第二十六話
第二十六話「蛮族 VS 精霊連合」
蛮族のボレアース門襲撃から二日。
攻め寄せて来た2万の蛮族軍を辛くも押し返したアールヴヘイムのエルフ軍とアバターラ連合軍だったが、現在も散発的な攻撃行動を各地で繰り返している蛮族軍の動向に、エルフ達は頭を悩ませていた。
なんでも、アールヴヘイム北方にある対蛮族軍の要衝“ノースウェッグ要塞”が陥落してしまったらしく、その所為でヴェッシュモント山脈の涸れ谷から蛮族の軍勢が自由に行き来しているらしい。
その為、相当数の蛮族が国内に入り込んでいるらしく、物見の報告ではその数10万とも20万とも報告がなされている。
「―――結局、その“ノースウェッグ要塞”を取り戻さない事には、埒が明かないって事ね……」
今、アールヴヘイム城の会議室には、円卓を囲んでエルフ軍の将軍格とエルフの長老、そして、ダイキや社長を初めとしたアバターラ軍の最高幹部が集まり、軍議を行っている最中だった。
「申し訳ありません。我々が不甲斐ないばかりに、王族の方々にまで、そのお手を煩わせてしまい……」
悔し気に奥歯を噛み締めるエルフ軍の大将軍に、ダイキは首を横に振る。
「アナタ方の所為ではありませんよ。それに、今は悔いるよりも先に、すべき事がある筈です」
「―――はっ」
ダイキもまぁ、王様業が板について来たというか、何というか……。
私達が囲む円卓の中央には、魔法技術で作られたホログラフィックのような映像が投影されている。
そこに映し出されているのが、アールヴヘイム全域の地図情報。
複数の赤い矢印と緑の矢印が各所に点在していて、これが彼我の戦力分布って所だろう。
色分けされた赤い土地は蛮族の勢力下にあり、緑の土地はアールヴヘイムが未だ抑え切れている領地、って事になる。
この映像、なんでもリアルタイムで情報が更新されているらしく、管理しているエルフ達の軍事技術の高さにはちょっと驚かされた。
「カスミちゃ〜ん、戦ってみたカンジ、どうだったぁ〜?」
「蛮族の事?」
「そ〜そ〜」
隣に座る社長が、唐突にそんな話を振ってくる。
戦ってみた感想を訪ねているんだろうけど……、複雑だ。
「率直に言わせて貰うと、身体能力の高さで言えば、人間やエルフの比じゃないね。アイツら、自前の筋力だけで岩砕いたりするし」
「まぁ、そ〜でしょ〜ねぇ〜……」
「けど、ハッキリ言って知性はそこまで高くない。指揮してる奴はそこそこ頭も使えるみたいだけど、前線の部隊はまるでその意味を理解出来てない感じだった」
そこが、膂力で劣るエルフでも連中の侵攻を防ぎ切れている理由だろう。
勿論、エルフには強力な魔法や魔動兵器があるから、その火力も含めて、だけれど。
「手っ取り早く〜弱点とか見付けられそぉ〜?」
「有るには有る。けど、如何せん数が多過ぎて、現状じゃ使えない。それに、こう散発的に各地で小部隊に小突かれてると、どうしてもコッチの戦力を分散せざるを得なくなる。ムカつく話しだけど、数字の有利さを理解した合理的な戦術だわ」
「ん〜、何とかならないかしらぁ〜……」
社長も頭を捻るが、これがなかなか難しい。
エルフの軍隊だけじゃどう考えても対処し切れる数じゃない。
かと言って、アバターラの戦力だって、全部を全部投入するって訳には行かないのだ。
と、いうのも、心情的な問題があるからなんだけど。
「実戦を知らない元一般人を、あの戦場にいきなり放り込んでも……ね」
「そうねぇ……」
実の所、コレが一番の難問だった。
アバターラは確かにチート並みに戦闘能力が高い。
けど、それは飽くまでもゲームの中で培われた物で。
このアールヴヘイムに移住してきたアバターラの総数は、凡そ2億8千万人。
けど、その内戦力として数えられるのは、精々1万程度といった所。
その理由は、実戦って物の過酷さと凄惨さにある。
大部分のアバターラが、“血と痛みに慣れていない”のだ。
