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Master Code  作者: 覇牙 暁
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第三十三話

第三十三話「天に舞う龍翼」




 その日、アールヴヘイム王都から総勢二千のアバターラ軍が出陣した。


 隊の先頭を行くのは、五機のアヴェンジャーMk-II。


 キリキリと音を発て、地鳴りを響かせながら進むその様は、見る物全てを威圧する圧倒的質量を持ち。


 この軍勢の指揮を執るのは、アールヴヘイム王族の一人、これまで目立った働きをした事のない―――ツバサだった。


 Mk-IIを含む行軍速度は遅く、兵達ものんびりとした様子で長壁の北門を抜け、街道へ入る。


 この街道の左右に何処までも広がっているのが、レインレイク大森林。


 王都を囲うように広がるこの森は、異常に湿度が高い事で知られ、同時に毒草や毒虫、猛毒を持つ生物と毒性の強いフィトンチッドを放出する樹木が群生している事で王都を守護する天然の要害と化している。


 これが蛮族の侵攻を妨げており、王都への直接攻撃を困難にしているのだ。


 しかし、それは当然アバターラやエルフにとっても危険な場所であり、王都を出るにはその街道を真っ直ぐに抜ける以外術がない。


 もし、仮に蛮族とかち合う事になった場合、正面対決は避けられず、前方にMk-IIを配置している現在の隊列では状況が不利になり兼ねない。


 だが、指揮を執るツバサは、敢えてこの隊列の組み方を指示していた。



 「言われた通り、最前列に五機全部纏めてあるんッスけど、マジで大丈夫なんッスか? ツバサさん」



 中列で軍馬に跨るツバサに、並行して歩くヒデアキが問う。


 モヒカン頭やその喋り方の所為で何かと印象が良くない彼だが、彼は決して無能ではない。


 それを証明するように、ヒデアキは前面にMk-IIを配置する事のデメリットをキチンと把握していた。


 しかし、問われたツバサは。



 「大、丈夫……。蛮族は……襲って、来ない、から」


 「そうなんッスか?」


 「う、ん……」



 事実、王都を出て半日近く。


 彼等はただの一度も蛮族と交戦していない。


 ツバサには、判って居たのだ。

 蛮族が、堂々と街道を進むアバターラの軍勢を何故襲わないのかを。



 「事前に、ね……、エルフの人達に、協力、して貰って……流言を、流してある、んだ……」


 「りゅうげん……? ッスか?」



 流言とは、根拠の無い噂やデマを指す言葉だ。


 ツバサは、王都を出る直前にアバターラの隠密部隊をノースウェッグ要塞へと差し向け、そこに捕らえられ、奴隷のように扱われているエルフ達に言伝を頼んでいた。


 “アールヴヘイムが巨大な鉄の馬を完成させたらしい”と。


 多くの情報を含まないこの流言に、事実蛮族は半信半疑のまま警戒をせざるを得なくなっているのだ。


 蛮族と言えど、指揮を執る者は相応に高い知性を有している。

 その為、この情報を無視出来ずに偵察の数を増やしていた訳だ。


 結果、その偵察部隊がゆっくりと行軍するアールヴヘイムのアバターラ軍を発見。

 先頭には、噂通りの“巨大な鉄の馬”―――即ち、Mk-IIが配備されていた。


 これを知った蛮族の指揮官は、当然無暗に手が出せないでいる。


 そもそも、このアールヴヘイムの歴史には、“戦車”という概念が存在しない所為だ。


 トロールの巨体を遥かに上回る巨体。

 分厚く重い鉄の装甲。


 そんな物が地鳴りを上げて走る姿を見れば、戦車を知らなかった時代の人間なら悲鳴を上げて逃げ出していた事だろう。


 そしてそれは、蛮族にとっても同じ事が言える。


 Mk-IIが有する戦力を測り兼ねているのだ。


 しかも、この流言が持つ力は、これだけに留まらない。



 「―――報告します!」



 後方の部隊から馬を走らせて来た伝令が、ツバサに告げる。



 「各地で散発的な攻撃を行っていた蛮族の軍勢が次々と引き上げている、との情報が」


 「うん……、そうだろう、ね……。ありがとう、下がって……いい、よ」


 「はいっ!」



 あれ程苛烈に攻撃を続けていた蛮族の部隊が、突然次々と後退している。


 それを、まるで予期していたかのように答えたツバサに、ヒデアキは。



 「こりゃあ……、どういう事ッスか?」



 理解が及ばず、首を傾げて尋ねるヒデアキに、ツバサは淡々と答えた。



 「簡単、な事……だよ。得体の知れない、戦力は、恐い……。それが……自分達の、居城に向かって、迫って、いたら……?」


 「―――防衛の為に、各地に散った戦力を呼び戻し、本拠地の防衛力を整える……。なるほど、そういう事ッスか!」


 「優秀な指揮官なら……無暗に、攻撃は、仕掛けて……来ない。仮に、攻撃を仕掛けて来た、としても……」


 「少数の兵力で戦力を測るだけ……。ッスね」


 「うん……」



 戦闘すらせず、少数の部隊を動かして流言を流す。


 たったそれだけの事で、ツバサは蛮族の散発的な攻撃を一時的に止めて見せたのだ。


 が、この作戦が持つ意味は、当然それだけではない。



 「これで、王都近郊の防衛にあたってる連中も、やっと休息が摂れるッスね!」


 「うん……。でも……本番、は……これから、だよ」


 「判ってるッスよ、任せて下せぇ!」



 袖を捲る仕草で力瘤を作って見せるヒデアキに、ツバサは微笑んだ。


 そう、この作戦の本番は、此処からだ。



 「―――行軍速度は……そのまま。レインレイクを抜け次第……陣形を、横列陣へ、移行……。機械化歩兵隊は、機甲師団の前には、絶対に……出ない、ように」


 「了解ッス!」



 チャットで全軍に指示を出し、ツバサは一息吐く。


 そして、出立直前の王都での出来事を思い出していた。


 翌朝には王都を出立し、作戦を開始する事が決まっていたその日の晩、物資の受け渡しに研究所の試験場へやって来たカナと話しをしていた時の事だ。


 急ピッチでMk-IIの実働試験を行っている最中で、夜を徹しての作業に奔走していたツバサは、その際に小休憩を挟みつつ、カナから量産された“新薬”の受領証を受け取り、眺めていた。



