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Master Code  作者: 覇牙 暁
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第四十七話

第四十七話「リベンジマッチ」




 ―――この瞬間を、待っていた。


 一年以上の、長い時間をかけて……。


 鍛え上げて来たのだ。“彼女”の隣に立つその日の為に。



 「この一年、ワタクシずっと自分を鍛えて参りやがりましたの」


 「ほぅ、人工知能が肉の器を得て、限界を超えたその先で、最初に目指した物が“成長”とは……なかなか皮肉じゃないか」



 コッペリアが放つ前蹴りを片手で受け止め、互いに至近で顔を見合う。


 香澄の手に響いた衝撃は、それこそ岩おも砕く程の物。


 が、それでも、眉一つ動かさず、微笑する。



 「人工知能としての限界を超えたからこそ、これまでとは違う“成長”を望んだのでやがりますわッ!」


 「面白い。ならば見せてみろ、貴様の言う“成長”とやらをッ!」



 長銃を鈍器のように振り回し、香澄の頭を狙うが交わされる。


 そこへ間髪入れずに香澄は。



 「UEPの利点を理解しているな。それなら、確かに鈍器としても十分な強度がある。―――が、遅いッ!」



 大振りで脇の空いたコッペリアへ肉薄し、右手の“黒龍剣”を薙いだ。


 しかし、コッペリアは避けようともせず、敢えて深く飛び込む。



 「むッ!?」


 「お陰様で、“痛み”には慣れやがりましたのよッ!」



 腹部の肌を僅かに裂く刃を物ともせず、コッペリアは肩から香澄に体当たりを仕掛けた。


 これにより、香澄は体幹をズラされ。



 「―――そこッ!!」



 逆手に掴んだジャベリンの引き金を引けば、自身の脇を抜けて銃口が香澄へと向けられていて。


 ―――ドッ!! と、重い爆音を発し、弾丸が放たれる。



 「ハッ、やるようになったッ!」



 弾丸は既に眼前数センチの位置。


 だというのに、香澄はさも嬉しそうに笑い。―――ゴッ! と、その弾丸を拳で打ち上げ、弾いた。



 「ちょっ!? マッハ7.5で至近発射された弾丸を、当たり前のように殴り返しやがらないで下さいまし!」


 「馬鹿を言え。弾丸など見てはおらんわ。私が見ていたのは、貴様の指先よ!」



 コッペリアが言った通り、マッハ7.5で飛翔する弾丸など、到底目で追える物ではない。


 しかし、それを撃ち出す銃の引き金、それを引く人の指の動きならどうか?


 ―――可能だ。そして、そこから弾丸が射出されるまでのタイミングは、既に初撃で見ている。


 ならば、何がそれ程難しい事か、と香澄は言う。



 「いえ、それ普通じゃありやがりませんからね!?」


 「出来るだろ。……出来ん、のか?」


 「出来るかっ!」



 思わず、言葉遣いが正確になるほどコッペリアは真剣にツッコミを入れてしまう。



 「だったら―――コレでどうでやがりますかッ!」



 一発で駄目なら、二発、三発、四発。


 コッペリアは体術に組み合わせ、ありとあらゆる角度からジャベリンを発射する。



 「クッ、流石に速いな―――ッ」



 香澄はこの段階で、コッペリアの脳が有する処理速度が人のそれを遥かに凌駕している事に気付いた。


 達人の武術家が積み重ねられた練磨の先で、先鋭化された勘と共に習得するであろう極限まで無駄の無い動きを、彼女は意識的に脳で処理し、合理的に繰り出す事が出来て居るのだ。


