第二十二話
第二十二話「勝敗を分けるのは」
北欧神話に於ける終末。
その神々の最後を告げるのは、たった一体の巨人だ。
名を、“スルト”。
北欧神話の物語に於いて、ラグナレクのその時までただの一度も語られる事のない巨人。
しかし、その手の炎の剣は豊穣の神フレイを殺害し、炎を放って何もかもを焼き尽くしたとされる。
世界を滅ぼした巨人。
そんな物が、今、私の目の前に立っている。
紅蓮の炎を纏い、焼け付く岩石のような黒い肉体を持つ、全長10メートルを超える巨人。
有り得ない、とそう思いたいが……。
(―――そんなのは、ただの思考停止だ!)
仮にこの巨人がスルトであろうと、別に生き残っていたムスペルの子の一体だろうと、そんなのは今どうだって良い。
重要なのは、この目の前の巨人がチヒロをたったの一撃で殺し掛け、この場に居る私達全員にとっての脅威になっているという現状だ。
この場で私が判断すべきは、最善。
次善なんて物は必要ない。
全員の生還率を上げる最善手を打たなければ、チヒロだけでなく、全員がヴァルハラ送り決定だ。
そんなのは―――。
(―――イヤだ。絶対に!)
アバターラは死なない。なんて言う奴もいるが、それは間違いだって私は思ってる。
実際、アバターラだって命を落とすし、死ぬ程の痛みを味わってから死ぬのだ。
痛いに決まってる。
苦しいに決まってる。
それに、例えグラズヘイムのヴァルハラで蘇生されるのだとしても、それが本当に“自分だ”と言い切れるのか?
死んだその場所から死したアバターラの肉体は消滅し、ヴァルハラで再び新しい肉体を得る。
消失した肉体は私だ。
だが、新しく私の肉体を模した肉体を得ているのは本当に私か?
私の肉体を模した新しい肉体に、私以外の誰かが宿っているのではないか?
記憶も、性格も、口調も趣味も、食べ物の好みや異性の好みまで、私の肉体を模した物に、自我を持たない私以外の意識が宿って私に成っているだけではないのか?
私は、それが恐い。
死んで生き返るというそのメカニズムが、ただ死んでしまうよりも余程恐ろしいのだ。
だから私は、身近なアバターラ達の死を決して軽んじたりしない。
どんなにソイツらが愚かで、無能で、私にとって利用価値の無い者であっても。
彼らは人間とは違う。
私と同じ宿命を理不尽に背負わされた者達だ。
だから―――。
「―――絶対に、死なせない」
最良最善の選択をしろ。
絶対に間違いは許されない。
今、この場で目の前の化け物と正面切って戦える戦力がどれだけ居る?
答えは、私一人。
カズの防御力や突破力は十分とも思えるが、その選択は出来ない。
彼がコチラで戦闘に加われば、回復役も失った今の状態で、重症を負ったチヒロを庇いながら撤退するチームは誰が守る?