「幾ら戦力不足とは言え、彼らにあの戦場へ出て行けなんて、強制は出来ないからね……」
「戦える力があるんだから、戦いなさいよ! って、言いたくもニャるんだけど。……そうも行かニャいよねぇ〜」
「慣れてしまった、ボクらが言うのも、何だけど……、出来る事、なら、慣れたい物じゃ、ないよ……」
ダイキを初め、カナやツバサも同意見らしい。
実際、戦慣れしてない連中を戦場に送り出したって、下手をすれば共闘しているエルフ達にとっても良い迷惑になり兼ねないのだ。
現実の世界では、ゲームのように引き金を引く事が出来ない。
相手が生き物で、言葉を交わす事の出来る知性であるなら、それは尚更って奴で。
実際、人間同士の戦争でも、そういったデータは実証されてる。
その為に、特別に“人を殺す為の訓練”って奴を積むんだ、兵士達は。
それに、そんな風に訓練して、人を殺してしまったとして、その内の何割かは、もう元の生活には戻れなくなるって聞いた。
PTSDやC−PTSDなんかがそれだ。
恐怖感や危機感を継続的に受け続けて、昼夜問わず興奮状態に陥り、自己を正当化して虐殺行為を行う。
そんな事を続けていれば、普通の倫理観を持つ人間なら気が狂ってしまうのも無理はない。
それに、言葉はアレだが、此処の戦場に立つならやっぱり“グロ耐性”ってのは必須だ。
内臓脳漿ブチ撒けて、返り血浴びてもケロっとしてられるくらいでなきゃ、此処じゃ生き残れない。
実際、アバターラの兵士達の中には、そうやって死を経験し、ヴァルハラに送られて帰還した後、戦えなくなったって奴も少なくない。
もう、ゲームではないのだ。
例え、私のようにアバターラの死を捉えていなくとも。
一度“死”を経験する事で、余計にそれが恐くなってしまうのだろう。
だから―――。
「無い物強請りしたって仕方ない。とりあえず、やれる事を順に探って行くしかないんだ」
「そうねぇ……」
社長に続き、ダイキやカナ、ツバサ、それにカズやエルフの将校も頷き、全員で戦局図を眺める。
今、こうしている間にも、それぞれの戦地ではエルフの仲間達が次々と命を落としている。
このまま、黙って指を咥えている訳には行かない……。
(―――やっぱり、使うしかない、か……)
私の頭の中にあるそれは、エルフ達の戦い方を根底から覆す物で。
蛮族にとっても、それは常識外の戦術になる。
だから、効果の程は覿面と言えるだろうけど……。
(あぁ〜クソッ、何処まで行っても、人間って生き物が鬱陶しい……ッ!)
アールヴヘイムに入植した人間の数は、凡そ1億8千万人。
その中には、確実に“ノーマル側”の息がかかった連中が相当数混じってる。
これは、どんなに厳しくチェックをしていても見落とされている筈だ。
そんな連中に、アバターラの軍事技術に関わる情報を渡してしまうのは、ハッキリ言って気に食わない。
それがずっとネックになっていて、結果として多くのエルフの命を無駄に散らせてしまっている。
ホント腹立つ。マジで……。
とは言え、これ以上エルフに被害を出したくはない。
背に腹は代えられない……。
「―――ダイキ、“アレ”を使う」
「アレ? って……まさか!?」
エルフの将校達は顔を見合わせ、首を捻るが。
「確かに、“アレ”なら蛮族の侵攻も抑えられると思う……。けど、それだとノーマルに……」
「四の五の言ってらんないのよ。これ以上、エルフ達の被害を増やしたくないの」
「それは、解るけど……っ」
ダイキは、“アレ”の正体を知っている。
いや、ダイキだけじゃなく、カナやツバサ、それに社長も、カズも。
だから、アバターラ陣営のメンツは揃って渋い顔をする。
でも、それでも、だ。
「最悪の場合、私が全ての責任を取る」
「カスミちゃん、本気なのかい……?」
ダイキの問いに、私は即座に頷いた。
責任、という言葉の重みを、ダイキは理解しているんだろう。