 「ねぇねぇ、ツバサきゅん、コレで数足りそー?」


 「はい……、十分、です。無理を言って……すみません、でした」


 「ん〜、それはイイんだけどねぇ〜」



 カナは他に言いたい事でもあるのか、受領証を眺めるツバサの周りをウロウロ歩き回り、様子を窺うような仕草を見せていた。


 それが気になり、顔を上げたツバサに、カナは。



 「どうか、しました……か?」


 「んニャ〜さ、明日のお昼くらいには、カスミっちも戻ってくるって話しニャのに……、ホントに待たなくていいのん? ツバサきゅん」


 「……それは、はい。先輩には……きっと、他にやりたい事、あるって……思うの、で」



 顔を合わせ難い。そういった理由も確かにあったのだが、しかしその言葉にも偽りは無く。


 遠征中の香澄とは、何度か遠距離チャットで会話をしていて、その際に“確かめたい事がある”という話しを聞かされていたからだ。


 香澄の行動は、如何なる場合であってもエルフや自分達アバターラにとって、必ずや必要になる物である。

 そう信じ、疑いなど微塵も無い。それが、ツバサの思考で、これは最早崇拝に近い。


 事実、香澄が考えて居る“確かめたい事”というのは、今後のアバターラにとって極めて重要な事案で、尋ねるまでもなく、ツバサにはそれが解っていた。


 だから、今は自分の力だけで乗り切る。香澄が、自分の用事に集中出来るように。


 それは別に、誰も頼らないという事ではなく、兵達を束ね、この作戦を成功させる為に、自分が頑張らなければという強い思いの現れでもあった。


 それで納得したのか、カナは踵を返し。



 「そんニャらいいんだけど。―――あ、そうそう、忘れてたニャ」


 「はい……?」



 立ち去ろうとして足を止め、再び振り返った。



 「カスミっちから伝言預かってたのニャ」


 「伝言……です、か? 先輩、から……」



 不吉な予感でも過ったのか、ツバサは一瞬表情を堅くするが。


 カナの口から伝えられたそれは、全く予想外のセリフだった。



 「ではでは……コホン。―――“期待してる。やってみせなさい。”……だってさ! どうどう? 今のカスミっちに似てたっ?」



 と、テンション高く声真似の評価を尋ねるカナだったが、ツバサの方はそれどころではなかった。



 「およよ、ツバサきゅん??」


 「―――ご、ごめん、なさい……っ、先輩の……真似は、その……あんまり……似て、なかったで、す」


 「あうち! 自分じゃ、ちょっと似てるかな〜っニャんて思ったのにニャ〜。残念」



 カナは気付いた様子も無かったが、油断すると、涙が零れそうだった。


 失望させたと、そう思っていただけに、その言葉が余計胸に染み入る。


 まだ、信頼して貰えている。期待を寄せて貰えている。


 ならば、とツバサは拳を強く握り締めた。



 「絶対に、成功……させて、みせます……っ」



 その言葉は、手を振り、去って行くカナにではなく、今は此処には居ない香澄に向けて紡がれた物だった。


 故に、ツバサには一切の油断も、抜かりも無い。


 二度と、その期待を、信頼を、裏切る事の無いように。


 ―――そうして、今。


 レインレイク大森林を抜けた二千人のアバターラ達は、ツバサの号令で足を止め。



 「全軍、足を止めて、整列……。予定通り、此処からは横列陣に……移行。機械化小隊、は……機甲師団の後方に隊列を組み……両翼は、左右の警戒を厳に」


 「よぉーっし手前ェら! 抜かるんじゃねぇぞーっ!」


 「「「応ッ!!」」」



 訓練通りの迅速な動きでアバターラの兵士達は横列陣を形成。


 ただし、その形状は一般的な横陣とは少々異なる物だった。


 前面に押し出したMk-IIを7〜8メートル程の等間隔で並べ、盾にするように。加えて、後続の機械化小隊が横三列の編隊を組む。

 が、この三列の歩兵は真横に一文字を引くのではなく、弓のように緩やかな弧を描いて整列していた。


 その最後尾。弧を描く弓の中央からやや後方に、ツバサが本隊を率い、位置取る形だ。


 横列陣、とツバサは呼んでいるが、もっとも基本的な陣形の一つである横陣とは比べ物にならない程の面制圧能力を有する陣形である。


 現代の戦場には、こうした布陣が役に立つ場面は殆ど無い。

 その理由は、銃火器を用いた地上戦が障害物の多い市街地で行われる率が高いからである。


 実際、現代でも陣形を用いた戦術は使用されているが、古代の剣と剣での戦いのようには行かず、往々にして広い範囲に布陣してしまう事になり、陣形が乱れ易い状況に置かれてしまうのだ。


