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Master Code  作者: 覇牙 暁
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第三十話

第三十話「蒼金の戦鬼」




 ―――大気が裂け、大地が震える。


 その余りの変容に、誰もが唖然としていた。


 物理的とさえ感じる威圧感。


 心臓を鷲掴みにされ、爪を立てられているような恐怖。


 それを放っているのは、他でもない、あの『梶浦 和幸』だった。


 普段はとても温厚で、何時も柔和な笑顔を浮かべ、優し気な声で話す彼の姿を、今の私は―――。



 「カズ……? いったい、なにが……」



 その身に何が起こっているのか、理解出来ない。


 あの温厚な性格も、柔和な笑顔も、優し気な声も、なに一つ見付ける事が出来ない。


 そこに立っているのは、紛れもなく“鬼”。


 憤怒と憎悪と、狂気の化身。


 滲み出るような蒼金色のエネルギーが、手を、足を、全身を包み込み、まるで鬼か悪魔かと思えるような形相を虚空に描き出している。


 でも、だとしても。


 この世界はもっと残酷な様に出来て居る筈だ。


 例え、姿形が変わっても、“ステータス”という絶対値が全て。


 カズが対峙しているアレは、正真正銘の化け物だ。


 ステータスがカンスト値を示している、この私でさえ歯が立たなかった相手。



 「■■■■■■■■―――ッ!!」



 それが、キマイラだ。


 黒炎が効かず、魔法耐性が異常に高い。

 その上、分厚い皮膚と表層を覆う剛毛が物理的なダメージすら受け付けず、僅か与えたダメージですら、瞬く間に治癒してしまう。


 三つの首による同時攻撃も脅威で、どれか一つを防いでも、別のどれかが反撃に転じ、一切隙を作らない。


 岩をも砕く膂力に、鎧を紙切れ同然と引き裂く爪牙。


 あんなもの、とても人が何とか出来る生き物ではない。


 私は、そう思っていた。―――この瞬間まで。



 「―――良い武器だ」



 カズがしげしげと見上げたのは、自分の手に握られた、二本一対の2メートルを超える巨大な金棒。


 斬るでも、突くでもなく、“砕く”為の姿。


 それは、鬼のように変化した今の彼には似付かわしい武器の形で。



 「じゃあ、始めようか」



 ギュッと握り締めた金棒を担ぎ、腰を落としたカズに、キマイラも臨戦態勢を整え吠える―――否、吠えようとした、のだが。



 「煩いよ」


 「□□□□ッ!!?」



 その獅子の顔が、次の瞬間には半壊していた。



 「え……」



 私は、その目の前の光景が信じられず、目を見開く。


 地面を踏み砕き、跳躍したカズの姿を捉え切れない内に、彼が握る金棒の一振りが獅子の頭部に減り込んでいたのだ。


 咆える間さえ、与えぬ内に。



 「グルルルォオオオオアアアアアアッ!!!?」



 脳漿が弾け、鮮血が舞う。


 キマイラは獅子の頭を半壊させたまま、地面を転がってのたうち回っていた。


 ―――有り得ない。その筈なのに。



 「だぁから、煩いって」


 「ぎゃばっ!!?」



 振るわれる二発目の金棒。


 大きく振り回して掬い上げるように叩き付けられた金棒は、大地を一文字に抉って山羊頭を粉砕する。


 その余りにも余りな破壊力で、キマイラの巨体が宙に浮き上がる程の一撃だった。



 「そのまま寝てろ」



 更に、三発目。


 宙に浮いたキマイラの胴体へ、二本の棍棒を真上から叩き下ろす。



 「―――ッッ」



 唯一残された蛇の頭部が、声にならない悲鳴を上げた。


 叩き付けられた金棒のスパイクが分厚い皮膚毎肉を食い破り、肋骨を粉砕して内臓を挽潰す。


 とても生き物が地面に落ちたとは思えない短く重い音と共に、クレーターの中へと沈むキマイラの巨体。


 圧倒的だ。驚異的と言っても良い。


 馬鹿馬鹿しくなるくら、余りにもアッサリと、カズはキマイラを叩きのめして居た。



 「こんなの、有り得ない……、なんで……」



 カズのステータスは、確かに一般プレイヤーの中でもトップクラス。

 だが、それは飽くまでも“一般プレイヤー”のレベルでの話だ。


 GMやエージェント、まして私等ととは比べるべくもない程に値が低い。


 それが、どうして。

 私ですらロクにダメージを負わせる事の出来なかったキマイラを、こうも圧倒出来るのか。


 おかしいのだ。何かが。



 (絶対、おかしい。カズの様子も、あの変な力も……!)