「―――わかった。でも……後悔は、しない?」
「しない。もう後戻り何て、とっくの昔に出来ないトコまで来てるんだから」
「……。……そう、だね」
重々しく頷き、ダイキは椅子を立つ。
そして、エルフの将校達に、それを告げるのだった。
「エルフ軍の皆さん、これより我々アバターラはこの困窮した戦局を覆す為に“新兵器の量産計画”に着手します」
「新、兵器、ですと……!」
「詳細は追ってご報告させて頂きますが、その前に先ずは概要説明を。―――いいかい? カスミちゃん」
「了解」
私はダイキに代って椅子を立ち、ヴォイドフリックで映像データを表示させた。
そこに描かれているのは。
「―――“アヴェンジャー・Mk−II”……!」
その、設計図。即ち、開発レシピだ。
「コレは、いったい……?」
「エルフでも試験運用が開始されたばかりの“パンツァー”ってあるでしょ。アレを現史世界の技術とアバターラが持つ軍事技術で作り出した物が“コレ”よ」
「な、なんと……っ!」
「しかし、形状がまるで別物ですな……。運用方法にまるで見当がつかない……!」
「コレはアバターラにしか扱えない。残念だけど、この兵器の運用に関しては、アナタ達に任せる事が出来ないの」
「おお……、神々しくも勇ましい! つまりコレは、“神兵の騎馬”という訳ですな……!」
なんて言われ、私はつい悪乗りしてしまい。
「へぇ、“神兵の騎馬”なんて、良いセンスしてるじゃない、大将のオジサマ」
「オ、オジサ……っ ぁいやぁ〜……アハハっ」
オジサマ、そこまで照れんでも。
そんなに色気出したつもりも無かったんだけど……まぁ、いいや。
でも、そのネーミングは悪くない。
折角だ、活用させて貰おう。
「じゃ、折角だからそれ採用。今後、この“アヴェンジャー・Mk-II量産化計画”は“プロジェクトGSK(Gott Soldaten Kavallerie)”と呼称する。異論のある者は?」
表示画面にプロジェクト名の表記を追加し、周囲を見回して異論が無い事を確認。
約一名、GSK(Gott Soldaten Kavallerie)の意味が解らずに猫耳ピコピコさせてる子がいるけど、そこは無視だ。
「なんか、カッコイイ名前ニャ!」
「うん、アンタはそのままのアンタで居てね」
「ニャ?」
そのやり取りに、少し場は和み。
けれど、直ぐにまた全員の表情は引き締まる。
「で、概要だけど。―――この“アヴェンジャー・Mk-II”は、以前私が試作した“アヴェンジャー一号機”の後継に当たる魔動戦車の量産型で、前々からこうした状況を予期して開発を進めていた物だ。主な装備は―――」
―――と、ある程度Mk-IIが有する戦闘力について解説を行い、量産にかかる時間や費用、資材について粗方エルフとの間で話しが付いて。
陽も落ちて来たという事でその日は解散。
翌日から、早速プロジェクトGSKは始動し、各所から資材の搬入が開始された。
通常、こういった新兵器の開発には途轍もない時間を要する筈なんだけど、そこはアバターラの特権って奴で。
資材さえあれば優秀なクラフター達が幾らでもパーツの量産作業を短時間でやり遂げてしまう。
その先頭を切って活躍するのは、やはり“あの人”で。
「やっほ、爺さん」
「おお、ワンコちゃんかぁ。息災なようで何よりじゃ」
ガンツの爺さんだ。
城下にある比較的なだらかな丘陵地帯に建てられた王家管理のアイテム研究開発施設。通称“アールヴヘイム王立研究所”
その全てを取り仕切っているのが、この人。
王家が抱える研究施設は幾つかあるけど、その中でも一番の敷地面積を持つのが此処。
広さだけなら約230万へーべー程あり、これは米国防総省の本庁舎に匹敵する。
研究施設自体はそこまで大きくないけど、部署毎に研究棟、開発棟、試験場、格納庫と分かれてる。
特に試験場は広くて、試作兵器の軍事演習にも利用されたりする程。
