第二十三話
第二十三話「アジテーター」
―――火山洞での戦いから、早一週間が過ぎた。
巨人の攻撃で重症を負ったチヒロも、カナの魔法治療で既に回復。
今では元気に本陣の中を奔走してる。
全身に重度の大火傷を負っていた私も、次の日にはケロっとしていたし。
資材も十分に集まっていたようで、後はクラフター頼りってトコ。
しかしまぁ、ICEを使った機械の設計開発技術っていうのは、本当に無茶苦茶って感じ。
素人の集団が僅か一月とかからずに人工衛星を3基も建造出来てしまうのだから、本職の技術者達はこんな物を許しはしないだろうな、って思う。
溶接も、リベットも、ボルトもナットも、コードの接続でさえ必要ない。
レシピ通りに素材を集めて、UI上の『開発』ってタブをタップするだけ。
それだけで、数分後にはパーツが完成してインベントリに送られて来る。
で、そのパーツをレシピ通りに数揃えて、再び『開発』をタップする。
クラフトランクが足りていれば、それだけで望んだ物が完成してしまうワケだ。
だから、私に回ってくるような仕事や案件は殆どなくて。
お陰でこの一週間、というか、実質4日ほどだけど、私は余った資材やガンツ爺さんの協力を取り付けて、“ベオバハター”以外の物の開発に取り組んでいた。
理由は、明白でしょ?
「あのまま、負けを認めるなんてのは……癪だからね」
ステータスカンストしてる私がまるで歯の立たない相手。
そんな物が、ひょっとしたら世界中にはゴロゴロしてるのかも知れない。
そう考えたら、居てもたっても居られなかった。
出来る事をしておきたい。
備えあれば憂いなし、って奴。
「―――爺さーん、例のモンって出来てるー?」
「おう、ワンコちゃんかー。ワシのテントにあるから、勝手に持ってけーぃ!」
陣地内の広場で魔法結界を張り、外気温を遮断してベオバハターの開発を進めていた爺さんに断りを入れ、私は言われた通りのテントまで足を運ぶ。
そこには。
「うわぁ……」
乱雑に物がブチ撒けられた、整理整頓とは無縁の世界。
その隅っこの方に、ものすご〜く適当に枕木の上で横たわる、近未来的なデザインの火砲が一つ。
コイツの名前は、“ブリューナク”。
ガンツの爺さんに私が頼んで組み立てて貰った兵器だ。
ロボット物の漫画やアニメではお馴染みのレールガンっぽい見た目をしたコレは、正確には“魔動式呪装加速砲”という。
構造はシンプルで、砲身は三本のガイドレールから成り、本体から供給される電気エネルギーで弾体を加速する仕組み。
ただし、発射される砲弾は電気伝導体ではない。
「……あった、これが“呪装弾”ね」
設計図という名のレシピが広げられた作業台の上。
その重石代りにされていたのが、私自身が考案した、魔術を用いて作られる特殊弾頭。その名も“呪装弾”。
砲身に使われてる技術は、その大部分が実在するレールガンだけれど、コッチは前史世界には存在しなかった技術だけで作られている。
実射テストがまだだから、その実際の威力は判らないけど、私の予測値だと、厚さ10メートルの戦車装甲でも難なく貫通して破砕するだけの破壊エネルギーを生み出せる筈だ。
“呪装弾”は、薄いアダマンティンの被膜で覆ったUEP構造体に魔術の術式をインプットして作られる一種のフルメタルジャケット弾。
本体内部で魔術的に密閉された弾体は、同様に魔術で発生させられたプラズマで押し出され、ガイドレールの間で磁場の相互作用によって加速する。
が、此処からが現実には有り得なかった技術の塊だ。
砲身から射出された瞬間、術式が発動。
UEP構造体がICEシステムの恩恵を受けて複数の魔術を同時に発動する。
弾体には重力による影響を一切受けない闇属性の魔術が併用されており、光属性の魔術で初速から亜光速に達する。
この時、風属性の魔術で弾体にかかる空気抵抗をそのまま推力に変換する術が発動し、同時に土属性の魔術で生成された微細なダイヤモンド粒子が水属性魔法で超高速螺旋運動を開始。目標に衝突した瞬間から火属性魔法で対象を加熱する。
