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Master Code  作者: 覇牙 暁
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第三十五話

第三十五話「諜報活動」




 ノースウェッグ要塞奪還から数日。


 ツバサは王都には戻らず、ノースウェッグ城に残り、Mk-IIを主軸に防備を固めつつ情報収集を行っているらしい。


 それによると、ヴェッシュモント山脈の涸れ谷から更に北、蛮族軍はエルフの勢力圏外にある急造の砦に陣を敷き、兵力を集結させているって話しだった。


 ノースウェッグの奪還成功で、地の利はコッチにあるんだけど、幾らMk-IIでも10万を超える蛮族の軍団が雪崩れ込めば一溜りも無い。


 毎分3.900発というハイサイクルの超連射がそう長く持つ筈も無いワケで。

 瞬間火力はあっても弾薬が底を尽けば、戦車など単なる鉄の塊に成り下がるのだから。


 とはいえ、折角取り返した戦略上の要衝をみすみす手放すのは惜しい。


 ツバサは、最悪の場合を想定して涸れ谷の崖をGAU-8や魔術、爆薬を用いて崩してしまう手段も考慮しているようだけど、それでは後々処理が面倒になる。


 それに、折角無傷で城塞を奪還したのに、崖を崩してしまっては要衝としての価値が半減してしまうだろう。


 出来ればその手は使いたくない、と彼自身も言っていたけれど……。



 「そうなると、やっぱり兵力が足りないのよねぇ……」



 アバターラの兵力は僅か1万。その内、戦場で使えるのは精々7千程度。


 残り3千は王都や各地の防衛に当てなければならない。


 加えて、エルフの兵力は8万程。

 数の上ではそう大差が無いように見えるが、蛮族とエルフとでは個々の能力に大きな隔たりがあるのだ。


 このまま戦えば、苦戦は必至。


 私は自身の執務室で机を前に頭を悩ませていた。



 「―――姫様〜、入りますですよ〜?」



 聞こえて来た小さなノックの音に顔を上げると、ドアを開けて入室して来たのはミミだった。



 「お飲み物をお持ちしたですよぉ〜」


 「あぁ、ありがと。そこ、置いといて」



 ミミは自ら持ち込んだサービスワゴンから氷の入ったガラスコップを手に取り、そこへ良く冷えた果物のジュースを注ぎ、机の上まで運んで来た。



 「ほぇ、何してるです? 姫様」


 「あはは……、気にしないで。飲み物置くのに、書類が邪魔かな〜って……」


 「です?」



 首を傾げるミミ。

 が、実際には、ミミがまたドジをして大事な書類がジュース塗れにならないよう避けただけなのだが、それを直接口にするには何だか可哀想で。


 結果を言えば、今日は珍しく机の上に無事コップが置かれ、何も被害に合う事はなかったワケだけど。



 「姫様姫様、この後イライザが用事で来るって聞いたですけど」


 「うん、そそ。こないだ遠征から戻って来た時にね、ちょっと頼み事してたのよ。その報告」


 「そですか。イライザ、午後から空いてるですかねぇ……」


 「ん、どっか出掛けるの?」


 「はいです! お買い物に付き合って欲しいのですよ!」


 「なーる。まぁ、大丈夫だと思うよ? 報告が済んだら、後は急ぎの仕事も無かった筈だから」


 「やったです〜♪」



 嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねるミミの姿を見て、何だか頬が緩んでしまう。


 それにしても、買い物か……。何て思い出そうとしてみて。



 「そう言えば、“この仕様”になってから、買い物とか全然してないな……」



 厳密に言うと、この仕様になる前からずっと、なんだけども。


 年頃の女の子としちゃ異端なんだろうけど、事実私は、今までロクに買い物なんてした記憶が無い。


 服なんてジャージがあれば十分だったし、親の都合で出かける時なんかは、勝手に服が用意されてたしね。


 今更ながらに思うのは、自分が如何に出不精だったのか、という事実だ。



 「ネット通販とか、コッチには無いしなぁ……」



 こんな事になってしまって、ゲームしてる暇もあるワケがなく。


 と言っても、リアルがゲームみたいな現状、これ以上を求める事もない。



 「―――あれ、買い物する理由無くね……?」



 なんて、気付いたら真理に辿り着いてしまっていた。



 「姫様はお買い物のご用事とか、無いのです?」


 「うん……困った事に、買い物する理由が見当たらないわ……」


 「です……?」



 首を傾げるミミ。

 何だか虚しい気持ちになり、それが顔に出てしまって、ミミには理解が及ばなかったってトコだろう。


 そうこうしている内、再びドアからノックの音が響き。



 「はいはーい、空いてるよー」


 「失礼致します、姫様」



 ドアを開け、入室して閉めた後、深く丁寧なお辞儀して顔を上げたのは、ミミお待ち兼ねのイライザだった。



 「ミミ、ちょっと悪いんだけど、席を外して貰える?」


 「はいです! お仕事のお話しですね。それじゃ、終わったら呼んで下さいです~♪」


 「ん、少し待っててね」


 「……また、後で」



 退室するミミに柔らかな笑顔を浮かべ、小さく手を振るイライザ。


 仲が良いって話しは、どうやら一方通行ってワケでもないみたいだった。



 「仕事が終わったら、ミミが買い物に付き合って欲しいってさ」


 「お買い物……で、ございますか」


 「うん、この後暇なら、付き合ってあげて」


 「そうですね……。承りました」



 まぁ、私がわざわざ頼まなくても、この調子なら喜んで一緒に出掛けてくれそうだけど。


 ―――さて、と。雑談もそこそこに、私は居住まいを正し。



 「それじゃ、聞かせて貰える?」


 「……ハ。ご依頼にあった行方不明者の件ですが、調査の結果、該当する人物は8名。内2名は、最初期の移民希望者名簿に名前が残っている以外、その後の情報が一切確認出来ませんでした」


