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Master Code  作者: 覇牙 暁
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第五十二話

第五十二話「奪還作戦」




 ―――石狩湾新港。


 此処は、異変後の前史外生物襲撃に伴い、廃墟と化した地域。


 生き残っている人間など皆無で、黒く焼け焦げたコンクリートの建物も自然環境に浸食されつつある。


 僅か一年。

 たったそれだけあれば、人間の築いた文明は自然に取り込まれ、何時しか遺跡のような佇まいを見せるようになる。


 そんな、元は重要拠点の一つだったこの場所に、ロディーとカガラの二人が捕らえられていると判明して、僅か数刻。


 辺りは既に陽も落ちて、深い夜闇に呑まれていた。



 「それじゃ、予定通りに。OK?」



 全員、通信機を装備し、各所に散って合図に従い、行動を開始する。


 私の目の前にあるのは、機能を停止して久しい発電所跡。


 にも拘わらず、そこには明りが点灯していて、夜だというのに建物全体が良く見える。


 辛うじて外観をそのままに保っているこの施設は、内部が広く、避難民を収容するにも十分な部屋数があるらしく。


 窓際には小銃で武装した米国兵が巡回しているのが見て取れた。


 此処での目的は、主に三つ。


 一つは、ロディーとカガラの二人を奪還し、そのまま戦線に復帰させる事。


 二つ目は、米軍兵の無力化と自衛隊の解放。


 で、三つ目が重要だ。



 「連中が保有してる“枝”に関する情報の奪取……」



 精霊連合は特殊な方法で世界各地から“枝”を回収し、アールヴヘイムの某所に集めて管理している。


 それは、世界の崩壊を食い止める為に必要な処置で。



 「悪いけど、アンタらに預けて置く訳には行かないのよ……」



 “枝”は世界樹ユグドラシル再生のカギ。


 その研究は重要で、精霊連合でも最重要案件として取り扱われる。


 アメリカが何の目的で“枝”を収集しているのか、その理由は定かじゃないけど。



 (どうせ、ロクな事じゃないに決まってる)



 自己利益が最優先のノーマル共が、世界再生の為に“枝”を集めてるとは到底考え難い。


 恐らくは、接続先の世界で資源や土地を占有する為に収集しているのだろう。


 連中にとっては、金になる話しだし。

 何より、今は安全な生活圏を確保したいに決まっているだろうから。


 だから、預けて置くなんてのは論外。

 直ぐに確保して、ウチの専門部に回収を要請しなければならない。



 「その為には……」



 先ず、必要な情報を持っているであろう人間を捕縛する必要がある。


 コッペリアの能力でデータバンクから情報が引き出せれば良かったんだけど、どうやら連中も正確な位置をまだ把握出来ていないらしく。



 (もしくは、この状況を想定して、敢えて情報を残さなかった可能性もあるけど)



 何れにせよ、この施設を占拠してる米軍の指揮官クラスなら、その詳しい情報を持っている筈だ。


 だから、そいつを拘束する。


 手順は、先ず第一にシノとイライザによる施設潜入、及びロディーとカガラの奪還。


 次に、この四人が施設内部で陽動を行い、その隙に私とカズ、コッペリアの三人が施設内へ潜入。


 隠密行動を取り、迅速に指揮官を捕縛。


 自衛隊を開放し、残る米軍戦力を壊滅させる。



 「―――とまぁ、言うだけなら単純なんだけど。そう上手くは行かないわよねぇ……」



 恐らく、アバターラが数名配備されてる筈だ。


 加えて、あの男……“槙島”も此処の何処かに居るに違いない。



 (アイツが出て来た時の為に、私は直ぐにでも動けるようにしておかないと……)



 槙島の相手が出来るのは、私だけだ。


 仲間達を危険に晒す訳にはいかない。



 「カズ、槙島が出て来た時は、アンタが指揮を執って」


 「了解でござるよ」


 「コッペリア、アンタはカズの指示に従う事。いいわね?」


 「なんだかワタクシ、何時の間にか勝手に戦力として数えられてやがりますわね……」


 「なに、不満?」


 「いいえ、べっつにーでやがりますわ」



 口ではそう言う物の、口を尖らせて如何にも不満そうな顔をするコッペリア。


 どうもこの子、私以外の人間に指示されるのが気に入らないらしく。



 「こんなナリしてるけど、カズは優秀よ? アンタも学べる事は多いと思うけど」


 「そうなんでやがりますの?」



 首を傾げる。


 まだ短い付き合いだけど、この子の為人は大凡理解出来てる。


 この子にとって重要なのは、自分自身の成長だ。


 その為に、私から何かを学び取ろうとしている節は言葉や行動の端々に感じ取れる。


 だから、この子にとって益のある物だと説明すれば。



 「でしたら、従ってあげるでやがりますの」


 「ん、よろしく頼むでござるよ、コッペリア殿」



 その辺り、カズも判って居るらしい。


 目配せで合図を受け、私は頷き返し。



 『―――姫様、拘束中のお二人を目視で確認致しました』



 通信機を通し、全員に届けられるイライザの声。


 私とカズ、コッペリアの三人は、施設外の茂みに身を潜め、それを聞き。



 「おk、どんな様子?」


 『付近に巡回の兵士が三名。加えて、扉の前に守衛が一名。室内には直接アバターラが二名、監視役に付いている模様です』



 アバターラが二名。

 日本政府が雇っていた腰抜けとは違う。



 (槙島の存在が大きいわね……。それに、何かしら従っている理由もあると考えるべき、か……)