巨人がコイツだけとは限らないし、また他のモンスターやショゴスは一匹では断じてないのだ。
だったら、答えは一つしかない。
「カズ、此処からチヒロと他の連中を連れて、直ぐに撤退して」
「て、撤退でござるか!? しかし、コイツがそう簡単に逃がしてくれるとは思えんのでござるが……」
そう、彼も判っているんだろう。
コイツは普通じゃない。
だから、私はカズの“勘違い”を正す。
「でしょうね。だから、私がコイツとサシでやる」
「―――なっ、無茶でござる! こんな化け物、いくらカスミ殿でも、一人では……!」
「いーのいーの。私ってホラ、元はソロプレイヤーじゃん? パーティー戦とかさ、あんま得意じゃないのよ。分るっしょ?」
「そ、そういう問題じゃ……っ」
「いいから、行って。議論してる時間はない。このままだと、チヒロがもたない」
「う……ッ」
カズのこういう判断の鈍さは、リーダー向きじゃないって、ずっと思ってた。
優し過ぎるんだ、コイツは。
だから、こういう時にどうやって言う事を聞かせればいいか、前もってちゃんと考えてあった。
「アンタが頼りなの。チヒロも、他の連中も、皆を生還させる事が出来るのは、この場にアンタしか居ない」
「……それが、カスミ殿が選んだ、“最善”なんでござるな」
「そ。合理的でそ?」
「合理的過ぎて、ぐうの音も出ないでござるよ……」
悔し気に下唇を噛み、それでもカズは、両の盾をズシリと下ろした。
「―――香澄さん、約束して」
「な、なによ、急に改まって……」
「絶対に、命を粗末にはしないって、約束して」
「……カズ、アンタ……」
多分、コイツも私と同じように考えているんだ。
アバターラの死が、必ずしも本当に生き返っているとは言い切れない、って。
だったら、答えるべき言葉は決まってる。
「―――バカね。アンタに言われるまでもないっての」
「……で、ござるな!」
今にも泣きそうな顔で笑おうとするカズに、私は自信タップリで百万ドルの笑顔を返す。
絶対に死なない。
死ぬ気なんて、さらさらない。
だから―――。
「「絶対に、生きてまた会う。約束する」」
私とカズは拳を突き合わせ、頷き合って。
互いが立つべき戦場に、同時に足を向けた。
「……さぁて、巨人さん?」
「…………」
見上げる私に、見下ろす巨人。
今、背後ではカズがチヒロを抱き抱えて走り出すチャンスを窺っている。
その更に向こうでは、ガンツの爺さんがしっかり他を纏めているみたいだった。
だから、私は最大限の虚勢を張る。
恐いし、強そうだし、私は女の子だけど。それでも、だ。
「―――お互い人外の化け物同士、精々楽しもうかッ!!」
高々と掲げた脚で大地を踏み付け、攻撃の為ではなく、威嚇の為に踏鳴を起こす。
「ゴァーッ!」
地面が砕け、亀裂が走り、巨人が驚いてたじろいだその瞬間を、カズは見逃さなかった。
「絶対、死なないでッ!!」
叫びながら走り去って行くカズに、私は手をヒラヒラさせて答え、でも、ただの一瞬たりとも巨人から目を離す事だけはしない。
一瞬でも隙を見せれば、私でも死ぬ。
コイツは、そういうレベルの相手だと直感が告げてる。
(けど、なるほどね……)
私は、その時になって妙に納得していた。
何故、ショゴス程の食物連鎖上位者が、ダンジョンのこんな浅い場所まで出て来ていたのか、って事に。
要は、コイツだ。
この巨人が所構わず暴れ捲るから、ショゴスでさえ住処を追われるハメになったワケだ。
(つまり、コイツはショゴスですら裸足で逃げ出すような強さ、って事よね……)
ショゴスの体表は消化液の粘膜で覆われていて、そう簡単には引火しない。
だから、こんな火の気の多い場所に生息していても、食物連鎖の上位に立てるワケだけど。
そりゃあ、こんな化け物が走り回ってるなら、ショゴスだって逃げたくなるって物だろう。
洞窟の岩肌を削り飛ばしながら、狭い通路を無理矢理走り抜けてくるような怪物。
こんなのに殴られたら、ショゴスの身体だって数秒ともたない。
消化液の粘膜なんて、何の役にも立たないだろう。
「……。……」
現れて直ぐ、カズに足を弾き飛ばされた時にも思った事だけど。
(自分から動こうとしない……?)
コイツ、相当に慎重な性格をしてるらしい。
どう考えたって、生き物として自分の方が有利な立場に立っているって事を理解している筈だろうに。
それでも、コイツは私を警戒しているようだった。
先にカズの驚異的なパワーを目の当たりにして、ついさっきは私が足で地面を蹴り砕いた様を見た。
だから、だと思う。
慎重に、注意深く、私を観察してるのだ。
私が、自分にとって、果たして脅威となり得るのか否か、を。
(下手な事は出来ない……)
コイツにとって、私が脅威にならないと判断されたら、その瞬間に私は食い殺される。
―――ならば。
「最初から、全力全開で行くッ!」
小手調べとか、小細工とか、そういうのは一切無しだ。
コイツには、そんな物必要無い。
私が、オマエにとって脅威だって事を、思い知らせてやる!