 「―――チッ、まぁそう簡単には見付からない、か……。でも、名前は解ったのよね?」


 「はい。コチラに名前や出身地、年齢、性別等の詳細情報を纏めておきましたので、一度ご確認下さい」



 差し出されたのは、石英質のタブレット。


 エルフが使う携帯用情報端末で、半透明の綺麗な石板で出来てる。

 表面には細かなルーン文字の彫刻が施されていて、それがキーボードのような役割を持ってるワケ。


 操作は慣れてしまえばコレといって難しい物ではなくて、映像や音声のホログラフィック再生も可能な便利アイテム。


 UI上では、ルーン文字が翻訳されて表示されているから、誰にでも扱える。


 で、私はそのタブレットを手に指先でルーン文字を操作し、目的のファイルから画像を二枚、重ねて表示させた。



 「デューイ・アドコック、アバター名はリターナー。で、もう一人が、アレックス・ターラント、アバター名はヴァーレス……。どっちもアメリカ人。内一人は……ネグロイド」



 その顔写真を見ているだけで、噛み締めた奥歯がギリギリと音を発てた。


 コイツだ……。と、私は直感する。


 リムニルグで目撃された、黒い肌の“フード”。


 顔中にピアスの穴を空けた、マリファナでもやってそうな如何にもって感じのヤバ気な奴。


 名前は、デューイ・アドコック。

 勿論、アバターラだ。


 クラスは“魔術師”って事になってるけど……偽装だろう。



 「コイツが……、リムニルグの兵士達を……ッ」



 憎い……。エルフを殺した事もそうだが、何よりアバターラでありながら、ノーマルに加担して犯行を行っているという事が。


 例の力を使えば、あのキマイラも敵じゃない。

 でも、今のままじゃまだ使えない。


 制御し切れない力は、他人の命もBETしてる戦場じゃ足枷にも成り兼ねないからだ。


 何としてでも、使いこなさないと……。



 「―――解った、報告ありがと。引き続き、行方不明者に関しての情報を集めておいて貰える? この二人に関しては、特に慎重に」


 「ハ、仰せのままに。……では、わたくしはコレで」



 と、深くお辞儀する彼女に、私は。



 「あぁ〜待った! も一つだけイイ?」


 「……はい、なにか?」



 前屈みの態勢で固まり、不思議そうな顔を上げるイライザ。



 「スヴァルトアールヴヘイムに関する詳細な情報が欲しいの。可能な限り、早急に。……何とかならない?」


 「それでしたら、下の者を使って既に。現在のアールヴヘイムの状況を考えるに、必要になるかと愚考致しました故」


 「ホンット有能よね、アンタ……。ありがと、助かるわ」


 「お褒めに与り、光栄の至り」



 ニッコリと笑みを浮かべ、今度こそ最後までお辞儀するイライザ。


 しかし、彼女は本当に優秀だ。

 従軍給仕なんて仕事を生業にしているだけあって、痒い所にまで実に良く手が届く。


 ただ、コレがもしノーマルの連中なら、彼女はきっと長生きは出来なかっただろう。


 有能過ぎる手駒は持ち得る情報も多く、アキレス腱になり兼ねないから。


 出る杭は打たれる何て言うけど、そんな生温い世界じゃない。

 出る杭は引っこ抜かれてしまうのが、ノーマルの世界なのだ。


 やはり、彼女は私の手元に置いておくべきだ。

 彼女自身を“守る”為にも。



 「んじゃ―――はい、これ」


 「……はい?」



