第二十八話
第二十八話「キマイラの猛威」
王都を出て馬を走らせる事二日。
整備された街道を西に進み、山道を抜けて森林地帯へと入った私達は、目と鼻の先まで迫った目的地を前に野営の準備を整えていた。
「―――出来れば、森を抜けちゃいたかったなぁ……」
既に陽は落ち、今は19時を回ったくらい。
光化学スモッグなんてこの世界には存在しないから、夜間でも現史世界より遥かに見通しが良いんだけど。
それでも、夜は夜行性のモンスターや害獣が活発に動き出す時間で、兵への負担を考えると無理は出来なかった。
とはいえ、二日で100キロ近くを行軍できたのは僥倖だ。
現代でも軍隊の行軍速度は日当たり30キロ程度と言われているから、結構なハイペースで移動出来て居ると思う。
まぁ、少数部隊で歩兵を連れて来ていないから、この速度で動けたワケだけど。
「にしても、流石に蒸し暑いな……。ちょっと水浴びでもしてこよ……」
普通、こういう環境下では簡単に水浴びなんてしてられないんだけど、魔術で用水は幾らでも補給出来てしまうから、現代っ子の私には非常に優しい仕様。
エルフとアバターラの兵士達は、今丁度晩御飯の準備をしてるトコだし、この隙にコソっと浴びてしまおう。なんて思って、テントを出たんだけれど。
「あらま、結構盛り上がってる……」
倒れた樹木を椅子代りに、焚火を囲んでお食事中の仲間達。
アルコールは控えるように言ってあったんだけど、最悪魔術で酔いを覚ます事だって出来るから注意する程の事じゃない、か。
チーズや保存の効くパンを齧り、トレーの上に乗せたスープや総菜を先割れスプーンで突いてる。
コレがなかなか美味しそうで、匂いも良いから胃袋が刺激されてしまう。
(顔を出すべきか……、それとも、水浴びを優先すべきか……)
それが、問題だ。
ウチは男所帯だから、女一人で水浴びってーと、何かと不安なんだよね。
覗きそうなのゴロゴロしてるし。
だから、気付かれない内にコッソリって思ってたんだけど……。
「―――おや、姫様?」
「え……あぁ、イライザか」
振り返って一安心。
早速男に見付かってしまったかと思ったが、この子はエルフの女の子だ。
「姫様もお食事ですか?」
「ううん、男共がメシ食ってる間に、コソッと水浴びでもしてこようかなって」
「ああ、なるほど」
答え、クスリと笑う。
彼女は、従軍給仕っていう特殊な兵科? に属する子で、一応は軍属。
戦場で高貴な立場の人間に給仕を行うという一風変わった職種なんだけど、コレがまた有能で困る。
立ち居振る舞いが優雅で礼儀正しく、従者としての立場を弁えて主従関係の相手に決して恥をかかせない。
その上頭も良くて運動神経抜群。
剣を握らせても魔術を使わせても超が付く一流だ。
これで、専用給仕服なんて物を着込んでいるもんだから、マニアには堪らないと思う。
ちなみに、専用給仕服っていうのは、軍服と同じ素材で作られたメイド服みたいなドレスの事。
コレが地味に可愛い。
「では、わたくしがお供致しましょう」
「いいの? ゴメンね、忙しい時に」
「いえいえ、コレもわたくし共の職務ですので、お気になさらず。仮設テントをお持ち致しますので、しばしお待ちを」
「ん、ありがと」
言うなり、慇懃にお辞儀したイライザは短めの三つ編みを揺らして姿を消した。―――消した!?
「忍者かよ……」
気配も音も無く、本当に目の前で消えてしまった。
気を許していたとは言え、私が察知出来ないとか、何者ですか?(汗)
あの子、名前はイライザ・カヴァーナっていって、従軍給仕の専門学校を主席で卒業したっていうスゴイ子らしく。
ミミからの紹介で今回の遠征に参加して貰ったんだけど、あの子とはエライ違いだ。
まぁ、ミミにもミミの良さはあるから、一概にどっちがイイ! とは言えないんだけど。
っていうか、そもそも人の価値を人が決めるなって話しか。
兎も角、ミミも可愛いけど、イライザも可愛い。コレが正解。
なんていうか、クールなそばかすメガネッ娘って、イイよね!
