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Master Code  作者: 覇牙 暁
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第三十一話

第三十一話「得たものと、失ったもの」




 「―――本当に、何から何までありがとうどざいました」



 そう言い、深く頭を下げるリムニルグ村の村長と、その村人たち。


 緊急の要件でなければ、と香澄は少し後ろ髪引かれる気持ちを感じながら、彼等に手を振る。


 僅か二日間の滞在だったが、この村ではイロイロな事があった。


 多くの仲間を失い、己の弱さを見せ付けられた。


 自分のステータスという物が通用しない相手との邂逅。


 二度と、あんな無様な姿を晒す事だけはしないようにと、隣を行く和幸を見遣る。



 「む、どうかしたでござるか?」


 「ううん、なんでも」



 荷物を纏め、村を出る精霊連合の面々。


 隊員に損耗は出て居ないが、此処に居ないエルフ達の姿もある。


 駐屯部隊が壊滅的な被害を受けた為、急遽村に残して来た部隊があるからだ。


 エルフの命は、戻らない。

 それを、香澄は痛感する。


 村を出立し、川沿いに南下する中、香澄は考えていた。


 確かに、失った物は大きいし、悔しさも味わった。


 しかし、失った物ばかりではなかったという事実が、辛うじて彼女にその先への一歩を踏み出させている。



 (コレが、本当にノーマルの仕業何だとしたら……)



 絶対に、許さない。


 こういった絡め手のようなやり方が、香澄は大嫌いだった。


 だが、お陰で得た物の事を思えば、死んでいったエルフ達にも多少は報いる事が出来る筈。

 そう信じて、再び和幸を見る。



 「ねぇ、カズ」


 「なんでござる?」


 「アンタ、身体は本当に平気?」



 それは、数時間前にも一度尋ねた事だったが。



 「大丈夫。問題無いでござるよ。カスミ殿のお陰でござる」



 そう言って笑う和幸に、香澄は苦笑する。


 緊急事態だったとは言え、自分のとった行動に驚きは隠せないが、今それはどうだって良い。


 重要なのは、あの時和幸の身に起こった現象だ。



 (オーバーリミット……)



 創作物ではピンチに陥った主人公が秘められた力に覚醒する、などと云うのは定番だ。


 が、香澄はそう言った“奇跡”なんて物が現実に起こるとは認めて居ない。


 物事には、必ず原因と理由がある。


 奇跡なんていう物は、ただ低確率で発生する物理現象でしかない。


 だからあの時、和幸の身に起こった事を解明出来れば。



 (―――誰にでも出来る事の筈)



