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Master Code  作者: 覇牙 暁
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第五十四話

第五十四話「“強さ”の本質」




 発電所西部、駐車場跡。


 そこは、ただただ広く、外界との区切りは遥か遠くにある植え込みのみ。


 足元に広がるのは、一面アスファルトとコンクリートの地面で、嘗て駐車場であった事を示すのは、路面に描かれた剥げ掛けの区画線と文字。


 今、此処に立っている人間は、たったの二人。


 二枚盾を構える和幸と、双剣を構えるラクシュミと名乗った女戦士だけ。


 施設の東側で戦っているシノやカガラ達の戦闘は一方的な物になっていたが、コチラも一方的な展開になっていた。


 ただ、それはどちらかが圧倒的に強いだとか、そういった理由からではなく。



 「―――流石に、良く防ぐ……。けど、守るばかりじゃ勝ち目はないわよ? 蒼金の」


 「…………」



 一方的と言ったのは、その戦闘の様相だ。


 方や、二枚の盾で徹底的に防御の隙を固める守りの型。

 方や、二振りの曲刀と敏捷性で隙の無い攻撃を突き詰めた攻めの型。


 対極的な両者の戦闘スタイルが、この状況を作り出していると言える。



 (短く軽い二本の曲刀は攻撃力こそ高くはないでござるが、回転が速く、小回りが利くでござるな……)



 強い。と、和幸は彼女を評価していた。


 圧倒的な手数の多さ。そして、地を滑り、舞うような足運び。


 これまでにも何度か二刀流を使う剣士や戦士と戦った事はあるが、その中でも彼女は頭一つ飛び抜けていた。


 戦い慣れている。それに、何より……。



 「相手を殺す事に、躊躇いが無いのでござるな」



 和幸が評した通り。


 ニタリと口角を釣り上げ、哂うラクシュミ。



 「当たり前だろう。オママゴトやってんじゃないんだ。コッチは命のやり取りしに来てんだよ。戦争だ。戦場でいちいち相手の命の重さなんて測ってちゃあさ、その隙にみーんなおっちんじまう。戦場じゃ、そういう奴から死んで行くんだよ。解るかい? ボウヤ」



