膝を折って、地面に拳を何度も突き立てて、それでも、失った物は……もう二度とこの手には戻らない。


 こんな気持ちは、初めてだった。


 この時になってようやく、“覆水盆に返らず”という言葉の意味を理解した気がする。


 私は、間違ってしまったんだ。


 最善だと思って取った行動が、誤りだったのだ。


 でも、どうすれば良かったというのか?


 カナを救わず、涼子さんに霊薬を使っていれば良かったとでも言うのか?


 違う。カナを失っていても、私はきっと同じように嘆いた筈だ。


 どちらか一方しか救えない。

 そういう選択をした結果は、絶対にこうなる。


 一方を失い、一方を救えたとしても、結局誰も幸せになんてなれやしないのだ。


 そう。だから、私が選択を誤ったのは、此処じゃない。


 もっとずっと前。


 私が、この国を離れたりなどしなければ、こんな事にはならなかった。


 あの時、通信機で話しをした時、涼子さんは私にその最後のチャンスをくれた筈だった。


 なのに私は、他愛のない事だと切り捨て、重要な物の優先順位を取り違えた。


 だから、こうなった。

 責任を負う必要のない人が、私の犯したミスの責任を取る事になってしまった。



 「……涼子さんを殺したのは、私だ……」


 「っ! 違うっ、アタシが霊薬を使っちゃったから……!」


 「違いますっ! ミミに、ミミにもっと力があれば……っ」



 事実だけを見れば、確かにそうかも知れない。


 ミミの回復魔術がもっと強力な物だったなら、涼子さんはまだ生きていたかも知れない。


 カナが生命の霊薬を使わなければ、涼子さんは今頃何事も無かったかのように立ち上がれるほど回復していた事だろう。


 でも、そんなのはタラレバって奴で。


 それを言い出したらキリがなくて。


 だから、私の考えだって、もう何の意味もないし、取り返しが付かない。


 今の私に出来る事があるとすれば、ただ一つ……。



 「―――何処の、どいつだ……」



 考え、悩み、思う程に行き着くのは、ただその一念。



 「ブチ殺してやる。塵芥も残さず、必ずだ……ッ」



 涼子さんを殺したのは、誰だ?


 沢山のエルフ達を殺したのは?


 アバターラの仲間たちをも殺し、ミミやカナを傷付け、私にこんな思いをさせたのは何処のどいつだ?



 (復讐……してやる)



 怒りと憎しみで自分の中の何かが書き換えられて行くのを感じた。


 単純な物じゃない。

 多分、これをやった相手を殺したって、もう元には戻れない。


 涼子さんの死は、私にとってそれ程に重い物だった。



 「……カナ、この場所に結界を張って」


 「結界……?」


 「周りの火が、涼子さんの遺体を焼く事のないように」



 静かにそう言い放つ私に、カナはハッとして直ぐに結界を張り。


 要石を周囲に数か所設置し、火災の影響を受けないよう堅固な領域を作り上げる。



 「ミミ、アンタは此処に居なさい」


 「姫、さまは……?」



 聞き返すミミに、私は一度カナと目配せをし合い。



 「……このまま、黙って見過ごす訳にはいかない」


 「ミミは……足手纏い、ですか……」


 「……ええ」



 少しキツイ言い方になるけど、仕方がなかった。


 1万のアバターラと10万のエルフの軍勢を、都ごと炎の海に沈めるような相手だ。


 彼女を庇って戦えるような余裕は、今の私にはとてもじゃないけど有りはしなかった。



 「私が戻ってくるまで、涼子さんをお願いね」


 「……はい。どうか……お気を付けて……っ」



 こんな場所に一人残されるのだから、不安だろう。


 でも、そんな危険な場所に彼女を連れてはいけない。


 だから、せめて少しでもその恐怖心が紛れるようにと、私はミミの頭を一撫でし、可能な限り何時も通りの笑顔を浮かべ。



 「直ぐに戻ってくるから、待っててね」



 そう告げると、ミミは小さく頷き、祈るようにその手を重ねて見送ってくれた。



 (……涼子さん)