 これには、さしもの香澄も驚かされた。



 「速い……っ、はやっ、ちょっ、早過ぎっ!!」


 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラでやがりますわオラッ!!」



 前蹴りから突き出したジャベリンを接射。からの回し蹴りに裏拳、後ろ回し蹴り、そこから至近で額に向けられた銃口が火を噴き、それを交わしても足元には次の足払い。


 まるで独楽のような高速多段攻撃に、香澄の思考がジョジョに追い付かなくなり始める。



 「ちゃっかりジョ〇ョって言うな!」


 「オラオラオラオラオラ?」



 が、コッペリアは止まらない。


 天の声にツッコミなど居れているような暇は無いのだ。



 「だったら―――強引にでも、止めるまでッ!」


 「なんですとっ!?」



 跳び後ろ回し蹴りから香澄の胸に向けられたジャベリンの砲身。


 しかし、香澄はそれに逆回転の後ろ回し蹴りを合わせ―――弾き返す。



 「はわわっ」



 超重量の長銃。そこに加えて超筋力でグリップを掴む自身の手。


 そのまま取り零していれば、まだ最悪の事態は免れたのだが。



 「まだまだ、咄嗟の判断が甘いッ」


 「ひぇ〜〜〜っ」



 腕ごと上半身をかち上げられ、ガラ空きになった腹部に香澄の叩き付けるような拳が直撃。



 「ゴ、フッ!!!」



 体内の空気が全て抜け出てしまうような感覚と、激しい眩暈。


 コッペリアの身体は庁舎の床を突き破り、更に下の階の壁も削ぐように砕いて建物の外まで放り出される。―――そして、地表のアスファルトに激突。



 「が、はっ……! む、無茶苦茶、でやがります、わ……っ」



 馬鹿力、なんて生易しい物ではない。


 完全に、格闘漫画の世界だった。



 「―――どうした! 貴様の“成長”とやらは、そんな物か!?」



 庁舎に出来た壁の穴から見下ろし、それ見た事かとドヤ顔を決める香澄に、コッペリアは。



 「ムッ、キー! トサカにきやがりましたわっ」



 地面に減り込んだ状態から無理矢理足を引き抜き、跳ね起きる。


 そして、長銃の面目躍如と言わんばかりに、その位置から腰を落としてジャベリンを構え。―――発砲。



 「ぬわっ! あぶなっ」



 弾丸は香澄の頬を僅かに掠め、暴風で後髪を数本引き千切って―――庁舎の天井に大きな風穴を穿つ。



 「チッ、外しやがりましたわ……」


 「アンタ今ガチで狙ったわね!? 私さっき、わざわざ“剣消して”殴ったのに!」


 「いえいえ、まさかまさか〜♪」


 「こんの……っ」



 ピキピキと笑顔に青筋を浮かべ、拳を握る香澄に、コッペリアは嫌な予感がして。



 「あぁ〜、落ち着きやがりませ……?」


 「イ ★ ヤ ★ ダ」



 ビルの上から跳躍した香澄は、額に青筋を浮かべたまま空中で右手に“黒狼甲”を装備。


 大気を足場に、亜音速で地面へ向かって飛び込む。



 「死ねゴルァァアアッ!!」



 着弾の瞬間、余りの衝撃で衝撃波が爆風のように吹き荒れ、直径10メートル近いクレーターを作り出した。


 これを避けられなかったコッペリアの運命は。



 「あぁ〜〜〜〜れぇ〜〜〜〜〜〜〜〜……」



 爆発で吹き飛ばされ、高々と天を舞い、自由落下に任せ―――再びアスファルトに打ち付けられる。



 「ぐべっ」



 ―――顔から。



 「チッ、外したわ」


 「外れてやがりませんわっ! しかも、今“死ね”って言いやがりましたわ!」



 焼き回しのような発言に猛烈な勢いで立ち上がったコッペリアは、そこから地面を蹴り砕き、ダッシュ。


 それを、香澄は真正面から受けて立ち、再び始まる近接格闘戦の大嵐。



 「あ、あの……シノ殿」


 「なに、イライザ」



 二人の戦いをビルの穴から覗き込んでいたイライザとシノは。



 「姫様もですが……、あのコッペリアという方、アレも……その、言葉は悪いかも知れませんが……」


 「うん……、人間、止めてる……」



 香澄とコッペリアの戦いで巻き添えにあった付近の建造物は数知れず。


 香澄が拳を突き出せば、その拳風でビルの窓ガラスが尽く砕け散り、屋根が飛び、壁が砕け。


 コッペリアが反撃でジャベリンを撃てば、その度に弾丸がコンクリートを撃ち貫き、大穴を穿って蜂の巣にする。


 周囲には、まるで戦争の痕を思わせるような光景が広がり―――否、現在も尚、広がり続けていて。



 「―――あっははっ! やっばい、ちょー楽しいっ!」


 「マジキチでやがりますわっ! こちとら死に物狂いでやがりますのにっ!」


 「だからイイんじゃんっ」


 「ドがつく“M”は健在でやがりますのね!」


 「ばっか、そういう事は、一発でも私に直撃させてから言いなっての!」