 ヒタリ、ヒタリと妖艶に腰を揺らめかせ、一歩ずつゆっくりと近付いてくるラクシュミに、和幸は確信する。


 彼女は、“日常側の人間じゃない”のだと。



 「戦慣れし過ぎているでござるな……。現役の軍人……いや、“傭兵”といった所でござろうか?」


 「へぇ……、思ったより察しがいいね。アタリだ」



 右手の曲刀を持ち上げ、その刃に舌を這わせて。



 「アタイはね、かれこれ10年以上も“殺し”でおまんま食ってんだ。この国の腑抜けた連中とは、訳が違う」



 外見的には、まだ20代前半。

 和幸から見る彼女は、それくらいに若々しい。


 しかし、彼女は今、10年以上、と言った。

 それは事実。


 彼女は中東の紛争地帯で生まれ、物心ついた頃には武器を手に戦場を駆け回り、最初に人を殺したのは、彼女がまだ7〜8歳の頃だった。



 「最初は神の為に殺した。けどね、殺し続ける内に気付いたんだ。この世に、神様なんてモノは居やしない。在るのは、強者と弱者っていう絶対的な立場の違いのみ」


 「極論でござるな。……ただ、否定はしないでござるが」



 和幸は頷き、思考する。


 どういった生い立ちがあるのか、それは定かではない。


 しかし、幼い頃から武器を手に人殺しで生きて来たという事だけは判った。


 思い切りの良さや判断能力の高さ。加えて、武器に対する躊躇いの無さが、彼女の強さを支えている。


 ―――才能か、とも。



 「で、アンタはどっち側かしら?」



 曲刀の切っ先を不動で立つ和幸の喉元に当て、顎を持ち上げて。



 「―――ふぅん。そこらの腑抜けとは、ちょっと違うみたいね」



 喉元に突き付けられた刃に微塵も動じない和幸の瞳を覗き込み、ラクシュミは壮絶な笑みを浮かべる。



 「腑抜けたこの国にも、“地獄”はあるんでござるよ」


 「……イイわ。嘘を言っている目じゃあない。アンタも、“コッチ側”。でも―――」



 敢えて曲刀の柄を握り直し、音を発て、手首に力を込めたラクシュミに、和幸は余裕を以って反応し。



 「―――真贋は、見極めなくちゃねぇッ!」


 「ッ!」



 キンッ、と激しく火花を散らしたのは、曲刀の刃と和幸の盾。


 互いの眼前で弾ける光に、その両者の表情が照らし出され。



 「止めろ、と言っても……止める気は無いのでござろうなッ」


 「言ったろう? アタイは傭兵だ。金の為に、食う為に、こういう仕事を選んだんだ。誰にも否定なんざさせないよッ!」



 鋭い踏み込みから流れるような所作で繰り出される袈裟斬り。


 それを左手の盾で受け流し、次いで身を交わそうとするが。



 (―――速い……ッ)



 交わすよりも早く、弾いた曲刀の刃が返され、再び襲い掛かって来る。


 それを再び同じ盾で受け流すも、今度はもう一方の曲刀が足元から掬い上げるように襲い掛かって来て。



 「フンッ」



 呼吸を止め、重心を落とし、コレを右の盾で受け止める。


 受け流しては次の攻撃へと繋げられてしまう。

 ならば、受け止めて動きを止める。そう考えたのだが。



 「悪くない判断だ。……が、甘い甘いッ!!」



 受け止めて動きにワンテンポ遅れを生じさせる筈が、ラクシュミはまるで竹か柳のように手首から力を抜き、盾に弾かれた曲刀の動きに逆らわず。


 一瞬にして流れを反転。


 その動きは、完全に流れを予測した物だった。



 「チ、ィッ!!」



 繰り出されたのは、脇腹を突くような蹴撃。


 右手の盾は刃を受けた際に力み、直ぐには反応出来ず。

 かと言って、左手の盾はラクシュミがまだ残している右手の曲刀に対する牽制の為に動かせない。


 よって、その蹴りは受けるより他に無く。



 「シッ!」



 鋭い呼気を吐き出すと、和幸は全身の筋肉を瞬間的に硬直させ、打点を脇腹から僅かに逸らした。



 「―――ッ!?」



 コレにはラクシュミの方が驚かされた。


 確実にダメージは与えた筈。だというのに、和幸の腹部に叩き込んだ足が、まるで岩石でも蹴ったかのように痺れる程の衝撃を感じたのだ。


 咄嗟にその衝撃を受け、反動で後ろへと後退するラクシュミ。



 「―――なんて身体してんだい、アンタ……」


 「……ふぅ。なに、驚く事はござらん、鎧が頑丈なだけでござるよ」



 そう言って屈託なく笑う和幸に、しかしラクシュミは。



 (体術には自信があったんだ……。生身の頃でさえ、岩くらいなら蹴り砕ける程度には……)