「最近私、オヤジ化が進んでる気がするわ……」
などとボヤいていると。
「お待たせしました。では、参りましょう」
と誘う彼女の背には、大きな軍用バックパック。
滅茶苦茶重そうなのに、顔色一つ変えずにサクサク森を分け入り……。
「コチラです」
「えっ゛? 何時の間にセットしたの、これ」
そこには、まるで最初から此処にあったみたいな一人用のシャワールームが完成していた。
「先ほど、仮設テントを取りに自分のテントまで戻ったのですが、その際にイロイロと使えそうな物がありましたので」
「組み立てたんかい! あの短時間で!?」
「メイドですので」
ニッコリ笑顔。
やべぇーよ。この人ホント、マジでやべぇーよ。
なんかホラ、黒い執事みたいな感じする。
なんでもサラっとやって、“○○家の執事たるもの〜”とか言い出しそう。
こえー。怒らせんとこ。ナイフとかフォークとか飛んで来そうだからね!
「お着換えはコチラで預からせて頂きますので、どうぞご遠慮なく」
「うん、さんきゅーね」
入口の厚手のカーテンを潜り、鎧とアンダーウェアを脱いで……ってこれ、翌々考えてみたら、端からスキン弄ってインベントリに仕舞っちゃえば良かったんじゃね? とか思ったりもしたけど。
それだと、そもそもシャワー浴びる意味すら失うっていうか……。
考えちゃダメよ。感じるのよ!
「じゃコレ。預かっといてね」
「はい、ごゆっくり。―――あ、何かございましたら、お気軽にお声がけ下さいね」
「ん、わかったー」
で、カーテンを閉めていざシャワー……って、シャワーまで付いてんのかい。
至れり尽くせりですな……。
ゴメン、ミミ。私今、イライザの方がイイ。って思っちゃった。
「…………♪」
蛇口を捻れば壁に取り付けられたシャワーヘッドから適温の冷た過ぎない水。
水温調節までしてくれてるっていうこの徹底ぶりである。
いやぁ〜極楽ですわぁ〜……。
「今更だけど、この髪……洗えるんだ」
人型バーゲストの状態でシャワーを浴びてるから、髪は毛先で黒炎が燃えてるように見えるんだけど、ちゃんと水に濡れてフニャってなってる。
身近な不思議ですわ、これ。
「姫様、水のお加減は如何ですか?」
「あ、うん、バッチリ。ありがとねー」
「いえいえ」
これ、多分外に付いてたタンクの中に水を溜め込んで、そこから水圧で流れるようになってるんだと思うけど……。
うん、これ商品化希望。
帰ったら、ガンツの爺さんに相談してレシピ作ろう。絶対売れる。
なんて、心地良い水の流れに日々の疲れを癒していたんだけど。
「―――姫様、申し訳ございませんが、5秒ほどお時間を頂戴したく存じます。宜しいでしょうか?」
「え、5秒?? うん、まぁ、いいけど?」
と、答えるや否や。
カーテンの向こうから、シュッと風を切る音が聞こえ。
『不逞の輩、排除する』
『げっ!? イライザさn―――ぎゃあああああああああっ!!』
聞こえて来たのは、男共の断末魔の叫び。
(この状況で、覗きに来た奴いるんかい……)
シャワールームは天井も壁もしっかりしてて、覗ける隙間なんて微塵も無い。
っていうのに、涙ぐましいというか、逞しいというか……。
「ただいま戻りました」
「ん、おかえりー。何人だった?」
カーテン越しに尋ねると。
「5人、でございます」
「一人頭一秒かい、呆気ないなぁ……。ま、ご苦労さま」
「いえいえ、お気遣いなく」
笑顔で対応。ホント、有能。
で、それからしばらく。
身体の熱も大分取れてスッキリってトコで外に出たんだけど……。
「嗚呼、姫様……しっとりと水に濡れた御髪までお美しい……。まさにヴィーナス!」
「や、やぁ、カスミ殿。良い天気でござるな!」
そこには、大樹の枝にロープで括られてブラ下がってる顔面ボコボコのカズとリヴァルト。他三名。
「犯人オマエらかよっ!!」
久々にICE込みで顔面にグーパン叩き込んだった。(一応、リヴァルトの方は手加減した)
あと、エルフのアンタがローマ神話の女神の名を口にするな!