 「ムッキー!」



 蹴りを出せば拳で迎撃され、銃を撃てば避けられて、殴ろうとすれば殴り返され、やっとの事で反撃に成功したと思ったら、それ以上のしっぺ返しを食らう。


 それでも、コッペリアはめげない。退かない。折れない。


 泥まみれになり、挙句愛用のジャベリンまで動かなくなって、それでも、まだ諦めない。



 「ぜひぃ〜……っ、ぜひぃ〜……っ、まったく……っ、どういう……っ、化け物、で……やがり、ますか……っ」


 「それの全力に付いて来られてんだから、アンタだって十分化け物よ、コッペリア」


 「それは……フフッ、ちょっと……嬉しい、でやがります……っ」



 ボロ雑巾のような井出達で、UEP製の服すら所々が破損している有様。


 これまでかいた事の無かった“汗”なんてものまで初体験し、ガクガクの膝を立てて何とか起き上がろうとするのだが。



 「でも……、そろそろ……」



 視界は霞み、思考も覚束ない。


 手足の感覚なんてとっくの昔に失っていて。



 「……げん、かい……」



 フラリ、と倒れ込むコッペリアは、しかしそれでも拳を突き出して。



 「―――ん、十分。合格点よ、コッペリア」



 香澄の手で抱き留められた。



 「……それ、は……、僥倖……で、やがr……」



 同時、遂に意識は途切れて、彼女の双眸から光が失われるのを、香澄は見た。


 そこへ、戦いの終わりを見計らい、シノとイライザが合流する。



 「お疲れ様でした、姫様」


 「ソイツ、何者……。姫と、此処まで戦える、奴……初めて、見た」



 二人の視線の先には、今し方まで香澄と死闘を繰り広げていたコッペリアの姿。


 シノが言う通り、香澄がこれ程までの全力で戦った相手など、今まで見た事がなかった。


 嘗て、一度敗北を喫したという彼のキマイラでさえ、今の香澄なら瞬殺も可能だというのに。



 「前に、ちょっとね。―――シノは知ってるでしょ? PYOの最終日、運営公認でチーター対GMのエキシビジョンマッチがあったの」


 「うん、あった。姫が、大暴れ……」


 「それそれ。あの時、対戦してたチーターってのが、この子なのよ」


 「っ!?」



 シノは驚き、思わずコッペリアを二度見した。



 「コイ、ツ……、チーター?」


 「今は……どうなのかしら。奇妙ではあるけどね、ステータスとか」



 が、そうは言う物の、香澄も半信半疑な様子で。



 「リアルにチートまで持ち込めるなら、それこそ何でもござれって話しになるけどさ……」



 香澄自身も、元はチーターだ。


 ツールが使えるなら、やれる事は更に広がるだろうけど、と頭を悩ませる。



 (もし使えるのだとしても、それを現実の情報として適用する術が思い付かないのよねぇ……)



 抱き留めたままのコッペリアをお姫様だっこに抱き直して。



 「ま、コッチは話しも付いたわ。この子、最初から私を探してくれてたみたいだし」


 「そう、なので?」


 「この子もこの子で、イロイロあったみたいよ、イロイロ、ね」



 コッペリアの寝顔を見下ろし、苦笑する。



 「―――さてと、何かもう滅茶苦茶になっちゃったけど、一先ず当初の目的は達したわ。リヴァルトに報告は?」


 「既に。駐屯地側もこれと言って特に報告するような事態にはなっていないようです」


 「ふむ……、接敵の報告も無いの?」


 「はい、そのようですが」


 「……あれ、変ね……」


 「はい?」



 指令室は即座に押さえた。


 つまり、向こうに送り込まれた長官派のアバターラは、自分達が此処へ到着するより一足早く札幌駐屯地へ到着し、待機したまま指示を待っている状態の筈だ。


 仮に指揮官が有能で、司令部と連絡が取れなくなった事を考慮していたとしても、それでも待機命令は生きているし、継続するだろう。


 だとすれば、連中が潜伏しているのは藻岩山方面の山中である可能性が高い。

 市街地は自衛隊が押さえているから、無理に危険を冒して街に入る事は無い筈だ。


 そう考え、香澄は自衛隊や和幸達に藻岩山方面に集中して監視の目を向けさせている。



 (司令部との連絡が途絶えた以上、現場の指揮官は待機命令を維持するしかない。でも、同時に即時行動可能な位置まで目標との距離を詰め、そこで次の行動に悩んでいる筈……)



 アバターラが指揮官を務めて居るのなら、既に逃亡の可能性もある。

 しかし、あの官房長官のする事だ。恐らく、それは無い。


 指揮しているのは、まず間違いなくノーマル。

 そうなると、当然アバターラが持つ索敵範囲の広さを考慮出来ていないだろう。


 その結果、警邏に当たっている和幸の索敵で容易に発見が可能な筈だ。―――と、推測していたのだが。



 (カズから報告が無い……。逃げた? とは、考え難いのよね……)