 私は徐に懐から財布を取り出し、中から数枚のアールヴヘイム紙幣を取り出す。


 で、それをイライザの手に直接握らせた。



 「これは……いったい?」



 そのお金の意味が解らないようで、彼女は首を傾げたんだけど、私は敢えてその問いに答えは返さず。



 「ミミー! お話し終わったから、入ってきなさーい」


 「はいですよーっ!」



 バタン! と勢い良く開かれたドアから飛び込んで来るミミ。


 恐らく、ずっとドアの傍で待機していたんだろう。


 だから、そんなイイ子にも。



 「はい、コレミミにも」


 「はいです??」



 同じ額の紙幣を手渡す。


 で、イライザとミミはワケが解らないって様子で顔を見合わせてたんだけど。



 「お小遣い。二人には、いろいろ余計なお仕事までさせてるからね。せめてお買い物くらいは楽しんで来て」


 「な、なんと……っ」


 「こ、これ貰ってイイのですっ!?」


 「ん、豪遊してらっしゃいな」



 喜んでいる、というよりは驚愕している二人に、私はそう告げたのだが。



 「ひ、姫様、その……お言葉ですが……」


 「ん、どしたの、イライザ。嬉しくない??」


 「い、いえ、その……些か、お小遣いとして頂くには、金額が……」


 「え、足りなかった!?」


 「いえいえ! 滅相もございませんっ。むしろ、その逆で、かなり多過ぎる、かと……」


 「あれ、そなの……?」



 私って昔から金銭感覚に疎いトコがあるんだけど、100万クローネ―――日本円で10万円くらいって、お小遣いとしちゃ高い方なの?


 10万ぽっちじゃちょっとマトモな服とかカバンなんて買ったらぶっ飛ぶイメージなんだけど……。



 「姫様、解り易く表現致しますと……」


 「これ、お家買えちゃうよ?」


 「なんですと!?」



 アールヴヘイムって、10万円くらいで一般家屋が建つのか。


 なんて、リーズナブルな……。



 「王族であらせられる姫様にとっては小さな金額と思われるかも知れませんが、褒賞として気軽にお与えになるには、些か多過ぎるかと存じます。正直に申し上げまして、これでは逆に委縮してしまいますので……」


 「姫様って、そういうトコあるのですよ。向こうの世界でも貴族のお嬢様だったって聞いたですし、ちょっと金銭感覚がズレてる気がするのです」


 「貴族……では、ないんだけど、まぁ、そうね……。ちょっと気を付けるわ……」



 う〜ん、これは予想外だったわ……。


 二人から180万クローネを返され、何とも微妙な空気に。



 「あの……姫様、お気持ちはとても嬉しく思っております。ですから、そう気を落とさないで下さいませ……」


 「うんうん、10万クローネだってスゴイ大金なのです! ミミ、すっごく嬉しいのですよ!」


 「あはは……、うん。ごめんねぇ……」



 聞く所によると、どうも10万クローネでも丸一日遊び歩いて使い切れない程の金額なんだとか。


 こりゃ、流石に私も考えないとだわ……。



 「お心遣い、感謝致します。―――それでは」


 「お土産買ってくるですよ、楽しみに待ってるですー!」


 「ん、待ってる。気を付けていってら〜」



 とまぁ、イロイロあって、仲良く手を繋いで出て行く二人を見送り。



 (う〜ん……。私もたまには買い物とかしに行った方がいいのかね、こりゃ……)



