第二十話
第二十話「クトゥルフの尖兵」
ムスペルヘイムに駐留して早10日が過ぎた。
当初の予定よりも長く滞在する事になったが、糧食に関してはまだまだ余裕がある。
理由は、ムスペルヘイムに生息する前史外生物の一部が食用に適した肉質と栄養価を備えていた為。
PYOでは味覚や嗅覚の情報を疑似情報として作成する機能があり、モンスター討伐の際に入手出来るドロップ品の中には食用の肉や野菜類、果ては香辛料やハーブまでが存在した。
そうした経緯から、現史世界でもまさかと試してみた結果、これが食用に適していると判明したワケだ。
勿論、科学的に成分分析をしたりもしたから、身体に害が無い事も検証済み。
用水に至っては魔術師たちの魔術で問題無く生成出来るし、“ヒュミルのお守り”があるからクーラーも不要。
お陰で、居住施設を改善すれば、永住すら可能と思える程生活は快適な物だった。―――しかし。
「おーい、ワンコのお嬢! 火山洞に入るから、何人か連れて付き合ってくれーぃ!」
「誰がワンコだ! バーゲストと呼べ!」
叫ぶガンツに吠える私。
これも、今では日常の光景と化していて。
「今日は昨日より深く潜ってみようと思ってのぅ。悪いが、一応の備えで多少人員を増やしちゃ貰えんか」
愛用のピッケルを担いだガンツの爺さんがそんな話をし出したのは、夕刻近くになってからだった。
「ちょっと、時間くらい考えなさいよ。それじゃなくても“ベオバハター”の製作でみんな疲れてんだからさ……」
“Beobachter”というのは、私が考案した例の観測装置の名前。
現史世界の方でも活用法の研究が進められているUEP構造体を動力として使用した半永久機関搭載型の人工衛星のような物だ。
これを3基打ち上げる計画を進めているワケなんだけど、これが強度の都合とかで予想以上に大型化してしまい、当初の予定より多くの資材を必要としている次第。
ガンツの爺さんがこんな時間から火山洞に入りたいと言い出した理由も、要はそこに起因しているワケだけど……。
「わーっちょるわい。んじゃが、今のままじゃとタングステンとチタンが直ぐに底をついちまう。外壁用のウーツ鋼も数が限られとるし、特にカプトン用のアルミとポリイミドがまるで足りとらん状態でなぁ……」
「サーマルブランケットか……。此処じゃ得に重要な部分だしね……」
人工衛星を製作するにあたり、事ムスペルヘイムという環境下で最も重要なのは内部の電子機器を保護する為の断熱材、サーマルブランケットだ。
その断熱に使用するのが“カプトン”と呼ばれる素材。
製作レシピはポリイミドとアルミニウムで、ポリイミドに関しては地中のかなり深い場所でなければ入手困難な材料だ。
というのも、この素材アイテム、採取や採掘で入手できる物ではなく、モンスターからのドロップ品なのである。
「相手は“ショゴス”……。はぁ〜、面倒」
ショゴス、というのは、本来PYOの世界には存在しなかったモンスターで、その原典は彼の“クトゥルフ神話”。
コイツが非常に厄介なモンスターで、地中の奥深くにしか生息せず、全長5〜6メートルの巨体と物理攻撃が通り難いという特性を持つ。
しかも、見た目が生きたコールタールのようで変幻自在。
最も高いダメージを与える事が出来るのは火属性に分類される魔法なのだが、問題はそこにある。
火属性の攻撃を行った場合、大爆発を引き起こす危険性がある上、ポリイミドのようなプラスチック系の素材アイテムをドロップしなくなってしまうのだ。
「―――わかった。コッチでメンバー見繕っておくから、そっちも準備整えておいて」
ショゴスを相手にするなら、この時間になってしまうのも仕方がない事。
アイツらは夜に活動が活発化するから、火山洞の比較的浅い場所でも出現し易くなる。
