第三話
第三話「????」
北海道札幌市。
ユネスコが創造都市ネットワークの一つとして世界で二番目に認定したメディアアーツ都市。
高層ビルが立ち並ぶ日本でも有数の大都市であるこの場所に、今世界で最も注目を集めている企業がある。
『アドバンスドブレインコーポレーション』
世界で初めてCCPシステムを搭載した完全型VRオンラインゲーム“Perish Yggdrasil Online”を製作したゲーム会社。
本社屋は近隣一帯でも最大の敷地面積を持ち、彼のJRタワーをも上回る超高層建築物として記録されている。
その一際巨大な夜の本社ビルを藻岩山の展望台から見下ろす目が在った。
「……チッ」
忌々し気に舌を鳴らし、パーカーのフードを深く被り直す。
彼の心中にあるのは、憎悪と憤怒。
妬み、嫉み、僻み、辛み。
そうした負の感情がドロドロに凝り、練り固められた黒塊。
今にも溢れ出して暴走を始めそうな破壊衝動を爪が食い込む程握り締めた拳に込め、ポケットの中へと押し込む。
今に見ていろ。必ず後悔させてやる、と。
「―――コッペリア、準備しろ」
夜景に背を向け、歩きながら携帯型端末を取り出し、そう告げる。
その画面の向こうに浮かび上がったのは、白磁器のような肌を持つ少女を模したビスクドール。
『何時でも、マスター』
ニヤリ、とフードの下で三日月に歪む口角。
三年、だ。
三年待った。
その間、辛酸を舐め尽し、汚泥に塗れて復讐の機会を待ち続けていた。
栄光も、権力も、信用も、平穏も、何もかもが足元から崩れ堕ちて行く恐怖を知るが良い。
「……やれ」
その命に従い、コッペリアと呼ばれたビスクドールは球体関節をカタカタと鳴らして踊る。
そして、冷笑を浮かべて慇懃にお辞儀をし、ただ一言。
『お任せを』
モニター上に浮かぶ彼女の姿はドット絵のように拡散し、残されたのは青紫のベルベット。
端末をポケットの中へと戻し、フードは夜空を仰ぎ見た。
「……ククッ、クッハハ」
思わず溢れ出た哄笑。
奴らはまだ気付いていない。
自分達が今立っているのは、他人が作り出した薄氷の上に築き上げられた物だという事を。
哂う。嗤う。呵う。
笑わずには居られない。
完璧だと思っている物ほど欠陥が見落とされ易いというのに。
これは奴らの怠慢が招いた事。
罪を贖うべきは奴らだ。
そこに在るその平穏を、今は精々謳歌しておくと良い。
直ぐにそれはやってくる。
他ならない、????の手に導かれ、それは降り立つのだ。
笑い声は星々が瞬く夜空に滲み、そのフードが闇に溶けて消え去るまで山間に谺し続けた……。
が、????もまた気付いていなかった。
此処が観光名所であり、昼夜問わず人の気配が絶えない場所だったという事を。
「―――アレなに? とりあえず写メっといた」
「マジキチ、チョーウケた」