 しかし、此処はアールヴヘイム。

 戦場は、剣と魔法が支配する大自然のど真ん中。


 故にツバサが考案したのが、この陣形だった。


 横陣は正面への攻撃力が極めて高い反面、横からの攻撃に対処が遅れてしまい、脆くなる。

 が、横の列が弧を描いていた場合、前面扇状への攻撃力を維持したまま、側面からの攻撃へ迅速に対処が可能となる。


 もしも、現代の銃火器を手に入れた古代の兵士達がその火力を最大限に生かそうと考えた場合にどうなるのか。そこから着想を得て考案されたのだ。


 前面には戦車。その後方にはハートレスシュメルツを装備した射撃能力の高い機械化歩兵。


 前面と側面をほぼ完璧にカバーしているという訳だ。


 しかも、この陣形にはもう一つ大きな利点がある。


 それは、本陣がガラ空きである、という点。


 普通に考えると、この陣形は後方への防御力が非常に低く見える。


 その為、後方を突いて攻撃すれば容易く崩せそうに見えるのだ。


 ところが、その本陣に立つのは―――ツバサ本人。


 彼は、エインヘリャルの初期メンバーにしてエージェントに抜擢された程の人物である。

 その戦闘能力は、香澄やダイキには及ばないまでも一般GMとは比較にならず。


 更に、この陣形は後方から攻撃を加えられた場合、弧を描く機械化歩兵達により包囲が容易い形をしているのだ。


 つまり、本陣に誘い込み易く、誘い込まれた相手は包囲殲滅されるという一切の弱点を取り除いた陣形なのである。



 「全軍、配置完了ッスよ、ツバサさん!」


 「うん……。それじゃあ……全軍、行軍を……再開。このまま真っ直ぐに北上して……、ノースウェッグ要塞を、奪還……するっ」


 「「「応ッ!!」」」


 「全軍、前進ッ!!」



 丘陵地帯を真っ直ぐに伸びる街道。


 レインレイクと比べれば、その樹木の量は急激に数を減らし、視界も広く取れている。


 此処から先は、何処で蛮族が仕掛けてくるか判らない為、行軍速度は更に低下する事になるが……。



 「……それで、いい……」



 この行軍速度の遅さは、実の所意図的な物だった。


 実際には、更に速度を上げる事は容易く、敢えて“Mk-IIの機動力に合わせている”と敵に思わせるのが狙いだ。


 敵に対策を考慮させる十分な時間を与える。

 しかし、その対策が的外れな物だったと知ったら、彼等蛮族はどんな対応を見せるのか。


 ツバサは、それさえも予見していた。


 そうして、街道を北上する事二日余り。

 二度の野営を挟み、十分に休息を摂った彼等の視界に、遂にそれは映り始めた。



 「―――見えてきやしたぜ、ツバサさん」


 「うん……、少しの間、此処を……お願いするよ、ヒデアキさん」


 「応ッス!!」



 本陣を離れ、一人最前列のMk-IIより尚前に出るツバサ。


 彼の目の前には、目測でも一万を超える蛮族の大群。

 そして、その更に向こうには。



 「アレが……ノースウェッグ、要塞……」



 長大な城壁に囲まれた、城下に都市を内包する巨大な城塞。


 石造りの城壁は、王都の長壁と同様の作りで、壁面には狭間が設けられ、回廊の上にも蛮族軍の兵が弓や杖を構えている。


