第二十四話
第二十四話「アールヴヘイム」
―――何時しか、時は流れていて。
気付いたら一年もの時間があっという間に過ぎていた。
ムスペルヘイムでの出来事も、今や思い出になりつつある。
あの後、人工衛星の打ち上げには成功し、観測装置のお陰で今も尚多くの情報が私の下に集められている。
それで分かったのは、私達がムスペルヘイムだと思っていたあの場所は、まだ“ミズガルズ”の一部でしかなく、私達が坑道として利用していた各所の火山洞が、地下深くに存在する“本当のムスペルヘイム”への入り口だったという事。
そして、例の巨人は“スルト”であり、“スルトではない者”だという事も。
ラグナレクの終わりに世界を焼き尽くしたスルトは、その身を幾つかに分け、ムスペルヘイムの入り口を守護する役割に就いているようだった。
だから、結局の所、ムスペルヘイムに私達は足を踏み入れてはいない。
そんな事をしている余裕も暇も無かったから、とも言えるけど。
「カスミちゃ〜ん、ゴハンよぉ〜ん♪」
寝惚け眼で何時ものネットリとした声を聞き、私はベッドから起き上がる。
銀色に煌く石造りの一室。
部屋の中だというのに、そこかしこで樹木の蔦が伸びていて、私が眠っている天蓋付きのベッドにも、それは及んでいる。
薄手の軽いシーツを払い、素足で磨き上げられた床の上を歩くと、そのひんやりとした心地良さで目が覚めて行くのを感じ取れた。
この部屋は、兎に角豪奢だ。
家具や調度品の彫刻は金や銀で装飾されていて高級感が物凄いし、壁にかけられた絵画なんて値段も価値も理解出来ないような代物。
赤い絨毯が敷かれている場所があって、こっちは細かい金糸の刺繍が凄くキレイ。
なんでも、ミスリルが編み込まれていて、とても丈夫だとかなんとかって社長が言ってた。
イスやテーブルもデザインが独特だけど、どれもピカピカ。
手入れも行き届いていて、出来過ぎでちょっと落ち着かないくらい。
まるでお姫様の寝室。
というか……、どうも私、お姫様らしいんだけれど。
「カッスーミちゃーん? おっきしてぇ〜ん!」
そのワリに、部屋の外から聞こえてくるのは一般家庭の“お母さん”みたいな声で。
「言ったら殺されそうだけど……」
未だに、私はこの人に頭が上がらない。
「カスミちゃ〜ん?」
ガチャッ! と結構派手な音が鳴り、開け放たれるこれまた豪華な装飾が施された扉。
そこに立っているのは、エプロン姿の―――ん? エプ、ロン……?
「うっふぅ〜ん♪」
クネクネしつつ、エクシーポーズでパッチリウィンク。
でも、そんな事は問題じゃない。
今問題なのは、“はいてない”状態に見える、そのエプロン姿なワケで。
「社長……、まさかその恰好で、此処まで来たの……?」
「もっちのろ〜んろ〜ん♪ どう? エロくなぁい?」
「あぁ〜……、朝からアタマ痛ぇ〜……」
何が悲しゅーて同性の裸エプロンを起き抜けから拝まにゃならんのか。
「あー、でもぉ〜、カスミちゃんのほーが、せぇくすぃ〜ねぇ〜ん。敗北ぅ〜」
「は……?」
「でもでもぉ〜、やっぱりチラリズムが大事って、お姉さん思うんですよぉ〜」
「……は??」
で、指を差され。―――ッ!!!??!?!?
「はぁっ!? え、なんで私、まっぱ!?」
おかしい! 昨晩、しっかり寝間着に着替えて寝た筈だ!
幾ら忙しくて疲れてたとはいえ、此処でそこまで落ち着けるほど、私はまだ生活に慣れ切ってはいない!
の、筈なのに!?
