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Master Code  作者: 覇牙 暁
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第二十五話

第二十五話「蛮族の侵攻」




 ―――アールヴヘイム王都。


 その外周を守る長壁北部ボレアース門は今、“蛮族”と呼ばれる“亜人種”らの猛攻に晒され、剣林弾雨が渦巻く戦場と化していた。


 蛮族とは、エルフ達にとっての仇敵であり、人間に近い程の知性を持ちながら、欲望に忠実で独自の倫理観や道徳観を持つ者達の事だ。


 その大部分は人と同様に二足歩行をし、武器や防具で武装した亜人達で構成され、多くの場合、オークやゴブリン、コボルト、グレムリンなど高い知性を持つ物が指揮を執って群れを成している。


 軍事力には目を見張る物があり、前線で戦う亜人種の中には知性に乏しいが膂力に優れたトロールのように非常に危険な者も含まれ、またリザードマンやヴァラヴォルフといった高い知性と戦闘能力を併せ持つ者も多い。


 そんな物が大挙して押し寄せて来るのだから、エルフ側としてもたまった物ではないだろう。


 だが、それ故に、エルフ達も長い歳月をかけ、蛮族に対抗する為の力を付けて来た。


 それが、エルフ独自の強力な魔術とそれを応用した武器製造技術である。


 ―――というのが、私が知る両者の関係性だ。


 だから、戦場となる場所は、人間同士の戦争など比較にならない程凄惨な物になる。



 「チヒロ! ガーゼが全然足りないニャ! 直ぐに作って!」


 「は、はいっ!」



 前線だけじゃない。


 前衛部隊の支援を担当する後方の部隊でさえ、現場は地獄のような有様になる。



 「―――クッ、血が止まらない……ッ! 手が、足りない……ッ!」



 数百人という死傷者。それが次々と担ぎ込まれる医療班のテントは、それこそ“死”の臭いが充満して生きている心地がしなくなる程に。



 「私が押さえる。アンタは止血に集中して」


 「カスミちゃん!? ありがと、助かるニャっ! そのまま押さえててニャ!」



 私が辿り着いた頃には、もうこの状態だった。


 目の前には、ベッドがまるで足りず、床に寝かされて治療を受けているエルフの青年が居た。


 専門の私でなくたって解る。

 もう、とっくに死んでいたっておかしくない程の重傷だ。


 恐らく、ヴァラヴォルフの爪にでもやられたんだろう。

 右腹部が引き千切られ、肋骨も圧し折られて内臓の大部分が欠損してる。


 人間なら、ほぼ即死級のダメージだ。


 それでも、彼が命を繋ぎ止めて居られるのは、彼女のお陰というより他にない。



 「カナ、随分と慣れたもんじゃない」


 「そりゃ、ね……! こうしょっちゅうグロ見せ付けられてりゃ、アタシじゃなくたって慣れますニョ……っと! はい、終わりニャ!」



 この医療班を取り仕切っているのは、言うまでもない。


 私と同じアドバンスドブレインのエージェント『伏見 加奈』だ。


