第四十九話
第四十九話「介入者」
―――痛い! 痛い! 痛い!
立ち上がろうと力を込めた膝が、床に着いた腕が、背筋が、腹筋が、肋骨が。
ただの痛みじゃない。苦痛だ。
呼吸も苦しいし、顔を上げるのさえダルイ。
なのに、私は―――。
「―――は、はは……っ、まだ……生きてる、し」
笑っていた。
滅茶苦茶シンドいし、何かを考えてるような暇も殆ど無いっていうのに、でもそこには確かな実感があった。
―――生きている。
―――戦えている。
―――抗えている。
こんなに命の存在感を感じ取れる相手は、いったいどれ程ぶりだろう?
「ちょっとさ……、興奮、してきちゃった……っ」
見上げる私の前には、巨大な泥の壁。
今まさに頭上から襲い掛かるそれを交わし、宙を舞う私は。
「ダイダラボッチ……ッ!」
ソイツの顔を見上げ、右手の黒龍槍を放って笑う。
これでもかってくらいの絶望的状況。
今のままでは勝ち目なんてまるで無いし、揚陸艇もカズ達を見付けだせずに居る。
これだけ切羽詰まってるってのに、追い込まれる程に、私は楽しくなってくる。
札幌の街に西日が差し、その巨体は如何にも“和”を感じさせる光景だけど。
風光明媚を楽しんでいるワケじゃない。
ただ、単純に、戦う事が楽しいんだ。
「謀略も、意地汚さも無い、純粋に生きる為の戦いだ……っ」
最近は、そんな戦いばかりだった。
欠伸が出るくらい弱い奴ら。
ロクに頭も無いクセにやる事だけは汚い連中ばかり。
一方的に蹂躙して、一方的に我を押し付けて、圧倒して、鏖殺して、自分が壊れてくような戦いばかりだった。
(私は、人殺しが好きな訳じゃない。人殺しをゲームのように、なんて言う連中も殺して来たけど、アレがゲーム? 馬鹿馬鹿しい。ゲームってのは楽しくてナンボだ。殺戮の何が楽しいのか、私には判らない)
必死に足掻く相手を叩いて楽しめるのは、最初だけ。
直ぐに飽きて、何も感じなくなって、人殺しが作業になる。
ハッキリ言って、金払ってでもやりたくない“仕事”だ。
だから、こういう戦いは本当にイイ。
恐いし、辛いし、痛いし、苦しいけど、何の為に戦ってるのかっていう明確で、絶対的な意思が自分の中に感じられるから。
「死なない身体になって、もう長いけどさ……。私はまだ、一度も死んだ事が無いんだ。恐いんだよ、本能的にさ」
ダイダラボッチを見下ろし、黒龍槍を引き戻し、天高く掲げる。
「死にたくないんだ……。生きたいんだ……。だから―――」
そこに極大のエネルギーを注ぎ込み、振り下ろす。
「―――オマエが死ねッ!!」
黒炎の刃が、今まさに引き絞ろうとされていたダイダラボッチの右腕を焼き焦がし、どころか溶断する。
一瞬で水分が蒸発し、泥は砂のようになって、ズルリと滑り落ちるけど。
「デッスヨネー」
地面へ落ちるよりも早く本体から伸びた無数の触手が切り落とされた腕へと殺到し、繋ぎ合わせて切断面に水分を補充する。
後は、予想通りピッタリフィットで再生完了だ。
こんな事を、もう一時間以上続けていて、地面に降りる事も出来ない私は、とっくに疲労が限界を超えていた。
(肉体的な疲れじゃない……。脳の疲労がハンパない……っ)
思考力の低下は明らかで、その証拠に―――背後から迫っていた気配に、私は気付く事も出来ず。
「―――がっ!?」
不意に背中から生じた衝撃で、肺の中の空気が全て吐き出された。
メキメキと背骨と胸骨が悲鳴を上げ、また幾つか内臓が破壊される。
吹き飛ばされた私の身体は、それ自体が砲弾みたいなスピードでビルの壁を何枚も貫通し、最後にはコンクリートの壁面に減り込んだ所で止まった。
「か、はっ」
もう何度目だろう、こうして血を吐いたのは。
骨折の回数なんて数知れず、内臓破裂も一度や二度じゃない。