 多少金銭感覚を養わないと、何かの時に大きなミスをしでかしそうで恐い。


 そんな事を思いつつ、再び椅子へと腰を落ち着かせて、手元の書類に目を落とした。


 この執務室は、私が個人的に用意して貰った部屋で、狭くも無く、広くも無く、あまり歩かなくても直ぐ傍にファイルや書類が収納されている書棚もあり、飾り気こそないけど仕事をするには打って付けの場所だった。


 何より、冷蔵庫完備! コレ重要。


 たまにさっきみたいにミミがお茶汲みに来てくれるから、補充もバッチリ。


 最近は厨房の料理長さんにお願いして、ポテチも用意して貰ってるし、自前でおやつトングまで作ったった。


 コレでネット環境さえ整っていれば、ヒキニートも大満足の仕事部屋なんだけれど。



 「―――ま、今更ネットも無いか」



 あっても遊んでる時間なんてこれっぽっちも無いしね。


 で、そうこう呟きながら、読み進めていた書類なんだけれど。



 「不可侵条約……か」



 何でも、アールヴヘイムとスヴァルトアールヴヘイムとの間には不可侵条約が結ばれているらしい。


 しかも、驚く事に、スヴァルトアールヴヘイムとアールヴヘイムは陸続きで行き来が可能なのだとか。


 向こうも嘗ては王制国家を築いていて、国土はコチラとほぼ同等。

 ただ、コッチと違うのは、その国民がダークエルフだけではないという事だった。



 「ダークエルフにドワーフ、それに穏健派蛮族……」



 どうも、蛮族って種族も一枚岩ではないらしい。


 ダークエルフやドワーフと共生している連中も居るらしいのだ。


 そして、此処が重要。


 不可侵条約を締結したその理由なんだけど。



 「まさか、スヴァルトアールヴヘイムから持ち掛けられた話しだったとはねぇ……」



 私はてっきり、エルフ側が持ち込んだとばかり思っていたのだ。


 というのも、エルフ達は私達アバターラやノーマルの民の移住を何の疑いも無く快諾してくれたから。


 でも、残されている史実によると、強硬な姿勢でダークエルフやドワーフ達と敵対していたのはエルフの方だったらしい。


 ―――この辺り、イロイロと複雑だから少し整理しておこう。


 ムスペルヘイムもそうだったが、このアールヴヘイムも地球とは異なる次元に存在する惑星の一つに在る。


 北欧神話では、9つの世界がユグドラシルによって繋がれ、それらは異なる“宇宙”に存在していたと解釈されているんだけど、今ある世界とはかなり構造が異なる。


 現実には、それぞれの世界が惑星として別々の宇宙に存在していて、それらを繋いでいるのが“ユグドラシルの枝”と呼ばれる世界樹の破片だ。


 この“枝”って奴はある程度解析が進んでいて、それぞれが全長5〜8メートル程の大きさを持つUEP構造体で出来ている。


 これらが大容量の相互情報転送を可能とし、アバターラが触れると次元間跳躍を行えるようになるワケ。


 ただ、この“枝”で繋がれたそれぞれの世界は、まだまだ謎が多い。


 北欧神話では9つに分かれていた世界の一つであるアールヴヘイムとスヴァルトアールヴヘイム。それが、どういう訳か現実では陸続きで一つの惑星上に存在してる。


 それと、他にもニヴルヘイムとヘルヘイムが一つの惑星に存在している事が確認されているし、ミズガルズと私達が住んでいた元の世界が別々の惑星に存在している事も判っている。