 他にも、元々この城塞で使用されていた魔動砲の砲口が砲門から見えており、射程圏内まで近付くのは非常に危険に思えた。


 そこへ、ツバサは臆する事なく、更に前へ出る。―――そして。



 「……スゥ……ハァ……」



 ツバサは軍馬の脚を止め、大きく深呼吸した。


 此処が、彼にとって一番の難所なのだ。


 生来のその“性格”を、今は彼の“先輩”のように。



 「―――蛮族共、貴様らの指揮官に伝えよ! アールヴヘイム第一皇子、クラマ・ツバサが会いに来たとな!」



 この時、ツバサの心臓ははち切れんばかりに早鐘を打っていた。


 ちゃんと声は出ているだろうか?

 蛮族の前衛に声は届いているだろうか?


 緊張の余り喉が張り付きそうな不快感を覚えるが、今だけは耐えろ。耐えて見せろと言い聞かせ。


 ―――が、それは杞憂という物で。


 蛮族の前線部隊にどよめきが起こっていた。


 如何に戦場で功績を上げていなくとも、第一皇子としての自分の名は知られている筈。


 此処で躓く訳には行かないのだ。



 (動きは……見える。でも、出て来るのか……?)



 蛮族の世界では、力こそが全て。

 権力は暴力によって奪い、維持する物だ。


 それ故に、配下の者達に情けない姿は見せられない筈。


 出て来い……。出て来い……。出て来い……!


 神にも祈るような気持ちで蛮族の動向を見詰めていたツバサの目に、それは映った。



 (―――よしッ!!)



 蛮族の兵士達が引く波のように左右へと分かれて道を作り、その向こうから現れる一際大きなオークの巨体。


 UI上に表示されるのは、“オークキング”の名。



 「……フンッ、タカガ人間風情ガ……。随分ト調子ニ乗ッタ真似ヲシテクレル……」



 浅黒い肌と、豚か猪を思わせる醜悪な顔。オークと呼ばれる亜人種に見られる特徴だ。


 その身長は優に3メートルを超え、手足は大木の幹が如く。


 隆々とした全身の筋肉は、恰幅の良い相撲取りを思わせる。



 (分厚い鋼の鎧に、細かな金装飾。兜を敢えて付けないスタイルのようだけど……、どうやら、間違いは無さそうだ……)



 装備から見て、その蛮族内に置けるカーストは間違いなくトップクラスだろう。


 それに、何よりもその表示名だ。

 この部分だけは、絶対に嘘を吐かない。


 ツバサはそれを確認し、更に軍馬を前に出した。



 「それはコチラのセリフだな、オークキング。貴様ら如き蛮族が、我ら人間に逆らおうなど、万死に値する」


 「貴様……、誰ニ口を聞イル……ッ! コノ場デソッ首叩キ落シテクレヨウカッ!」


 「―――フン、薄汚い野豚如きが、粋がった所で何する物よ。下賤の輩と交わす言葉など持たぬのだ。悪い事は云わん。さっさと城を明け渡せ。さすれば、楽に死なせてやるぞ? ん?」


 「オノレェッ、言ワセテオケバァ……ッッ」



 偉そうに! 高圧的に! 相手を見下すように!


 ツバサは必死に仮面を被り続ける。

 此処でボロを出すワケには行かない。


 相手に先に剣を抜かせる事。それが出来れば、流れが掴める!