 去り際、涼子さんの遺体をもう一度だけ目に焼き付け、私は最後の挨拶を交わす。



 (短い時間だったし、血の繋がりなんて物もなかったけど……、私にとって、アナタは誰よりも尊敬できる人で、家族で、姉のような人で……)



 そして、こんな事になるまでどうしても言えなかった言葉を、私は思い浮かべ。



 (必ず、仇は取るよ。行ってきます―――お母さん)



 背を向け、振り返る事なく、歩き始める。


 ただただ募る、憤怒と憎悪と慟哭を胸の底に無理矢理沈め、来るべきその瞬間の為に圧縮し、濃縮し、燻ぶらせたまま。


 相手が誰で、どんな姿をして、何処で待っているのか。


 それはまだ判らないけど、何れは解る筈だ。


 なんせ私の後ろには、当事者の一人がしっかりと付いて来ているのだから。



 「カナ、判る範囲でいい。情報を頂戴」


 「うん。って言っても……アタシにも教えられる事なんて、そう多くはないんだけどね……」



 流石のカナも、この状況でまで語尾を変えられるような余裕はないらしい。


 瓦礫の山と化したアールヴヘイムの街を歩きながら、それこそ無数の同胞達の遺体を横目にしつつ、カナはそれを話してくれた。



 「―――確か、お昼近くだったと思う。調練が終わって、みんなでゴハンにしようって話してた時の事だったから」



 それは、今日の昼頃。


 エルフとアバターラの合同調練が一区切り付き、昼食の為に休憩時間へ入った頃だったという。


 大型旅客機が頭上を通過したと勘違いする程の轟音が響き、次いで地震のような振動と爆音が響いた。


 音の聞こえた方角へと無意識で視線が向けられ、都の中心部付近から濛々と黒煙が上がっているのが確認出来たらしい。



 「その時、煙の中に浮かんだ大きな影が見えて……。それが、“アイツ”だった」



 現れたのは、巨大な人型の怪物だったという。


 石か鉄か、材質不明の装甲と発光する水晶体の関節を持ち、長大な銃槍を携え、単眼のレンズで街の人々を見下ろし。


 全長10メートルはあろうかというその巨体で、突然何の前触れもなく、そいつは殺戮を開始したのだそうだ。



 「それって……“ガーディアン”みたいな、って事……?」


 「うん、その認識で間違いないと思う」



 ―――“ガーディアン”。


 PYOの世界では誰もが一度は目にするNPC。


 敵とかモンスターとか、そういった類の物ではなく、本来はゲームの仕様上立ち入りの出来ない場所や注意を促す目的で配置されているAI制御の非破壊オブジェクトとも言える物。


 場合によっては利用規約に従わない悪質な行為を繰り返すプレイヤーなどに対する処罰の一環として派遣される事もある為、非破壊オブジェクトでありながら圧倒的な戦闘能力も与えられているキャラクターだ。


 カナが目撃したというそれは、そのガーディアンに良く似た物だったらしい。



 「アタシらも直ぐに応戦したんだ。でも、コッチの攻撃がまるで効いてない上に、エルフや亜人たちだけじゃなく、アバターラまで蘇生の出来ない重傷を負わされて……」



 次々と仲間たちが倒れ、アバターラ達の間にも動揺が走り、それは騎士団や協力関係にあった亜人達にまで伝播していって。


 遂には戦線が瓦解してしまい、都心部から一気に王城周辺まで被害が拡大してしまったのだという。



 「あんなの……チートでしかない。接近すれば槍の一振りで粉微塵に砕かれて、だからって離れて戦おうもんなら、とんでもない長射程のビームみたいな兵器で纏めて焼き払われる……。高レベルのアバターラでさえ即死級の攻撃力で、まともにやり合えたのは、アタシを含めた元エインヘリャルの構成員か、その側近たちくらいだった」


