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Master Code  作者: 覇牙 暁
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第三十七話

第三十七話「アーダル・クッツァー」




 カガラと名乗るリザードマンの戦士に連れられ、通されたのは、クッツァーヘイムの王城。


 アールヴヘイムの王城とはまた赴きの異なるこの城は、改修に改修が重ねられ、現在のような状態になったらしく。


 城内の廊下や各部屋は作られた年代や作り手の違いでデザインが随分と異なったりしている。


 それこそ、中華風の建築だったり、和風の建築だったり、洋風の建築だったり。


 最近はこういう事を敢えて考えないようにしていたんだけど、コレもやっぱり想像したであろうアバターラ達の影響なんだろうか?



 「おぅ? どないしてん、キョロキョロと」



 なんて事を考えながら城内を歩いていると、隣を行くカガラにそう尋ねられ。



 「ちょっとね、アールヴヘイムのお城とは、随分違うんだなぁ〜ってさ」


 「あー、そういう事かいな。ま、でもそやろなぁ」



 答えたカガラは、その問いに答えるよう、“コチラの史実”を語ってくれた。



 「アールヴヘイムはもう長い事玉座が空席で、代々エルフの長がその管理を任されとったっちゅー話しやけど、その間コッチは何度も王が代替わりしとってな。世襲制やったそっちの国とは違て、選挙制で王様が決まっとった都合もあって、その時々の王様の趣味でイロイロ弄くり回されとったらしいわ」


 「へぇ、なるほどねぇ……」



 言われ、私はまたキョロキョロと廊下の建築様式や窓の外の庭園に目を向けた。


 上手く話しが纏まってるっていうか、こういう混沌とした複数人のイメージを具現化して整合性を持たせているのは、やはり“alaya”なんだろう。


 こっちの人達は、その辺りの話しを適当な噂と聞き流し、元々別次元に存在した世界同士がユグドラシルの崩壊で偶然接続されてしまったのだと信じているようだけれど。



 (実際、それを否定し切れるだけの状況証拠も無いワケだし、学者みたいに頑なに否定する必要性もないし、ワリとどうだってイイんだけどね……)



 今更、という奴なんだ。


 こういう世界になってしまって、人類にとっては有益な事の方が遥かに多いのだし。


 世界の破滅なんていう未来さえ回避出来るなら、今のままの方が私にとっても都合がいい。


 ノーマルの連中がどう考えてるかなんてのは、それこそ判り切っている事だし。



 「―――着いたで、お姫さん」


 「ふぇ?」



 茫洋とそんな事を考えていた所為で、景色を見る事さえ忘れてしまっていた私は、何時の間にかそこに連れて来られていた。


 木製……ではない。


 目の前にあるその扉は、人が通るという理由だけでこうはならない、というくらいに大きく。


 金や銀、それに恐らくはミスリルなどを多用した、重厚な金属製の扉で、装飾も兎角派手な物だった。



 「これは、カガラ様。陛下に何か御用で?」


 「ちとヤボ用でな。このお嬢ちゃんを内緒で連れて来るよう頼まれとったんやわ」



 扉の両端に立つ番兵とも面識があるらしく、カガラがそう答えると、彼はまるで疑う様子もなく。



 「そうでしたか。では、陛下は今、奥の間にてご休息を摂られておりますので、どうぞそちらへ」


 「おう、すまんな。おおきに」



 番兵の二人は、言うなり背後の大きな扉に体重をかけ、グッと押し込んで開放。私とカガラの二人が通り抜けた所で一礼し、今度はその扉を静かに閉じた。


 で、入ったその場所は、所謂謁見の間。


 赤い絨毯が一面に敷かれ、その脇を等間隔で列柱が並ぶ。


 その更に向こうには上段があり、玉座が置かれていた。―――の、だけど。



 「奥の間で休憩……って、そういう事、か」


 「せや、あっこの裏手にちっさいドアがあるやろ? あっこや」



 高い位置にある大きな窓から差し込む光。


 その中を、私はカガラと二人で真っ直ぐに進み。



 「ご苦労様です、カガラ殿」


 「おおきに、そっちもな」



 恐らくは国王側近の守衛達でさえ、カガラに対しては笑顔でフレンドリーに挨拶している。


 どうやらこの男、本当に相当な大物らしい。


 いや、だって、この扉一枚隔てた向こうに、この国の王様が居るっていうのに。



 「おーう! オッサーン、例の嬢ちゃん連れて来たでー」


 「ファッ!? ちょ、アンタ今、マジでオッサンって呼びやがった!?」



 これ、打ち首にされても普通文句言えないっての!