現状、余り深い場所まで調査が進められない以上、可能な限り深く潜っての探査という危険を冒したくはない、というのが私の本音だった。
私はガンツの爺さんにそう伝え、来た道を戻って仮設テントまで戻り。
「カズ、今大丈夫?」
「およ、どうしたでござるか?」
そこで荷物の整理をしていたカズに声をかけた。
ショゴスの討伐。それも、火を使えないとなるとかなり面倒な狩りになる。
それ故、長期戦を考慮すると、優秀な盾役が必要になるからだ。
その点、カズなら実績もあるしショゴス戦の経験も豊富。
メイン盾の実力を遺憾なく発揮して貰うとしよう。
―――画して、30分後
「全員、忘れ物は無いな?」
私の前にはカズとガンツを筆頭に技能士5名、戦闘要員5名で構成される10人の小隊が編成整列されていた。
何れ劣らぬ高レベルのアバターラ達。
ショゴスを弱点攻撃せずに討伐するには、相応の実力が求められる。
なんせ、物理攻撃が効き難い相手に物理攻撃と弱点外属性による魔法攻撃で倒さなければならないからだ。
戦闘要因はカズをタンクに私をアタッカー、バックアップにシバタ、ヒデアキ、チヒロという各分野のエキスパートメンバーをチョイスしてある。
ちなみに、私は彼らを覚え易いよう“イガグリ頭のシバタ”、“モヒカンのヒデアキ”、“おかっぱ頭のチヒロ”と記憶している。
シバタはダイキの所から、モヒカンはツバサの、チヒロはカナの小隊からの出向組だ。
「シャッス!」
「ヒャッハー!」
「もうヤダこの人達……」
とまぁ、こういうメンツである。
挨拶もそこそこに移動を開始した私達は、一番近場の火山洞があるポイントまで私の騎乗用アイテムで移動を開始。
騎乗用アイテムってのは、その名の通りプレイヤーが長距離移動の際に利用する“騎乗出来るアイテム”だ。
種類はイロイロあって、馬や飛竜、グリフォンのような生き物だったり、魔動車両や空飛ぶ絨毯のような非生物型だったりと形状も性能も様々。
私が扱うのは、PYOには元来存在しなかった私専用の魔動戦車。通称“アヴェンジャー”。
ベオバハター製作に踏み切った理由の一端を担う物で、試験的に現史世界の技術を応用した特殊騎乗用アイテム。
勿論、製作者は私だ。
車体は、全長8.5メートル、全高3.5メートル、全幅4メートル。
主砲には、この騎乗用アイテムの名の由来ともなり、実際に現史世界で圧倒的攻撃力を誇る30ミリ機関砲GAU-8“アヴェンジャー”を搭載。
その他、5.56ミリ軽機関砲2問、スモークディスチャージャー、四連奏ガンランチャーを装備していて、四脚無限軌道なんていうロマン満載の近未来的デザイン戦車だ。
元々はフィールド上での対大型モンスター戦を考慮して製作した端から戦闘用の騎乗用アイテムなんだけど、今回は移動用程度にしか使えそうにないのが残念。
で、コイツを使って現地まで向かっているワケだけど……。
「すっげ! マジ戦車じゃないッスか!」
「ヒャッハー! 汚物は消毒だああああああ!」
「あの、コレってどう使うんですか?」
とまぁ、やいのやいのと大騒ぎする戦闘要員達。
車体後部に取り付けた搬送用コンテナの方に乗っている技能士達も、今頃内部の装備や構造にアレコレやっているだろうけど、本体のコッチは元々四人乗りで車内はかなり狭い。
その所為で、煩いったらなくて。
「ちょっと! ベトロニクス勝手に触らないで! だぁーも、セーフティー外すなっ!」
「う、疼く……! 自分の中の男の子が疼くでござるッ!」
「アンタもかッ!」
操縦自体は一人でも出来るように設計されてるんだけど、コイツら椅子に黙って座ってるって事が先ず出来ないらしい。
っていうか、カズが久々にブタメンで邪魔!
