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Master Code  作者: 覇牙 暁
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第四十三話

第四十三話「札幌駐屯地の自衛隊」




 北海道札幌市。


 たった一年で、この国は変わり果てた。


 武力を持つ者以外は、その大部分が前史外生物に住む場所を奪われ、食事は殆どが配給制となり。


 自衛隊が守る避難所での生活を余儀なくされている。―――と言うのが一般的な見解らしい。


 私に言わせれば、抗おうとしなかったお前らが悪い。の一言で終わりだ。


 事実、武器を持った自衛隊員には殆ど被害は出ていない。


 アバターラで無くとも前史外生物に対抗は可能だという証左だ。


 だが、彼等は武器を手にして戦う事を他人任せにした。


 これは単なる自分達の選択のツケでしかない。


 ちなみに、私達が宿泊していた熱海の温泉宿。あそこは、アバターラが管理運営している宿場で、一般人は立ち入り厳禁。


 それでも姿をマジックアイテムで変えて居たのは、周辺住民や自衛隊の目を誤魔化す為で。


 全く、面倒な世の中になった物だと思う。


 ―――それは兎も角。


 今は札幌だ。


 このご時世、都市機能を失っていない街は珍しく。


 札幌は奇跡の街と呼ばれる程その外観を以前のまま保っている。


 理由は、自衛隊の活躍による物、とされているが、厳密にはそうじゃない。


 確かに、小型から中型の現史外生物が相手なら、自衛隊の装備でも十分に防衛が可能だが、大型から超大型の現史外生物となると話しが変わってくる。


 事実、世界中の各都市は、そうした大型以上の現史外生物の被害に合い、その都市機能を維持し切れなくなっていた。


 つまり、此処には“大型以上の現史外生物に対抗し得る力”があるという事であり。


 通常、そんな事が可能だとすれば、大陸間弾道弾並の火力を持つ兵器か、アバターラくらいしか存在しない筈だ。


 けれど、自衛隊にそんな装備は存在しなかったし、アバターラも存在しない。


 それ以外など、考えられない。―――その筈、だったのだが。



 「おー、ホント変わってないわね、此処」



 札幌市、大通公園。

 圧し折れて倒壊してしまったテレビ塔を見上げ、私は以前住んでいた頃の記憶を辿る。



 「姫は、何処に……住んでた?」


 「私ん家? 目的地の近くよ。こっからだと……、少し西にある国道230号線に乗って、南に4キロちょいくらい行ったトコ」


 「かなり距離がありますね……」


 「そうでもないって。アールヴヘイムと違って、コッチは道が舗装されてるし、真っ直ぐだから。それに、幾ら光学迷彩搭載っても、あんまり近く飛んでると見付かって攻撃され兼ねないしね……。私らアバターラ組は平気だろうけど、地上千メートルの高さからパラシュート無しでダイビングなんてしたくないでしょ?」


 「ぱら、しゅ……、だい、び……、ハイ、ソウデスネ」


 「今アンタ、理解する事を諦めたわね」


 「さて、何の事でしょう?」



 とぼけるイライザ。


 まぁ、ちょっと彼女に説明するには、カタカナが多過ぎたか。



 「ご実家には、寄って行かれるので?」


 「ん〜、面倒かなぁ……。親も家も捨てた身だし」



 公園の中を西に向かって歩きながら、そう言い、私は苦笑を浮かべる。


 実際、今更会ってどうなるというのか。

 いっそ前史外生物にでもやられてくれていれば、後腐れも無かったんだけど。



 (生きてるっぽいんだよねぇ……。シノの話しによると)



 溜め息が出た。


 多分、というか、確実に、愛されては居たんだと思う。


 けど、私にはそういった感情がなかった。

 それだけの事。



 「そんじゃま、行きましょうか。あんまり時間も無いしね」



 公園を横切る大きな道路。

 これが、国道230号線だ。


 この道を真っ直ぐに南下すれば、目的地である陸上自衛隊札幌駐屯地がある。


 嘗ては自動車で溢れ返っていたこの道だけど、今は走っている車なんて一つも有りはしない。


 現史外生物を恐れて、誰も避難所から出ようとしないんだろう。


 その道を、私達は徒歩で移動する。



 「んでよ、お姫さん。自衛隊の連中が抵抗してきたら、どうすんだ?」


 「出来ないわよ。ロシアの完全武装した兵士が四万人で挑んで手も足も出なかった相手に、たかが駐屯地の兵力で私に喧嘩売ってくると思う?」


 「ま、それもそうか」



 ロディーは納得したようで、鼻を鳴らす。



 「せやけど、問題はその“お嬢ちゃん”の方やで。アバターラやない言うても、単騎で大型の現史外生物とマトモにやり合えるだけの戦闘能力があるんやろ? 抵抗されると厄介やちゃうん」