それでも生きて、戦っていられるのは、意思の強さで傷や怪我を高速治療しているから何だけれど。
「こりゃ……流石に、追い付かん、わ……」
口端から血が流れ、もう鉄臭い錆の味にも慣れてしまっていた。
オーバードライブの新しい使い方が判ったのは収穫だけど、これ以上は私の精神が保ちそうにない。
(やばい、なぁ……。これじゃ、オーバーリミットしても、体力と脳疲労が……)
余力が無さ過ぎる。
カズが一撃でノックダウンさせられたような攻撃を、これでもかって程しこたま喰らい続けてしまった。
流石に、コレは“ヴァルハラ行きか”と脳裏を掠めた時、その声は、ようやく聞こえて来た。
『―――カ、カスミ、殿……っ』
「カズっ、アンタなのッ!?」
全身を襲う苦痛や倦怠感も忘れる程、私は待ち望んだ声の主の生還を喜んだのだけど……。
『カスミ、殿……。良く、聞くでござる……』
「ちょっと、カズ、アンタ一体どこに―――」
『聞くで、ござるっ』
「―――っ!」
カズの必死な声に、私は驚いてしまって。
混乱した頭で、黙ってカズの言葉を待っていたのだけれど。
それは、余りにも嫌な話しだった。
『敵は……、ダイダラボッチ、だけでは、ない……で、ござる……』
「え……」
『まき、し―――』
その言葉を最後に、通信は途切れた。
カズの身に何が起きたのか、それが解らず慌てるが、それ以上に。
「今、何て……言った?」
頬を嫌な汗が伝い、零れ落ちる。
最後にカズが呟いた単語。―――いや、逃げようとするな。判って居る筈だ。
アレは、単語などではなく、“名前”。
この一年で、忘れようとしていた名前だ。
「―――“槙島勇樹”……ッ」
思わず、肩が震えた。
どうして今になって?
世界の異変を期に姿を忽然と消した筈の男だ。
だが、今は……。
「シノ、聞こえる!?」
『姫? コッチ、まだ……』
「判ってる。今カズと連絡が取れた。一瞬だったけど、座標情報を送るから、回収に向かって!」
『了解、直ぐに―――』
と、そう答えようとするシノに、香澄は慌てて付け足す。
「待った! 慎重にお願い。ひょっとすると―――って、ううん、やっぱいい。急いで、回収してやって」
『……? 了、解』
不思議そうにそう返事を返したシノに、私は苦笑を浮かべて手を振った。
カズがどうして再び意識を失ったのか、そこに不安要素を感じて慎重にと付け足したんだけれど、その“不安要素そのもの”が、どうやら向こうから出向いて来てくれたようだから。
「―――酷い有様だ……。相変わらず“ド”が付く“M”は健在なのか? 香澄」
「一年ぶりの再会で聞く第一声がそれ? せめて、もう少しくらい心配とか出来なかったワケ? 元エージェント“槙島 勇樹”」
コンクリの壁に減り込んだ私を見下ろし、ニヒルな笑みを浮かべる男。
この場に於いては余りにも不相応な余裕の態度。
コイツの名は、『槙島勇樹』。
さっきカズが、最後に語ろうとした名前。その本人。
ワイルドが服を着て歩いてるような、ウルフヘアと彫りの深い顔。
ギリギリ二枚目っていう中途半端な容姿で、若干垂れ気味の目が妙に厭らしい。
人によっては、セクシーと感じるのかも知れないけど、私にはそうは思えない。
だって、コイツは……。
「コイツの相手、一人じゃキツイだろ。オレも手を貸してやるよ。他ならない香澄の為だ」
「はっ、どの口が言うんだか。―――アンタでしょ、私の仲間に手出したの」
微笑を浮かべ、槙島は私を爪先から髪の先まで舐め回すような視線で見遣り。
「仲間? オイオイ、あんな連中、お前には相応しくないだろ。特にあのデブだ。アレは実に宜しくない」
「……誰の、事かしら……?」
誰の事を言っているのかなんて判り切ってて、だから聞き返しながらも腸が煮え繰り返るのを私は感じていて。