つまり、この重さ2.5キロの砲弾が光速に近い速度で一切の抵抗を受けず対象に突撃し、その瞬間から超高温と超低温に段階的に晒されて脆くなった部分からダイヤモンド粒子の混じった切削用のウォーターカッターでゴリゴリ削り飛ばされるってワケだ。
これを現実の技術で再現しようと思うと、ジルコンを混ぜたジェット水流で切削がされてもほんの一瞬で衝撃に負けて水がはじけ飛ぶだけになるし、熱が対象を高熱に温めるより速くジェット水流が衝突してただの超強力な水鉄砲になってしまう。
無論、それ以前に水を弾丸にしているという段階で発射と同時に空気抵抗を受けて水飛沫になってしまうだけだから、そもそも弾丸としての機能をほぼ果たさないのだけれど。
それが出来てしまうのが、魔術であり、ICEシステム。
そして、そのICEシステムを扱う為に動力となるのがUEP構造体というワケ。
とはいえ、こんな超兵器を作り出す事に、当初私は本気で悩んだ。
もし仮に、これを搭載した戦車や戦艦が実戦配備などされよう物なら、地上のあらゆる兵器に防ぐ手立ては無くなる。
完全にオーバーテクノロジーだ。
勿論、ただの一般人に扱えるような代物ではないけど、もしコレを金目当てのアバターラが手に入れて、他勢力で運用したらどうなる?
対抗手段はアバターラのみ。
結果、アバターラ同士が殺し合いの道具にされる。
そんな馬鹿馬鹿しい事を、私は絶対に許さない。
だから、コレは一つだけで良い。
量産は絶対にしない。
一応、砲弾だけは幾つか予備を造っておくけれど、それは全て私が管理する。
それに、砲身の方も。
「アヴェンジャーに搭載して、取り外し出来ないように“銘”を入れないとね……」
PYO時代から引き継がれている恩恵の一つ。それが、“銘入れ”だ。
これを入れておくと、他者が扱う事の出来ない個人の専用装備になる。
レシピに関しても同じで、銘入れした人間しか扱う事は出来ない。
要は、この兵器を扱う事の出来る人間は、私だけ。そして、作る事が出来るのはガンツの爺さんだけ、って事になる。
まぁ、私がアヴェンジャーを呼び出した後であれば、操縦運用自体は誰にでも出来るんだけれど。
「さてと……」
私はブリューナクと呪装弾を空間的に認識(手の届かない物に手を伸ばす感覚に近い)してタップ。
UI上に表示された“取得しますか?”というダイアログから“YES”を選択する。
と、同時に目の前のブリューナクと呪装弾がUEPに変換され、私のインベントリに情報として格納された。
「それじゃ、取り付けましょうかね。私の可愛い子ちゃんに」
インベントリ内から騎乗用アイテム“アヴェンジャー”を選択。そのままドラッグし、別窓で開いた合成用スペースにドロップ。
次に、“合成しますか?”というダイアログから“YES”を選択。
合成用レシピ(完成情報が記載された物)を所持していれば、コレで合成は完了。
仮にレシピを所持していなかった場合、“合成レシピが足りません”と言われて拒否られて終わりだ。
だから、もし誰かが私を上手く言い包めてこのレシピやアヴェンジャーを奪ったとしても、コレは私以外の誰にも扱えない。
「―――ま、私がコレだけ頑張ってイロイロやっても、何時かは誰かが何処かの組織に利用されて、こういうオーバーテクノロジーを運用させられるハメになるんだろうけどさ……」
それでも、出来る限りは阻止したい。
人間同士の殺し合いだけでも馬鹿らしいっていうのに、アバターラ同士で殺し合いなんて、それこそナンセンスにも程がある。ロジカルじゃない。
私はそんなの、絶対に認めない。
(他人に利用されるだけなんて、そんなのまっぴら御免だっての)
他人に利用されるなら、その相手を利用出来なきゃ。
じゃないと、それはただの一方的な搾取だ。
なんてまぁ、アレコレアレコレ。
「―――っとと、それ所じゃなかったんだ」
私はインベントリから“スマホ”を取り出し、時間を確認する。