 しかし、あの力は和幸から正気を奪い去って居た。


 あのままでは駄目だ。

 制御し切れない力は、両刃の剣。


 危険な賭けなんて物に頼る訳には行かない。


 万人が扱えるようにする為の技術として確立し、同時に危険性を徹底的に排除しなければ。


 そう、考えている内。



 「姫様、少し宜しいでしょうか?」


 「―――?」



 振り返ると、和幸と香澄の隣に並ぶ、もう一頭の軍馬。


 乗っているのは、エルフの従軍給仕、イライザ・カヴァーナだった。


 その彼女の目が、和幸に向けられ、それから香澄へと戻されたのを見て。



 「あぁ、カズの事は気にしないで。報告、あるんでしょ?」


 「はい。例の情報端末の件で、調査に当たっていた者から連絡がありました」



 アバターラ達とは違い、エルフ達にはエルフ達独自の魔術形成されたネットワークがある。


 それを用い、彼女は情報を集めてくれていたのだ。



 「OK、話して」



 香澄がそう答えると、イライザは少し馬同士の距離を近付け、極力行軍の音に紛れるような小さな声で口を開いた。



 「姫様のご想像通りでした」


 「やっぱり、やられてたか……」


 「外部ツールでシステムロックを強引に抉じ開けた形跡があり、ハートレスシュメルツとMk-IIに関するデータの一部が引き出されていたようです」



 解かっていた事ながら、香澄は馬上で頭を抱える。


 しかし、コレで確定だ。



 「犯人は、ノーマルの連中で間違いないわね……。って事は、“フード”の正体も……」


 「ダークエルフなどではござらんな」


 「ネグロイドか、オーストラロイド。何処に所属してるかまでは判らないけど、多分“金で雇われた”クチでしょうね」



 肌が黒い。という情報から、ダークエルフとばかり思っていたけど、視点を変えればそれは容易く見えて来た。


 “フード”はアバターラだ。そして、人種はネグロイドかオーストラロイドのどちらか。


 何れにせよ、ノーマルの何処かの陣営に属し、金で雇われている可能性が高い。


 そうでなければ、このタイミングで情報端末がハッキングされるというのはおかしいのだ。



 「油断、なんて言葉は使いたくないけど……」



 しかし、事実だった。


 香澄は、ノーマルが動き出す可能性を考慮していた筈だった。


 だが、リムニルグ村が凶悪なモンスターの襲撃を受けたという情報に、まんまと踊らされてしまう結果になってしまった。


 これが、油断でなく何だというのか。



 「私の……責任、ね」



 悔しさに、下唇を噛み締める。



 「カスミ殿、今は……」


 「わかってる。……ありがと、カズ」



 今は、後悔よりも先にやるべき事がある。

 そう言外に告げる和幸の言葉に、香澄は感謝した。


 慰めの言葉など、傷を広げるだけだ。

 だから、今香澄にとって一番欲しかった言葉は、まさにそれだった。



 (今は、考えろ……。この先、何がどうなって行くのか。何が必要になるのかを)



 可能性として、アバターラが敵になる事も考えていた。

 そのタイミングが、こうも早く訪れるとは思っていなかったが。


 しかし、今の自分では、あのキマイラに対して余りにも無力。


 いや、そもそも和幸の“オーバーリミット”が無ければ、今回の戦いに勝利する事さえ出来なかった筈だ。


 だとすれば、やはり。



 「最低限、あの“力”の有用性を見極めないと……」



 各地では、今も尚蛮族の軍勢が猛威を振るっている。


 その犯行作戦を決行する為に、十分な戦力も用意した。


 だが、その影でノーマルが暗躍しているというのなら、今のままではまだ足りない。


 それに……と、香澄は奥歯を噛み鳴らした。



 (ハートレスシュメルツ……。もし、アレにUEP構造体が組み込まれでもしたら……)



 人間にでも容易にあの強力な銃が扱えるようになるかも知れない。


 Mk-IIに関しても、金で雇われたアバターラや、脅されて協力せざるを得なくなったアバターラ達が駆り出されれば、十分に戦力として活用され得る。


 先延ばしにして来た問題だが、もう後には引けない。



 (……やっぱり、ノーマルは邪魔だ)



 このまま行けば、ノーマルは“今の全世界”にとっての脅威になり兼ねない。


 早急に、対策を―――否、無力化する必要がある。



 (現存するノーマル全ての勢力を、……叩き潰す)



 香澄はこの時、それを心に誓った。


 が、その一方で―――。



 「―――クソッ! クソックソックソッッ!!」



 その苛立ちに溢れた怒声とガラスの割れる音が響いたのは、王都から程近い山の山中に建てられ、廃棄された山荘だった。


 嘗てはエルフの貴族が所有していたというこの場所は、その貴族の死によって存在を忘れられ、今や誰にも知られずひっそりと佇んでいた筈だった。


 朽ちた廃屋。そんな形容がピタリと当て嵌まる外観はしかし、内装は思いの外以前の面影を残したまま。


 此処に、彼の男が住み付いたのは、丁度アバターラ達がこのアールヴヘイムへと移住して来た頃だった。


 当初は住み心地も良さそうだとこの男も喜んでいたのだが……。



 「ッザッケンナ!! 何だあの野郎は!? 突然しゃしゃり出て来やがって……聞いてねぇぞ、ヴァーレス!」



 廃屋の二階。元は寝室と思しきその部屋で、あの“フード”が叫んだ。


 それに答えたのは、静かにソファーへ腰を落ち着かせる“ヴァーレス”と呼ばれたもう一人の男。



 「当然だ。オレが知らん事を、お前が知る筈も無いだろう、リターナー」


 「なっ、手前ェ……職務怠慢だぞゴルァ!?」



 リターナーと呼ばれた“フード”の男は、そのトレードマークであるフードを取り払い、激昂する。


 そこに見えたのは、顔中にピアスを付けたネグロイドで、蜥蜴を思わせるような目付きの悪い男の顔。


 対して、ヴァーレスと呼ばれた男の方は、眉目秀麗で眼鏡の似合う知的な伊達男だった。


 しかし、その表情には色が無く、まるで氷像のような美しさと冷たさを併せ持っている。



 「怠慢などではない。事実、あの男が過去にそんな力を発揮して見せた事など、ただの一度も無かったのだからな」


 「な、なにぃッ?」


 「全く、非科学的だ。あんなデータは過去に類がない。お前は兎も角、キマイラがどれ程優秀であるかはオレも良く理解している。が、だからこそ、それを覆す程の力を個人が持つなど……考えられん」