―――まぁ、正直に言えば、作った私だって最初はめっちゃ興奮したモンだけど、他人に騒がれるのとではやはりワケが違う。
「ええい、お前ら黙って座れッ!!」
私の怒号が響く中、それでもアヴェンジャーはムスペルヘイムの荒地を直走る。
超高温の地面を走っても履帯や足回りが平気なのは、当然そう設計したからで、UEPとICE様々だ。
真っ赤に熱せられた溶岩を泥水の如く跳ね飛ばし、履帯は土煙宛らに火花を散らして走る。走る。走る。
その後、出発から物の数分で現地まで辿り着いた私は、ダンジョン潜入以前にグッタリと疲れ果てて居たのだった……。
「いやー、堪能したでござるなー!」
「また乗せて欲しいッス、副隊長殿!」
「オレぁ主砲をブッパしたかったぜぇ……、ヒャッハーしてぇ!」
「流石、バーゲストさんの乗り物ってだけありましたよねー。私もまた乗せて欲しいですっ」
「はいはい……、また今度ねー……」
洞窟入口前で停車し、降車した私達がそうこうしていると。
「おうおう、お疲れのご様子じゃの、ワンコちゃん」
「だぁれがワンコちゃんだ……!」
「ホレ、何時までもブーたれとらんで、さっさと潜るぞい。そう時間も無いでの」
「クソ……、マイペース爺さんめ……」
と言ってもこの爺さん、見た目は確かにドワーフの爺さんって感じで髭も髪も総白髪なんだけど、実年齢はまさかの35才。
松岡さんとそう変わらない年齢だから、爺さんなんて呼び方、本当は似付かわしくは無いんだけれど。
(どう見たってジジイじゃん!)
喋り方も動き方も、もうなんか滲み出るジジイ感がハンパない。
「コリャ、何しとる? 行くぞい」
「あーもう! ちょっとくらい休ませなさいよ!」
一人でサクサク洞窟内へ向かおうとするガンツ爺さんの後を追い、私達はいよいよ洞窟へと足を踏み入れるのだった。
―――が、その足は洞窟に踏み入って数分後、直ぐに止まる事になる。
「なに、この臭い……っ」
私のアバターが持つ特性の所為か、その悪臭は誰よりも早く私の嗅覚を刺激した。
有毒ガスに混じって充満する強烈な腐敗臭。
しかも、焦げ臭さまでが相まって、人間の百万倍以上という私の嗅覚は麻痺寸前の所まで来ていた程だ。
「どうした、ワンコちゃん」
「爺さんちょっと下がって。カズ、私と前へ!」
「ガッテンでござるッ!」
私の反応から、最近では一緒に行動する事の多くなったカズが直ぐに事態を把握し、両盾を構えて前に出た。
静か過ぎる洞窟内。
聞こえて来るのは、溶岩の流れるゴポゴポという音にガスが噴き出す音。
入口付近のこの辺りは道幅も狭く、赤熱する岩石の明りで見通しも良いのだけれど。
奥に何か居る。それが嗅覚を通して実感出来る。
この場所は、別に初めて来たというワケじゃない。
今までも何度かこうして採掘の手伝いに訪れた事がある場所だ。
だけど、こんな事は初めてだった。
「この臭い……、近い……?」
腐敗臭の原因。それは、紛れもなく奴―――ショゴスだ。(コ○ラではない)
しかし、どうしてこんな入口の近くにまであんな危険な奴が出てきているのか、疑問が生じる。
「そういえば、此処まで一匹もモンスターに出くわしませんでしたね」
「何時もなら、サラマンダーやらファイヤエレメントやらがそこら中たむろってる筈なんだけどな?」
「そうなん? オレ初めてだから良く判んねぇけど」
チヒロ達の言う通りだ。
私達戦闘要員が技能士達を護衛する理由が、それを掃除する事。
なのに、それが一匹も出てこない。
察するに、モンスターの中でも獰猛で狡猾な“食物連鎖に於ける上位”の部類に入るショゴス辺りが暴れ回ったのだろうとは思うのだけれど……。
(そこが、おかしいのよね……)
モンスター同士の食い合いなんてのは、ゲームの世界じゃ有り得ない。