「しゅっ、しゅみましぇ〜〜〜ん、ですぅっっ!!?」
と、そこへ雪崩れ込んで来て滑って転んだ挙句、調度品をひっくり返して高そうな壺を粉微塵に粉砕しながらスカートも捲れて壁に激突してもんどりうってるメイド服少女。
「うぉおぉおうぅっっ!」
「なにしてんの、ミミ……」
「しゅ、しゅみま、しぇ〜ん……ガクッ」
謝罪したいのか、泣きたいのか、引っ繰り返りたいのか、気絶したいのか、どれか一つを選べ。
この子はミミ。っていうのは愛称で、本名は“ミミーラ・ミミル”。
ちなみに、このミミって愛称は私が付けたモノで、彼女のエルフ耳に由来してる。
本名の方は、実は余り関係ない。
これ、ホンモノ。この耳ね、エルフの。
アバタースキンとかでもない、自前の耳。
彼女、ミミは、その耳の特徴通り、ホンモノの“エルフ”だ。
金髪のサイドテールも幼い見た目も可愛らしいし、エルフには珍しく、愛嬌のある顔立ちもしてるんだけど、でも、やっぱりエルフはエルフで。
人間なら12〜14才くらいに見える容姿なのに、コレでも私どころか涼子さんより年齢は上。
まさかの45才。
イロイロ事情があって、私が預かる事になった子で、今は私の専属メイドとして働いている。―――の、だけど。
「あらあら〜、たぁ〜いへぇ〜ん」
「きょ、きょうしゅくでぃす……」
涼子さんに抱き上げられ、何とか立ち上がったミミ。
まぁ、ご覧の通りという奴で。
「ドジッ娘属性もココまで来ると災害ね……」
「さ、災害ぃっ!?」
この子、此処に来て既に1億円相当の調度品をブチ壊し捲っているらしい、とはメイド長さんの話し。
実際、私も彼女を見掛ける度、何かしら失敗している所しか見た事がない。
さっきの雰囲気から察するに、多分、私の今の恰好も……。
「ミミ、これ……やっぱアンタの仕業?」
「はいっ、はいっ、お洗濯を……。でもでも、連日のお仕事で姫様もお疲れのご様子でしたし……起こしては悪いなぁ、と……」
「で、魔法使って服だけ引っぺがした、と」
「はぃぃ〜〜〜っ、ごめんなさいですぅ〜〜〜〜っ!」
ペコペコ頭を下げる彼女を見て、どうにも怒る気が失せ。
しかし、やはり呆れもして頭は痛くなり……。
「―――しゃ、社長殿!? なんて破廉恥なお姿をっ!」
「え……」
っと、突然廊下の方から聞こえて来たその声に、私は全身で悪寒を感じた。
「あらぁ〜ん? カズユキ君じゃなぁ〜い。おっはぁ〜♪」
「だ、ダメでござる! 自分には……自分には、カスミ殿という既に心に決めた女性がぁぁぁあっ」
「か、勝手に決めるな!」
が、思わず叫んでしまい、顔面蒼白。
「おお、カスミ殿、既に起きておいででござったk―――」
「―――ッ!!」
その時、私は地上で最速の生物へと姿を変えた。
「……わ、わんっ」
「カスミ殿、何してるでござる??」
「見たら判んでしょ! 犬よっ!」
「そ、そうでござる、な……」
ちなみに、最速の生物になったのは私の右手だ。
実際には、ただの犬……バーゲスト! に変身したんだけれど。
「ぶふぅーっ!」
「ひ、姫……っ」
事情が分かってる社長とミミは、私の行動におもっきり吹き出し、私は犬だから分かり難いけど、実際には顔っていうか耳まで真っ赤になってる。と、思う。
くそ! なんでや!
「ど、どうしたでござる? お二人とも……」
「アンタは解らなくていいのっ!」
「ハ、ハイでござるっ!」
と、まぁ今は、こんな毎日を送ってる。
―――平和だ。
ちょっと前までの張り詰め過ぎていた日々が、まるで嘘のように……。
こんな風に静かな時間を送れるなんて、二度と無いって思ってた。
半年ほど前からつい先日まで、私や大部分のアバターラ達と、社長や松岡さんを含む一部のノーマルな研究員達は、現史世界でとても微妙な立場に立たされていた。
それこそ、“政治的”に、だ。
日本政府とも、世界各国の政治組織とも、アドバンスドブレイン社は切り離され、UEPによる異常現象の責任を半ば強引に押し付けられていたのだ。
まぁ、実際の所、アドバンスドブレインが開発したPYOや“alaya”がこの事件の切っ掛けを作ってしまった可能性は高く、致し方なしって所はあるんだけれど。
でも、アドバンスドブレイン社に関わりの無い一般プレイヤーだったアバターラ達にまでその矛先が向けられるのは、おかしいって話し。
ところが、だ。
ノーマルにとってはそんな事関係ないし、見たくない物を見ようとしないのが人間ってヤツで。
アイツらは、自分達にとって脅威であるアバターラっていう“別種の生物”を自分達の制御下に置く理由が欲しかったに過ぎない。