 舌打ちをし、呆れるように自嘲して。



 「発勁……だね。中国拳法の応用か」


 「およ、バレてござったか」



 この瞬間、ラクシュミは和幸に対する評価を一段引き上げた。


 その体格からは想像も出来ない程の反応速度。

 動きにも無駄がなく、盾の扱いに関して言えば間違いなく右に出る者はいない。


 受け流しの技術に関しても、今の発勁で理解が及んだ。


 ラクシュミも元軍人。

 世界各地の近接格闘術には造詣が深い。


 故に、太極拳の“化勁”についても知識があった。



 「徹底的に防御を鍛え上げてる訳か……なかなか、厄介だねぇ」



 が、そう呟いたラクシュミの表情は、妙に嬉しそうで。



 「あぁ……、何というか、見慣れた表情でござるなぁ……」


 「なんだ、身内にアタイみたいのでも居るのかい?」



 互いに構えを正し、仕切り直しを意識しつつ。



 「ウチの“お姫様”でござるよ」


 「あぁ! あのキ〇ガイか。なるほどね」



 カラカラと笑う。


 キ〇ガイという辺りに引っ掛かりを覚えるが、和幸もそれは否定し切れず。



 「文句の一つも言いたい所でござるが……こればっかりは、言われても仕方ないでござるな」


 「安心しな、バカにした訳じゃない。むしろ、アタイにとっては誉め言葉だよ」



 キ〇ガイという単語を誉め言葉とは、と和幸は噴き出しかけ、しかし表情を改める。



 「やっぱり、やり難いでござるな……」


 「あん? 今更だろ。そら、第二ラウンド―――開始だッ!」



 再び始まる剣風の嵐。


 触れればそれだけで致命傷。

 そんな竜巻が目の前に迫って来る恐怖。


 だというのに、和幸は動じない。


 慎重に、丁寧に、秒間十回近くも繰り出される斬撃を全て盾で受け止め、受け流し、迎撃する。


 故に、一方的。


 曲刀の刃は、触れてさえいないというのにアスファルトの地面に切り傷を残す程。


 結果、その場にはラクシュミの攻撃だけが強調され。



 「―――チッ、本当に良く捌く……ッ!」


 「そうでもござらんよ、実際、何発か良いのを貰ってるでござるからなッ」



 確かに、和幸の鎧と盾には傷が増えていた。


 ただ、和幸はそれをそうと感じさせない。

 それだけなのだが。



 (まるで、効いている感じがしない……。本当に、どういう身体してやがるんだ、この男……ッ!) 



 斬っても、斬っても、斬っても斬っても斬っても斬っても、まるで手応えを感じない。


 いや、確かにダメージを与えてはいる筈なのだ。


 そう信じたい。


 だというのに、ラクシュミは気付いてしまう。


 これ程の激闘を繰り広げているというのに、和幸は。



 (コイツ……、その場から一歩も動いていないッ!?)



 気付いた理由は、和幸の足元。


 ラクシュミ自身が振るった剣撃で、和幸の足元にあるアスファルトはズタズタに斬り裂かれ、亀裂だらけになっている。


 が、それはこの場所一点にしか存在せず。


 つまり、これ程広大な場所で戦っているというのに、ラクシュミは未だ和幸を一歩も後退させる事が出来て居なかったのだという証左で。



 「まるで大地に根を張る大樹……。このアタイが、攻撃で圧し切れないなんざ……っ」


 「これだけが、自分の唯一の取り得でござるからなッ」



 焦燥感。


 ラクシュミでなくとも、こんな状況になればそれを感じざるを得ないだろう。


 試行錯誤し、練りに練ったあらゆる攻撃パターンが、全て防がれてしまうのだ。


 それは、自分がこれまでに積み上げて来た修練と練磨の賜物を全て否定されて行くような錯覚すら覚える。


 勝てない、とは思わない。

 しかし、徒労感が思わせるのだ。



 (クソッ……! 何時になったら、倒れるッ!?)



 攻めているのは、間違いなくラクシュミである。


 優勢なのは確かなのだ。


 だが、だというのに。



 (クソ……ッ、クソッ、クソッ、クソッッタレッ!!)