というか、正直この仕様は非常にメンドイから何とかしたいトコなんだけど、ムスペルヘイムで私服にスキンを変更するワケにも行かず。
兎も角、スマホ以外で時間を確認する方法が無いので、こうしてるんだけど。
「おうふ、ちょっと遅刻しちまったい」
時刻は午前10:08。本社との定期連絡の時間だ。
まぁ、8分ほどオーバーしてしまってるけど、向こうから連絡も無いし、大丈夫でしょってカンジ。
チャットログを開いて個人回線をチョイス。
アドバンスドブレイン本社直通のチャットチャンネルが開き、ログの上に新しく窓が開いて。
「カースミちゃぁ〜ん、ちぃ〜こぉ〜くぅ〜」
「なんでアンタやねん!」
思わずツッコミを入れた。
新しく開いた窓に表示されているのは、チャット相手の顔なワケだけど、このチャンネルって松岡さん専用の物だから、デカパイ社長が映る筈は無い。筈なのに……。
「社長さん、この時間って会議中じゃないの?」
「抜け出して来ちゃった。テヘペロ♪」
「オイ、大丈夫かこの会社……」
件の異常現象からコッチ、社長はかなり多忙な毎日を送っていると松岡さんから聞き及んでいた。
実際、あれから四ヵ月近く経っているワケだけど、ムスペルヘイムへの調査が決まって以来、一度もこうして話した事がなかったし。
PYOとかUEPとか、その辺りで各国との外交問題も山積み。
日本政府もかなり神経質になっているらしく、社長は自ら協力を申し出た手前、引っ切り無しに呼び出されてたのだ。
それが、何故……?
「だぁ〜いじょ〜ぶぅ〜、慶次君置いて来たからぁ〜ん♪」
これが答え。
デカパイ曰く、疲れたから変わってもらったって事らしい。
松岡さんも災難だ。
胃に穴空いてなきゃいいんだけど。
で、かくかくしかじか。
社長さんの愚痴なんて聞く気も無いのに、まぁ次から次へと出るわ出るわ。
一通り適当に聞き流して、ようやく本題に入ったのは、それから30分以上も経過した頃だった。
「それでぇ〜、例の巨人ちゃんだけどぉ〜」
「あぁ、うん。やっとその話しなのね……。ま、一応対策は考えてある。ただ、まだ実射テストしてないから、使えるかどうかは別の話しだけど」
「実射テストぉ〜??」
実の所、今回私が開発したブリューナクと呪装弾に関しては、社長に報告していなかった。
まぁ、渋った所で何時かは話さなければならない事だったんだけれど。
ICEとUEPの軍事的有用性。
それは当初から社長も目を付けていた事で、私もその話しをした事はある。
けど、私の見解と社長さんの見解に食い違いが発生した場合、最悪の事態もあると見て、私は少し恐ろしく感じていたのだ。
が、結果的に、それは杞憂に終わった。
「何時かは誰もが思い付く発想だろうしぃ〜、仕方ない……かぁ〜」
「あれ、お金になりそうな話なのに、食い付いて来ないんだ?」
「そりゃ〜、売れば大儲け間違いなし! だろうけどぉ〜、それじゃ、人権もへったくれも無くなるじゃなぁ〜い?」
なるほど、そういえばこの人、そういう人だった。
お金稼ぎの才能はあるのに、意外とそういう細かい事まで気が回るのだ。
だから、私も信用していたんだと思い出す。
―――けど、甘かった。
「多分ね、今のまま行けば、何れはノーマルの人間とアバターラ達の間で戦争が起こる。そう遠くない未来に、ね」
「―――っ!」
「カスミちゃんだって、気付いてるんでしょう? ノーマルの大部分は、アバターラの力を恐れてる。まぁ、ノーマルの私が言うのも何だけどね」
「そう、でしょうね……」
この人が見越している通りだろう。
それは、考えるまでも無い事だった。
私が知る限り、人間って生き物は例外を許さない生き物だ。
自分とは違う物。解らない物。そういった物を排斥・淘汰して今の繁栄を作り上げて来たのだから。
ノーマルな人間にとって、私達アバターラは天敵にもなり得る化物でしかない。
だって、アバターラ一人居れば、使い方次第で一国を滅ぼし兼ねない程の力を持っているのだし。