 「そうねぇ……。まぁ、その場合には私が対処するわ。アンタらは離れて見てなさい」


 「ふぅむ、雇われ兵士としちゃあ、こういう時にこそ働くべきやと思うんやけど……如何ともし難い戦闘能力の問題は否めんわなぁ」


 「気にしなくていいっての。アンタらには、ちゃんと別の仕事があるんだから」


 「ほぉ?」



 私はカガラと、それにリヴァルト、ロディーの三人に、この後で別行動をする旨を伝え、その内容を彼等に細かく説明する。



 「一応、念の為にそっちにはカズを付けるわ。連絡役と緊急時の戦力補強ね」


 「了解でござるよ」


 「現場指揮はリヴァルト、アンタに任せる。何かあったら、絶対に無理はしない事」


 「ハッ、仰せのままに」



 リヴァルト組の編制は、指揮官としてリヴァルトを据え、カズ、カガラ、イライザとロディーの五名。


 で、自衛隊駐屯地に向かって直接交渉に当たるのは、私とシノの二人だ。


 人数のバランスが悪く見えるかも知れないけど、戦力配分としては均等。


 サクリファイスアミュレットを各自に持たせてあるから、滅多な事でもない限り危険は無いと思う。


 まぁ、シノから提供された情報が正確なら、の話しなんだけれど。


 そうこうしている内、ダベりながら3キロ近く歩いていた私達は、駐屯地まで目と鼻の先という辺りで二手に分かれる。



 「そっちは頼んだわよー」


 「任せるでござるよー」



 手を振るカズ達に手を振り返し、私とシノの二人はそのまま更に南へ。


 カズ達には、藻岩山ロープウェイの辺りから山に入って貰い、この辺りの現史外生物の生息状況を見て貰う事になってる。


 で、私達はと言うと。



 「―――見えて来たわね」



 ライトレールの石山通駅を超えた所。


 そこからでも、目的地である陸上自衛隊札幌駐屯地の敷地が見え始めていた。



 「ビックリ……。本当に、現史外生物、気配……無い」


 「そうね……、大したもんだわ」



 辺りには、現史外生物の気配がまるで感じられなかった。


 今時、コッチの世界じゃ、外を歩いていれば現史外生物の気配なんて一つや二つは何処でだって感じる物なんだけど。


 それが、此処ではまるで感じられない。


 これが果たして自衛隊の力による物なのか、それとも……と、考えている間にも、駐屯地の入口が見えて来て。



 「案の定、守衛が立ってるわね」


 「入口に、一人。中に、二人」


 「計三人、か。だからどうした、って話しだけど」



 私は笑い、シノも苦笑する。


 武装した自衛隊員が三人居たから何だというのか。


 むしろ好都合という奴だ。


 私は当然のように振る舞い、例の私服で入口まで近付いて。



 「すーみませーんっ」


 「ん―――なっ、民間人、ですかっ!?」



 私とシノが私服姿で近付いて声をかけたのだが、守衛の自衛官は驚く。


 どうやら、民間人の女性がたった二人で街中を移動して来たのだと思ったらしく。



 「何をやってるんだ! 外には化け物が沢山いるんだぞ、君らみたいな女の子が護衛も連れずに出歩いちゃ駄目だろう!」



 と、怒られてしまった。


 まぁ、普通は怒るだろう。

 彼等は国民を守るのが仕事だ。勝手に行動されちゃ堪らないに違いない。


 しかし、私は。



 「いえいえ、必要無いんですよ。私達、“アバターラ”ですから」



 と、ニッコリ笑顔で答え。



 「あぁ、なんだ……そういう……、こ、と―――“アバターラ”、だとッ!?」



 一瞬、彼は目の前に居る私達が何であるかを理解し切れなかったようで、半ば苦笑気味に返答しようとしたのだが、その表情は認識が追い付くに連れ、徐々に驚愕に彩られて行き。