 声には出さずとも、その焦りは徐々に体捌きや剣の切っ先にまで現れ始め。



 「呼吸が乱れてきたでござるな」


 「―――ッ!?」



 指摘され、慌てて修正する。


 しかし、それはつまり、事実自分が焦っていたのだという証拠で。



 「偉そうに……っ、黙れよ、ボウヤッ!」



 力任せの一撃。


 その威力は流石の一言に尽き、衝撃を防ぎ切れずに初めて後退した和幸を見て。



 「認める……。認めるよ……。確かに、アンタは強い。流石、あの“女”が側近に置くだけの事はある……。けどねぇ―――」



 勢い余ってアスファルトに突き刺さった曲刀の刃を引き抜き。


 その切っ先を和幸に向けて。



 「最初にも言った通り、攻めなきゃ勝てないんだよ、戦いってのはッ!」


 「…………」



 尚も盾を構え、激昂するラクシュミをジッと見詰める和幸。


 だが、それは真理だ。

 攻めなければ、勝利は無い。


 それは事実で、しかし和幸は。



 「―――で、ござるな。解ってはいるんでござるが」



 と、何故か自嘲気味な笑みを浮かべた。



 「はぁっ!? 解ってるなら、何故攻めて来ない!? アンタ、気付いてんのか? 此処までアンタは、ただの一度も“攻撃してない”んだぞッ!?」


 「あ〜……、ハハ……」



 気の抜けるようなその笑みに、ラクシュミはいよいよ余裕が無くなって。



 「お前……バカにしているのかッ!?」


 「ち、違うでござる! そうではないでござるよっ!?」



 怒りを露わにするラクシュミに、和幸は慌てて否定し。



 「だったら何だっ!? 何故、攻撃して来ないッ!?」


 「いやぁ……それは、でござるな……」



 和幸は構えを解き、盾を一度地面に突き立て、その空いた手で頬を掻いて。



 「―――自分、やっぱり女の子は、殴れんでござるよ……」


 「な……」



 その発言には、ラクシュミも絶句した。


 命を賭けた戦いだ。

 戦場には、女も男も有りはしない。


 子供や老人でさえ、武器を手にしているなら、それは“敵”だ。


 殺す事に微塵も躊躇いなど無い。


 ―――否、躊躇えば、その瞬間に死ぬのは自分だ。


 故に、相手に対して容赦など一切してはならない。


 それは、ラクシュミがこれまでの人生で学んで来た絶対の真理だった。


 だというのに、この男は。



 「アンタ……、意味解ってて言ってんのか……」


 「……?」



 プルプルと、剣を握る手が震える。



 「それはつまり、アタイが女だから……、男じゃないから……、劣っているからって、言ってるのと同じだッ!!」


 「ち、ちが……そうではないでござr―――」


 「最早、問答無用ッ!! お前のような奴に、僅かでも敬意を払ったのは間違いだったッ」



 アスファルトを踏み砕き、跳躍。


 上体を捻り、腰の捻りを利用しての高速回転。


 からの連撃は、まさに苛烈を極め。



 「ぬぉっ!?」



 あれ程耐え凌いでいた和幸の身体は、瞬く間に押し返され。



 「お前もか……ッ、お前も、女が戦場に立つのを否定するのかッ!?」


 「そ、そういう意味ではござらn―――ッ!?」


 「ふざけるなッ! そんな差別が……っ! 女を、アタイを、愚弄するなッ!!」



 袈裟掛けから逆袈裟、右薙ぎから左薙ぎ、唐竹、刺突、逆風と急所という急所を尽く狙う連続した斬撃。


 それらを必死に防ぐ和幸だったが、終ぞその盾の一枚を弾き上げられてしまい。



 「殺ったッ!!」



 一枚の盾で防げるのは、一刀のみ。


 右手の盾が飛ばされ、左手の盾は剣を受け止めていて。


 体勢も崩されていた和幸に、ラクシュミはトドメと曲刀を振り下ろす。―――が、しかし。



 「ぬぉおおおッ!!」


 「な―――ッ!?」



 曲刀の刃は、和幸を斬り裂く事はなかった。



 「コイツ、額、で……!?」



 ラクシュミが曲刀を振り下ろそうとした直後、その柄頭、冑金に当たる部分に和幸は頭突きをかまし、防いでいた。



 「い、いだい、でござる……っ」



 涙目になりながら。



 「なんて、無茶苦茶な……っ」


 「それでも、斬られるよりは……マシで、ござるからな……」



 割れた額から、一筋の血が流れるが、それでも和幸は笑って見せて。