この辺りの建築物はガンツの爺さんが設計した事もあり、かなり近代的だ。
お陰で、自衛隊の軍事施設みたいな見た目になってる。
今私が訪れているのは、その開発棟にある兵器開発室。
試作品のパーツやら用途不明の機械やら、設計図やら殴り書きされたホワイトボードやらで室内はゴチャゴチャしてるけど、その中をアバターラのクラフター達が忙しなく走り回っていて、イロイロ忙しそうだ。
まぁ、爺さん自身は机に座って優雅に“こーしー”なんて啜ってるんだけども。
「アレの進捗は?」
「ボチボチって感じじゃな。2〜3日中にゃ試作品も完成するじゃろうて」
“アレ”ってのは他でもない。Mk-IIの事。
昨日決まったばかりの計画が翌日には此処まで進んでるんだから、全く本当に呆れ果てる。
それにしても、良くもまぁそれだけの資材を一日で用意出来たものだ。
恐らく、エルフの人達が掻き集めてくれたんだろうけど……。
「―――ん、そっちの嬢ちゃんは……?」
「は、ははい! はじめましt―――あぃだっ」
私の後ろから飛び出し、挨拶しようとして頭を下げた所で机の角に頭をぶつける人物。
というか、そんな事が出来るのは、私の身近だとこの子くらいのもんだけど。
「エ、エルフ族のミミと申します! 姫様の従者をさせていただ痛で……ッ!」
舌噛んでるし。
「ホッホッ、また斬新な自己紹介じゃな! 苦労しとるようじゃの、ワンコちゃんも」
「まぁ、ね。でも、カワイイはジャスティス」
「解っちょるじゃないか、んむ」
サムズアップしてお互いにニッと笑い合う爺さんと私。隣で赤面するミミ。
うん、カワイイ。
「あぅ……」
まぁ、この子を今日連れて来たのは、爺さんとの顔合わせって意味もあったんで、為人は大体掴んで貰えたと思う事にする。
っても、理由は、それだけじゃないんだけど。
「しかし、まさかこんな小さい娘っ子がのぅ……」
「そうは言うけど、コレでも爺さんより年上。この子、45才ね」
「なっ、なんじゃとぉ!?」
そりゃ驚くわよねー。
エルフの寿命は1000才とも2000才とも言われてる。
人間とじゃ成長速度に差が有り過ぎるんだ。
ただ、コッチに移り住むようになってそこそこ経つのに、それでも爺さんがこんな風に驚くのは、勿論理由があって。
「エルフの子供……と言って良いのかどうか、甚だ疑問じゃが、こんな若い子に会ったのは、ワシも初めてじゃよ……」
「エルフは、余り子供を作りませんですから……」
コレが、その理由。
エルフ達は、その長過ぎる寿命故に、子孫を残すという行為に余り積極的ではないらしい。
だから、この街にも沢山エルフが住んでいるけど、エルフの子供を見るなんて事は滅多にない。
エルフにとって、子供は貴重なのだ。
「じゃが、本当に大丈夫なのか? かなりの重労働になると思うが……」
「大丈夫。この子、こう見えて魔術の才能はエルフの中でも間違いなくトップクラスよ。ね、ミミ」
「はい! ミミ、それだけが取り柄ですです!」
ふんす、と鼻息荒く応える耳に、爺さんはまだ懐疑的。
これからやろうとしている事を考えれば、不安も解らないではないんだけどね。
「百聞は一見に如かず。って言うでしょ? 先ずは試してみなさいって」
「ふむ……、ワンコちゃんがそこまで言うんじゃ、試してみる価値はあるか……」
徐に立ち上がり、その手に大きな鍵束を持って。
「よし、なら早速じゃが、始めようかの」
「はいです!」
爺さんはミミと私を先導し、開発室を出た。
その足が向かうのは、試験場。
三階建ての建物で、一階には管理室があり、二階、三階が倉庫になっているんだけど、今回用があるのは、地下一階。
そこにある、第三試験場だ。
「此処、初めて入ったわ」
「そうじゃったか? まぁ、滅多に使う事はないからの」
連れて来られたそこは、広々とした真っ黒な空間。
壁も床も天井も、何もかもがニッケルベースの超合金製で、耐熱耐腐食耐衝撃性に優れた部屋なんだとか。