 自分にとって、舌戦なんて物には最初から自信など無く。

 可能な限り早急に片を付けたい場面だったのだ。


 それ故に、煽る。煽る。煽る。


 その結果。



 「オノレェッ! 覚悟スルガイイッ!!」



 オークキングの手が剣の柄を掴み、ギャリンと鞘走る。


 それは、人の手には余る程の長大な剣で、エルフの兵士達ならそれを目にしただけでも後退った事だろう。


 しかし、この瞬間こそがツバサの待ち焦がれた瞬間であった。


 すかさずツバサは右手を天に掲げ。



 「―――構え!」



 直後、一糸乱れぬ動きでアバターラ軍が動いた。


 その異様さに、オークキングの動きが止まる。



 「ナ、何ダ……ッ!?」



 アバターラ軍の兵士達がその手に構えるのは、長銃にも似た得物。


 一列目は膝を立て、二列目はその立ち位置のまま、狙いが一点、オークキングに向けられていた。



 「ハートレスシュメルツ……。我が軍が開発した、最新鋭の呪装式自動小銃だ」


 「ジュ、ジュソ……何ダ、ト」


 「呪装式自動小銃。個々の兵が携帯可能な高い連射性能を持つ魔動砲のような物だ。鉄鎧など容易く撃ち抜く威力があるぞ?」


 「―――ッ!?」



 ツバサは高慢な笑みを浮かべ、自らもそれを片手に銃口をオークキングへと向ける。



 「さぁ、選べ。大人しく城を明け渡すか、それともこの場で仲間諸共皆殺しにされるかを、な」


 「ぐっ、卑怯ナ……ッ!」


 「卑怯? それを貴様が言うのか? 舌戦の場で剣を抜き、あまつさえ相手方の総大将に不意打ちで斬り掛かろうとした貴様が!」


 「ぬ、ぐぅ……っ」



 これだ。この状況が欲しかった。


 如何に力こそ全てというで蛮族の世界に於いても、決してルール無用という訳ではない。


 戦は神聖な物であり、こと勝負となればそれを穢す行為は許されない。


 正面から実力で勝ち取るからこその自由があるのだ。


 だからこそ、舌戦の場で自ら剣を引き抜き、不意打ちを仕掛けようとしたオークキングの行為は蛮族の兵士達にとって決して立派な行為とは映らない。


 ツバサは、度重なる蛮族との闘争の中、その彼等のルールに気付いた。


 この流れは、オークキングにとって自らの軍の士気を下げる最悪の切っ掛けとなる。



 「小癪ナ真似ヲォ……ッ!」



 オークキングは奥歯を噛み鳴らし、少しずつ後退して行く。


 舌戦は、ツバサの完璧な勝利だった。―――が、しかし。



 「―――フンッ、ダガ良いノカナ……?」



 それまでの忌々し気な表情を一転、不敵な笑みを浮かべるオークキング。


 彼がその手の剣を掲げた次の瞬間。



 「や、やめろっ、放せっ!」


 「いやぁっ! 殺さないでっ!!」



 蛮族の兵達の更に向こう。


 城壁の回廊で蛮族兵に引きずり出されて来たのは。



 「人質か……」



 ツバサの呟き通り。


 そこには、数人のエルフの民がロープで縛り上げられ、蛮族兵に剣を突き付けられて立っていた。



 「ぐっははは!! 形勢逆転ダナ、人間ドモッ! 貴様ラの行動如何デハ、アノ連中ガ血反吐ヲ撒キ散ラシテ死ヌ事ニナルゾ……ぐっはは! ぐっははははははっ!!」


 「やはり、貴様らにとって人質は、卑怯とは言わんのだな」


 「当タリ前ダ! エルフ共ノ命ナド、我ラにトッテハごみ屑モ同然。シカモ、コレは儂自身ガ自ラノ力デ勝チ得タ物ダッ!  ソレヲドウ扱オウト、儂ノ勝手ヨ。卑怯ナドト云ワレル筋合イハ無イワッ!!」