 「お? おぅ……?」



 己の最高傑作であるキマイラ。その実力は認めていると言われ、自分が貶されている事にも気付かず、フード―――リターナーはチンプンカンプンな顔で疑問符を浮かべる。


 しかし、ヴァーレスと呼ばれた男の方は、如何にも忌々し気に顔を歪め。



 「だが、これで一先ずは目的を達した。計画の再調整は必要だがな。―――あんな化け物を野放しにはしておけん」


 「ったりめぇだ。次会ったら絶対ェブチ殺すッ」



 気に入らない。気に食わない。


 突然現れたと思えば、自慢のキマイラを一方的に追い詰め、挙句の果てには見せ付けるようにキスしやがった。


 あんなイイ女が、よりにもよってキモヲタ相手に、だ。


 ふざけるな。アレはオレのモンだ。と、リターナーは憤慨する。



 「あのキモヲタ、タダじゃすまさねぇ……。生け捕りにして目の前であの女犯してヒィヒィ言わせてやる……ッ」


 「……フン、お前の悪趣味をとやかく言うつもりは無いが、利害は一致している。協力はしてやるさ、これも“任務”だからな」


 「ぁん? んだ、羨ましいのか?」


 「下らん。馬鹿馬鹿しい。女など反吐が出る……ッ」


 「お、おぅ……?」



 忌々し気に吐き捨て、ヴァーレスは席を立つ。



 「んだよ、何処行く気だ?」


 「キマイラを強化する。折角瀕死の状態にまで追い込んでくれたのだ、一度完全に殺し、オレの術で蘇生させる」


 「オイオイ、んな事出来んのかよ?」


 「オレを誰だと思っている……?」


 「―――“不死者のデッドマンマスター”……カカッ! 面白そうだ、付き合うぜぇ」


 「フン……」



 対極的な足音を発て、退室する二人。


 後に残されたのは、ただただ静寂。


 次に彼等が何を狙っているのか、それを知る者はまだ、この国の何処にも存在しなかった。


 ―――が、同じ頃。


 アールヴヘイムの王城は、逆に喧噪で溢れ返っていた。


 特に、国の中枢たる円卓の間では、アバターラの主要メンバーらが集まり、緊急会議の真っ最中である。



 「―――カスミちゃん一人がちょっと抜けただけでこのザマとは、情けない……」


 「今はそんな事言ってる場合じゃないニャ。すぐに次の対策を練らニャいと!」


 「す、すみません……。ボクが警備を手薄にしてしまった所為で……」


 「だぁかぁらぁ! どーしてこーウチの男共はウジウジと! 頼りなさ過ぎニャ!」



 ダイキを初め、カナとツバサの三人は、遠方から香澄に指示を受け、情報端末の調査を続けていた。


 が、それだけではない。


 端末をクラッキングしたツールは、物理的な物だった事まで判明しており、それが出来る人間もこの世界では限られている。


 香澄が告げるまでもなく、その犯人が“ノーマル”である事は周知の事実となっていた。



 「先ずは、データの管理体制をもっと厳しくするべきニャ」


 「そうだね。それに、出来ればやりたくはなかったけど……」


 「国内に潜んでいるノーマルの焙り出し……、ですね」



 カナとツバサの意見に、ダイキは小さく頷く。



 「蛮族との戦争も終わってニャいっていうのに、なんだってこの忙しい時期に……ニャーもう!」



 カナの手元には、大量の書類の束。


 どれも医療関係の物ばかりだが、それに全て目を通さなければならず、まるで手が足りて居なかった。



 「ボク、先輩にどんな顔して会えば……」



 ツバサの手元も同様で、同じく大量の書類、書類、書類。


 彼の手元にあるのは、軍事に関わる機密書類ばかり。



 「あぁ〜クソッ! 今更ながら、どれだけカスミちゃん一人に頼り切っていたのか、痛感するよ、まったく……!」



 ダイキに至っては、医療・軍事に加えて更には国政に関する資料や書類への捺印など仕事は山積みで。


 今では副官として活躍しているシバタ、チヒロ、ヒデアキらの三人まで駆り出され、慌ただしく部下やエルフの文官らに指示を飛ばしていた。



 「あらあらぁ〜……、みんな大忙しねぇ〜……」


 「あぁー佐伯社長! 申し訳ない、ご覧の通りの有様でして……」



 唐突に会議室へと現れた涼子にも、ダイキは頭を下げる暇さえ無く。


 しかし、その涼子はというと。



 「駄目よぉ〜、そんなに根を詰めてちゃ。こういうお仕事ってねぇ、休息も大事なのぉ」


 「し、しかし、ですね……」



 尚も作業の手を止められないダイキに、涼子は。



 「はぁ〜い、みんなすとぉ〜っぷ!」



 と、突然に“パンッ!”と手を打ち。


 それに驚いた六人が、涼子に注目した。



 「先輩からのぉ、アドバイスでぇ〜っす♪ 寝てる暇も惜しむくらい忙しい時ほど、ちゃんと休息を摂るので〜す。じゃないとぉ、逆に作業効率って落ちちゃう物なのね〜?」


 「は、はぁ、確かに……そう、聞きます、ね」


 「なのでぇ〜、お姉さんからぁ〜、差し入れでぇ〜っす♪」


 「はい……?」



 と、涼子の背後から扉を潜り、入室して来た松岡が手で押して来たのは。



 「ふわぁぁ〜〜〜〜! 甘い匂いニャぁぁぁ〜〜〜〜っ!」



 真っ先に飛び付いたのは、カナだった。


 松岡が押して来たサービスワゴンの上には、如何にも高級そうなティーセットと、一口大に切り分けられたケーキや色とりどりの焼き菓子が乗せられていた。



 「しゃ、社長、これ結構重労働ですよ……! 調理場から此処まで、どんだけ距離あると思ってるんですかぁ〜〜〜!」


 「はーい、若い子達が頑張ってるのにー、大人が頑張らなくてどーするんですかー? 慶次く〜ん?」


 「うぐっ、それを言われると……っ」



 不承不承と給仕の真似事を始めた松岡は、円卓上に六人分の紅茶を用意し。



 「書類整理とか雑用なら、ボクらも手伝えるから。必要なら言ってくれて構わないよ」


 「松岡さん……」


 「まぁ、カスミちゃんが抜けた穴埋めには程遠いかも知れないけどぉ、コレでもぉ、元世界一の大企業を纏めていたぁ、敏腕社長さんなんですからねぇ〜? もっと頼って頼って♪」