ってな事があり―――翌朝。
行軍を再開する前に、若干干からびたカズとリヴァルトを交えての軍議を開いた。
少し狭苦しいテントの中、机の上に地図を広げ。
「距離的には、あとどれくらいかかるの?」
「5キロ程先にエルムトという大きな川が流れていまして、そこを渡り、川沿いに少し北上すると目的のリムニルグに辿り着けます」
時間にして二時間足らずの距離だ。
その後、現地から被害の拡大を知らせる報はない。
これなら、村に大きな被害が出る前に、辿り着けそうだ。と、一安心した時だった。
「伝令! 伝令ッ!!」
テントの外から聞こえて来たその慌ただしい声に、私は背筋が凍るのを感じた。
「姫様! 姫様は何処にッ!!」
私を訪ねて走るその声に、カズやリヴァルトと顔を見合わせ、直ぐにテントを飛び出す。
「此処だ! 何があった!?」
「姫様、コチラにおいででしたか!」
尋ねた私に向かい、伝令の騎士が膝を折る。
「ご報告申し上げます! つい先ほど、リムニルグ北西の山林からキマイラが出たとの知らせが!」
「被害はっ?」
「狩りに出ていた村人が一名、重症を負って治療院に担ぎ込まれたとの事。ですが、今の所は駐屯部隊の働きにより、辛うじて村への侵入は許していないようです!」
「……わかった。向こうには直ぐに向かうと伝えろ!」
「ハッ!」
私の指示に従い、直ぐに走り去る伝令。
「殿下、荷駄隊を率いていては間に合わぬやもしれません。此処は、アバターラ小隊だけを引き連れ、先に現地へ」
「……ゴメン、リヴァルト。悪いけど、そうさせて貰う。コッチはお願いね」
「ハッ、この身命にかけて!」
拳を胸に敬礼し、リヴァルトは。
「皆、聞け! 緊急事態だ、急ぎ出立の準備を!」
「「ハッ!」」
「バーゲスト隊、カズーイ隊は私に続け! 残りは以降、リヴァルトの指示に従って行動せよ!」
「「了解っ!」」
私は直ぐ様インベントリからグラーネを召喚。それに跨ると、小隊メンバーが同様に軍馬を召喚しているのを確認し。
「カスミ・バーゲスト、出陣するッ!!」
グラーネの腹を蹴り、敬礼する仲間達を背に陣を飛び出した。
追走するカズと小隊メンバーの軍馬。
蹄の音を響かせ、土煙を上げながら、林道を駆け抜ける。
先導役の話しによれば、村までの距離は5キロ弱。
と、するなら、軍馬の全速を出せば一時間かかるかどうかといった所だろう。
だけど、私に追走するカズは。
「カスミ殿! グラーネの足なら、まだ間に合うでござる!」
「解ってるけど……ッ」
「直ぐに追い付くでござる。心配めさるな!」
「―――ゴメン、何時もありがと、カズ!」
言うまでもない。彼には分っているのだ。
隊を預かる者としての責任を放棄し、独断先行するのは軍の規律を守る上で有ってはならない事。
しかし、同時にアバターラが所有する騎乗用アイテムには階級があり、私が駆る“グラーネ”は最上位の軍馬。
カズや他の仲間達が使う軍馬とは比較にならない程機動力が高いのだ。
ならば、規律を守るよりも先に、守れる者を守るべきだと、カズは言っている。
そしてそれは、戦力としての私を信じているからこその迅速な判断だった。
「みんな、ゴメン! 先に行く!」
「気にしないで! ちゃんと直ぐに追い付くから!」
「カスミさん、村の人達を頼みます!」
誰一人、先行しようとする私を責めるような事を言わない。
みんな、何が最善かを解って背中を押してくれている。
だから―――。
「―――絶対、守って見せるッ!」
私はグラーネに鞭を入れ、手綱を強く握った。
同時、嘶きと共にグラーネの四肢が蒼炎を放ち、更に加速。
高速から、超速へ。
爆撃もかくやと蹄が大地を砕き、その俊足は仲間達を一瞬で遥か彼方へと置き去りにした。
その時速、実に400キロ。
これは、通常の軍馬の凡そ7倍近い速さだ。
グラーネというその名が示す通り、この子は彼のオーディンが愛馬“スレイプニール”の系譜。
ワーグナーのオペラ『ニーベルングの指環』では、ヴァルキューレの一人“ブリュンヒルデ”が愛馬としたのがこのグラーネで、古ノルド語では“グラニ”ないし“グラネ”とも呼ばれる。
即ち、グラーネとは、空をも駆けると言われた神馬の血を継ぐ軍馬なのだ。
正直言って、速い。―――否、速過ぎてチビりそう!!