 つかこれ、私入って大丈夫なの!?


 いきなりマジギレされたりとかしない!? なんて、思ったりした頃が私にもありました。



 『おー、カガラか! 入れ入れー』



 ダークエルフの王様ノリ軽っ!


 で、ノックもせずにバッタン。と扉は開かれ。



 「よっ!」


 「おう!」



 なんだこのノリ……。


 仮にも一国の王様ともあろう者が、一介のリザードマン相手にニッコリ笑顔でシュタ! と手を上げ挨拶。


 勿論、カガラも全く同じノリ。オマエら友達感覚か!



 「―――で、そっちのが、例のじゃじゃ馬姫か」



 が、椅子にドッカと腰を落とし、私を見るその男の目には、まるで私の中の深層意識まで覗き込んでいるかのような鋭さがあり、油断など微塵も出来る気配ではなかった。


 オールバックの白髪に、これまた立派な白髭。


 肌は浅黒く、やはりダークエルフらしいが、隙の無い不敵な笑みはまるで剃刀のようだ。


 人年齢的には50〜60才前後くらいか。

 何処となく若々しく、タレ目気味で迫力は無いように見えるのに、醸し出される王としての威厳が十分に感じられる。


 私は居住まいを正し、ヴォイドフリックでスキンチェンジ。


 最近では礼装としても使うようになった、人型バーゲストの姿に着替えた。


 そして、スカート部分を摘まみ上げ、淑女の一礼。所謂、カーテシーという奴だ。



 「―――お初にお目に掛かります、アーダル陛下。アールヴヘイム第一王女、カスミ・バーゲストと申します。以後お見知り置きを……」


 「ん、苦しゅうない、面を上げよ」



 と、顔を上げた私を見る彼の表情は、なんというか……妙に嫌らしく。



 「いやぁー噂なんぞ本当にアテにならん。なぁ、そうは思わんか? カガラ」


 「せやろー! ホンマべっぴんさんで驚いたわ」



 あぁ……、なんかこう……、イヤな予感……。



 「なぁなぁ、姫よ。オマエさん、嫁に来る気はないか?」


 「え゛っ!? あ、あぁ……え、っと……っっ」


 「いやなに、直ぐに返事をせんでも良いぞ? けどほら、同盟の件もあるだろ。政略結婚ってのもあってだな?」


 「あ……ぅ……」



 やっばい、コレは想定外だった!


 下手に断ると和平協定が白紙に戻される可能性もあり得る!?



 「オッサン、若い子からかうんも大概にしときいや。困っとるやろー」


 「いやしかしだな! こんな美人さん、口説くなって方が失礼ってもんだろう?」


 「オッサンが言うと洒落にならんっちゅーてんねん。またぞろ奥方に大目玉喰らうでホンマ」


 「うぐ……っ」



 ―――た、たすか、った……?



 「ぬぅーん……だな。また簀巻きにされて木に吊るされても叶わん……」



 アンタ一体普段どんな生活送ってるんだ。(汗)


 簀巻きで木に吊るされるとか、相当だぞ……。


 っていうか、恐妻家なんだろうか?