 「涼子さん……! マジ女神ニャ!!」


 「す、すみません……っ、凄く助かります……っ」


 「えっへん♪ それじゃ、スパート前の小休憩〜♪」



 紅茶を一口啜り、自分達がどれだけ疲れ切って居たかを実感する六人。


 休憩という物の重要性を理解し、活用する事の意味を知り、その後の彼等の働きには目を見張る程の変化が現れていた。



 「―――佐伯社長、この書類の件なんですけど……」


 「治水事業の懸案書ねぇ〜。……うん、大丈夫。内容に不備は無いと思うわよぉ〜?」


 「ですか。すみません、お手を煩わせてしまって」


 「いいのいいの〜、判らない事は〜、じゃんじゃん聞いてねぇ〜ん?」


 「はい、助かります……!」



 彼等は皆有能だ。しかし、経験不足は否めなかった。


 その経験不足を補う涼子と松岡の知識は作業効率を飛躍的に向上させ。



 「―――終わったあああああああああっ!!」



 3時間という短い時間で、彼等が個々に担当する事務処理は全て片付いてしまった。



 「お疲れぇ〜、みんな〜」


 「お二人とも、本当に助かりました。ありがとうございました……!」


 「いやいや、ボクらは大した事はしてないよ。少し効率化の方法を教えただけで、あとは君たち自身の実力だから」


 「そぉねぇ〜、カスミちゃんも優秀だけどぉ、やっぱりエージェントに抜擢されただけあってぇ、みんな優秀ぅ〜」


 「そ、そかニャ〜♪」


 「凄く、勉強に……なりました……」



 そこで、事務作業は終了。

 一先ずの休憩を挟む事になり、今度は誰一人それに異論を唱える事もなく。


 そうして、いよいよ遅れていた会議が始まった。



 「―――それで、カスミちゃんは今どの辺りに?」


 「既に、リムニルグを発った……らしい、です……」


 「倒れたって聞いたけど……大丈夫ニャの?」


 「体調は、問題ないって……言ってました」



 ツバサの報告に、カナとダイキは不安そうな顔をする。



 「だぁいじょ〜ぶよぉ、あの子ぉ、そ〜ゆ〜無理の仕方って、しない子だからぁ〜」


 「社長がそう仰るのであれば……。ただ、やはり正直な所、一日でも早く戻って貰いたい所ではあるんですけどね……」


 「フフ、頼りにされてるわねぇ、カスミちゃ〜ん」


 「そりゃ〜ねぇ。あの子、ホント良い意味でバケモノだしニャ~」


 「ははっ、だね。実際敵わないよ、オレなんかがやるより、彼女が王様をやった方が、よっぽどだって思う事もしばしば」


 「けど、ちょっと前までは人と面と向かって話す事も出来なかったくらい上がり症だったんだよ、カスミちゃんて」


 「うぇえ! そうニャんですかっ!?」


 「うん。面接の時なんて、緊張し過ぎてえづいてたくらい」


 「し、信じられない……」



 松岡の話しに、ダイキやカナ、ツバサが顔を見合わせる。



 「ホント、此処に来て変わったよ。急激にね」


 「そぉね〜……。責任とかぁ、そういうのぉ、受け入れるようになったから、かなぁ〜……」


 「かも、知れませんね……」



 王女という重責。そして、人の上に立ち、導くという役回り。


 その意味と重さを考え、ダイキは納得する。



 「オレ達も、見習わないと、だな」


 「だニャ……」


 「はい……」



 三人は一様に頷き、そして円卓へと向き直った。



 「それじゃ、会議の続きだ。―――現在の蛮族軍の動きは?」


 「あ、はい……! ヒデアキ君、MAPを……」


