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Master Code  作者: 覇牙 暁
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第五話

第五話「フィーラー(前編)」




 ―――アドバンスドブレイン本社、研究棟。


 社屋の地下に広がる巨大サーバールーム。

 その上に位置する地下二階にPYOの運営を行っている研究棟は設置されている。


 本来、この場所に出入り出来る人間は限られており、一GMでしかない私などが足を踏み入れて良い場所ではないのだが……。



 「いらっしゃ〜い、待ってたわぁ〜ん♪」


 「やぁ、直接顔を合わせたのは……コレが初めてだね」



 入室するや否や、私を待ち受けていたのは件の二人だった。


 ピッチピチのタイトなスーツにシナを作って「んふっ♪」なんて言ってる爆乳の方が『佐伯 涼子』。

 アドバンスドブレインの若き(?)女社長で、ネットリとしたタレ目と泣きボクロが特徴の妖艶な美女。(イメージ)


 で、その脇でデスクに向かっている白衣姿の男が、『松岡 慶次』。

 相変わらずパッとしない見た目で、背は高いけど頼りなく、髪はボサボサ。


 極厚メガネも相俟って、如何にも学者とかやってそうな雰囲気。



 「―――で、あの……わた、わた、し……をぉ……っ、よn」



 声出ねぇー!!


 ヒキニート此処に極まれりっ!(泣)


 部屋の広さと詰めてる人間の異常な数。

 飛び交う人の声とサーバーの騒音で私は完全に目が回っていた。



 「カ、カスミちゃん、落ち着いて……!」


 「う、うう、うるひゃいっ」



 これが落ち着いてなどいられるか!


 ヘッドホンで聞くゲームの爆音BGM等とはまるで違う種類の音で頭がパンクしてしまいそうになる。


 それに、部屋中の人間がコチラを見て何やらこそこそ言っているのが聞こえるのだ。


 ジャージを着てて何が悪い!

 帽子被っておかしいか!?


 私を見るな!

 詮索するな!


 怖いっ、恐いっ、コワイっ。



 「―――はーい、みんなちゅーもーっく♪」



 パンッ、と唐突に鳴り響いた手を打つ音。


 そして、その音を発した爆乳女にその場の誰もが意識を持って行かれた。


 無論、私も。



 「この子、ちょー美人ちゃんでしょー? でも、アタシが拾ってきた、すーっごくゆうしゅーなエンジニアちゃんなのぉ〜。みんなもぉ〜、仲良くしてあげてねぇ〜ん♪」



 途端、その部屋中に居た人間たちの意識が全て私に向けられる。


 その所為で、一瞬気を失いそうになってしまったのだが……。



 「あー、なるほど。彼女が」


 「前に社長の言ってた子って、この子」


 「例のバーゲストっていうGMちゃんだ、確かに、スゲー仕事できるって噂になってるよ」


 「あー! この子だったんだー」



 などなど、口々に飛び出すのは安堵にも似た言葉の数々。


 先ほどまで向けられていた懐疑的な視線など、もう何処にもなく。

 出て来るのは感心や賛辞の声ばかりだった。


 そら、見た事か!

 私のしてきた事に間違いは無かったという事だ!


 少し助勢があれば、誰だって私を認めざるを得なくなる!


 少し……の、助勢が、あれば……。



 「んふっ♪」



 と、猫被りのパッチリウィンク。


 ―――ムカつく……。


 本当に、この女は……。



 (助け……られた……っ)