 私は先ほどまで落ち込んでいた気持ちさえ忘れ、ヴォイドフリックでカズのステータス画面を強制的に表示させる。


 GMやエージェントの特権だけど。―――でも、そうして開いたステータス画面を見て、私は背筋に冷たい物を感じた。



 「ウソ、でしょ……」



 通常、全てのステータス値は、その限界値が“999”と定義されている。


 その筈なのに。



 「―――2千4百……ッ!?」



 シュヴァルツ・ゲヴァルトを適用した際の私のステータスでさえ、その最大値はDEXの1199。


 だというのに、カズのSTRを示す値は今、2440と表示されていたのだ。


 何をどうやったらそんな数字になるというのか。


 私が知る限り、カズのSTRは元々500程度しかなかった。

 それが、凡そ5倍近くにまで跳ね上がっている。


 これがもしPYOの中の出来事だったとしたら、そんなのはもうバランスブレイカー以外の何者でもない。


 チートを疑われたって文句が言えないような変動ぶりなのだ。


 でも、そこで気付いた。


 カズのステータス画面が、通常とは異なる色で点滅し、強化状態などを表すボックスに、見覚えの無い文字が浮かんでいる事に。



 「オーバー……リミット?」



 オーバーリミット。限界突破。


 その単語が示す言葉の意味と、今のカズのステータス。それは、とても無関係とは思えない。


 もし、これが何らかのステータス異常なら……?