 その回復魔法は強力無比。

 エルフ達ですら憧れる程で、彼女は今や戦場で“聖女”とまで呼ばれ、崇められている。



 「手伝ってくれて、ありがとニャン。けど、カスミちゃんにはカスミちゃんの仕事があるニャ。ココは大丈夫ニャから、早く行って上げて!」


 「解ってる。通りすがりで手貸しただけよ」



 互いに血塗れで気合の入った笑顔を向け合い、パンッと手を叩く。


 ちょっと前まで、ゲロ塗れの泣き顔を浮かべていた元アイドルとはとても思えない変貌っぷりだ。


 まぁ、そんな物に慣れてしまえる程、現実の“戦闘”って奴は過酷で、凄惨で。



 「さっさと行って、押し返してやらないとね……!」



 テントの中も外も、怪我人だらけ。


 死人だって一人や二人じゃないだろう。


 だから、早く行かなければならない。

 私を待っているんだ、前線で戦う戦士達は。



 「敵戦力が一番集中してるのは……此処ね」



 UI上でMAPを拡大し、敵性反応と友軍戦力の比率を見極め、私は直ぐ様医療班のテントを飛び出した。


 長壁周辺は樹木も無く、ある程度見通しが効くけど、少し離れればそこは原始林。


 モンスターですら望んで足を踏み入れる事が無い位危険な場所だ。


 何故なら、そこには無数の毒草が生え、多くの野獣が潜んでいるから。


 だから、此処を突っ切るような馬鹿はそう居ない。


 それは私も同様で、平時に敢えて此処を通るような事はしない。


 ただし、それは平時であるなら、だ。



 「近道するなら、コレが一番だからね!」



 そう。私はそんな馬鹿の一人。


 この緊急時に、わざわざ整備の行き届いた遠回りの街道など走っていられるか。


 近くで響く剣戟の音を他所に、私は迷いも無くその場所へ一直線で駆け抜ける。


 地面に突き出した岩肌を蹴り、木々の枝を鉄棒のように利用して、走る。跳ぶ。走る。跳ぶ。


 その内、ミニMAP上に目的の場所が映り込み、私は一際背の高い木を足場に、全力で跳躍した。



 「……見えた」



 眼下には、数百数千という蛮族とエルフの大群が犇めき合い、互いに血飛沫を上げて尚押し迫って。


 燎原之火が如く広がる阿鼻叫喚と肝脳塗地。


 酷い有様だった。


 樹海に囲われた広い平原。

 戦場に適したこの場所を彼らが選んだのも頷けるが……。


 エルフの被害は甚大だ。


 大勢のエルフが、五体をバラバラに引き裂かれ、血の泥沼に沈んで命を落としてる。


 銃での戦いでは、こうはならないだろう。


 蛮族共の圧倒的な膂力だからこそ、こんな有様になる。


 各所で爆撃や氷柱、落雷が立ち、水流で押し流されて行く亜人の姿も見えて。


 物理と魔法のぶつかり合いだ。


 こんな混沌とした戦場を、前史世界では見た事がなかった。


 でも、それも此処までだ。



 「何故って? そりゃ、私が―――」



 落下する。超高高度から、拳を固めて。


 加速。加速。加速。


 大気を足場に蹴り出して、空中で自由落下するよりも尚早く。


 眼前に迫る地表。