「―――Schwarz Gewaltッ!!」
両手から全身へと燃え移る黒炎を激しく燃焼させ、既に熱く熱せられている地面を更なる高温で蒸発させながら、その噴き出す黒炎と熱量を私自身が喰らい尽くす。
轟と燃え上がる体内の熱が全身の隅々にまで馴染んで行く感覚。
それが末端まで辿り着いた瞬間、私の身体から強い衝撃波が発生した。
「ゴルルル……」
自分と同等の熱量を持つ小さな存在に、巨人は更に強い警戒心を見せた。
喉を鳴らし、今にも飛び掛かるぞ、と脅しをかけてくる。
それが可笑しくて、私は。
「警戒しろ警戒しろ。私は、お前が思っているより、預保危ない化物だぞ」
デカイサイズの化け物とやり合うのは、これが初めてってワケじゃない。
ゲームの中でも、現実でも、だ。
けど、膝が震える程恐い。
虚勢でも張っていないと、今にもオ○ッコちびりそうなくらい。
だっていうのに、コイツも私を怖がってる。
あんなデカイ図体してるのに、自分の指くらいしか背丈の無いこの私を。
「フッ、臆病者が……ッ」
人の事を言えた義理じゃないけど、それでも私は自分自身を焚き付けた。
そんなビビリを相手に、何をビビってやがるのか、と。
そして―――。
「そっちにその気が無いってんなら……」
聞き足を半歩後方へ。
左手を眼前に掲げ、相手との距離を測り。
インパクトまでの間合いを正確に掴んで拳をギュッと固める。
「こっちから、行くぞッ!!」
巨人が身構えるのが判ったと同時、そのタイミングを僅かにズラして、私は右手の甲にある黒鎖を変化させた。
「ヴァリアブルデコード、モード“黒龍槍”ッ!」
拳を突き出す瞬間、黒龍槍を射出。
爆音を発して飛び出した槍の穂先が空を叩き、ベイパーコーンが発生。次いでソニックブームを撒き散らし、巨人へ向かって襲い掛かった。
「―――ッ」
が、驚くべきは巨人の危機察知能力だった。
ヤツにとっても予想外の攻撃だったのは言うまでもないだろうけど、コッチにとってもそれは予想外で。
顔面。それも、目を狙った私の黒龍槍は、無理な態勢だったにも関わらず、巨人の頬を掠めただけに留まる。
「音速の飛翔体を交わすかね……っ!」
私は即座に黒龍槍を手甲の状態にリセットするが、それよりも早く巨人の足が動いた。
ゴリゴリと音を発て、その爪先が地面を削って私に向かって来る。
(ちょおおおッ! あんなん喰らったらミンチになるってのッ!!)
バックステップで交わすなんて愚行は犯さない。
そんな事をすれば、後に発生する爆風と散弾さながらの石礫で私はハチの巣だ。
よって、此処で選択すべきはサイドステップ。
岩盤が砕ける程の力で地面を蹴り出し、巨人の横を擦り抜けるように回り込む。
「当たってはやれんッ!」
考える。この巨体に有効な手段を。
ベタだけど、足への攻撃は有効な筈だ。
しかも、今なら片足が浮いている。
此処から軸足を狙い、黒龍槍を放って巻き付ければ。
「―――行けッ!」
転がりながら右腕を上げ、槍を射出。
狙い通りに槍と私の腕を繋ぐ鎖は巻き付き、しかし。
(うん、まぁ、そうなるよねー)
それだけだった。
漫画じゃあるまいし、あの巨体だぞ?