 が、その思考はそこで爆音によって中断された。



 「■■■■ッ!! ■■■■ッ!!」



 アレほど痛め付けられたにも関わらず、キマイラが再び立ち上がり、カズと対峙していたのだ。


 先ほどの爆音は、どうやらキマイラが火炎を吐いた際の物だったらしく。


 カズの足元には、それを示す残り火と焼け焦げた地面があった。―――しかし。



 「再生能力……」



 カズは、勿論無傷。


 ただ、やはり駄目だ。

 結局、どんなに高い攻撃力を以ってしても、あの再生能力がある限り、キマイラを倒す事は出来ない。


 また、振り出しに戻されるだけだ。と、私の脳裏に再びあの悲劇が蘇ったのだが。



 「―――良かった。これで、もう一度ボコボコにしてやれる」



 私は、私自身の耳を疑った。


 あの超再生を目の当たりにして、カズはそう言ったのだ。


 そして、あろう事か。



 「見ててね、カスミちゃん。ボクが必ず、カスミちゃんを喜ばせてあげるから」



 返り血で赤く染まったその顔で、私に微笑みかけた。



 「カ、ズ……っ」



 私は、その壮絶な笑顔に言い知れない不安を感じ、手を伸ばす。


 しかし、カズの耳にはまるで届いて居なくて。



 「さぁ、続きだ。―――泣き喚けッ!!」



 再び走り出し、金棒を振り上げるカズ。


 その一撃は、やはり容易くキマイラの蛇頭を引き千切ったが。


 キマイラもさる者。

 尾を犠牲にし、前足の鋭い爪をカズに向かって振り下ろす。


 ―――ズドッ、と響く鈍い音。


 が、それはカズの手が握る金棒で容易く受け止められ。



 「……こんな、物か?」


 「□□□□ッ!?」


 「こうじゃ……ないだろ……」



 その爪を受け止めたまま、さも何事もなかったかのように巨体を押し返し。



 「ボクのカスミちゃんは……、この程度の事では泣かないんだよッ!!!」



 どころか、腕ごとキマイラの上体を搗ち上げ、懐に踏み込んで回転、横っ腹を殴打する。



 「□□□□―――ッ」



 メキメキと嫌な音を立て、くの字に折れ曲がるキマイラの胴体。


 が、それも一瞬で、再びキマイラの巨体が宙を舞い。



 「泣いてたッ!!!」



 追従して跳躍。からの叩き付け。



 「泣いてたんだよッ!!!」



 更に追撃の叩き付け。



 「泣かせちゃ……駄目だろうがあああああああああッ!!!!」



 追撃。追撃。追撃。追撃。


 殴打。殴打。殴打。殴打。


 脳漿が、体液が、肉片が、骨片が。


 血飛沫を上げてドチャドチャと酷い音を立てて挽潰されて行く。



 「―――ちが、う……」



 違う。違う。違う。


 こんなのは、何時ものアイツじゃない。


 アイツは、キモイし、デブだし、お人好しだけど。



 「違うよ……っ、こんなの、アンタじゃないっ!!」



 私は無意識で立ち上がり、腕を伸ばす。


 血の雨が降り注ぐ中を突っ切って、尚も金棒を振り回すカズの背中に縋り付いた。



 「カスミ、ちゃん……?」


 「違うってば……。アンタって、そうじゃないでしょ……っ」



 間近で見たカズの顔は、まるで別人のようだった。


 まるで、仮面でも付けてるみたいに無機質で冷たい笑み。


 もう、とっくにキマイラの身体なんてボロボロの肉塊みたいになってて、再生なんてまるで追い付いてないのに。


 なのに、まだ金棒を振り上げようとしてる。


 こんな事……、何時もの和幸なら、絶対にしない。



 「カズ……、駄目だよ……。こんなの、全然笑えない……」


 「でも、コイツはカスミちゃんを泣かせたから」


 「そうじゃないってば……! これは、アンタがこんなになっちゃったから……っ、私の、所為だから……っ」


 「違うよ。カスミちゃんは何も悪くない。悪いのは、コイツだ」



 金棒を握る手に、再び力を込めようとするカズ。


 こんな風に、我を忘れるくらい彼を怒らせてしまったのは、私だ。


 だから、その冷たい頬に私は手を伸ばし。



 「―――帰って来てよ、和幸くん……っ」


 「……、……ッ!?」



 自然と、そうしてた。


 きっと、誰にも見られてないって、そう願う。


 血煙が立ち込める中での、初めての経験。


 こんなの、ちょっと人には言えないし。



 「……カ、カカッ、カスミ殿っ!?」


 「―――えへへ……、帰って、きた……」



 その瞬間、私は妙に安堵してしまって、自分の身体が傾いで行くのを俯瞰的に見詰めていた。


 ―――暗転。


 それから、何があったのか……。

 

 どれくらい、意識を失っていたのか、全く判らない。


 ただ、ボンヤリとだけど、暖かい何かに抱き留められているような感触だけは覚えてて。


 その後、色んな事を夢に見た気がする。


 私に生涯忠誠を誓うって、そう言って死んでしまったエルフ達。


 涙に暮れる私を見て、逆上して、鬼みたいに暴れるカズの背中。


 でも、それだけじゃない。


 今まで、私が殺して来た前史外生物達の死に顔や、アッチの世界に置いて来た両親とか、メイドさん達とか。


 色んなものを思い出して、何時しか知らない部屋の、慣れないベッドの心地に目を覚まして。


 それでも、考えが纏まらない頭で、私は―――。



 「―――入るでござるよー?」


 「へ……っ!?」



 ギィっと木製ドア独特の軋み音を発て、部屋に入って来たブタメンの顔を見た瞬間、全部ぶっ飛んだ!



 「ばっばばばっ、ばかっ! は!? なに勝手に入って来てんの!? バカなの!? 死ぬのッ!?」


 「い、いきなりどうしたでござる!?」


 「はっ!? バカ! 死ね! ヘンタイっっ!!」



 とりあえず手に付く物を手当たり次第に投げ付け、撃退を試みる!


 ってか、自分でやっといて何だけど、私はいったい何をトチ狂って“あんな事”をしでかしたのか!?


 カズの顔を見た瞬間、その時の感触まで思い出してしまって、また意識が遠退きそうになる。



 「ちょっ、ちょっと落ち着くでござるよ!? どうしたんでござるか!?」


 「どうもこうもあるかっ! ひょっとして、アンタ覚えてないのッ!?」



 だったら、最悪だ。

 こんな歳まで後生大事にとっておいた初体験を忘れられてるなんて!