だから、その口実を突き付けられていたってワケだ。
しかも、そのタイミングで一番起きて欲しくない事件が起こってしまった。
前史外生物からノーマル達を守っていた一部のアバターラ達が、自分達に八つ当たりをする民間人に怪我を負わせてしまったのだ。
それだけでも十分にマズイ行為だったんだけど、問題はそこから更に広がりを見せてしまう。
事件を起こしたアバターラ達は、善意でノーマルを守っていたチームだった。
なのに、不当な扱いを受け続けて鬱憤が溜まっていたんだと思う。
そこに加えて、日本政府から自衛隊が派遣され、アバターラ達を拘束しようとした。
コレにアバターラ達は反発。
当然の事ながら、彼らの怒りに共感を持つアバターラ達は一人や二人ではなかった。
結果、アバターラ達はノーマルを完全に見限ってしまった。
残されたノーマル達は、案の定前史外生物の猛攻に晒される事になり。
―――まったく、解り易過ぎる構図の出来上がりだ。
ノーマル達はアバターラ達を逆恨み。
アバターラ達は、もう彼らを助けてやろう等とは二度と思わない。
両者の関係はあっという間に冷え切り、溝は限界まで深まって。
で、遂には世界連合が平和的な解決を、と交渉を持ちかけて来た。
当然、連合軍の軍事力を盾にして、だ。
こんな不当な和平交渉に、アバターラが付き合ってやる筈も無く。
代表として交渉の場に立った社長が、アバターラ達を連合の監視下に置くという条文を破り捨てた。
その影には、アドバンスドブレインが既に各所で“枝”の回収に成功していたという経緯もあり、わざわざノーマルの傀儡として利用されながら現状を維持する必要性が無くなったから、っていう理由もあった。
こうして、いよいよ痺れを切らしたノーマルの指導者達はなりふり構わない行動に出始め、遂には武力衝突までが発生。
―――まったく、何処まで馬鹿な生き物なのか。
当然、アバターラ側に被害はなし。
連合軍はその大部分の戦力を無駄に損失し、アバターラ側の善意でほぼ全員辛うじて生還。
戦車も、戦闘機も、核兵器ですら私達アバターラを傷付ける事が出来なかったのだ。
いや、当たり前でしょ?
コッチは一人で武器も使わずに戦車一台ひっくり返し、戦闘機に魔法をぶつけて余裕で撃墜出来てしまうんだ。
そんなのが凡そ3億人居るんだから、たかがザコモンスター一匹に手古摺るようなノーマル達が、地上戦力を全て投入したって勝ち目なんて最初から有る筈がない。
彼我の戦力差さえ見極められず、圧倒されて、挙句の果てに手心で生かして帰して貰って。
アイツらが勝手に撒いた種だけど、コッチとしても酷い迷惑だった。
なんせ、その結果を受けて、アバターラ達は自分達の圧倒的な力に増長し、ノーマル達を見下すような傾向まで生まれてしまったのだから。
こうなっては、もう元には戻れなかった。
社長はこの事件を切っ掛けに、アバターラとその親族達を望む限り引き連れ、今はこの場所“アールヴヘイム”へと移民を開始している。
と、まぁ、此処までは解る。
けど、何をどうして、こうなったのか……。
「私がお姫様、ねぇ……」
妙に家庭的な社長の作る朝ごはんを食べて、今日の予定を確認しに来たカズとも別れ、部屋に戻ってきた私が窓から見下ろす景色は、現史世界じゃちょっとお目にかかれない絶景だった。
眼下に広がる広大な石造りの街並み。
そこかしこに緑が溢れていて、太い樹木が何本も青葉を広げ、草花が咲き乱れている。
どういう原理か、少し大きめの木からは清水が溢れて街全体の用水を担い、広場では市が開かれて沢山のアバターラやエルフ達が行き交っている。
そんな景色が、遥か彼方までずっとずーっと広がって、一番端に見えるのが、全高100メートルの長壁。
この長壁が都市の外周をグルリと一周し、外部からやってくる蛮族の侵入を防いでいる。
平和で、静かで、落ち着いた雰囲気を持つ、自然に満ち満ちた森林の街。
此処が、アールヴヘイム。
光の妖精“エルフ”達が住む国。
で、私が今立っているこの場所は、本来エルフの王族が住まうとされる居城。
世界樹“ユグドラシルの幹”に建造された、超巨大建築物だ。
それが、どのくらいの高さにあるかっていうと……。
「―――これ、落ちたら100パー死ねるわ」
下を覗き込めば、そう思えるくらい。
例え何があったとしても、助かる見込み無し。
だって此処、標高4000メートルの場所に建ってるんだもの。
解り易く言うと、富士山の山頂より300メートルくらい高い場所。
そんなん、どやって上るん? って思うかも知れないが、此処は剣と魔法の国よ?