だってこれ、F1カーより早いんだよ!?
言いたかないけど、余りの風圧でヒロインが絶対にしちゃいけない顔になってるし!
落馬なんかしたら、それだけでミンチ確定!
でも、だからこそ、この子の最高速なら、5キロなんてあっという間だ。
森を抜けて直ぐに見えて来た大きな川。
そこに渡された橋の上を駆け抜けようとも思ったけれど、この子の脚じゃ最悪橋を落としてしまい兼ねない。
とっさに私が取った行動は?
「―――うぇぇぇ〜〜〜〜〜〜いっ!!」
―――飛び越える!!
もう早過ぎてどのくらい川幅があったかも分かんないけど、砲弾みたいにジャンプして着地で地面を抉り飛ばしながら、それでも尚速度を緩めずに方向転換。で、走る、走る、走る!
「どーゆー身体能力してんのよ、アンタはっ!?」
「ブルルルヒヒィ〜〜〜ンッ!」
あ、一応答えてくれるんだ。言葉解んないけど。
なんて馬鹿な事してる間に、あっという間に集落が見えて来て。
「だーもっ、コッチじゃない! 北西よ、グラーネ!」
「ブルルヒィ〜〜〜ンッ」
村の外周を区切る柵を乗り越え、驚きながら暴風に晒されてる村人達に内心謝りつつ、木造建築の家々を縫うように駆け抜けて―――。
「―――見ぃ付けたぞゴルルぁあああああああッ!!」
もう冷や汗やら涙やら鼻水やらヨダレやらでぐちゃぐちゃの顔のまま、見えたのは今まさに駐屯部隊のエルフ達を突破して村へと侵入しようとしていたキマイラの姿だった。
「―――ッ!?」
「ブッ飛べ……ッ」
時速400キロから跳躍しての。
「必殺・お馬さんキィィ―――ックッ!!」
「ッブヴェルァオォーッ!!?!?」
的がデカくて狙う手間が省けた。
空中でグラーネと共に身体を捻り、前後上下を逆さまに、空爆のようなグラーネの後ろ足キックをキマイラの顔面(獅子)に叩き込んでやった―――んだ、けど。
「へぶっ!!」
「ギャブルルルッ!」
キマイラをぶっ飛ばしたと同時、私とグラーネも当然着地なんて出来る筈もなく。
あえなく地面に激突。……かと、思いきや?
「―――いったぁ〜……」
なんて、直ぐに起き上がれるくらいには無事で。
「これ……藁? ってか、干し草?」
どうやら、固めて置かれていた干し草の中にダイブしたらしく、私もグラーネもほぼ無傷。
そういえば、この村って農業が盛んだとか言ってたっけ?