 狙いを定めたのは、戦場中央付近に居た体長4メートルを超える程の巨大なトロール。


 その頭部へ、渾身の力を込め。



 「―――来たッ!!」



 某週刊少年誌のヒーローもかくやと拳を叩き付けた。



 「□□□□ッ」



 それは、最早爆撃のように。


 吹き飛ばされた土砂が地上10メートル以上も巻き上げられ、雨のように降り注いだ。


 自分に何が起こったのかさえ、コイツには理解出来なかっただろう。


 頭部どころか胸部から腹部までをゴッソリと引き裂かれ、トロールの巨体が真緑の血飛沫を上げた。



 「な、なんだ……っ!?」


 「何カ、降ッテ来タゾッ!?」


 「いったい、何が……っ」


 「危ナイ! 危ナイ!」



 凍り付く戦場。


 敵も味方も無く、その場にある全ての者達が、その爆音と衝撃でピタリと動きを止めた。


 蛮族のみならず、周囲のエルフ達ですら状況が呑み込めていない中、私は自分で作り出してしまったクレーターの中央に立ち、その拳を大地から引き抜いて天高く掲げる。



 「恐れるな! エルフの戦士達よ!」



 声を上げる。

 それは、私自身を鼓舞する為の儀式でもあり、同時に、兵達の士気を高める魔法の言葉。



 「たかが数千数万の蛮族如き、何を恐れる物か! 盟友達よ、我が来た! 我が名は“黒炎の戦姫”、この戦を勝利に導く者なり!」



 ―――ホント言うと、コレちょっと恥ずい。


 けど、これで良い。

 これで。



 「姫様だ……っ」


 「姫様が、来て下さった……ッ!」


 「勝てるッ! この戦、勝てるぞッ!」



 兵士の士気を取り戻した。


 声を張り上げ、剣を、槍を、弓を、杖を手に、兵士達が咆哮を上げた。


 これだ。

 この“空気”って奴が、生身の戦場では必要不可欠。


 こういう言い方はしたくないが、兵力というのは消耗品だ。

 だけど、だからこそ、その戦力を最大限活かす為には、この“空気”が必要なのだ。


 そう、“勝てる、という空気”が。



 「良くもやってくれたな、蛮族共……」



 私は目の前で立ち塞がったままのトロールを一触れで灰に変え、その燃え盛る黒炎の中から一歩、また一歩と歩み出す。



 「貴様らに殺された我が同胞の痛み、万倍にして返してくれる……ッ!」



 こういう時の為に用意した、威嚇用の黒炎を全身から噴出させ、憤怒を込めて眼光を飛ばす。



 「ッ! グルル……ッ」


 「こいつガ、例ノ……ッ!」


 「怯ムナ! 怯ムナ! 前ニ出ローッ!」



 一歩を踏み出す度、ジリジリと後退して行く蛮族の軍勢を前に、私は更に背後の兵達を鼓舞するよう声を張り上げた。



 「勇猛なる我がアールヴヘイムの精兵達よ、剣を掲げよ! 槍を持て! 今こそ、我らが力を蛮族の愚か者共に見せ付けてやる時ぞ!」


 「「「応ッ!!!」」」


 「此処から我らが真の戦。皆の者、我に続けぇえええええええッ!!」



 咆哮! 咆哮! 咆哮!


 エルフの兵士達の士気が最高潮に達し、その咆哮と共に軍靴が地鳴りを発てる!