けど、現実のモンスター達は違って、種族間での食い合いは勿論、場合によっては共食いをするような連中まで居る。
だから、それ自体は別に珍しくは無いんだけど―――。
「―――ワンコちゃんの懸念も判るが、ワシらの目的は必要物資の調達じゃ。ガスや疲労度の事もある。何時までもこうしてはおれんぞ……?」
「まぁ……、ね」
「で、ござるな」
確かに、爺さんの言う通りだった。
回復系能力者のチヒロが居るとは言え、何時までも此処に留まっては居られない。
大気熱に関してはヒュミルのお守りで防ぐ事が出来るし、体力は回復する事も出来る。
けど、ゲームで言う所の魔力―――現実では脳疲労だが、コレに関しては、回復アイテムで治癒する以外に方法が無いのだ。
所持している回復アイテムの数は有限。
時間をかければかける程、チヒロへの負担が大きくなる。
それに、肉体的・精神的疲労度に関しては持ち歩けるアイテムでの回復のしようが無いというのも問題だ。
この辺りがゲームと現実の違い。
体力と肉体的疲労度が別物である、って事。
「何時もよりちょい警戒して進むわよ。先頭はカズ、殿にシバタ、ヒデアキ。チヒロとクラフター隊は中列、私から離れないで」
「「「了解」」」
私達は、こうして何時もと少し雰囲気の違う火山洞の中を進み始めた。
高熱のガスが噴き出す地面や壁を避け、溶岩が溜まる池を岩伝いに渡り、横穴のある場所は警戒心を更に強めて、慎重に、慎重に、丁寧にダンジョン内をクリアリングして行く。
「犬っころ、コッチでござるよッ!」
「ガウッ!?」
「背後がガラ空きッ!」
「ギャインッ」
途中、何度かモンスターと接触し。
「バーゲストさんが、ヘルハウンドを狩るって……」
「同族殺し。重罪でござるな」
「私は犬じゃない! 黒・妖・犬・だ!」
「犬じゃん」
「犬だな」
「ムキィーッ!!」
「猿にクラスチェンジしよったわ」
などと戦闘を繰り返しながら、溶岩洞を進む事更に30分余り。
徐々にあの“腐敗臭”が強くなり始め。
「近い……。直ぐそこまで来てる」
「で、ござるな」
「ワシらでも判る程、臭いが強くなってきとるわ……」
それは、奥が見通せないほど暗い場所に入り込んだ時だった。
「■■■■■■■■ぉぉー……! ■■■■ぉー……!」
まるで、地獄を往く亡者の群れが上げる声。
その薄気味悪い音を聞いた直後、先頭を歩いていたカズが手を上げて後続を制止した。
「■■■■ぉー……ッ」
何時もは採掘に適している為、利用している大きな空洞。
天上も高く、部屋の幅も奥行きも広い場所。
ドーム状に成型された此処に初めて足を踏み入れた時は、“ボス戦が出来そうなトコだ”なんて冗談めかして話した物だけど……。
「―――まさか、本当に“ボス戦”するハメになるなんて、ね……」
部屋のほぼ中央。
そこに、ネットリとしたゲル状の巨体がうぞうぞと蠢いていた。
意思を持って自在に形状を変化させるコールタールと無数の眼球。そんな形容がピッタリと当て嵌まるような怪物で、如何にも“クトゥルフ”らしい恐怖心を煽る姿をしている。
大抵のゲームでは、スライム系のモンスターというと酷く脆弱なイメージを持つ雑魚キャラだ。
だが、同じスライム系のモンスターでも、コイツはハッキリ言って別格。
強酸性の消化液は私達アバターラの強化された肉体ですら簡単に溶解してしまうし、エンチャントがされていないただの鉄製武具など、攻撃をしたコッチの方が破損してしまう始末。
しかも、コイツに関してはその体力の多さがハンパじゃない。
それこそ火属性魔法で焼き殺しでもしない限り、高ランクのアバターラでも討伐に1時間近い時間を要するのだ。
「前回のよりデカイ……」
前にも討伐した事が何度かあるが、その時の奴は精々が5〜6メートル程度の個体だった。