 「…………」



 カナの話しが本当なら、そんな化物が今も尚この王都の何処かで誰かと戦闘を続けてるって事になる。


 多分、現状でそんな化物と渡り合えているのは、たった一人だけだろう。



 「ダイキが引き付けてくれてるって事よね、これ……」


 「たぶん……。でも、何処で戦ってるのが、場所が全然判らなくて……。あのデカブツが現れてから、突然チャットも通信機も不通になっちゃってさ……」


 「それは、コッチでも確認した。原因は不明だけど……多分、何かしらの方法でジャミングをかけてるんでしょうね」



 化物が現れてから通信不能、って事になると、それくらいしか考えられない。



 「けど、アンタや涼子さんは、どうしてあんな所に……?」


 「城の中に居た非戦闘員の救助に向かったの。けど、助けられたのはほんの数人……。涼子さんは、手が足りないだろうからって、手伝いに残ってくれて……」



 逃げ遅れた人たちの避難を手伝おうとしてくれたんだろう。


 でも、その途中、“何者か”に襲撃され、あんな事になってしまった。


 そして、その“襲撃者”ってのは、例のガーディアンモドキとは別物。


 何故そう言い切れるのか?

 理由は、あの場で殺されていた仲間たちやカナの怪我に見られる特徴が、他で見た被害者たちの物とはまるで異なっていたからだ。


 そして、気になるのは、その“襲撃者”の力。


 あの場には、カナも居た。そして当然、その側近の上位アバターラ達も。


 仮に奇襲だったとして、それが成功したのだとして、それでも、あの場に居たアバターラの隊員10名とエルフの騎士団員十数名を纏めて相手にし、その上で手も足も出させずに一方的な虐殺が出来るだけの実力者だって事になる。


 つまり、エインヘリャル級の力を持っているって事だ。



 「カナ、アンタや涼子さんをやったのは、何者?」


 「やっぱ、そこ……気になる、よね……」



 しかし、カナは口籠り、それから複雑な表情を浮かべ。



 「悔しいけど、ハッキリと思い出せないんだ……。いきなり後ろから襲われて、お腹にヤバイの貰っちゃってさ……」


 「背後からの接近に、誰も気付かなかったって事?」


 「うん。そいつ、真っ先にアタシを狙ったみたいで……」



 聞いた話しから推測するに、襲撃者はたったの一人。


 しかも、自分の接近を察知させないよう距離を取って遠距離からの魔術で最も危険な相手を一方的に無力化し、その後に他の全ての隊員や騎士達を襲った……。



 (狡猾な上に慎重で、抜け目がない……。気を抜いて居たとはいえ、カナの魔術障壁をアッサリと食い破り、一撃で即死級のダメージを与える程の魔術を扱える奴……)



 そんな事が出来る奴なんて、そうは居ない。


 私か、ダイキか、槙島やコッペリア。

 少なくとも、この四人に準ずるレベルの実力者だ。


 そして、多分……。



 (オーバードライブを使いこなせてる)



 普通に考えて、ステータス上の性能でカナを即死に追い込める魔術など存在しない。


 オーバードライブによる火力補正が無ければ、土台無理な話しだ。


 かなり人物像は絞り込めて来たけれど……。



 「見た目の特徴とかは、覚えてないの?」


 「特徴と言えば特徴なんだけど……、一瞬しか目視出来なかったから、確かじゃないし、それに……」


 「なんでもいいの。覚えてる事、なんでもいいから話して」


 「…………」



 カナは私の質問にウ〜ン、と喉を鳴らし、そして。



 「……顔を、隠してた。というか、殆ど全身、包帯か何かでグルグル巻きになってる変な奴で……」


 「包帯で、顔を……?」


 「なんか、凄く不気味だったって印象が残ってる。でも、それ以外の事は殆ど何も……」



 それが全てだと言わんばかりにカナは口を噤み、少しでも他に情報は無いかと思案しているようだった。


 全身包帯を巻いた人物。

 人種や性別、背格好も判然としない相手。


 実力者だという事は解ったけれど……。



 (絶対に、逃がさない……)



 どんな手を使ってでも見付け出し、報復しなければ気が済まない。


 私とカナは、そうして当て所も無く炎上を続ける王都の道を只管に歩き続けるのだった……。

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