そんな連中が身近にウロウロしていたら、そんなの恐いに決まってる。
自分には、抗う術が無いのだから。
つまり、ノーマルにとって、私達アバターラという存在は、前史外生物―――モンスターとそう変わらない脅威の対象で、ある意味ではモンスターより質が悪いとも言える。
実際、私はこんなオーバーテクノロジーの塊みたいな超兵器を簡単に作り出してしまったワケだから。
「だから、是が非でもムスペルヘイムが欲しかった……?」
「うん。それに、アールヴヘイムと、グラズヘイムもね」
なるほど、と私は頭を抱える。
私は、お金になるからってだけでその三つを狙っているんだとばかり思ってたけど、実際にはそうじゃなかったらしい。
確かに、社長の頭の中にはそういう考えもあっただろうし、割合は大きかったとも思う。
けど、前提条件として、どうしてそれでお金を稼ぐ必要があるのか、って事を私は失念してた。
この人は多分、アールヴヘイムに私達“アバターラの国”を作り上げようと考えているんだ。
一国を築き上げる為の、運営して行く為の資金と財産。
その獲得の為に、ユグドラシルの世界で利用価値の高い場所を優先的に手に入れようという事なんだろう。
国を一つ作るっていうのは、そのくらい先の事まで考えないといけない。
「そういう、事か……」
だとすれば、やはり。
私はこの時、多分腹を括ったんだと思う。
だから、あえてこの提案をしてみる事にした。
「ねぇ、社長」
「なぁに?」
「例の巨人、私は倒さないって方向で考えた方が良いと思う」
むしろ、あの力は、私達にとって有利に働く可能性があるのだ。
その考えに至った理由は幾つかあるんだけど、何れにしても、要検証って感じ。
でも、ある程度、この考えは社長に話しておくべきだろう、と私は判断した。
「あのね、今からちょっと時間貰える? 話しておきたい事があんの」
「それは構わないけどぉ……そうね。申し訳ないけど、慶次君にはもう一頑張りして貰いましょう」
コレは多分、私達アバターラの行く末を決める、とても重要な話しになる。
そう切り出し、私は私の考え……というか、推察を交えた今後の行動方針について話し始めた。
今までは重要ではない。と、そう断じていた可能性から、順番に。
「先ず第一に、UEPとICEの関係性について。社長さんはさ、これって“どっちが先”って考えてる?」
「……どういう、意味かしら」
返って来た真剣な声と表情で、既に社長が勘付いているであろうと私は判断した。
「私らは多分、前提条件で躓いてる」
「それはつまり、UEPが元々この世界に存在していた素粒子ではない、って事かしら?」
「うん。少なくとも、私はそう考えてる」
これまで、アドバンスドブレインの研究者達は、元々UEPがこの世界には存在していて、でも予測も出来なかったから観測のし様もなかったと考えていた。
でも、私はICEっていうPYOのゲームシステムにこそ、その根幹が紐付けされているような気がしてならないのだ。
そもそも、素粒子の存在を人間が観測するには、その存在を証明しなければならない。
けれど、人間の目で捉えられる物ではないから、それは飽くまでも状況証拠だけで成されている。
つまり、結局の所。
「素粒子が本当に存在しているのかどうか。それを決定しているのは、私達人間だって事」
より正確に言えば、素粒子を観測可能な知性全般。
そして、観測出来ない物は、存在していないのと同じだ。
言い換えれば、私達人間が“ある”と思う事、感じる事で、素粒子はそこに存在する事になる。
この発想に辿り着いた時、私はICEというシステムの見落とされていた利用価値に気付いた。
ICEは人間の脳がイメージし得る物をデータという形で限りなく物理現象に近付ける。
つまり、想像しただけの物をそこに存在する物として現実に確定させている。
だから、もしICEに“誰か”が“UEPのような物が欲しい”とイメージしたなら、どうなる?