が、コイツのデカさは報告にあった最大クラスの10メートルを更に超えている。
コレがゲームの世界なら、モンスターにそれ程大きな個体差は生じない物だけど、現実はもっともっと理不尽で現実的な法則で私達の常識を覆してくれる。
デカさ=強さ。
解り易い構図だが、それだけに馬鹿に出来ない。
「全員、奴の攻撃には最大限注意してよね。特に、触手攻撃と消化液」
「あの大きさとなると、攻撃範囲がかなり広そうでござるな……」
「消化液の量も、だよ。アイツら身体の何処からでも吐き出して来る上に、床や壁に飛び散る飛沫でさえ生身に触れたら致命傷になり兼ねない」
「了解ッス。ペットにはリジェネレーションかけといた方が良さそうッスね」
「防具にゃ水系の魔法をエンチャントしとく。必要なら遠慮なく言ってくれや」
「もし少しでも消化液でダメージを受けたら、直ぐに後退して下さい。アタシが回復します」
戦闘要員全員で顔を見合わせ、頷き合い。
「爺さんらは安全圏で待機。絶対前に出てくんじゃないわよ」
「わーっちょるわい。最悪、雑魚モンスター共に絡まれた時ぁ、ワシの“ドラゴンキャノン”で撃退するだけじゃ」
「アテにしてる。―――全員準備はいい?」
技能士隊、戦闘部隊、共に確認を取り、そして。
「よし。―――総員、戦闘開始ッ!」
「「応ッ!!」」
カズを筆頭に、岩陰から飛び出した私達戦闘要員はそれぞれの立ち位置に向かって全速で移動を開始する。
最初に攻撃を仕掛けるのは、当然カズ。
突進から肉薄し、その超重量で二枚の盾を前方に向け、突撃を慣行する。
「■■■■―――ッ!!」
奇声を発するショゴスに盾のスパイクが突き刺さった瞬間、カズはしゃくり上げるような動きでそのゲル状の血肉を腕力で強引に引き千切った。
そこへ、今度は私が前に出る。
(黒炎は使えない。けど―――ッ!)
両手両足の黒鎖を形状変化。
「ヴァリアブルデコード、モード“黒狼甲”ッ!」
狼の頭部を象った手甲と具足。
それを装備し、跳躍から渾身の力を込めた拳を叩き込む。
「■■■■ッ!?」
破裂したショゴスの肉片が飛び散り、赤熱する地面に落ちて一瞬で黒く焼け焦げた。
通常、ショゴスのようなスライムタイプのモンスターに打撃は愚策とされる。
その理由は、殴り付けてもブヨブヨとしたその身体に衝撃を吸収されてしまい、むしろ殴った腕や蹴った足を取り込まれて自分がダメージを受けてしまう危険性が高いからだ。
だがそれは、打撃という攻撃方法に問題があるのではなく、打撃によって生じた衝撃を奴らの身体が吸収し切れてしまう事に問題がある。
ならば、奴らが衝撃を吸収し切れない程の打撃を与えてやれば良い。
そうすれば、このように衝撃を受け止めようとした奴らの肉体の方が限界強度を超えて弾け飛ぶ事になる。
「打撃は無い、とでも思ったか? 馬鹿めッ!」
「■■■■ッ! ■■■■ッ!!」
アレに痛みがあるのかどうか判らないが、それでも激しい反応は見せてくれる。
だから、反撃があるかどうかの判断は容易く。
「フッ、残念だったな」
私は頭上を走り抜けたショゴスの触手を悠然と見上げながら、余裕を持って回避。
一瞬でアバターモードを“黒妖犬”に切り替え、体積その物を小さくして素早くバックステップした。
そこへ、間髪入れず。
「ヒャッハー! 喰らいな、ヴェントジャヴェロットッ!」
遠巻きに距離を取って立つモヒカンことヒデアキの風属性魔法が大気を引き裂き、ショゴスの巨体に直撃。
ドリル状に逆巻く風の槍で、その柔らかな肉体がゴッソリと削り飛ばされた。
の、だが、その威力の大きさ故、ショゴスの意識がモヒカン一人に向けられてしまった。
「あ、やべ……」
直後、ショゴスの身体がブルリと震え、その全身から夥しい数の触手が放たれてしまう。
「させないッス。喰らい付け、シャルロットちゃん!」