 「合点でさ!」



 ツバサの指示で円卓のコンソールが操作され、中央に表示されるアールヴヘイム周辺のMAP情報。


 そこには、多くの矢印や地域毎に色分けされた勢力図が映されていた。



 「散発的な攻撃は……、現在も継続中……。ですが、今の所……、王都への侵入が危ぶまれるような状況には……至って、いません……」


 「ッスけど、やっぱ兵には疲れが見えるッスねぇ。休息がキチンと摂れてねぇんッスよ」



 ツバサの報告に、ヒデアキの追加報告。


 それに、ダイキとカナは渋い顔を浮かべる。



 「連日の戦闘に加えて、交代で王都へ帰還しても、今度は新兵器の調練……。休んでいる暇が無いからな……」


 「コッチでも一応、エルフ用に新型の強壮薬を開発中ニャけど、現場に行き渡るには、まだまだ数が足りてないニャ……」


 「素材アイテムの収集が追い付いていないんです。民間の協力者さん達にもお願いしているんですけどね……」



 カナの医療班でも、やはり人手不足が影響を及ぼし、成果が上がって居なかった。


 チヒロも独自に民間協力を取り付け、素材収集を急いでいるのだが、コチラも今一つという状況らしく、ダイキは頭を抱える。



 「結局、何処も人手不足、か……。かと言って、徴兵なんて事も出来ないし……」


 「徴兵制度はぁ、実績もあるけど歴史的に見てもぉ、ロクな結果にはなってないのよねぇ〜」


 「難しい所だね……。せめてMk-IIが配備されるようになれば、もう少し部隊編成のし様もあるんだろうけど」


 「無い物強請り……、ですね……」



 慢性的な人手不足。

 何処の国でもそうだが、好んで戦争をしに行こうという人間は少ない。


 それは、このアールヴヘイムに置いても例外ではなかった。


 戦争をしているのだ。

 だからこそ、人手が足りなくなる。


 これは、自明の理という物で。


 その上、此処に来て今回のクラッキング事件。


 蛮族以外の者にまで警戒をしなければならないという状況は、やはりかなり不味い状況と言えた。



 「何か、良い方法は……」



 と、悩むダイキ。


 そこへ、意を決したように声を上げたのは。



 「あ、あの……!」


 「ツバサ? どしたのニャ? おトイレかニャ?」


 「ち、違いますよ!」



 ツバサだった。


 彼の頭の中には、ある一つの策略が浮かんでいた。


 それは、無い頭を必死に絞って導き出した苦肉の策。本人は、そう思っている。


 だが、実際には、それこそが彼の才能であり、香澄が目をかけている理由でもある。



 「ボクに、策が有ります……!」



 ツバサは今、自責の念に駆られていた。

 それは、仕事を任せてくれた香澄の信頼を裏切ってしまった、今回の事件が理由だった。


 何としてでも挽回しなければならない。

 そうしなければ、顔向けが出来ない。


 香澄がチャットで見せた失望する表情。それが、胸の奥でトゲのように突き刺さり、責め立てるのだ。


 挽回して見せろ。お前に出来る事は、それだけだろう、と。



 「成功すれば……戦局を一気にひっくり返す事だって……できます!」


 「―――っ」



 その場の全員が顔を見合わせ、息を呑む。


 その策とは……。



 「―――大陽動作戦。説明を……させて下さい」


 「……分った。お願いするよ、ツバサ君」

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