んなもんマジックポータルで一ッ飛びですわ。
「あーりえねぇー……」
実を言うと、アールヴヘイムはPYOでも未実装だったエリアで、私も来たのは初めて。
一応、設定上は存在してるって言われてただけの場所だった。
だから、どうしてこうなってしまったのかが解らない。
それは、社長も話していた事だけれど。
「エインヘリャル……。主神オーディン……」
私達アバターラは、エルフ達にとって信仰の対象らしい。
本来、エルフは自然や死者の霊に対して強い信仰心を持っており、言うなれば日本古来の宗教観念に近い考え方をする小神族だった。
しかし、ラグナレクの折にはオーディンを崇拝していた時期もあったという。
その理由というのが、エインヘリャルだ。
エインヘリャルとは、オーディンがヴァルキューレ達に集めさせた優れた戦士達の霊であり、不死を与えられた存在。
神々との戦いに向け、オーディンが用意した主力部隊に相当する。
生と死の境界に立ち、死しても蘇る彼らの性質は、エルフの信仰に於いて尊い物であり、その主たるオーディンは崇められ、同時にエインヘリャルも信仰の対象として扱われたのだという。
その所為か、彼らエルフは私達アバターラがこの世界に移り住む事を快く承諾してくれた。
それどころか、共に生きる者として信頼を寄せ、また特に強い発言権を持つアバターラ達に国の在り方を任せたいとまで申し出てくれた。
他力本願、というのとは、少し違う。
彼らは、私達アバターラという存在が霊的に優れた者の集まりであり、自分達エルフよりもカースト的に高い位に位置する生命だと信じているらしい。
それ故、私達がエルフを統制する事を拒否するなら、それはそれで已む無し。自分達は勝手に私達を崇拝する、というスタンスを貫いている。
一途というか、何というか……。
ただ、一見盲目的な狂信者達の思想に近い物を感じるが、実際に付き合ってみるとそうでもないのだ。
同じ人としてフレンドリーに接してくれるし、頼り過ぎているという傾向も見られない。
自分達の事は自分達で。
自分達ではどうにもならない事はそのまま真正面から受け止め、成り行きに任せる。
神に祈るなんて事はせず、協力を仰ぐ事はあるけど、怠ける事はしない。
ある意味で、人間にとって見本とも言えるような道徳観や倫理観を持っているのかも知れない。
「でも、だからって私が姫て……」
それだけが、理解に苦しむ。
いや、ダイキなんかは王様やってるワケだけど。
私やカナ、ツバサも含め、エージェントの主要チームは王族扱い。
で、私達を纏めている社長や松岡さんを含めるノーマル達は、熱心な信者として神官の階級を与えられている。
だから、私はこんなスゴイ城に住まわせて貰っているし、当然相応の責任って物もあるワケで……。
「はぁ〜……」
窓際に寄せたテーブルの上でティーカップに注がれた湯気を立てる温かな“日本茶”を啜り、深い深い溜め息を吐いた。
どうも私のロールプレイにも問題があったらしい事は、今では後悔もしている。
エルフ達から見て、そりゃもう“偉く”見えたんだろうね……。
しかも、こんな環境の所為か、メイド達には実家でやってたような対応をしてしまって、それが噂になって、尾ひれが付いて……。
最近は他人と接するにも随分慣れて来たし、小さい頃には両親に連れられて色んな人間と顔を合わせていた経緯もあり、何時の間にか私は、人の上に立つ人間の立ち居振る舞いって奴を当たり前に出来るようになってしまっていた。
「ま、面倒なモンは面倒なんだけど……」
これは多分、私の本質的な部分にある物だから、これ以上何かが変わるって事は無いだろう。
だから、出来る事なら“第一王女”なんて立場、捨ててしまいたいんだけれど。
「そうもイカンわなぁ……」
そう、簡単ではないのだろう。
アールヴヘイムに移住して来たアバターラとノーマルは、私の記憶が確かなら4億5千8百2十6万5千9百4十2人。内2億7千8百5十2万6千4百9十2人がアバターラ。残り1億7千9百7十3万9千4百5十人がノーマルで占められている。
元々このアールヴヘイムには15億のエルフ達が住んでいるらしく、合わせると総人口は凡そ19億6千万人。
その全ての経済と生活を保障しなければならないという立場なのだから、私も突然に酷い重責を背負わされた物だ……。
まぁ、政治的な部分はダイキや社長さん、松岡さんに任せているけど、私には“実働”という任務がある。
なんせ、私は所謂。
「姫騎士……。あぁ、なんか既に呼び名だけでもエロい……」
オークに捕まって「クッ、殺せ!」とかやらなければならないのだろうか?