 連中は、既に私達が攻撃を仕掛けて来ると予期している筈だ。


 でなければ、此処まで厳重に警備を固めているのはおかしい。


 私達を相手にすると判った上で、逃げ出さない連中。


 槙島という柱に支えられて、勝てる可能性を見出していると私は考える。


 それに……。



 (個人的な理由で従ってる連中は、ワリと脅威。どんな理由があるにせよ、目的があるなら不死っていうアドバンテージは強い意味を持つ)



 金の為。家族の為。愛する人の為。


 理由は何だっていい。

 死んでも生き返るっていう強味は、そういう欲望や願望を強く持たせる事が出来るからだ。


 コレは、少しばかり危険かも知れない。



 「―――シノ、アンタが先行して。イライザはバックアップ」


 『了、解……』


 『承知致しました』


 「無理は禁物よ。危険と判断したら、直ぐに後退して」


 『『ハッ』』



 どんな相手かは判らない。

 仮に高レベル帯のアバターラだったとしても、滅多な事であの二人が下手を打つ事は無いと思うけれど。


 情報不足っていうのは、こういう時本当に怖い。



 (かと言って、槙島が控えている以上、私が動く訳にはいかないし……)



 苦渋の選択だけど、今はこれで行く。


 それから、程無く。



 「カスミ殿」


 「うん、そろそろね」



 施設内から警報の音が夜闇に響き渡った。


 指示通り、イライザとシノがカガラとロディーを救出し、行動を開始したらしい。



 「行くわよ、コッペリア、カズ」



 頷き、武器を手に立ち上がる二人。


 私もそれに続き、茂みから建物の方を確認して。



 (―――よし、巡回の連中も動き出したッ)