 コレだ。コレがあるから、精霊連合は今までノースウェッグ要塞に手を出す事が出来なかった。


 下手に攻撃を仕掛ければ、この街に住むエルフの民が犠牲になってしまうからだ。


 だが、しかし。



 「クッククク……ッ、ハーッハッハッハッハッハッ!!」


 「ぬっ……!?」



 ツバサは哄笑する。さも下らない、馬鹿馬鹿しいぞ、と。


 そして、その手のハートレスシュメルツを構え、狙いを付けたのは。



 「―――へ……っ」



 城壁の上で縛り上げられたエルフの民。その内の一人で。―――引き金は、躊躇いなく引かれた。



 「そん……な、どうし……て―――」



 ドッと鈍いを音を発て、宙に鮮血が舞う。


 その弾丸は見事にエルフの民の心臓を打ち貫いていた。



 「ナン……ダ、ト……」



 オークキングが目を見開き、驚愕する中、そのエルフの民は自立する力を失い、その場に倒れ伏した。



 「バッ、馬鹿ナッ!? 貴様……気ハ確カカッ!?」


 「クッククク……あぁ、正気だとも。むしろ、貴様が勘違いしているのだよ、オークキング」


 「ナニヲ……ッ」



 ツバサは今まさに同胞の命を奪ったその銃を肩に担ぎ、オークキングを見下して嘲笑う。



 「私は今や、精霊連合の手の者ではない。離反したのだよ、袂を別ったのだ。故に、今更エルフの命など私の知った事ではない」


 「ナンダトッ!?」


 「残念だったなぁ? 最早人質など何の意味も無いぞ、オークキング」



 言うが早いか、ツバサはハートレスシュメルツを天に掲げ。



 「既に戦の火蓋は切って落とされたのだ……。機甲師団、前へッ!!」



 その命に従い、アヴェンジャーMk-IIが四機、ツバサの左右まで前進し。



 「キ、貴様……ッ、何ヲスル気で……ッ!!?」



 が、そんなオークキングの言葉には耳も貸さず、ツバサは自ら銃口を蛮族軍の群れに向けた。



 「目標、蛮族軍本隊手前の地面。一斉掃射ッ!!」



 その号令とほぼ同時、Mk-IIの砲塔で“GAU-8アヴェンジャー”が連なる砲身を高速回転させ―――掃射。


 “飛蝗”と呼ばれる現象があるが、その発砲音は限りなくそれに近い。


 アヴェンジャー程のガトリングガンは、発砲の際、昆虫の羽音を激しく大きくしたような独特の音が響くのだ。


 そして、毎分3,900発という高サイクルで発射される30ミリ特殊呪装弾は、一発一発が地殻を剥ぎ取る程の威力で大地に小爆発を引き起こして―――。



 「ぎゃあああああああああっ!!」


 「ひいいっ!!?」



 直撃しても居ないというのに、その衝撃波だけで蛮族軍の前衛部隊を一瞬にして散り散りに吹き飛ばしてしまった。



 「バ、馬鹿、ナ……ッ、コンナ、事ガ……ッ!!」



 残響と悲鳴が谺し、そのおぞましい程の火力に蛮族軍は一気に浮足立つ。



 「逃ゲルナ……、何ヲ……何ヲシテイルッ、逃ゲルナァーッ!!」


 「無駄だ、オークキング。最早、勝敗は決した……。戦うまでもなく、な」


 「く……っ、オノレェ……ッ!! オノレェッ!! 覚エテオケヨ……ッ、クラマ・ツバサぁあああッ!!」



 アヴェンジャーの驚異的な破壊力に怯え、逃げ惑う蛮族軍の兵士達。


 既に戦線など維持する力は彼等には無く、敗走して行くオークキングの背を見送り。



 「―――ふ、はぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」



 安堵と共に大きな溜め息を吐いた。


 そして、蛮族兵が居なくなった城壁の上へと目を向けると、そこには―――。



 「……良かった、成功……した、みたいだ、ね……」



 ―――先ほど心臓を撃ち抜かれ、血を吐いて倒れた筈のエルフが笑顔で大きく手を振っていた。



 「特殊呪装弾……でしたっけ、上手く行ったみたいッスね、ツバサさん!」


 「ヒデアキさん……。いや、もうボク、心臓潰れちゃうかと……はは」



 後方の部隊から合流したヒデアキにそう言い、情けない笑顔を見せるツバサ。


 先ほどまでの彼と同一人物とは、とてもじゃないが思えない表情だった。



 「でも、仕上げが……まだ……」


 「そっちは任せて下さいッス! もう砦の占拠に部隊を出してるんで、後は残存蛮族を追い散らかして、エルフの人らを収容するだけッスよ!」


 「あぁ、助かるよ……。ボク正直言って、もう動けそうにない、から……」



 そのまま馬上でヘナヘナと力無く項垂れ、ツバサは作戦が成功を収めた事にようやく実感を持ち始めるのだった……。

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