 「な、なんの事でござるぅ!?」


 「ちょ、はぁっ!? 信じらんないっ! ファーストキスだったのにッ!」


 「―――あ、アレでござるか」


 「覚えてんのかよッ!!? って、キャーッ!! 自分で言っちゃった!? キャー! キャー!!」


 「カ、カスミ殿! 落ち着くでござる! アレは事故みたいなモンでござろう!?」



 は!? ちょっと待って、コイツひょっとして、アレが仕方なくやった事とか、そんな風に思ってる!?


 ふざkn!?!?



 「なにそれっ! 私、ワリとガチだったってのにっ!」


 「なん……だと……?」



 と、唐突に真顔になる和幸さん。


 釣られて私まで、妙に冷静になり……。



 「―――美味しかったです」


 「で、出て来た感想がそれかいっ!?」



 美味しかったって何? どっちの意味?


 状況? それとも、味?


 味……。え、味……とかっ!?



 「わぁぁ〜〜〜!! わあああああああ〜〜〜〜〜〜っ!!!」


 「お、落ち着くでござる! 落ち着くでござるよ!」



 あぁ〜、もう駄目だぁ〜……。


 嫁とか行く気も無かったけど、もう嫁に行けねぇ〜……。


 ベッドの上で肌掛けを頭から被り、自責に駆られて枕を叩く。


 イカン。ダメだ。


 ラブコメしてる場合じゃない。


 キャラじゃない。


 落ち着け。落ち着くんだ、私。


 良く考えてみろ。私くらいの歳の女なら、みんなとっくに経験してる事じゃないか。


 何も恥ずかしい事はない。照れるような事じゃない。


 私は、反射的に肌掛けを払い。



 「うん、忘れよう」


 「そ、それはそれで……、自分としてはショックというか……」


 「ううん、忘れる」



 私は虚ろな笑顔を浮かべ、カズに言い切るのだった。


 うん、兎に角、話題を変えるべきだ。


 そうすれば、その内忘れる!


 って事で、今この場で最も適切な質問は? ―――と、考えた末。



 「どれくらい、気失ってたん? 私」


 「いきなり普通に戻ったでござるな……。まぁ、丸一日って所でござるよ」


 「そんなに、か……」



 って事は、今は朝。

 アレから、一晩明けてるって事ね……。



 「結局、あの後キマイラは?」


 「それが、良く判らんのでござるよ」


 「判んないって、どういう事?」



 とりあえず、ベッド脇の椅子に腰を落ち着かせたカズは、何やら難しい顔でそう答えた。


 でも、私が気を失った後も、コイツは現場で事の成り行きを見ていた筈だし、判らないって話しが、私には判らない。


 そう思い、尋ねたつもりだったんだけど。



 「それが、その……自分が、こうミンチにしてしまった後なんでござるが、カスミ殿を抱えて医療班に預けようとした所、突然キマイラの肉片が光になって、消えてしまったんでござる」