「ヒデアキ殿、自分の後ろにッ!」
絶妙なタイミングでショゴスの眼球へと噛み付いたのは、シバタが操るペット、聖獣“ハクリョウ”。
本人は“シャルロット”なんて名前で呼んでいるが、その見た目は発光する真っ白な尾の長いイタチだ。
その急襲により、ショゴスの注意が僅かに逸れ、更に、そのシバタと全く同時に動いていたカズの盾がヒデアキへと殺到した触手の尽くを弾き飛ばした。
「あっぶねー、サンキューな!」
「モーマンタイでござるよ!」
これで、ヒデアキからカズへと再びショゴスの意識が向けられ、弾かれた触手がグニャリと波打ちながら引き戻された。
その隙を付き。
「みんな、行くよ! ―――プロテクション・シェルッ!」
ショゴスから最も離れた位置に立つチヒロが、金色のオーブを嵌め込まれた長杖を掲げた。
瞬間、発光するオーブとその場で戦う私達全員の武装に緑色の煌きが灯り、共鳴するように輝き出す。
“プロテクション・シェル”の加護だ。
エージェント・ニャ子ことカナ直伝の補助系防御魔法で、加護を受けた者は体表を薄く堅固な魔力障壁で覆われ、防御力が大幅に向上する。
が、それだけでは止まらないのが高ランクプレイヤー達だ。
「続けていくゼェッ! スペルエンチャント・ヴェントスパーダッ! &アクアアルマトゥーラッ!」
「こっちも行くよ! シャルロット、リジェネレーション!」
指定した対象、もしくは同パーティーメンバーの武器に風属性の加護を付与し、追加ダメージを発生させる“ヴェントスパーダ(風の剣)”。
更に加え、指定した対象、もしくは同パーティーメンバーの防具に水属性の加護を付与し、毒やガス、病原体等から装備者の肉体を保護する“アクアアルマトゥーラ(水の鎧)”という二種のエンチャント魔法を発動させるヒデアキ。
そして、シバタはペットの体力を継続的に回復し続ける“リジェネレーション”を発動。
(コレが、高ランクプレイヤーたる所以、よねぇ……)
普通、この手の補助系技能は戦闘直前で余裕のある時に付与しておく物だ。
しかし、高ランクプレイヤーは、初めて戦うような相手でない限りそうはしない。
理由は、現実の戦闘ではそれぞれの技能に“クールタイム”や“詠唱時間”が存在しない事と、効果時間に限りがある為。
クールタイムと詠唱時間が存在しない、という事は、使う気になれば何時でも発動が可能だという事でもある。
つまり、例えそれが戦闘中であっても一瞬でも隙があれば補助技能を発動する事が出来るというワケ。
でも、発動と同時に術の効果時間は徐々に目減りして行く。
そのまま放っておくと、何れ術が解けてしまうワケだ。
だったら、少しでも術の効果時間を無駄にしない為、補助技能は戦闘中に隙を見付けだして使用した方が効率が良い。
更に言えば、戦闘開始直後で集中力の高い状態なら、相手の攻撃を喰らう心配がほぼ無いと言い切れる程に全員が戦闘行為に自信を持っているという現れでもある。
よって、私は人型へとアバタースキンを書き換え。
「―――Schwarz Gewaltッ!」
私が持つ唯一の補助技能を発動させる。
全身を覆う黒炎が激しく燃え盛り、それを私自身が吸収して衝撃波が放出された。
―――“Schwarz Gewalt”。
読んで字の如く、ドイツ語で“黒の暴力”を意味する言葉。
この技能は私自身にしか効果が及ばないが、その代わりに自身の基本ステータスを大幅に向上させる効果がある。
既にカンストしている私のステータスに、付与された強化値が加算され、その結果は。
STR1119、DEF1084、DEX1199、INT1049、MND1049。
と、カンスト値の表示限界を超えたステータスに書き換えられるワケだ。
「さぁ、こっからが本番ッ!」