 悔しかった。只管に。


 こうやって、必要な時に無駄なく必要な行動がとれる。


 本当に、優秀過ぎて、まるで頭が上がらない。



 「―――礼なんて……、言わないんだから……っ」


 「構わないわよん♪ その分、お仕事で返してくれたら、ね」



 全く、一枚も二枚も上手で、隙が無い。


 だから、嫌いなのだ。



 「あー……っと、社長?」


 「ん〜、ゴメンゴメェ〜ン♪ お仕事のお話しよねっ♪」



 微妙な苦笑を浮かべて声を挟んで来た松岡さんが、私の方へと向き直った。



 「ゴメンね、なんか―――」


 「イチクリ……ぼたスペ」



 ボソッ、っと呟いたその固有名詞に、松岡さんは何時もの優し気な微笑を浮かべ。



 「うん、後で好きなだけ奢るよ」


 「ん……、なら、もういい……」



 ムスッと答え、私は一つ深呼吸した。


 落ち着け。

 まだ慌てるような時間じゃない。


 周りに居るのは人じゃなく、“モノ”だ。


 何時もの調子で、何時もの私になればいい。


 スー……、ハァー……、スー……、ハァー……。



 「―――それで、私に何させたいワケ?」


 「そうそーう! それなんだけどぉ〜。―――はい、慶次くぅ〜ん」


 「はいはい、もうやってますよ」



 松岡さんが操作しているキーボードの前には、大きなワイドモニターが三台横並びになっていて、その上には更に三台同じモニターが備え付けられていた。


 使っている端末もかなりハイスペックな物のようで、これだけの処理を平行処理してまるでラグが発生していない。


 恐らく、クリエイター用のかなり高価なハイエンドを超える程のモデルだと思われる。


 それを松岡さんがサクサクと操作すると、全てのモニター上に全く異なる動画が再生され始めた。



 「これなんだけどぉ〜」


 「解るかい? カスミちゃん」



 一目見て理解した。


 先ず、左上の画面に映っているのは、ミッドガルド北部にある“ダウスの丘”。

 此処は生産職が扱う素材アイテムが多数採取できる場所で、鉱物・木材・染料・食材・ハーブなど枚挙に遑がない。


 しかも、出現するモンスターのレベルも非常に低く、気性も大人しい為、低レベル帯のプレイヤーが資金稼ぎを目的にそういったアイテムの採取に良く訪れるのだ。


 ところが。



 「なに、コイツ? ガーディアン……? でも……」



 ガーディアンというのは、PYOの設定上『古代兵器』と呼ばれる種類の物で、金属で出来た石像、或いはゴーレムのようなイメージの外観を持つNPCの事。


 だけど、私が知る限り、こんな虫か甲殻類みたいな形をした物は見た事が無いし、そもそもこんな場所に出現するなどという話しも聞いた事がなかった。


 の、だが、そこだけじゃない。


 中央の画面に映っているのは、同じくミッドガルド南西部にある“カルナディア盆地”。

 此処は黒の森でレベル上げを終えたプレイヤー達が次に訪れる狩場で、出現するモンスターのレベルもやや上がっている場所。


 しかし、此処に出現するモンスターは黒の森のモンスターに比べてドロップ品が良質な物になっていて、中には貴重な素材アイテムも含まれる為、ワリと高レベルなプレイヤーまで出入りしている事で知られている。


 しかし、やはりそこにもガーディアンのような見た目の大型モンスターが出現していて。



 「……アクだね。しかも、認識範囲がバカみたいに広い」



 アク、とはアクティブモンスターの略称。


 それは、性格が凶暴で自らプレイヤーに向かって襲い掛かってくる、という意味。


 で、モンスターにはそれぞれプレイヤーを認識できる距離や範囲って物が設定されているんだけど、その範囲が異常に広い。

 しかも、視覚だけでなく、聴覚や嗅覚でも反応しているようで、遠巻きに風上で立っていただけのプレイヤーが襲われていた。


 でも、何か違和感を感じる。


 それは、この虫型ガーディアンもどきの挙動を見ていて感じる物。



 「NPCにしては、妙に思考が柔軟じゃん……っていうか、これホントにガーディアンなの?」



 振り返り、聞き返した私に。



 「それが、判らないんだ……」


 「は? 判らないって何よ」



 確か、PYOのNPCは高性能AIによって制御されている筈だ。


 ゲーム内に存在する数万という数のNPCは、個々がまるで別の人格を有しているように振る舞うが、それは全て一つのAIが統括しているという話しを聞かされた事がある。


 NPCその物の生成も、NPCが発生させるイベントクエストも。


 だとすれば、それを運営が感知していないというのはおかしな話し。


 しかし……?