で、そんな如何にもな場所で何を試験するのか、というと。
「ちょっと待っちょれよ……。っと、コレじゃコレじゃ」
爺さんが隣にある準備室から引っ張り出して来たのは、キャスターの付いた厳めしい金属製コンテナ。
大きさは人一人がスッポリと入れるくらいで、上部と下部の間に歪な筋掘りがあるのが見える。
運んで来たそれの中央部に板状の鍵を差し込むだけで、その溝に沿ってコンテナの蓋が開き、中から出て来たのは。
「へぇ、なかなか様になったじゃん」
「ワンコちゃんが好きそうじゃと思うての、デザインには拘ってみたんじゃよ」
出て来たのは、これまた厳ついデザインの自動小銃。
しかし、コンテナから抜き出したその銃には、マガジンを差し込むべきスロットが無い。
代わりに、グリップに当たる部分に、小さな球体が嵌め込まれていて、それはレンズのように綺麗に磨かれていた。
「コレが、汎用型呪装式魔銃“ハートレスシュメルツ”。その試作品じゃ」
「おほおーっ♪ イイ! イイよ爺さん! さっすが〜♪」
手渡され、間近で見て。
思わず頬擦りしたくなるようなデキ。
黒くて無骨で、それでいて先進的なデザイン。
マガジンが無いというのも、その大きな特徴だけど、バレルカバーに内蔵された大型バヨネットがまたイカス。
しかも、これだけの大きさでバヨネットまで標準装備しているのに、その軽さといったら!
「う〜んっ、たまんない……っ」
「気持ちは解るがの、ワンコちゃん。その……、おまたに挟んで頬擦りっちゅうんは、なんじゃ。年寄りにゃ目の毒じゃよ……?」
「―――ハッ!? し、失礼……。オホホホ♪」
ちょっと興奮し過ぎて我を忘れていた。
さて、でだ。
コイツをどうするか、っていうと?
「ほい、ミミ。試し撃ち」
「合点なのです! ―――うぇえええええっ!?」
それを手渡した直後、反射的に受け取って返事までしたミミは仰天。
わたわたと両手の中で弄び、落としそうになって慌てて引っ掴む。
「試し撃ちってなんでぃすかぁっ!?」
「試し撃ちは試し撃ちでしょ。試射よ?」
「どうしろとっ!?」
「ん……あぁ、そっか。使い方どころか、コレが何なのかも判ってないのよね、アンタは」
ブンブンとすっぽ抜けそうな程首を縦に振り乱し、ミミさんは銃を私に返そうとする。
から、私はそれを断り、彼女の背後に立って握り方から手取り足取り。
「ココ、ちゃんと掴んで。ココから魔力を供給するからね。あぁでも、コレにはまだ指かけちゃダメよ? で、コッチの手は、コッチ。しっかり支えてね」
今日、此処にミミを連れて来た一番の理由がコレだ。
このハートレスシュメルツは、以前私が考案したブリューナクの技術を応用し、汎用性を高めて魔力を扱える者なら誰にでも扱えるよう改良小型化した物。
ただ、魔力の供給量がかなり多くて、まだ改良の余地がある、と爺さんから報告を受けていた。
そこで、魔力の扱いに長けているミミをテストに推薦したってワケ。
「あのぉ、姫さまぁ」
「ん、なに?」
「何を食べたら、ミミもこうなれますか……?」
と、唐突に後頭部をぐりぐり押し付けてくるミミ。
そういえば、あんまり気にした事なかったけど、私って胸結構あんのよね……。
普段から無駄な爆乳見せ付けられてる所為で、自分がそこそこあるって事を忘れがちになる。
「ほっときゃ……まぁ、その内?」
「なりませんよ!? ミミ45才! 姫様19才! この差は如何に!?」
「食い付いてくるわね……」
「だって! 大神官様も凄くおっきいですし! 何か秘訣があるのでは!?」
すっごい食い付いて来る。
今頃、カナ辺りが―――。
『ちっぱいはステータスニャ! 希少価値なのニャ!』
とか言ってそうだけど。
「だーいじょぶだってぇ、その内ビッグになれるわよ、アンタは」
「……信じます。信じて、毎日牛乳をガブ飲みしますです」