 「あ、でも、気が変わったら何時でも家に来てくれて構わんぞ? 不自由はさせんから、な?」


 「は、はぁ……」



 これ、私は外交に首突っ込まない方がイイかも……。


 もし同じような事があった時、今回みたいに助けてくれる人が居るとは限らないし。


 ワリと洒落にならない。



 「それで、あの……」


 「おーおーそうだった、“ノーマル”だったか? 外の人間共の話しだったな!」


 「はい」



 どうやら、ようやく仕事の話しが出来そうだ。


 給仕の女性が用意してくれた椅子に座り、対面でテーブルを挟む。


 で、その脇で壁に背を凭れ、カガラが話しを聞く態勢を取っていた。



 「ご案内頂いた事には感謝しておりますし、些か失礼かとは存じますが……」



 私の目がカガラに向けられていた事に気付いたらしく、アーダル王は。



 「あぁ、カガラの事なら気にせんでいい。信用できる男だからな」


 「は、はぁ……」



 此処来る途中、早々に適当な嘘で誤魔化されかけたんですけどね、私……。


 まぁ、とりあえずそれは置いておくとして。


 問題無いなら話しをしよう、そう思ったのだが。



 「あ、あとアレ、堅苦しい言葉遣いとか、無理してせんでもいいぞ? そんな喋り方してたら疲れるだろ」


 「あー……じゃ、お言葉に甘えて……」



 私は少し、意識して肩の力を抜いた。


 まぁ、雰囲気そういう感じの人だし、油断は出来ないけど。



 「―――コホン。じゃ、話しをさせて貰うけど、アーダルさんって何処までコッチの事情とか理解してる?」


 「お、いきなりぶっちゃけて来たな。……そうだなぁ」



 アーダルさんは顎髭を摩り、何を語り、何を語らざるべきかを吟味しているようだった。


 そして。



 「強硬派蛮族の件は、コッチにも旨味のある話しだ。だから了承はしたんだけどな。問題は、やっぱり“外の人間”だろうなぁ」


 「コッチでもある程度は警戒してる、って認識しても?」


 「ああ、問題ない。ただ、どうにも理解出来ん事なんだが……同じ“人間同士”で何をこじらせてんだ? オレぁそこんトコが良く判ってない」


 「あぁ……、それは……」



 同じ人間だった者として、何とも耳の痛い話しだった。


 エルフやダークエルフ、それにドワーフ達の間で、同種族間に於ける抗争があったなんて話しは聞いた事がない。


 彼が言いたいのは、つまりそういう事で。



 「恥ずかしい話しなんだけど……、外の人間“ノーマル”の連中は、私達が持つ技術力やコッチの世界の地下資源を狙ってるの。向こうの社会は、お金と軍事力が物を言う世界だからね……」


 「技術力は兎も角……、地下資源? そんなもの、この辺りじゃ掘り返しゃ何処にだって埋まってるだろうに」



 と、不思議そうに聞き返す王様に、私は首を横へ振る。



 「人口がね、コッチとは比較にならないのよ。コッチの世界じゃダークエルフやエルフ、ドワーフに蛮族達を含めたって、30億にも満たないけど、向こうは全世界の総人口が最盛期で120億を超えてた」


 「ひゃ、120億!?」


 「前史外生物……所謂、モンスターとか魔物とか、神獣なんて呼ばれる物の事だけど、それが現れて以降、対抗出来なかった連中は急速に数を減らしてはいるみたいなんだけどね。それでも、最近の調査では、まだ90億は生き残ってるって話し」


 「90憶……。そんな連中が、隙を伺っているというのか……」



 流石に、その圧倒的な数字を聞いて、思う所が出てきたらしく。


 アーダルさんは口をへの字に曲げ、また顎髭を扱きだしてる。



 「そないな数で押し寄せて来られたら、強硬派蛮族軍の比やないなぁ」


 「まぁ、ね。ただ、現状では“枝”を介してでしか行き来が出来ないし、一度に転送可能な人数や物資も限られるから、そこさえ抑えておけば、向こうの戦力の流入は防ぐ事が出来るんだけどさ」


 「問題は、その“枝”がコチラで抑えている“枝”だけではない、といった所か」



 私は、その王様の答えに深く頷いた。



 「あっち側の世界には、“枝”の制御が可能なアバターラが3万人近く残ってる。コッチと違って国の数も多いから、何処に所属してるかまでは判らないけど、今やその大部分は各国の軍事組織が抑えてしまってると考えて間違いないわ」