 「君も“alaya”の事は知ってるだろう? ボクらも真っ先にこの事を“彼”に尋ねたんだけど……」


 「結果はぁ〜、ご覧のと〜りなのぉ」



 “alaya”というのが、件の高性能AIの名前。


 自我を有して人間の精神に理解を示し、対話も可能だが一切の感情を持たない現代科学技術の結晶。


 その“alaya”が感知していない、と答えたという。


 言葉が示す意味を考え、私は一つの仮説を立てた。



 「―――そういう事、か」



 その事実に気付いたのは、今も目の前にある複数のモニターに映された映像のお陰だった。


 エリアレベルに相応しくない、本来なら出現する筈の無い場所で“alaya”が感知していない未確認モデルの出現。


 広すぎる知覚認識範囲と柔軟且つ執拗な思考性。


 “alaya”の制御下にあるにしては複雑で人間味の強過ぎる不自然な程不自然さを感じさせない挙動。


 これらが導き出す回答は、今まさに目の前で証明された。



 「松岡さん、対処に向かわせた一般GMを直ぐに撤収させて。その代わりに、エージェントをそれぞれのPOPエリアに各2人ずつ急行させて。早く、最優先で!」


 「え、ええ?!」


 「慶次くん、彼女の言う通りに。そっちのアナタ達もよー!」



 私の指示では直ぐに動けず、一瞬混乱を見せた室内職員たちだったが、佐伯社長の一声で我を取り戻した彼らの行動は驚く程迅速だった。



 「香澄ちゃん、何分あれば良いのかしら?」


 「5分。それで充分」



 全て見透かしているような笑みで尋ねるデカパイに、私も不敵な笑みを浮かべて答える。


 5分。それで充分だ。


 私はその場で呆然としている松岡さんを椅子ごと蹴り飛ばして退かせ。



 「ぅえ、ちょぉおおおっ!?」



 悲鳴を無視して彼が使っていた端末に向かい、キーボードへ両手の指を掛けた。



 (コイツ等は全部NPCなんかじゃない。MODでカモっただけの、ただのPCだ)



 そう考えれば、全ての辻褄が合う。


 PYOのセキュリティーは世界レベルの技術者が束になっても突破出来ないレベルの代物だ。


 でも、そうした前提条件に誤魔化され、最初から“チートは有り得ない”という固定観念に囚われ過ぎていた。


 だから、誰も気付けなかったのだ。


 けど、私は違う。

 私は、そのセキュリティーが必ずしも完璧であるだなどと慢心してはいない。


 何故か、って?



 「所詮、二番煎じって事を教えてやんよ……っ」



 そう。PYOがサイバー攻撃を受けたのは、何もこれが初めてという訳ではない。


 これで、“二度目”なのだ。


 そして、どうして私がその事実を知っているのか。


 理由は簡単。


 一度目の犯人は、何を隠そう“この私”なのだから。



 「……リモート接続。ダウンロード開始……」



 自宅の個人端末に遠隔操作で回線を直結。


 以前使っていた汎用基本ツールを転送してデータを解凍・インストール・展開。


 通称“マスターコード”と呼ばれる個々のゲームを識別している16進数のアルファベットと数字を自動で算出。


 本来、この作業にはかなりの時間を要するのだが、今はそれを考える必要はない。



 「さぁ、“alaya”。アンタの演算能力を私に貸しなッ!」



 ニヤリと笑んでエンターを叩いた。―――で、解答は一瞬。


 当たり前だ。PYOのセキュリティーを管理しているのは、そもそもその“alaya”なのだから。


 算出に必要な時間を大幅短縮。

 加えて、デバックコードも直ぐに用意された。


 後は、既存のボツアイテム……アクセサリーが良いか。そのデータを書き換え、ゲーム内には本来存在しない特殊な装備品を新規で生成する。


 此処までの作業時間は、凡そ3分弱。



 「後は、この“機能”を作成したアイテムに適用すれば……よし、完成♪」



 完成したアイテム情報がデバック画面に表示され、そのアイテムを構成する16進数20桁160行の複合化コードが展開された。


 実際には、この膨大なアルファベットと数字の羅列が暗号化されて使われ、容量が大きく圧縮されている。



 「松岡さん、マスター権限でこのアクセを出動してるエージェント全員に配布して。で、そっちの人らは装備の仕方と効果を各員にナビしてやって!」


 「わ、わかった!」


 「はい!」



 指示を飛ばしたあと、私も直ぐに端末を離れ。



 「社長さん、当然、此処にもダイビングカプセルはあるよね」


 「そりゃ〜あるけどぉ〜、どうする気なのぉ〜?」


 「―――解ってるクセに」


 「んふ……♪」



 デカパイが自分の肩越しに親指を立てて向けた先、そこには家にある物より遥かに大きく無数の機材が接続されたダイビングカプセルが置かれていた。


 私は今にも零れ出してしまいそうな笑いを堪え、そのカプセルに近付いて行く。



 「おもいっきりぃ、やっちゃってちょ〜だい♪」


 「もち、こーゆーの大好き♪」



 直ぐ様ロッカールームでスーツに着替え、カプセルへIN。


 ヘッドギアを装着し、先ほど松岡さんの端末で接続した回線を流用して自宅のギアから個人データをダウンロード。


 本当は他人の端末からアクセスする事は出来ないのだが、この方法を使えば何処からでもどの端末でも、自分のゲームデータを使ってPYOにログインが可能だ。



 「さぁ〜て、いっちょ揉んでやりますか♪」

 

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