「うんうん」
でも、確か胸の発育って、プロラクチンとかいう下垂体ホルモンの分泌量で決まるから、初潮前後の時期に成長してない場合、その後はどう足掻いても大きくならないのよね……。後は、妊娠時だけ。
エルフの場合、それがどのくらいの歳で来るのか解らないから、私には何とも言えない。
ただ、あまり胸の大きなエルフって見た事ないんだけど……なんて、ミミと話していると。
「のぅ、ワンコちゃんや……。試し撃ち、してくれんのかの……?」
「あぁ! ごめんごめん!」
「も、申し訳ありませんですっ! 真面目にやるです! ね、姫様!」
「お、おぅ」
とりあえず、構え方はOK。
次は狙いの付け方。
部屋には的が既に用意されているから、その人型を模した的の中心に狙いを定め―――。
「引き金を引く」
「はいです!」
ドットサイトを覗き込んだミミがその人差し指で引き金を引く。
瞬間、マガジンも装填されていないというのに、HSの銃口から激しい閃光と共に弾丸が発射され、設置されていた特殊合金製の的のど真ん中に命中、風穴を空けた。
「おわぁあっ!」
「っとと」
が、反動は大した物じゃないんだけど、小柄なミミは驚いた所為もあって後ろ向きに転びそうに。
それを私が受け止め、彼女の手から滑り落ちたHSもしっかりキャッチ。
「銃から手を放しちゃダメよ? 危ないからね」
「は、はいっ、すみませんですっ」
まぁ、これは私がちゃんと反動なんかについて教えなかった所為でもある。
怒るような事でもないから、不安そうに顔を伏せていたミミの頭を軽く撫で付け。
「実際の銃と違って、手を滑らせたから暴発、なんて事もないし、気にしないでいいよ」
「は、はぁ……?」
実銃って物が解らないミミには理解不能だったらしく、ただその説明までするのは面倒で、あえて苦笑を浮かべつつスルーする。
「ま、実射テストとしては成功って感じね」
「じゃな。威力はかなり落ちるが、これなら十分に蛮族共にも通じるじゃろうて」
「でも、問題は魔力の供給量ね……。もう少し効率化出来ないの?」
「威力を下げずに供給量を減らすとなると……、難しいのぅ」
なんて、爺さんと話し込んでしまい。
後ろで何かやってるミミの様子に、私はまるで気付いていなかった。
「呪装弾の威力は装填する魔力量で決まる。これは、実際の銃弾の火薬量に相当するのぅ」
「実銃での弾丸の大きさが呪装弾の術式に相当する。だから、この場合―――」
威力を下げずに魔力量を節約するには、と考えていた真っ最中。
突然、背後から鋭い発砲音が室内に響き渡った。
「にょわあっ」
「ちょ、ミミ!?」
「な、なんじゃあ!?」
再び転びそうになるミミを慌てて滑り込んで支え、落下してきたHSをキャッチする、が。
「ちょっと、何これ……っ!?」
「ひゃああ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいいぃーっ!」
もの凄い勢いで立ち上がり、正座したかと思ったら、そのままの勢いで何度も何度も土下座。
が、問題はそこじゃない。
「銃口が……、焼けてる」
「それだけじゃあないぞい、アレを見るんじゃ、ワンコちゃん」
爺さんが指差した先にあるのは、的の装甲板。
その中央には、先ほど開けた大きな風穴の他に、もう一つの小さな風穴が開けられていて。
でも、本当に驚かされたのは、その先だ。
的の向こうにある壁面には、先ほどまではなかった大きな焼け跡。
それは、的の穴から一直線に高熱量のエネルギーが衝突した事を示している。
つまり……。
「ミミ……、アンタこれ、いったい何を!?」
「ご、ごごっ、ごめんなさいっ! 怒らないでくださいぃ〜! 前に、姫様の机で見た事のある術式だったので、ちょっと非効率かなぁって、調節してみたら、こんな事にぃ〜〜〜っ」
「ウソ、でしょ……術式を、書き換えたって事!?」