 「―――ひゃっ! おまっ、何を!?」



 体勢を立て直そうと後ろへ飛ぼうとしたラクシュミを、和幸は左手の盾まで放り投げて抱え込む。



 「このっ、放せっ」


 「いだっ、いだだっ! ま、待つでござるっ!」



 抱き着いて離れようとしない和幸の頭やら肩やらに肘打ちを落とすラクシュミだったが。



 「怪我……いだっ! 怪我、してるで、ござるっ! いだだっ」


 「放s―――は、怪我??」



 その意味の解らない言葉で、ラクシュミはキョトンとして。


 いや、言葉の意味は解るのだが、どうしてそれが、この状況で出たのかが解らず。



 「あぁ〜〜〜ココ! ほら、血が出ちゃってるでござるよ……」


 「え、ぁ……」



 徐に懐から取り出したハンカチでラクシュミの頬を拭い、その拭き取った血を見て肩を落とす和幸に。


 彼女は完全に呆気に取られてしまい。



 「バンソーコー……たしか、入れてあった筈なんでござるが……」



 しかし、和幸はその間もヴォイドフリックでインベントリの中身を漁っていて。



 「アンタ……バカなの?」


 「ぁいだっ! 何するでござるかっ」



 探し物に必死な和幸の頭頂部に曲刀の柄頭をゴンと落とした。



 「っつうか、いい加減放せ。もう逃げないから……」


 「おぅ!? す、すまんでござるっ、つい!」



 わたわたと慌てて離れる和幸を見て、ラクシュミは完全に気勢を削がれてしまった。



 「この程度の傷、アバターラなら直ぐに治る。アンタだって、知ってんでしょうが」


 「それはそうでござるが、痕が残ったら大変でござるよ、女の子なんでござるから」


 「はぁ〜……、またそれ……」



 自分の頬についた傷から、僅かに滲む血を袖で拭い。



 「あぁ〜! そんな事してばい菌でも入ったら……!」


 「いいから! んな事より、アンタ本当に何なの……? 女は殴れないとか言ってみたり、敵の怪我の心配してみたり……。そんな事してたら、何時か早死にする事になるわよ」



 が、そう言ったラクシュミに、和幸はあっけらかんとして。



 「それならそれで、仕方ないでござるよ」



 と、さも当たり前のように返した。


 それには、ラクシュミも驚かされる。

 なんせその反応は、まるで自分の命を何とも思っていないような反応だったからで。



 「アンタねぇ……、幾らアバターラは死なないからって―――」



 そう言い掛けたラクシュミの言葉を遮り、和幸はようやく見つけ出したバンソーコーをペリペリと包装から剥がし、彼女の頬の傷口へと貼り付けながら。



 「そういう事ではないでござる」


 「は……?」



 次に紡がれた言葉に、ラクシュミは愕然とした。



 「死んだ妹との、約束なんでござるよ。でも自分は、その約束を守れなかったでござる……」


 「妹……?」


 「妹は、自分……ボクの所為で、イジメられて、死んだでござる。守れなかったんでござるよ」



 淡々とそう話す和幸の瞳の奥に、ラクシュミは深い闇色を見ていた。


 そして、彼が最初に言った、“腑抜けたこの国の地獄”という言葉の意味を、本当の意味で理解した。



 「信念……なのか」


 「で、ござるな。ラクシュミ殿には、付き合わせてしまって申し訳ないでござるが……、でも、愚弄するつもりは無かったと、それだけは信じて欲しかったでござるよ」



 そう言い、頭を下げた和幸に、ラクシュミは頬のバンソーコーの感触を撫で付けながら。



 「―――はぁ〜……、もういい。興が削がれた。とんだ外れクジを引かされたもんね……」



 溜め息を吐き、曲刀を腰の鞘に納め、頭を掻いて。



 「ラクシュミ殿?」


 「もいいって。仕事にゃ失敗は付き物。今回はアタイの負けって事にしといてあげるわ……」



 踵を返す彼女に、和幸は不思議そうな顔をして。


 それからクスリと小さく笑い。



 「やっぱり、ウチの“お姫様”に良く似てるでござるな」


 「誉め言葉として受け取っておくわ〜」



 和幸をその場に残し、ヒラヒラと後ろに手を振って。


 ラクシュミは思わず、頬の傷跡にまた触れる。



 (底抜けのバカね……。早死に―――するんじゃないわよ)



 そのまま、戦場から姿を消すのだった。

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