100トン以上ありそうなその身体を支えている足を、どうやって“引っ張れ”っていうのか。
(考えが甘過ぎt―――)
なんて考えてる暇も無いくらい即行で。
「あばばばばばばばばばっ!?」
蹴り出した巨人の足が戻って来て、私の鎖を踏み付けた。
当然、そんな事をされたら引っ張られるのは私の方で。
(ヤッバッ)
感じた瞬間、意図せずして至近にまで近付いてしまった私の身体に、上方から剛腕が迫った。
「―――ッ!」
叩かれた。まるで、羽虫でも払うみたいに。
たったそれだけの事なのに、私の身体は簡単に宙に投げ出され―――壁面に激突。
「がっ、はっ」
食道を迫り上がって来た熱い体液が吐き出された。
痛い。なんて、生易しい破壊力じゃない。
車に轢かれた事なんて無いけど、生身でそうなったら、こんな衝撃を感じるんじゃないだろうか。
そう、思えるくらいに、私は一撃で意識を失いかける。
(踏み、留まれ……ッ)
岩壁に減り込みながら、それでも奥歯を噛み締めて意識を繋ぎ止める。
舌の上に感じる鉄の味に、私は“生”を実感した。
(まだ、生きてるんだッ)
だから、死ねない。
このまま気を失えば、待っているのは確実な死。
想像通り、巨人はもうコッチへ向かって走り出そうとしていた。
「な……め、るな……よッ」
折角減り込んでいるんだ、その岩盤を使わない手はない。
私は両足だけを引き抜いて、減り込んでいる上体に急激な力を加える。―――跳躍。
指を弾くのと同じ要領だ。
初速で最高速に達し、巨人が拳を振るうよりも速く、私はその頭上を飛び越えた。
「コレなら……どうだッ!」
巨人の頭上で身体を捻り、左手の黒龍槍を射出。
その黒い体表に突き立てられた穂先を軸に、引き戻しつつ自分自身の身体を捻って回転させ、直ぐに槍をリセット。
独楽のように回転しながら巨人の頸椎に向かって両手の“黒龍剣”を振り払う。
「―――兵長直伝、“削ぎ切り”だッ!!」
某漫画で呼んだ対巨人用の荒業。
イロイロギリギリだと思うけど、これは間違いなくコイツにも有効だと判断した。―――の、だけど。
「うッ!?」
―――ギンッ! と鳴る黒龍剣。
斬った、というには余りにも程遠い感触に、私は頭が真っ白になった。
確かに、刃は黒い体表にクロスして減り込んだけれど、“あの巨人”とは硬さがまるで別物だったのだ。
しかも。
「■■■■―――ッ!!」
空中で身動きが取れなくなっている私に向かい、事もあろうに巨人はバックステップ。
その巨体で?! と思った直後。
再び激しい衝撃を受けて私の身体は吹き飛ばされた。
「う゛っ、だっ、がぁっ」
地面に墜落して何度もバウンド。
肺の中の空気が全部吐き出され、またも意識が持っていかれそうになる。
(クソッ! クソッ! クソッ!!)
悔しい。認めたくない。だけど、諦めとかそういう感情以前に、私は実感した。
コイツは、強過ぎる。
だって、あのデカさで、コイツは“体術”を使ってくるのだから。
(最初の蹴りも、その次の払いも、今の背面体当たりも……ッ)
やっとの事で転倒から起き上がった私は、ここまでに見た奴の動きを思い出していた。
その全てに於いて、動きが余りにも洗練され過ぎている。
体幹にブレが無く、無駄の無い力運び。
合理的過ぎて、反吐が出そうになる。
これを反射的に、本能的にやっているのだろうから、全く頭が痛くなって来た。
しかも、だ。
コイツには、まだまだ奥の手が残っている筈なのだ。
だって、コイツは、“炎の巨人”なんだから。
「―――ホラ……、言わんこっちゃない……っ」
コッチに向かって振り返った巨人の右腕。
それが、さっきまでとは比較にならない程強く燃え上がっていて。
この離れた位置関係で、そんな勢いで腕を振るうっていうのは、つまり。
「クソ、ッタレぇぇええええええッ!!」
咄嗟に思い付いたのは、黒鎖の新しい使い道。
全身のそれを総動員し、形状を変化。
叫ぶような暇も無いから、もうICE頼みで、私は―――黒鎖のモードに“黒帝鱗”を作り上げた。
「ゴァアアアアアッ!!」
巨人の咆哮と同時、突き出されたその腕から有り得ない程の爆炎が噴き出した。
その勢いは、ガス爆発よりも早く私に襲い掛かり。