「うわぁ〜〜〜んっ、怒らないでぇ〜〜〜っ」
わんわん泣き出すミミ。だけど、それを気遣っている余裕すら無いくらい、私は驚かされていた。
彼女は今、卓上で私が書いた設計図の術式を見て、書き直したと言った。
でもそれは、そんな簡単な話しじゃない。
書き直したという事は、その術式をこの子は読み解いていたって事。
しかも、誰に教わるでもなく、私が書いた物を見ただけで、だ。
その上、非効率だという指摘まで的確。
結果は見事の一言だ。
設計上、弾丸の威力や放熱量を計算し、十分な強度を与えていた筈の銃身。
それが一発撃っただけで焼け付けを起こしてしまっている。
「ワンコちゃん、とりあえず嬢ちゃんは何やら勘違いしとるようじゃ、少し落ち着こうの」
「あぁっ、そうね! ゴメン、ミミ。怒ってるんじゃないの、ただ、ちょっと驚いちゃって……」
「へぅ……?」
頭を撫でてやると、ミミは直ぐに泣き止み。
「驚いたわ……。まさか、あの術式を見ただけで読み解いてたなんて……」
「盗み見して、ごめんなさいです……」
「だぁかぁら、怒ってないってば。むしろ、褒めてるの。スゴイ事なんだから」
「そう、なのです??」
この子は、多分私が思っていた以上の逸材だ。
術式っていうのは、言ってみれば魔術を行使する上での回路図に当たる。
そこには特定のリズムや方向性のような物があって、私達アバターラは、それをICEを通してシステム的に構築する為、実際に術式を書き上げるといったような事は先ず出来ない。
出来るとすれば、ガンツの爺さんのように卓越したクラフター技術を持った人間くらいの物で、そうなるには、相当な数の術式を日常的に目で見て脳で覚えるしかないのだ。
それを、僅か数回見ただけで、この子は……。
「天才、だわ……」
「じゃな。正直、同じ条件だったとした場合、ワシでも此処まで的確な書き換えは行えんじゃろうて」
「そんなに、難しい事をしたつもり、なかったですが……」
そう答えるミミに、私とガンツの爺さんは脱帽するしかなかった。
「嬢ちゃん、聞いても良いかの?」
「は、はいっ! なんでしょうか!」
「書き換えの技術に関しては、まぁ後回しにするとして、じゃな」
「どんな風に効率化を図ったか、ってトコよね。私も気になるわ」
「どんな風に、ですか……? え〜っと……」
ミミは銃口が未だ赤熱し、煙を上げている私の手の中のHSを指差し。
「この辺りにある魔力供給の為の制御弁、です? これを一時的に無効化開放してですね、溜め込める魔力に圧力をかけたです」
「なんと……!?」
「魔力に圧力……。そっか、魔力には流体的な性質があるから、それを利用して……」
「はいです。あと〜、ココ。“じゅそうだん”? の固定術式の火属性の倍率を上げて〜、風属性の倍率を少し下げたです。それから―――」
ミミが書き換えた魔術式は、確かに私が良く使う物に似ていた。
ただ、私よりも遥かに感覚的な部分で優れた物を持っているようで、どうやら術式を見ただけで大凡の結果まで想像出来てしまっているらしい。
「ワンコちゃん」
「あげないわよ」
「なんでじゃ! まだ何も言っとらんじゃろ! このお嬢ちゃん、ワシにくれ!」
「イヤ! ぜーったい、イヤ!」
「なななっ、なんのお話しです!? 人身売買ですっ!?」
そりゃ、これだけの才能、ガンツ爺さんなら手元に置いておきたいに決まってる。
でもダメ。絶対譲らない。
「くぅ〜〜〜〜! この才能、捨ておくには余りにも惜しいぞい! ワシの元で英才教育を施してじゃな!」
「ダメったらダーメ。ミミは私のよ。―――まぁ、貸出くらいなら応じてあげないでもないけど」
「本人置いてけぼりですぅ〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
私はミミを小脇に抱え、追い縋るガンツ爺さんから全力で逃げ出すのだった……。