「名前なんて忘れちまったよ。あんなもの、覚えておく価値もない」
「オマエ……ッ」
頭にまで沸騰した血が上り、無意識で全身から黒炎が噴き出す。
が、槙島はまるで動じた様子もなく。
「興奮し易いのも相変わらずか。まぁでも、怒った顔もカワイイぜ? 流石、オレの香澄だ」
「黙れよ、カスが……ッ」
―――コレだ。
私がコイツを受け付けない一番の理由。
何をどう勘違いしたらそうなるのか、コイツは私がコイツに惚れてると勝手に決め付けてる。
しかも、どれだけ否定しても、まるで意に介さず、絶対に認めようとしない。
それ所か、これまでに何度も食事や旅行、果てはホテルにまで誘って来ていて、そのしつこさはあの社長ですら引く程だ。
けど、落ち着け、私。
最低限、必要な情報は引き出して、話しはそれからだ。
「オークとリザードマンが一緒に居た筈だけど……、その二人はどうした?」
「あぁ〜、そういや居たな。どっちもデブに邪魔されて、取り逃がしちまったが……」
「そ……。二人は、無事なのね……」
ロディーとカガラは無事らしい。流石カズ。
連絡が取れない理由は、タブレットが使い物にならなくなったって所か。
カズの反応があった座標から考慮するに、恐らく二人は自衛隊と行動を共にしてるんだろう。
と、なれば。
「悪いんだけどさ……、今アンタに構ってる暇ないのよ」
「判ってるさ。コイツだろ?」
槙島が振り返りもせず、立てた親指で指し示すのは、その背後で首を傾げてコッチを見ているダイダラボッチ。
「だから、手を貸してやるって言ったろ。オレとしても、コイツを野放しにはしておけないからな」
「へぇ、ひょっとしてまだやってんの? “正義の味方ゴッコ”」
「ゴッコじゃない。今じゃオレは、ホンモノの“ヒーロー”だからな。香澄、お前もコッチに来いよ、イイ思いさせてやるぜ?」
私がコイツを受け付けない理由その2。
この自己中まっしぐらな“正義ゴッコ”だ。
人助けと親切の押し売り。
その上、正義の味方を語りながら見返りを要求するクズっぷり。
なまじ雰囲気イケメンな所為で、そうやって遊ばれた女が何人も居るって話しをPYO時代に幾度か聞いた事がある。
私の中で、コイツをカテゴライズするなら、間違いなく“最低のクズ野郎”。
カズが唯一エージェントになる権利を放棄した人間なら、コイツは唯一エージェントでありながら“その権利を剥奪された男”だった。
「誰が、アンタなんかに……っ」
「いいのかよ、そういう態度で。今の香澄じゃ、“全力”でも倒し切れないだろ? コイツはさ」
「―――チッ」
コイツ、私の状態を完全に見抜いてる。
脳疲労が限界近くて、オーバーリミットもロクに使えないって事まで。
「ははっ、恐い顔だな。けど、そう怒るなよ、悪い話しじゃないだろ?」
「どこが……っ」
共闘する代わりに、後で“ヤらせろ”とか抜かすに決まってる。
コイツは、そういう奴だ。
「お前はホント、貞操観念が強いよな。一発くらい減るもんじゃないだろうに」
「減るわッ! つか案の定かよッ!?」
何処まで行ってもブレない。
どうやらコイツ、未だに私の事を諦めていないらしい。
「―――おっと、無駄話は此処までみたいだな。奴さん、やる気になってるようだぜ」
「クッ、最悪の展開じゃん……ッ」
見上げる私の目に、大口を開けるダイダラボッチの顔。
「チッ、勝手にやってろ! 私は私で、勝手にやるッ!」
「オイオイ、それじゃオレが丸損じゃないか」
言いながら、互いにダイダラボッチの食い付きを交わし。
「コレを共闘だとは思わない。アンタはアンタで、自分の目的の為にコイツと戦えッ」
「はぁ、仕方ないな……」
空中で肩を竦め、やれやれと首を振る槙島……が、そこで、気付いた。
―――は? コイツ……空飛んでない?