「―――ぐっ、あぁあああああっ!!」
焼かれる。焼かれる。焼かれる。
咄嗟に作り出した黒帝鱗は、玄武―――即ち、玄天上帝をイメージした鱗状の鎖だ。
それを編み上げ、全身を覆う程の分厚い盾を作り上げているのだが、それでも肌を焼く熱量は途轍もない高温。
恐らく、現史世界に存在する実際の装甲車程度なら、装甲どころか内部まで一瞬で熱溶解させてしまうのではないだろうか、という程の温度。
幸運だったのは、その放射がほんの数秒だった事だけれど……。
「……っ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……っ」
呼吸が、苦しい。
恐らく、凄まじい炎の燃焼で、周囲の大気から酸素が殆ど吸い取られてしまったのだ。
黒帝鱗を解除した私の身体は、所々から煙と蒸気を発していて、さっきの炎の勢いがどれ程の物だったかを思い知らされる。
が、それ以上に。
(ハハ……、嘘でしょ……)
私は自分の周囲に出来上がった惨状を目の当たりにし、乾いた笑いしか出て来なかった。
地面だった筈の場所。
私の足元以外、周囲5〜6メートル圏内が、溶岩と化して沸騰していた。
(こりゃ、アカンわ……)
駄目だ。ハッキリ言って、私一人でどうこう出来るような相手じゃない。
こんな気持ちは初めてで。
(どうしよ……、カズに会いたいわ……)
馬鹿げてる。自分で送り出したクセに。
アイツが居てくれたら、もっと楽に戦えたんだろうな、とか。
ひょっとしたら、勝てたかも? とか。
ボッチプレイヤーの私が、何を今更。
っていうか、いやいや、そもそも有り得ないから。
多分、エージェントが総がかりでも、手傷を負わせるのがやっとって所だと思う。
レベルも、ステータスも、カンストしてるんだ、私は。
その私が、絶望するような相手だぞ?
(これ、きっとアレだ……。ホラ、絶対勝てないタイプのイベントボスって奴……)
なんて、下らない事を考えている内に、膝からガックリと力が抜けた。
―――ヤバイ。
今、コイツに弱ってる所なんて見せたら。
「……ほ〜ら、ね……」
ズシリ、ズシリ、と足音を響かせ、巨人は私に向かって迫って来た。
その足運びには、もう微塵も躊躇いなんて物が感じられない。
つまり、コイツの中で私の立ち位置が判別し切れたという事で。
「悔しい、な……」
どうやら私は、コイツにとって―――“弱者”でしかなかったらしい。
でも、それでも、今は構わない。
だって。
「―――勝負は、私の勝ちだもんね」
ニヤリ、と浮かべた笑みに、巨人の足が止まった。
そうとも。コイツは端から勘違いをしている。
この戦いで勝敗を決めるのは、倒すか倒されるか、“ではない”のだ。
私のUIには、今まさにこんなチャットログが届いた所だ。
『全員、無事に脱出成功! カスミ殿も速く!』
―――ってね。
そう、勝てない可能性なんて、最初から想像はしてたんだ。
だから、私がやってたのは、倒す為の戦いなんじゃなく、逃がす為の戦い。
時間は十二分に稼げたって事。
「知ってる? 巨人さん。私たち元PYOプレイヤーにはさ、“帰還用アイテム”ってのがあんの」
「……? ……?」
言葉は、勿論通じてない。
でもま、今はそんなのどうだっていい。
私はヴォイドフリックでインベントリをを開き、そこから“送還石”というアイテムを選択。―――タップ。
瞬間、私の身体がフワリと光の粒子に包まれ。
「あ〜ばよ、とっつぁ〜ん♪」
で、満面の笑み。
そこでようやく事態を察知したのか、巨人の表情に憤怒が刻まれ、しかし。
「手遅れだっつの。じゃーのー」
再び炎を纏わせた腕を振り上げるが、それだけだ。
私が見ている景色はドット絵のように崩れて姿を変え―――。
「―――っと、と」
火山洞の入り口へ着地。
が、それで気が抜けてしまったのか、足に力が入らず。
「あばばっ!」
転びかけた身体が、しかしそこで何かに支えられた。
「……ほぇ?」
顔を上げ、振り返ると。
「―――無事で、何よりでござるよ、カスミ殿」
「あはは……、ただいまぁ」
そこには、なんだかとても落ち着く、何時ものブタメンが立っていた。
その所為か、私の意識はゆっくりと沈んで行って―――。