 官房長官をプロファイリングすれば、彼はアバターラを自分以下の存在と決め付けて扱っていた。


 要はアバターラの能力を信じて居なかった訳だが。


 と、するなら、指揮を任せる人間は、信用の置けるノーマルの部下、と限定される。


 故に、撤退の可能性は限りなくゼロに近い。



 (単純に、カズが見付け出せない程上手く隠れているのか、それとも―――)



 ―――と、別の可能性を考慮していた所。



 「姫、大変……っ!」


 「んぁ? どしたのシノ」



 唐突にシノが声を上げ、香澄は思考を中断されて驚いたのだが。



 「札幌駐屯地から、緊急……入電! 超大型、前史外生物出現、至急、救援……求むっ」


 「え、マジ!?」



 その報せに、香澄は慌ててチャットチャンネルを和幸へ直接繋げるのだった。



 「ちょっとカズ! どういう事!?」


 『す、すまんでござるッ! 今、手が放せんでござる……よッ!!』



 聞こえて来たのは、切迫した和幸の声。


 環境音が無い純粋な音声の為、彼の周囲で何が起こっているのか香澄には判断が付き兼ねたのだが。



 「OK、分かった。直ぐに戻る。少しの間、頑張ってっ」


 『何とか、してみるでござるッ!!』



 声音から、恐らくは既に戦闘中であろうと察し、香澄は直ぐにチャットを終わらせ、腕の中のコッペリアを抱いたまま、シノの方を向いた。



 「シノ、リヴァルトに繋いで」


 「―――ん、はい」



 差し出したシノの手が掴んでいるタブレットには、リヴァルトの顔が映し出されていた。



 『殿下、アレは一体何なのですかっ!?』


 「コッチが聞きたい! 自衛隊からは何か聞いてないの!?」


 『カズユキ殿からの報告によると、“だいだらぼっち”という怪物が出た、と……』


 「な……なんですとっ!?」



 今まさに聞いたその名に、香澄は仰天する。


 ダイダラボッチ。漢字では、“大太郎法師”と書く。


 大太郎とは、大人おおひとを意味する言葉で、つまりは“一寸法師”の逆の意味を持つ言葉。


 日本各地に伝承が残されているという一種の“巨人”で、その大きさは大地を“掬って”、山を作る程と言われる。



 「超大型って……それ、ムスペルの巨人以上のバケモンじゃない……ッ」



 大きさだけなら、嘗て香澄自身がムスペルヘイムで見た巨人以上。


 そんな物が街を襲っていると言うのだから、和幸にチャットをしているような余裕は無いだろう。



 「何なのですか、そのだいだら……何とかという、怪物は」


 「ダイダラボッチ……。この国の巨人信仰から生まれた伝説上の怪物。ううん、神の一種と言っても間違いじゃないかもね」


 「え、この世界には、神は存在しないという話しだったのでは……?」


 「前史外生物は別……っても、理解出来ないだろうけど……」



 それをキチンと説明するには、目の前のイライザを含む彼女らエルフやダークエルフ達の存在についても触れなければならない。


 しかし、それを説明してしまうと、彼女らの存在が人のイメージで勝手に作られた物だという証明もしなければならず。



 (下手に口には出来ない部分なのよね、これ……)



 悩ましい。と、そう感じる。



 「兎に角、直ぐに戻らないと。カズ達だけじゃ手に負えないわ」


 『それ程の、化け物なのですか?』


 「ええ、正真正銘のね。それより―――リヴァルト、コッチはコッペリアを抱えてるの。飛び乗れそうには無いから、近くに降りられそうなトコを探して、合流地点を指示して!」


 『御意。しばしお待ちを!』



 空を見上げれば、微かに高高度で響く航空機の旋回音。


 この辺りには既に殆ど人の気配が無い為、その音で存在がバレるような事は無いだろう。


 しかし、と香澄はそれを見上げ。



 「あーも、いっそこの辺り全部纏めてブッ飛ばして、更地にでも変えてやろうかしら……っ」


 「姫、焦るの……良くない」


 「解ってるんだけどさぁ……っ」



 イライラする。


 人気も無いクセに無駄に高いばかりの高層建築がある所為で、直ぐに行動出来ない事に。



 『殿下、直ぐそこに道幅の広い道路があります。そちらへ!』



 タブレットから表示されたホログラフのような映像には、付近の航空画像と目印の光点。



 「よし、皆急いで戻るわよっ!」



 頷く二人と共に、コッペリアを肩へ担ぎ上げ、走る。


 今まさに迫る、過去最大級の脅威を目指して。

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