槙島は、空中で完全に静止してる。
考えてみれば、さっき話している間も、ずっとそうだった。
私は壁に減り込んでたから留まっていられたけど、コイツ……いったいどうやって?
「ちょっとアンタ、なんで空飛んでんのよ!?」
「ん、何を言ってるんだ。ヒーローが空を飛ぶなんて、当たり前の事だろ」
「……っ」
コイツ、まさか……。
“当たり前”というその単語。それに、さっき私の“全力”を指摘した事。
そこから導き出される回答は、ただ一つで。
(オーバードライブを、私以上に使いこなしてる……ッ!?)
私には、まだ空を飛ぶなんて芸当は出来ない。
でも、槙島はそれを“当たり前の事”と思い込む事が出来てる。
翌々考えて見れば、コイツにはそういう“思い込みの強さ”があるんだった。
つまり、今のコイツは―――。
「下手すると、私より……強い!?」
フンフンと鼻歌交じりにダイダラボッチの攻撃を避け、自在に空を飛び回る槙島に、私は奥歯を噛み締めた。
ふざけるな。こんなヤツが、私より上?
認めない、そんなの、絶対に。
「アンタに出来る事が……私に出来ないワケが無いッ!!」
そう、出来ない筈が無い。
実例が目の前にあって、それが可能だと証明されているなら、出来ない道理なんて物は無いだろう。
私はそれを疑わない。
それは、当然の帰結。
「―――フッ!」
槙島同様に、振り下ろされたダイダラボッチの腕を交わし、私は空を“飛んだ”。
「なんだ、出来るんじゃないか。流石、オレの香澄だ」
「うるせぇ黙ってろッ!」
確かに、今は出来る。
でもそれは、空が飛べるという証明が目の前にあったから、一層容易く信じる事が出来たからだ。
だけど、コイツは違う。
コイツは、実例の無い事を平然と思い込み、空を飛んでた。
私がオーバーリミットでなければ出来なかった事を、オーバードライブの状態でやって退けている。
(悔しいけど、コイツはホンモノだ……。あの性格とか、思考パターンが正常なら、戦力として欲しいくらいに)
だが、駄目だ。
コイツだけは、絶対に受け付けない。
カズをデブ呼ばわりして、ボコってくれた奴。
女を玩具にして、自分はカッコイイとか思い込んでるクソナルシスト。
例え天地が引っ繰り返ろうとも、コイツだけは絶対に“無い”。
(このまま、この場をコイツに預けて、さっさと私は撤退してしまったって良い。―――けど)
私は頭の中でギアを一段階上げる。
「んな癪な事、出来るか……ッ!!」
負けっ放しなんてのを、私は絶対に認めない。
私は面倒くさがりだし、他人の事なんてどうでもイイって周囲の意見を蹴っ飛ばせるような人間だけど。
それでも、そこだけは譲らない。
私は―――負けず嫌いなんだ!