 数千というエルフの軍勢が各々武器を手に、蛮族恐るるに足らずと突撃を開始した。



 「おおおおおおッ!」


 「くそっ、こいつラッ!?」


 「我らアールヴヘイムの姫君に、勝利をッ!!」


 「ぎゃあああああああッ!!」



 身体能力の差は歴然。

 でも、用兵技術と練度はエルフの方が遥かに上だ。


 エルフの軍隊は戦場が乱れ、混戦になると脆いが、戦線を立て直し、戦術の入り込む余地さえ出来れば負けはない。



 「両翼を前へ! 鶴翼に陣を敷き、敵を包囲せよッ!!」


 「全軍、姫様の命に従えッ!! 前衛は後衛を援護! 合図と共に素早く後退! 弓兵は後退する前衛を援護せよ! 何が何でも魔術隊に敵を近付けるなッ!!」


 「「「応ッ!!」」」



 本来、鶴翼という陣形は中央に立つ将へと向かって突撃して来た敵部隊を両翼から包囲し、殲滅する為に考案された陣形だ。


 それ故、両翼の囲い込みが完了するまで本陣が敵を迎え撃ち、耐えなければならないというデメリットもある。


 が、本陣に位置するのが私一人であれば、そのデメリットを恐れる理由はない。


 しかも、本陣が私一人であるなら同士討ちの心配も無い為、鶴翼と併用する魔術師隊の火力を十全に発揮できる。



 「そ〜ら、どうした……? 大将首は目の前だぞ、蛮族共ッ!」


 「うおおおおおおおっ! 掛カレェェーッ!!」



 おうおう、来るわ来るわ……。


 正面切って突っ込んで来るのは、ヴァラヴォルフの小集団。


 流石に足が速い。が、無意味だ。



 「―――格の違いを、見せてやろう」



 私は、武器を選ぶ。


 相手はヴァラヴォルフ。所謂、狼男って奴だ。


 高い敏捷性と岩を素手で砕く程の筋力を併せ持ち、鋭い爪と牙で飢えた肉食獣のように荒れ狂う気性の荒いモンスター。


 ならば、と選択したのは、最近新しく作り出した黒鎖の形。



 「ヴァリアブルデコード……。モード“黒鷹爪”」



 ダラリと下げた私の腕に黒鎖が巻き付き、黒炎を上げて形状を変化させた。


 その姿は、“鉤爪”。


 ヴァラヴォルフに見せ付けてやるには、コレが一番だと判断した。



 「■■■■ッ!!」



 喉を震わせ、吠えるヴァラヴォルフが跳躍。

 私に向かってその指先の鋭い爪を振り下ろす。……が。



 「っ!?」



 後退する相手ばかりと戦って来たのだろう。


 そりゃ、2メートルを超える体躯を持つヴァラヴォルフに正面から体当たりするようなエルフは居ないに決まってる。


 だが、残念ながら私は例外だ。


 私は人間だが、同時にアバターラであり、そして―――“黒炎の戦姫バーゲスト”だ。



 「ごっ、ぼぁあ―――ッ」



 コイツが犯人かどうかは解らないが、先ほど医療班のテントで見たエルフの青年は、腹を引き裂かれて瀕死の重傷を負わされていた。


 だから、これはただの仕返しだ。



 「人違い……いや、犬違いだったら、すまんな」



 ドッ、と鈍いを音を発て、飛び散ったのはヴァラヴォルフの脇腹。


 コイツらはその類稀な再生能力を武器にしている為、鎧所か服さえ着ていない。

 ま、機動力を確保している意味もあるのだろうけど。



 「遅過ぎるよ、オマエら」


 「ひぎっ!?」



 犬らしからぬ声を上げ、後ろから突っ込んで来た数匹がピタリと足を止める。


 が、それに何の意味があるというのか。


 ただ足を止め、態勢を自ら崩し、隙を作っただけに過ぎない。



 「わざわざすまんな。狙う手間が省けた」


 「□□□□―――」


 「ぎゃぶふッ」



 一匹目への攻撃から脇を抜けた私は、身体を捻って逆サイドへ跳ねる。


 その去り際、手近なヴァラヴォルフの下顎を鉤爪で千切り飛ばし、ついでに隣で棒立ちしていた別のヴァラヴォルフの顔面を蹴り砕いた。


 ―――が、そこで連中の余りにも無防備な姿に呆れ果て、足を止める。



 「どうした? そうやって黙って突っ立っているのが貴様らの戦い方か? 流石にそれでは、私の首をくれてやる訳にはいかんぞ……?」