まぁ、その……嫌いじゃないんだけど……(照)
―――兎も角、外にも内にも問題は山積み。
アールヴヘイムには、“外敵”の存在もあるから、国民の安全確保も重要な仕事だ。
それに、あのまま“外のノーマル”達が黙っているとも思えないし。
「あぁ〜、忙し……」
で、そんな矢先だ。
「姫しゃまぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っ!!」
早速、仕事っぽい。
廊下から響いて来たミミの声に、私は今日何度目かも忘れてしまった溜め息をまた吐き出す。
―――案の定、って奴で。
「姫しゃ―――うぼぉおああっ!?」
ガラガラガッシャーン。
果たして、今度は何を壊したのか。
「ひ、ひべじゃぶぁ……っ」
「ハッキリ喋れ」
スッ転んで上下逆さまのオデコにチョップを落とす。
「ず、ずびばぜぇん……」
「で、どしたの? エライ慌てっぷりで」
と、尋ねたところ。
ハッとして居住まいをただs……正せてないけど、まぁ座り直して。
ミミは緊急事態の報告を始めた。
「た、大変なのです! ご報告なのです! ボレアース門にいっぱい蛮族の群れが押し寄せ、今守備隊が応戦していますが、劣勢だから助けて欲しいって言ってたです!」
「ボレアース……北門って事ね。いっぱいって、どのくらいか解る?」
「わ、解んないのです……。でも、いっぱいなのです!」
「ん、解った。それじゃ、後は私が何とかするから、ミミは長老さんに“姫が出る”って報告して。あと、アンタは城で大人しくしてる事。いい?」
「は、はい! 了解なのです!」
「ん、良い子」
私はミミの頭を一撫でし、立ち上がると直ぐに部屋を出た。
そして、廊下を速足で進みながら、ヴォイドフリックでカズへチャットチャンネルを繋ぐ。
「カズ、北門に蛮族の大群が攻めて来てる。そっちの状況は?」
『委細承知。しかし、兵の編成で少しばかり時間がかかりそうでござる』
「分った。私は先に出るから、後はよろしくね」
『合点でござる!』
通信を切り替え。次いでチャンネルをダイキへ。
「ダイキ、北門の話しは?」
『聞いたよ。カズユキ君とツバサ君に部隊の編制をお願いした所だ』
「OK、カナは?」
『既に先行して貰ってる。エルフの守備隊に負傷者がかなり出てるようだから』
「了解。じゃ、私も直ぐに向かうから、コッチの指揮はお願いね」
『任された。―――武運を』
「はいよ」
更に通信切り替え。次は松岡さんと社長にチャンネルチェンジ。
「松岡さん、そっちの状況は?」
『あぁああカスミちゃん! 大変なんだっ、ボレアース門に蛮族の大群が!』
「知ってる。社長は?」
『えっと……今、エルフの将校を集めて会議中。 一応、外周近郊の住民に避難勧告を出してるって!』
「おkおk。流石シャッチョさん、仕事が早い。じゃ、残り三ヵ所の門に指示をお願い。“哨戒を倍に増員して、警戒を密に”」
『わかった! カスミちゃんは?』
「今から出る。クッコロされないように祈ってて」
『じ、冗談言ってる場合じゃないってば〜っ!』
「フフッ、久々に思いっきり暴れられそうで、ちょっと興奮気味なの。んじゃ、通信終わりっ」
『ちょっ、気をつk―――』
ちょっと強引に通信終了。
まぁ、とりあえずはこんな所でしょ。―――と、そうこうしている内、城内に設置されているマジックポータルの場所まで辿り着き。
神殿のようにも見えるドーム状の部屋。
等間隔で立ち並ぶ列柱と、その中心に据えられた壇上へと私は足を踏み入れる。
足元の床には、彫刻された直径5メートル程の魔法陣と、真ん中にひっそりと佇む小さな台座があって。
そこに手を触れれば、浮かび上がるのはルーン文字。
読もうと思えば読めるけど、アバターラにそれは必要ない。
UIにはしっかりと日本語で転送先を表す街中の各ポータル名が表示されている。
その中から選ぶのは、当然“ボレアース門”。
それを選択するだけで、あとは確認ダイアログが表示され、“YES”。
あっという間に私の身体は青白い光に包まれ、それが再び晴れた頃には景色が勝手に切り替わっている。
「さてと、お仕事再開!」