「デカイだけの木偶の坊が……、中途半端なクソナルシストが……、ナンボのモンじゃゴルァッ!!」
思い込みとかっていう、先ずはその認識をぶっ飛ばす。
極自然に、当たり前の事を当たり前に。
私は、予測される“自分の規模”を放棄した。
「―――ふ〜ん、まだ余力を残してたのか……」
私を見る槙島の顔から、微笑が消えた。
その私はっていうと、もう全身真っ黒の黒炎に包まれていて。
「魔法が使えないとか、相手がデカ過ぎるからとか、そういう事考えてっから駄目なんだ……ッ!」
出来ないかも知れない、っていうそのイメージを完全に頭の中から抹消し。
「今の私には、今まで出来なかった事が出来るッ!」
両手に黒炎を集め、それを胸の前で強引に左右から圧縮。
余りの熱量で、本来私を焼く事の無い黒炎が私自身までも焼き焦がすけど、知った事か。
「―――ぶっ飛ばすッ!!」
熱量での大規模な蒸発が無理なら、“消し飛ばして”やればいい。
無茶苦茶な論理で、何時もの私なら出来るワケがない事だけど。
「喰らい……やがれぇッ!!!」
プロ野球の投手でも青褪めるようなフォームで大きく右足を上げ、振り下ろすと同時に右手から圧縮した黒炎を投射。
初速は余裕で音速を超え、膨大な熱量と衝撃波を放ちながら、黒炎球がベイパーコーンを描いてダイダラボッチへと迫り。
「□□□□―――ッ!!?」
黒炎球はダイダラボッチの頭部に命中。直後に急速に膨張し、ヘリポートがそのまま乗るような馬鹿デカイ頭を丸々呑み込んで、消失させた。
「っしゃオラァーッ!」
思わず空中でガッツポーズを取る。
コレには槙島も感心したようで。
「大した火力だなぁ……。オレには出来ない芸当だ。―――けど」
冷静に、平静に、槙島はその背に背負う得物を掴み、引き抜いた。
「オレには、コイツがある」
その手が握るのは、全長2メートルを超える長大な大剣。
青白い刃を持ち、雪の結晶を彷彿とさせる装飾が施されたその剣の名は。
「―――氷獄剣“コキュートス”……ッ!」
漂う冷気は万物を凍て付かせ、原子運動を停止させるという。
コレが、槙島のオリジナル武器。
事実、PYO時代には、この武器の力でダイキすら凌駕したと聞かされている。
その威力は―――。
「フッ、香澄、惚れ直すなよ?」
キモイ笑みを浮かべ、ウィンクした槙島がコキュートスを振り上げると、その刃に冷気が集束し、渦を巻いて。
「―――ッ!?」
振り下ろされた瞬間、凄まじい冷気が周囲一帯を覆い尽くし、切り付けられたダイダラボッチの巨体が、一瞬にして氷結させられた。―――が、それどころか。
「ちょっ、アンタ……ッ」
その威力は尋常ではなく、ダイダラボッチのみならず、その向こうに広がる札幌の街にまで影響を及ぼし、街並みを縦断する氷の山を作り出してしまっていた。
「おっと、やり過ぎちまったか」
そういう問題か、と声を上げたくなったが、あえて押し留めた。
もしも、まだ自衛隊や駐屯地の連中が街中に残っていたとしたら、あんなのが直撃したらとんでもない被害が出る。
けど、それをコイツに今語るのは藪蛇って奴で、下手な発言は私の状況を不利にし兼ねないからだ。
「アンタ……っ、関係ない人間まで巻き込んだらどうすんのよっ!?」
「大丈夫だ、オレはヒーローだからな」
ワケわかんない。何その根拠の無い自信。
唖然とする私に、しかし槙島は。
「けど、コレでも足りないか」
その言葉で反射的にダイダラボッチを見た私は、絶句する。
ビキビキと、体表を覆う氷の層を砕き、内側で流動する泥の塊。
コイツは、不死身か、と。
頭を吹き飛ばされ、全身を氷漬けにされているにも関わらず、ダイダラボッチは未だ健在。
異常だ。明らかに。
(幾ら何でも、おかしい……)
前史外生物は多く見て来た。
その中には、大凡生物とは言えないような物も沢山居て、スケルトンやレイス何ていうアンデッド系の怪物や、ゴーレムやガーディアンのような無機的な性質を持つ物も居た。
しかし、それでも、だ。
前史外生物と呼ばれるのは何故か?
それは、アンデッドや無機物でさえ、“生物”と定義出来る特徴があったから。
その特徴とは、どんな条件が付随していたとしても、一律必ず“死ぬ”という事。
コレは多分、元がゲームに登場するモンスターをイメージしているからで。
(だとしたら、コイツを殺す条件は……?)
考える。良くある、在り来たりなパターンを。
そして、行き着いた答えは―――。
「―――“核”かッ」
私が睨み付けた先、そこには、流動する泥の波を纏う赤い結晶体が在った。