 「ナ……ッ、オノレェッ! タカガ人間ノ女一人ニ、何ヲ遊ンデイル!? 回リ込ンデ全員デ掛カレッ!!」



 恐らくは、このヴァラヴォルフ共のリーダー、か。


 一際体格の良いソイツが声を発したと同時、棒立ちしていたヴァラヴォルフ共が一斉に走り出し、私を包囲して牙を剥いた。


 あぁ、悪くない戦術だ。


 少数の敵を確実に仕留めるなら、包囲殲滅というその策はこの上無いだろう。


 だがそれは、飽くまで殲滅可能な対象であるなら、という前提条件付きの話し。



 「残念ながら、私には及ばんよ」



 ヴァラヴォルフの2メートルを超える体躯。

 それが人間という小さな的に同時攻撃を行えるのは、精々4〜5体まで。


 それ以上は自分達の体積が邪魔をし、私に触れる事さえ叶わず、互いに仲間同士で衝突して攻撃の意味を成さない。


 まぁ、何をしようが、無駄なんだけれど。



 「―――Schwarz Gewalt」



 ヴァラヴォルフ共が5体同時に跳躍し、その大口を開いて爪を振り上げたが。



 「―――!」



 無駄だ。無意味だ。意味が無い。


 私の身体が放つ強烈な黒炎の衝撃に襲われ、空中で迎撃された奴らはそこで動きを止めてしまった。


 だから、私が自ら放って呑み込んだ黒炎の力に、そのスピードに、まるで対処など出来る筈もなく。



 「「「■■■■ッ!!」」」



 一体目は顔面を切り刻んでやった。


 二体目は腹を引き裂いてやった。


 三体目は首を刎ねてやったし、四体目は胸郭を貫いてやった。


 最後の五体目は、折角だから顔面を掴んで地面に叩き付け、その後で埋まった顔面を思い切り踏み付けてやった。



 「ナ……、ァ……っ!?」



 一瞬で、五体。


 その全てが地面に落ちた所で、黒い炎が燃え上がった。



 「で、何がしたかったのかね……?」



 呆れたようにそう言うと、ヴァラヴォルフ達の表情筋が面白いくらいに引き攣ったのが解った。


 いやぁ〜、面白い。楽しい。


 敵を圧倒するというこの感覚は、見下すという気持ちは、なかなかに堪らない物がある。


 悪人が一般人を脅して喜ぶ気持ちも、まぁ正直理解出来る気がするのだ。


 が、それは飽くまでも、“こういう手合い”を相手にする時に限る。


 蛮族がアールヴヘイムを襲うのは、エルフ達を虐殺するのは、彼らなりの理由がある訳だが。


 だが、それがもう下らないったらない。


 ただ、優越感を得たいが為に。

 ただ、略奪して楽に欲望を満たしたいが為に。


 ただただ、それだけ。


 政治的な理由だの、宗教的な理由だのと、何かと争う理由を探して戦争をする人間も大概だとは思うけど。


 それでも、コイツら程外道とは思わない。


 だから、私はコイツらが嫌いだ。

 だから、圧倒して優越感に浸り、見下してやるのだ。



 「―――なぁ、オマエ。何人殺した……?」


 「ナ、ニ……?」


 「何人犯した? 何人喰らった?」


 「……っっっ!!?」



 あぁ、楽しい。


 憎い相手を、ボッコボコにしてやるのは、本当に本当に楽しい。



 「どれだけ奪った? どれだけ脅した?」


 「ナ、ナニ、ヲ……っ」



 私は、野生の動物が好きだ。


 私は、必死に生きている人達が好きだ。


 だから、私はエルフ達の事がとても好きで……。



 「貴様らは、いったいどれだけのエルフ達を、泣かせやがった……ッ!?」


 「ひっ、ひいっ!?」



 嫌いだ。ムカつく。ふざけるな。


 貴様らのような生き物は、存在する事そのものが罪だ。


 だから私は、貴様らを一匹足りとも生かして帰すつもりはない。



 「腹立つんだよ、アンタらさ……」



 多分、私にとって初めての経験だった。


 自分の中で暴れる感情を制御し切れない。


 その所為か、私が何かを考えるより先に、勝手にICEが私の感情を形に変えてしまうのだ。



 「何、ナンダ……ッ、オマエハ、一体何ナンダッ!?」



 解らない。何だろう?