と、その干し草の中から這い出してみると。
「ひ、人……なのか!?」
「というか馬も一緒、に―――って、姫様!?」
「な、何という無茶を……! 殿下、ご無事ですかッ!?」
駆け寄って来たエルフの兵士達に助け起こされた。
「いやぁ〜……面目ない」
「い、いえ、ですが……いったい、どうやって此処へっ?」
「この子、に乗って?」
「馬……です、よね……」
まぁ、彼らにしてみれば、まだ数時間は援軍も来ないって覚悟してたくらいだろうし、こんな反応も無理はないんだろうけど……。
「っと、それより、全員無事!?」
「あ、はい、何名か怪我人が出ていますが、先ほどの姫様の突撃に救われ、今の所は全員無事ですっ」
「―――ホッ、良かったぁ……」
干し草塗れだっていうのに、それ聞いて思わず安堵。
足の力が抜けて、座り込んでしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あぁ、ダイジョブダイジョブ……。ちょっと安心しちゃっただけ……アハハ」
「姫様、まさか……我々の為に、お一人で?」
「ったり前っしょ〜? 兵士も、村人も、アンタらみ〜んな、この国の大事な国民なんだからさ……。王族として、ちゃんと守ってあげなきゃ。でしょ?」
「―――ッ!」
途端、10人くらい居る兵士達全員がその場に膝を付いて。
「我らのような下々の者にまで、なんとお優しい……!」
「一同、殿下にお仕え出来た幸運を、生涯の誇りと致します!」
「我ら、一層の忠誠を以って、姫様にお仕え致しますッ!!」
何を言い出すかと思ったら、そんな事。
私がエルフ達を好きで、だから、私が勝手にやってる事だっていうのに。
「殿下、なんなりとご命令をッ!」
「お、おう……」
なんか、凄く感謝されてしまっているようだった。
でも、なんて事をやってる内に。
「―――グルルル……ッ」
聞こえて来たのは、低い低い唸り声。
兵士達も気付き、顔を上げ、私も振り返る。と、そこには。
「■■■■■■■■―――ッ!!」
形容し難い咆哮を轟かせ、大気を強く震わせながら、三つ首の巨体がノソリと身を起こしていた。
「うわぁ……、ピンピンしてるよ……」
さっきの跳び蹴り。アレ半分フザケてた部分はあったけど、実際の衝撃は相当な物だった筈だ。
それを顔面に喰らったっていうのに、目の前のキマイラは当然のように立ち上がって来た。
「実際目の当たりにしたのは初めてだけどさ……」
ライオンの頭と山羊の頭、それに、尻尾にはやっぱり蛇の頭が付いていて。
胴体は前半分がライオン、後ろ半分が山羊って感じになってる。
それに、前足は必要以上に発達したライオンの物になってるから、爪も鋭くて攻撃力は相当高そうだ。
「こんなの相手に、良く戦ってくれたよ、ホント」
「いえ、姫様と同じく、我々にとっても民は宝。それを守る為の兵士です」
「フフッ、カッコイイじゃん」
「い、いえ……っ」
エルフのオッサン、照れるの巻。
ちょっとカワイイ。じゃ、気を取り直して!
「それじゃ、今からこの場の全員、私の指揮下に入って貰う。異論は?」
「ハッ、ございません! ワタクシ以下十名、リムニルグ駐屯小隊は、これより姫殿下の指揮下に入ります! 如何ようにもお使い下さい!」
「結構。では―――現在、我が旗下の増援部隊がコチラに向かっている最中だ。よって、我々の目標は、目の前のキマイラをこの場に押し留め、集落内への侵入を何としても阻止する事である。増援部隊の到着まで時を稼ぐのだ。故に、無理をする必要はない」
私は右手を掲げ、キマイラを睨み付ける。
「敵は体躯も大きく膂力もある。だが、そんな物に敢えて近付く必要はない、弓矢と魔術で距離を取って戦え!」
「「ハッ!」」
「前衛には私が出る。隙を見逃すな」
「で、殿下御自ら、ですか……!?」
「私の噂は知っていよう……?」
ニヤリ、と笑って見せると、小隊長は。
「“黒炎の戦姫”……。お手並み、拝見させて頂きますッ!」
「よし、各員散開! 我らが身命を掛け、この場を死守するッ!」
「「応ッッ!!」」
友軍は僅か10名。
この数で、あの化け物を相手に時間を稼がなければならない。
私の予想が確かなら、私は、コイツに苦戦を強いられる筈だ……。
「なんせ、コイツには“炎が効かない”筈だからね……ッ」
純粋な打撃力の勝負になる可能性が高い。
けどまぁ、試してみるしかないでしょ!
「■■■■ッ!!」
「総員、攻撃を開始せよッ!!」