 そして、咄嗟に腰のベルトから銃を抜こうと手を伸ばしかけ。



 「―――それ、抜いちゃっていいのかしら?」


 「ッ!」



 笑顔でそう尋ねる私に、その自衛官は硬直した。


 その声に釣られたのか、後ろから更に二人の自衛官も飛び出して来て、やはり銃を抜こうとした所で、最初の一人に行動を手の動きで制される。



 「おお、いい反応するじゃん。流石プロってカンジ?」


 「……クッ、アバターラが……、此処に何の用だ……っ」



 銃を抜きたい。でも、抜けない。


 相手がアバターラだから。そしてそれは、例の“動画”を見たか、内容を聞いていたからこそだ。


 私は徐にヴォイドフリックでスキンを弄り、自衛官はそれに反応して再び銃を抜きそうになって―――思い止まる。



 「―――アバターラ……、谷那香澄……っ!?」


 「あら、そっちの名前で呼ばれるの久しぶり。なんで?」


 「君のお父上とは、面識があるんだ……。この駐屯地の、出資者だからな……」


 「げっ、マジで!?」



 コレには参った。


 わざわざ実家に寄るのを避けたっていうのに、まさかって奴だった。



 「え、ひょっとして、パパ此処に居るの?」


 「あ、あぁ。避難民の……支援に、協力してくれている」


 「うぇ〜……、あの人、まだそんな事やってんの……」



 頭が痛くなった。


 あの人はイロイロ黒い事にも手を出してたけど、基本的には人間的に“良くデキた人”って奴で。


 人望も厚く、こういう場面では特に頼りになるタイプではある。


 ただ、こんな世界になってしまった直後、家を緊急の避難所にして、シークレットサービスか何かを使って現史外生物から避難して来た人らを助けてたって聞いた。


 まぁ、それが、私が両親を見限った最大の要因って奴なんだけれど。



 「どう、する? 姫」


 「どうもこうも……はぁ〜」



 溜め息を吐き、私は肩を落とした。


 選択の余地は無い。

 せめて、合わずに済めば良いなぁ〜ってくらいの期待を込めて。



 「まぁ、いいわ……。安心して、今アンタら自衛隊をどうこうしようとか思ってないから」



 言いつつ、スキンを再び私服へ。



 「ちょっと人探し中でね、此処に居るって聞いたから、寄ってみただけよ」


 「人、探し……だと?」



 訝し気に聞き返す彼に、私はその名を告げた。



 「コッペリアって名前の女の子。ここらじゃ有名なんでしょ? アバターラとも違う、“特殊能力者”って事で」


 「―――ッ!」



 途端、自衛官の目に殺気が籠った。


 なるほど、余程自衛隊にとって……というより、この人個人にとっても、大事な人間って事らしい。



 「それを見付けて、どうする気だ」


 「事と次第によっては、我々も黙って見過ごす訳には行かないッ」


 「例え、歯が立たなくとも……ッ」



 もの凄い“殺る気”満々って顔だ。


 いいね、思わず嬉しくなっちゃうくらいに。



 「姫、ヨダレ」


 「出てないわよ。まぁ、ちょっと興奮気味だけど」



 呆れ顔のシノに釘を刺されてしまった。



 「そんなに殺気立たなくても大丈夫だって言ったでしょ。話しをさせて貰いたいの、アンタらにとっても悪くない提案になると思うよ?」


 「話し……だと?」



 自衛官達は顔を見合わせる。


 が、その返答はワリ直ぐに返って来た。



 「残念だが、彼女は今此処には居ない」


 「うぇっ!? そうなのっ!?」


 「あ、あぁ……。ある事情で……中央に出向していて、あと三日は戻らない」


 「中央っていうと……防衛省?」


 「そうだ。内閣直々の通達で、拒否出来なかった……」


 「はぁ〜ん、なるほどねぇ〜……」



 どうやら、嘘ではないらしい。


 上の決定で自衛官としては逆らえず、渋々“コッペリア”を引き渡した、とかそんな所だろう。



 「ん〜、居ないんじゃ仕方ない、か」



 三日は戻らない。そう、彼は言った。


 嘘だとは思えないけど、素直に防衛省のお偉いさんが彼女を返してくれるとも思えない。


 此処にはもう用は無いか、とも思ったんだけれど。



 「―――ま、待ってくれ!」


 「ほぇ?」



 踵を返し、帰ろうかと思った矢先。私はその自衛官に呼び止められた。



 「一つ……聞かせてくれないか」


 「何よ、改まって」



 振り返ると、そこには構えを解き、銃から手を放した自衛官が複雑そうな表情を浮かべて立っていた。