 しかも、この世界の構図はまた何時変化を起こすか解らないという時限式の情報だ。


 だいたい、どうしてスヴァルトアールヴヘイムという名の国があるのに、住んでいるのがスヴァルトアールヴじゃなく、ダークエルフなのか。


 それに、スヴァルトアールヴとドヴェルクは同一の物である筈なのに、ダークエルフとドワーフはそれぞれ異なる種族としてスヴァルトアールヴヘイムに住んでいる。


 ハッキリ言って、カオス極まりない世界だ。


 まぁ、それを私がとやかく言った所で何かが変わるでもなく。


 今はとりあえず、アールヴヘイムでの暮らしを安定させる事が最重要。


 次に求めるのは、分散して別次元に接続している“枝”を収集する事。


 コレがまた厄介で、新たに発見された惑星で見付かる事もあるから、全部で幾つあるのかさえ定かじゃない。



 「でも、コレを全て回収しない事には……」



 何れ、この世界は滅ぶ事になる。


 勿論、現史世界もひっくるめて。


 まぁ、研究者達の見解や、私自身の考えでは、アールヴヘイムやスヴァルトアールヴヘイムを含むこの惑星は、その滅びに巻き込まれる心配がほぼ皆無なんだけど。


 なんせ、此処にはユグドラシルの本体があるのだから。


 現在世界中に散っている“枝”は、飽くまでもその切れッ端って事。


 で、その切れッ端が徐々に時空間上座標で徐々に距離を離していて、それぞれの距離が離れ過ぎ、拡散し切ってしまうと世界は崩壊する。


 そんな中、一番痛い目を見るのは、現史世界。


 なんせ、存在そのものが塗り潰されて消えて無くなってしまうらしいから。



 「やれやれ、って感じよねぇ〜……」



 私は、ノーマルがどうなろうと知ったこっちゃないんだけど。


 でも、あの世界が無くなってしまうって事は、そこに生息している人間以外の生物も全て消滅してしまうって事で。


 出来る事なら、それは回避したい。


 だってこの世界を襲った異変は、私達人間が引き起こしてしまった物で、その他の動物達には何の責任も無いのだから。



 「動物保護団体でも、此処までしないわよ……ったく」



 動物達の命を守る為に、私はあの世界を救いたいって思ってる。

 それに、技術や知識に罪は無いから、数万年をかけて築き上げて来たそれらまで無駄にはしたくない。


 これは、アールヴヘイムに住む私達アバターラや、エルフ達の総意でもある。


 だから、兎にも角にも、だ。



 「先ずは、この星を統一しないとね……」



 後顧に憂いを残したままでは、何時背後を突かれるか分かったもんじゃない。


 そうならない為には……。



 「スヴァルトアールヴヘイムとの和平協定と共生政策。で、然る後、強硬派蛮族の封じ込め……」



 そして、もし“連中”がその邪魔をするようなら……。



 「―――次は、容赦しない」



 私が睨み付けたのは、先ほどイライザに手渡されたエルフのタブレット。


 国籍やクラスは偽装している可能性もあるけど、この世界に於いて唯一絶対に嘘を吐かない物がある。


 それが、UI上に表示される個人名とアバター名、そして、顔写真だ。


 コレだけは、アカウント作成時に必ず正規の情報を入力しなければ審査が通らなかった。


 しかも当時は、たかがゲームのアカウントを作成する為に入力された情報だ。登録者がその時に偽装までしてアカウントを作るとは考え難い。


 よって、この情報だけは信じられる。



 「デューイ・アドコック……。この名前と顔だけは、何があったって忘れてやるもんか……ッ」



 アバターラは死なない? だから何をされても安全?


 そうタカを括っているなら好都合。


 不死のエインヘリャルが無敵だなんてのは甘過ぎる幻想だと教えてやる。


 だが、やはりその為には、あの力―――“オーバーリミット”を完全な形で制御してみせなければならない。



 「もう一度、アイツらが動き出す、その前に……」



 私は、自分の掌を見詰め、ゆっくりと握り込み、その手の力同様に強く、決意を新たにした。

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