 「神兵……アバターラ、か。君らみたいなのが、敵にも居るってワケか……」


 「戦力としてどれ程使える状態になっているかは定かじゃないけど、まぁ楽が出来る相手じゃない事は確かよ」


 「ふぅむ……」



 此処までの話しは、彼には通しておくべき話し。


 常識の範囲内で受け止めて貰わなければならない部分だ。


 これが人間なら、その原因を作った私達を憎んだって何も珍しい事じゃないんだけど、エルフ達は違う。そして、彼らダークエルフも。



 「降り掛かる火の粉は、払わねばならん。か……」


 「悪い、わね……。私達の事情に、無理矢理付き合わせちゃって……」


 「いやいや、勘違いしちゃイカン。確かに原因は君らかも知れんがね、侵略を受けているのは飽くまでも我々の世界だ。君らはその防衛に協力すると申し出てくれているんだから、謝るような事じゃあない」



 そう言い、アーダルさんは快活に笑う。


 こうやって、この人達は自分達の置かれた状況を真っ直ぐに受け止める事が出来るんだ。


 だから、私も私の責任を果たしたいと思えるようになった。



 「―――フム、大体の事情は把握出来た。しかし、君がわざわざ一人で此処まで出向いて来た意図が掴み切れんな。そこは、話せるのかな?」



 流石に、良く判ってる。


 お互いにまだ手の内を見せられない部分があるのを承知で、聞いてくれているのだ。


 だから此処は、私が更に一歩を踏み込むべき所だろう。



 「コレは、飽くまでも私の予測。確信が無いし、仮に証拠を掴んでいたとしても、軍を動かすワケには行かない理由があったんだけど……」



 私は、私がなぜ、一人お忍びでこの国まで来たのか、その理由を明確に明かす事にした。


 外のノーマルが、調印式のタイミングで双方の指導者を狙ってくる可能性があるという事。


 しかし、アバターラ側の王はダイキであり、凄腕のアバターラであるが故、連中にとっては対処が難しい相手だという事。


 そうなると、一番危険に晒されるのは、スヴァルトアールヴヘイム側の指導者。つまり、アーダル王だという事。


 そして、何より。



 「投入が予測されるノーマル側の手の人間は、恐らく……かなり強力な力を持った、アバターラよ」


 「先日、君がやりあったという例の“フード”かね?」


 「そこまで解ってるなら、話しが早い。ソイツの名前は、“デューイ・アドコック”。アバター名はリターナー。アナタ達ダークエルフと良く似た肌の色をした、米軍所属のアバターラよ」


 「強硬派蛮族の間では“黒炎の戦姫”と恐れられる君が、苦戦を強いられた相手……か」



 厳密に言えば―――私は、一度ソイツに負けた。


 思い出すだけでも、腸が煮えくり返る思いだ。



 「なるほど、その顔を見て得心した」


 「え……?」



 苦笑を浮かべるアーダル王に続き、カガラも。



 「今のはアレやな、お姫様のする顔ちゃうわ。いやー、やっぱり恐いのぅ、戦姫殿は! がっはっはっ!」


 「う〜む。コレはアレだな。先の話し、少し考え直してみる必要がありそうだ……」


 「さっきって……なんの?」


 「嫁に来い、って話しよ。コレ以上おっかない嫁さんが増えたら叶わん!」


 「んなっ」



 今のってこれ……ひょっとしてなくても、からかわれてたって事……!?



 「こ、子供だと思ってぇ〜〜〜〜〜!」


 「がっはは! スマンスマン!」


 「なに、可愛げがあって良いではないか。さっきの顔は、少々頂けんが、な?」



 と、笑う二人の顔には、棘なんてまるでなくて。



 「お前さんみたいな年若い子に、あんな顔までさせて、すまんな」


 「こないなオッサン二人やけどな、それなりに歳は食っとるんや。多少はアテにしてくれてええんやで」


 「な、なによ……っ、また、子ども扱いして……」



 なんか、頭撫でられてるし……。


 あー、ヤバイ……。

 あったかいな、この人たち……。


 また、面倒な物が、増えたかも知れない……。



 「と、兎に角! そういう事だから!」


 「おぅ、事情は概ね察した。―――すまんが、頼む」


 「協力は惜しまんさかい、何でも言うたってや」


 「うん、……ありがと!」



 一人での戦い。そのつもりで此処に来たんだけど。


 どうやら、アテに出来そうな戦力が前より増えたらしい。



 (デューイ・アドコック……。今度は、お前の好きにはさせない……ッ)

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