 割れた窓ガラスの向こうで、数名の兵士が武器を手に走って行くのが見えた。


 中で戦闘が始まっているんだ。



 「…………っ!」



 私は背後の二人に手で合図を送り、音も無く隠れていた茂みから飛び出した。


 正面には、ご丁寧に木の板で蓋をされた割れ窓が一つ。


 今の状況なら、少々音を発てても気付かれないと判断し、私は。



 「焼き払え、黒炎……ッ!」



 右手に集めた黒炎を、窓を塞ぐ木の板へ向けて投げ付け、一瞬で灰に変えた。



 「侵入するわよ、ついて来てッ」



 背後で二人が私の背を追うのを確認し、そのまま開け放たれた窓へと飛び込んだ。



 「―――ッ」



 転がり込んだ先は、狭い倉庫。


 倒れたパイプ棚や中身の判らないダンボール箱が散乱しているだけで、敵影は無し。


 私は立ち上がり、唯一のドアへと素早く近付いて、壁に耳を当てながらUI上のMAPを確認。


 付近には気配は無かった。



 「見事に、陽動大成功って感じね……」



 向こうの立場で考えてみれば、私達の侵入は仲間の救出がメインと判断するのは至極真っ当な話しで。


 そちらが襲われれば、当然戦力を集中させるだろう。


 妥当な判断だし、そこそこの能力がある指揮官なら及第点と言える指示だ。


 だけど、残念ながら相手はこの私。



 「普通の読みで対応し切れる相手じゃないんだなぁ〜」



 と、ニヤニヤ笑みを浮かべ。



 「ただ、問題はやっぱり指揮官の居所でござるな」


 「その辺りの宿舎で待機してる米兵をふんじばって見れば良いのでやがりますわ」


 「ま、それしかないわね」



 顔を見合わせ、頷き合い。



 「それじゃ、コソ〜リ行くわよ、コソ〜リ」



 本当は、シノみたいに隠形が使えればいいんだけど、私やカズ、コッペリアにそういった技能は無い。


 しゃーなしで、私達は抜き足差し足、施設内の索敵を開始するのだった。



 「しっかし此処、ホンットだだ広いわね……」


 「元は太陽光発電所らしいでござるから、敷地面積が必要だったのでござろうなぁ」


 「修理すれば使えそうな設備も結構残ってるでやがります。後々の事を考えれば、放棄してしまうのは少し惜しい気もするでやがりますわね……」


 「ふむ……。再生事業、か。太陽光発電なら、悪くはない考えね」



 褒められ、ちょっと嬉しそうなコッペリア。


 そうこう雑談を交えながら施設内を探検し、かれこれ10分程が経過した頃。


 私は、ある事に気付き始めていた。



 「妙ね……。幾ら何でも、兵を一人も見掛けないとか……」



 陽動開始から既に10分。


 向こうもそろそろ陽動にかけられる時間が限界に近い。


 にも関わらず、コッチは手掛かり一つ掴めていない。



 「不味いでやがりますわ。幾ら指揮官が無能でも、流石にそろそろ気付かれるでやがります……っ」


 「で、ござるな。少し東寄りに捜索範囲を広げてみては―――」



 と、カズから提案があった直後だった。


 私はその気配に気付き、全て納得する。



 「その必要は無いみたいよ、カズ」



 足を止めたのは、大きな扉がある部屋の前。


 何の施設があった場所かは判断がつかないけど、その扉の向こうに広がる部屋は馬鹿みたいに大きくて。


 私は何かを語るよりも先にと、その半分外れかけたドアを押し開け、中へと一歩踏み込み。



 「―――ごめんなさいねー、待たせちゃったかしら?」


 「いいや、そうでもないさ。お陰で十分に準備を整えられたよ」



 奥行きは50メートル以上。


 天井の高さは、凡そ三階分くらいあるだろうか。


 手前は吹き抜けで大きな柱が四本立っていて、奥は二階、三階と階段で繋がる段差のついた構図。


 その部屋の中心には、私達にとって驚くべき物が鎮座していて。



 「こういう事だったワケね……」



 淡く発光する緑色のUEP天然結晶体。―――即ち、“枝”だ。


 そして、その前で堂々と椅子に腰掛け、ファイルを開いて足を組んでいる男。



 「探し物は、コレだろう? 香澄」


 「良く判ったわね……。正直、ちょっと驚いたわ」



 まさか、探していた指揮官ではなく、その指揮官が情報を持っているであろうと推測していた、“探し物”の方が見付かるとは予想外だった。


 私は、その結晶体を見上げ、深く溜め息を吐く。



 「なるほどね……。そりゃ、アンタが守りに付いてるなら、この辺りに兵士が一人もいないワケだわ……」


 「勝手にオレ達の戦闘に巻き込まれて死なれても迷惑だからな、ご退場頂いたのさ」



 余裕の笑みを浮かべ、薄闇の中から姿を現したのは、“槙島”だった。



 「―――槙島、勇樹……」


 「間違い無いでやがりますわ。外見的特徴に加え、固有生体波形も98%合致していやがります」



 私の背後で、素早く臨戦態勢を整えるカズとコッペリア。


 だけど、私は右手をサッと上げ、その二人を制止する。


 首を傾げる二人。けれど。



 「カズ、コッペリア、悪いんだけど、コイツとは私がサシでやる。―――いいわよね? 槙島」


 「デートのお誘いとは、嬉しいな。オレとしても、コレを壊される訳にはいかないし、少し外を歩こうか」


 「オーケー、乗ってあげる」



 コイツが言う通り、此処で戦闘になれば、“枝”が瓦礫の下敷きになり兼ねない。


 それは私としても望む所ではないし。それに、何より。



 (私がコイツを連れて外で暴れていれば、カズとコッペリアの二人をフリーで動かせる)



 と、そう思ったんだけれど……。


 歩き始めた槙島が足を止め、振り返り。



 「あぁ、心配しなくていい。そっちのお二人さんには、オレの方からプレゼントがある。丁度、男女ペアが二組出来るんじゃないかな」



 槙島が右手を上げると、それに合わせて結晶体の影から二人、アバターラが姿を現した。



 「―――チッ、そこまで想定済みか……」


 「陽動に出ているのは二人。なら、残りは君達三人と、退路を確保する一人に絞られる。戦力配分を考慮すれば、これくらいは当然。だろう?」



 有能な男だ。それは、言うまでもない。―――ムカつくけれど。


 私は舌打ちし、新たに現れたアバターラの二人を見る。



 「初めまして、お噂はかねがね」



 と、丁寧にお辞儀したのは、二振りの曲刀を携えた女剣士。


 態度とは裏腹に、その目付きは凶暴。


 浅黒い肌とスタイルの良さは黒人特有の物だけど、骨格には白人の特徴も見受けられて。


 恐らくは、ハーフかクォーター。名前は、“ラクシュミ”。



 「……。……」



 無言でコッペリアを見詰めるのは、象の面を被った巨体の白人男性。


 頑強そうな腕甲と具足に肌の露出が大きい服装で、その姿は名前の通り“ガネーシャ”を意識しているらしく。



 「なかなか、手強そうでござるな……」


 「ガチムチ過ぎるでやがりますわ……」



 カズ達二人の表情にはアリアリと緊張の色が伺える。



 「随分手厚い歓迎だこと」


 「手加減が出来る相手じゃないからな。悪いが、今回は本気で行かせて貰う」



 顎をしゃくり、“ついて来い”と促され、私は。



 「カズ、コッペリア、アイツら……強いわよ」


 「解って居るでござる」


 「カスミさん以上とは思えやがりませんけど、油断なんてするつもりもありやがりませんわ」



 二人の目を見て、私は少し安心し、それから先を行く槙島の後について歩き出した。


 恐らく、残ったカズ達も別の場所で戦う事になるだろうけど、今そっちまで心配している余裕は私にだって無い。


 なんせ、相手はあの“槙島”なんだから。



 (―――しくじるんじゃないわよ、二人とも……っ)



 私は後ろ髪引かれる思いを隠し、そのまま槙島と共に建物の外へと向かうのだった。

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