 私は意図が読めず、首を傾げたんだけれど。



 「何故……なんな真似を?」


 「あんな、って?」


 「ロシア支部の件だ」


 「あぁ〜」



 で、何となく察したんだけれど。



 「あんな事をするような人間には見えない。とか?」


 「いや……、君のお父上からも、君がかなりの変わり者で、過激な性格をしているという話しは、聞かされている。だから、それを信じないという話しではなくて、だな……」



 オイ、パパん。自分の娘にどういう評価だ、それは。



 「んじゃあ、なに?」


 「―――何も、あそこまでする必要は無かったんじゃないか、と……」



 瞬間、ピキッと来た。



 「アンタさ、自分を慕ってくれた仲間が目の前で無残に殺されて、黙っていられる自信ある?」


 「いや、気持ちは判るんだ。オレだって、現史外生物に沢山の仲間を殺された。だが、それでも、アレでは……」



 なるほど、気持ちは確かに判ってるんだろう。


 けど、それでもやはり、彼は人間側に立って物を言っている。



 「それってさ、アンタが人間で、人間が殺されたから、そう言えるワケよ」


 「……?」


 「アンタの仲間を殺した現史外生物。アンタ、ソイツらをどうした? どう思った?」


 「―――っ! そう、か……。そうだな……」



 戦争ってのは、そういう物だ。


 同じ人間同士でさえ、ちょっとした違いで線引きをして、虐殺を正当化する。


 仲間が仲間を殺されれば、それは憎いだろう。


 仲間を殺した相手は、仲間ではないのだ。


 だから、正当化出来る。


 だから、許せない。


 つまり、そういう事だ。



 「私は、アールヴヘイムの第一王女よ。国民が、同胞が、無辜の民が、一方的に虐殺されたの。その報復の為に、敵対戦力へ怒りと憎しみを募らせる事は、不自然な事かな?」


 「いいや、君の言う通りだな……。詮無い事を尋ねた、すまない」



 そう言い、彼は頭を下げた。


 でも、それに私は驚かされたのだ。


 だから、そのまま立ち去る事が出来たのに、そうはしなかった。



 「―――ん〜、ちょっと歩き疲れちゃったので、姫は休憩して行きたいのですが、どうでしょう? シノさん」


 「フフ……、姫が、そう言うなら」



 私の言葉の意図を察してくれたらしく、シノは微かに微笑んで。



 「自衛官、さん。少し、休憩させて貰っても……?」


 「え、此処で、か?」


 「そういえばー、お腹も空いたなー。カズ達はまだかしらー」


 「え? は? ど、どういう……」


 「姫は、食事を、所望。今、仲間が、食料を調達、中。合流まで、休憩」


 「あ、あぁ、そういう話しか……えっ!?」



 まぁ、驚くだろうね。


 敵対する国の王女様が、ロクに護衛も付けずに仲間の合流までご休憩してくって言ってるんだから。


 しかも、お腹空いたとか我儘まで言い出す始末。



 「し、しかし、その……こう言っては何だが、君達は……敵国の人間だろう? ウチとしても、その……」


 「判ってるっての。今のは、ちょっとした冗談。ホントのトコは、私がアンタを気に入ったから、そのコッペリアって子が戻るまで、手薄になってる防備の穴を埋めてやるって言ってるのよ」


 「な、にぃっ!?」



 これには更に驚く自衛官。


 彼の頭の中では、今頃ダイコンが空で乱れ舞っている事だろう。


 それがおかしくて、私は思わず笑ってしまい。



 「別にね、私だって好き好んで人殺しやってるワケじゃないよ。認めるべきは認め、憎むべきは憎む。私が嫌いなのは、自分で選ばず、自分で考えず、自分で行動せず、自分で答えを出さず、自分の責任を他人に押し付けようとする人間よ。だから、アンタは合格。だから、少しだけ助けてあげる」


 「……。君は、いったい……」


 「ま、あんまり深く考えなさるな。食糧難だって話しも聞いてるし、信用なんてしなくてもいいから、利用できるモンくらい利用しときなさいよ」


 「―――はは……、君は、良く判らないな、本当に……」



 そう言い、困った笑みを浮かべる彼だったが。



 「あぁ、そうか……。誰かに似ていると思ったが……」



 そこから続いた言葉に、今度は私の方が驚かされた。



 「彼女―――コッペリア君に、似ているのか……」

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