 いや、どうだっていい。


 オマエ達を焼き尽くせるのなら―――。



 「―――天敵、じゃない?」


 「ッ!! 殺セッ!! 早クッ、ソイツを早ク殺セェーッ!!」



 残っていたヴァラヴォルフ共がなりふり構わずに突っ込んで来て、牙を剥き、爪を立てる。


 だけど、それはただの一つも私に触れる事は無く。



 「ぎゃあああああああっ!!!」


 「熱ィッ!! 熱ィィイイッ!!」


 「タ、助ケ……ぇっ」



 勝手に突っ込んで来て、勝手に燃えて、勝手に炭になって行く。


 でも、これじゃ面白くない。


 全然、楽しくない。



 「―――なぁ。せめて一撃くらい入れて見せろよ。雑兵共」



 後退るヴァラヴォルフの一匹を引っ掴まえ、顔を間近に近付けて見たけど。


 言ってる最中に燃えて炭になってしまった。



 「あぁ……もうさ、最後までさぁ……」



 なんかもう、凄くイライラして。



 「ちゃんと聞けよおおおおおおおおおおおッ!!!」



 そこから先、私が一体何をしていたのか、ちょっと思い出せない。


 腹の中で煮え滾る物が溢れ出してくるみたいで、気持ち悪くなって、イライラして。


 暴れる。暴れる。暴れる。


 引き千切り、食い千切り、噛みみ千切り、斬って、叩いて、割って砕いて貫いて、最後は兎に角ボコボコにして。


 ―――で、気が付いたら、こうなってた。



 「……バ、バケ、モノ……メ、ェ……」


 「―――あれ?」



 例の一際デカかったヴァラヴォルフが四肢を引き千切られ、私の手に首を締め上げられて居て。


 周囲には、数十体にも及ぶヴァラヴォルフの消し炭。


 遠巻きで見ている他の蛮族達は、私に怯えて近付こうともして来ない。



 「あ〜……、マズったかな、こりゃ……」



 自分でやった事ながら、失笑してしまう。


 鶴翼陣って、中央が敵を引き付けなきゃならないんだよね、ホントは。


 でもこれ、完全に引かれちゃってるカンジじゃん?


 中央に寄って来てないじゃん?(泣)


 ―――と、思ったんだけど。



 「まさに鬼神の如きご活躍、お見事です、姫様ッ!」


 「敵は怯んでいるぞ! 今が好機だッ!!」


 「応とも! 全軍、突撃ぃーッ!!」



 どうも奴さん、完全に戦意喪失しちゃってるようで。


 それを見たエルフの指揮官が突撃命令。


 あっという間に戦局は覆されて……。



 「おお、流石カスミ殿でござるな!」


 「あ、カズ……?」



 唐突に後ろから声を掛けられ、振り返ったら見慣れたブタメンが居た。


 その後ろには、カズが選出したと思しきアバターラの勇士達。



 「なんだぁ? バリバリ優勢って感じじゃねーの」


 「バーゲストさんが前線に出てるんッスから、当然ッスよ。ね? 副団長殿」


 「ア、アハハ……、マァネー……」



 思わず、私は目を反らした。


 言えない……。

 ブチギレて暴れ捲った挙句、蛮族より酷い虐殺行為に及んでたとは、とてもじゃないけど言えない……。



 「ってか、アンタらも来てたんだ?」



 勇士達の中には、シバタやヒデアキの姿もあって、聞く所によると、その数凡そ3000だとか。



 「そりゃそうよ! オレらだってよ、アイツら蛮族にゃアタマに来てんだ」


 「ええ。こんな酷いやり方、許せないッス!」


 「殿には、ツバサ殿も居るでござるよ。今は全体指揮をお願いしているでござる」


 「そっか……。そうだよね」



 私だけじゃない。

 コイツら蛮族の非道を許せないのは。


 だったら、やっぱり今だ。



 「よっし、じゃあこっから一気に敵を押し返すよッ!」


 「「「応ッ!!」」」



 私はその場の勇士達全員に見えるよう、カズの肩を借りてその上に立ち、右手を高々と掲げた。


 そして―――。



 「―――これより、我が軍はその総力を以って、蛮族共の殲滅戦を開始するッ!」


 「我らがアールヴヘイムの旗を掲げるでござるッ!!」


 「剣を抜け! 槍を構えよ! アバターラ軍、総員……突撃ぃーッ!!」


 「「「うおおおおおおおおおおおおおぅッ!!」」」



 私が振り下ろした手の勢いのままに、アバターラの軍勢が前線に向かって突撃。

 エルフ軍と合流し、一気呵成に責め立てる。


 こうして、押し返され始めた蛮族軍の掃討作戦が開始されるのだった……。

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