 「は……??」



 確かに、それは言われてみてもワケの判らない状況だった。


 私はベッドに座り直し、更に詳しい話しを聞く。



 「キマイラの死骸が消えた後、リヴァルト殿やイライザ殿も駆け付け、現場をイロイロ調査してみたんでござるが……」



 どうも、ドロップ品さえ発見出来ず。という事らしい。


 しかも、あれだけ派手に暴れていたっていうのに、その血の痕跡さえ残っていなかったそうな。



 「何それ……、そんな事、有り得るの……?」


 「信じ難い事でござるが、事実自分も現場は調べてみたでござる。でも、何も見付けられなかったんでござるよ」


 「―――妙、ね……」



 此処は、ゲームの世界なんかじゃない。


 だから、生き物であれば、それが前史外生物だろうと、前史生物だろうと、死ねばそこに死骸が残る。


 ドロップ品はアバターラの場合インベントリに直接発生するし、アバターラでない場合にはその死骸から直接的な手段で採取可能だ。


 だから、物によっては食材や素材として、その骨や体液、血肉なんかを手に入れる為に狩る事もある。


 その筈なんだけど……。



 「野生種、じゃなかったみたいね……」


 「自分も、そう思うでござる。アレは恐らく、人為的に作り出された“魔獣”か“聖獣”、ないし“幻獣”だと思うでござるよ」


 「でも、だとしたら……」



 やはり、怪しいのは例の“フードのダークエルフ”だ。


 キマイラの出現と同時期に、村の北西で目撃されるようになった人影。


 人為的に作り出された合成生物だったのなら、十中八九そいつが飼い主だろう。



 「例の“フード”に関しては?」


 「今の所は、まだ何も。北西の森で誰かが野営していたと思われる痕跡は見付ける事が出来たでござるが、キマイラ消滅以降、その場所に姿を現してはおらんでござる」


 「キャンプ場所を変えたか、もしくは―――」


 「“役目”を終えて、既に立ち去った後か。で、ござるな」



 判らない事だらけだけど、でもこれで一つハッキリした。


 その“フード”は、間違いなく何らかの目的を以って動いていたって事だ。


 問題は、その目的だけど……。



 「作物生産量の削減……? ―――ううん、違う……」



 本当にそうなら、蛮族の動きに連動してもっと効率的に動いていた筈だ。


 でも、今回は蛮族に一度も出くわしていない。

 というか、そもそも蛮族を利用するのはリスクが大き過ぎる。


 それに何より、作物生産量に打撃を与えたいなら、この村を敢えて襲う理由が見付からない。



 「……待てよ?」



 逆に考えてみよう。


 この村を襲う理由だ。

 どうしてこの村を襲わせる必要性があったのか。


 恐らく、“フード”だってコチラの情勢は理解している筈だ。


 蛮族の侵攻に合わせて身動きが取れない現状、そこで王都から離れたこの村を襲えばどうなる?


 アールヴヘイムの精霊連合は、村を見捨てるか、軍を動かすかの二択を迫られる。


 此処からは、飽くまでも可能性だけれど……。


 もし仮に、その“フード”か、ないし“フードを裏で操っている奴”が、精霊連合の内情に詳しい人間だったとしたら?


 私の性格や、エルフ達に対する考え方を理解していたら?


 村を襲わせる事で、強引にアールヴヘイムから戦力を……ううん、主力である私を引き離す事が出来る。


 これは賭けに近い考え方だけど、可能性としては間違いなく成功率が高い。


 しかも、仮に私が出て来なかったとしても、軍が動けば精霊連合の戦力を大きく削る事が出来る。


 その上、もし精霊連合が村を見捨てたとしても、“フード”にとっては何の損害も生じない。


 ただ単に、キマイラが村を蹂躙し、多くの死傷者が出るだけだ。


 つまり―――。



 「王都から、動ける戦力を引き離したかった……?」



 ―――待って。それってつまり。



 「ヤバ……ッ!!」


 「カ、カスミ殿?」



 私の突然の行動に、カズは状況が呑み込めず、首を傾げる。


 が、今はそれを説明しているような暇さえ惜しい。


 私がヴォイドフリックで呼び出したのは、王都に残っている主要メンバーの一人だった。



 「―――ツバサ! 返事しなさいッ!」


 『ど、どど、どうしたんですか、カスミ先輩!?』



 突然の怒声に驚き、慌てて返答したらしいツバサの映像に、私は。



 「研究所の夜間警備、シフトどうなってる!?」


 『え、研究所……です、か?』


 「そう! アンタまさか、人員不足だからって、警備の数減らしたりしてないでしょうねッ!?」


 『え……っ、ま、マズかったです、か!?』


 「ああああーッ、クッソ!! やられたッ!!」


 『せ、先輩!?』



 想像出来る中で、それは一番最悪の回答だった。


 ツバサとカズは未だ状況が理解出来て居ないらしく、顔を見合わせていたけれど。


 それ所じゃない。今は。



 「ツバサ、直ぐに爺さんに連絡して、サーバー管理室の情報端末を徹底的にチェックして! 早くッ!」


 『は、はいぃーッ!』



 通信は直ぐに遮断される。


 今頃、ツバサは泡を食ってガンツ爺さんの下に向かってる頃だろう。


 でも、もう手遅れだ……。


 私の推測が正しければ、もうあそこの情報端末はデータを“抜かれてる”。



 「ど、どういう事でござるか、カスミ殿」


 「コッチが、本命だったのよ……ッ」


 「コッチ、とは……?」



 私は血の気が引いた顔をカズに向け。



 「ハートレスシュメルツとMk-IIの開発データ、“ノーマル”の連中にクラックされたって事ッ!」


 「―――っ!?」

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