素粒子は、元々人の目に見える物じゃない。
形なんて、最初から存在しないのかも知れない。
だったら、その存在に必要なのは、“そういう物としての情報”だけだ。
「まさか……“alaya”が?」
「私は、そう思ってる」
“alaya”がICEシステムを使い、UEPを創造した。
その結果、UEPは物質としての情報を与えられ、PYOの世界だけでなく、現実の世界にまでその影響を及ぼした。
だって、“alaya”は現実の世界で“サーバー”という肉体を実際に持っていたのだから。
「だから、あの時サーバールームが……」
「そう考えると、辻褄が合う。でしょ?」
「えぇ、俄かには信じ難いけど……」
ちょっと乱暴な理屈ではある、と私も思う。
でも、そう考えると、何もかもに辻褄が合うのだ。
ムスペルヘイムのMAP構成が異常なのも、PYOに存在しなかったモンスターが多数存在しているのも。
UEPが初めからこの世界に存在していたというのなら、最初に確定した通りの世界が構築されている筈なのだ。
でも、モンスターは次々と何処かから現れ、ムスペルヘイムも調べれば調べる程に広大な物だと判明していった。
これは、飽くまでも仮説だけれど……。
「UEPが、世界を成長させ続けてるんじゃないか、って思うのよ」
「それも、ICEというシステムを通して、私達人間が……」
頷いた。
ICEを通して私達人間のイメージをUEPが現実の物にし、その膨大な量の情報を常にやり取りしている。
でも、だからこそ。
私は、その危うさに辿り着いた。
「ねぇ、社長。ひょっとするとこの世界……近い内に、消滅する事になるかもよ」
「―――っ!」
社長も気付いたらしい。
私はさっき、UEPで世界を成長させているのが人間だって言ったけれど、より正確に言うと、それは人間というより。
「アバターラが、世界を滅ぼすかも知れない」
PYOのゲーム設定をそのまま引き継いでいる理由は、その中核を成しているイメージがPYOのプレイヤー達の物だから。
そして、PYOのプレイヤー達は知っている筈なのだ。
例え曖昧でも、PYOという世界は、滅びを迎えようとしているユグドラシルの世界だという事を。
「このままだと、完全に世界が壊れてしまう……」
「そ。だから、それを避ける為に、プレイヤー達エインヘリャルはユグドラシルの再生計画を推し進めていた」
「けれど、そこには―――」
「うん。ノーマルの居場所が無いの」
「あぁ……、なんてこと……っ」
社長には珍しく、本当に困って、迷って、どうしたら良いのか解らないって顔をしてた。
でも、無理もない。
これはつまり、“人間に付く”か“アバターラに付く”かっていう、そういう問題だから。
私が最初に言った、ムスペルの巨人を倒さないっていうのは、こういう事。
ムスペルの巨人をこのままにしておけば、人間達の力だけではどうにもならない。
そうすれば、ムスペルヘイムへの侵攻を抑える防壁にもなるのだ。
まぁ、それも結局、私達アバターラが人間と対立するであろう近い将来を考慮して、って事になる。
私は……多分、迷いがない。
人間側に付く理由が、これっぽっちも無いのだから。
でも、ノーマルである社長には、イロイロと思う所だってあるだろう。
彼女は、私にとっても有益な人物だ。だから、そういう部分では最低限彼女自身の意思を尊重したいと思ってる。
だから、待った。
彼女が出す答えを。
「―――カスミちゃん」
「なに?」
「私を……、ううん、私“達”を、守って……くれますか?」
自嘲的で、泣き出しそうなその笑顔に、私は真摯に向き合い、そして。
「仕方ない。面倒見てあげるわ」
出来る限り優しく、そう答えた。




