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Master Code  作者: 覇牙 暁
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第一話

第一話『エージェント・バーゲスト』




 ―――『Perish Yggdrasil Online(滅びのユグドラシル)』―――


 純国産のMMORPG。


 世界で初の完全体感型VR(Virtual Reality)対応ゲーム。


 全世界で5億人以上ものプレイヤーが常時接続しているという史上最大のオンラインゲームだ。


 事前準備として仮想現実への接続用にダイビングカプセルと専用スーツという定価15万円もするようなフルパッケージ設備を必要とするゲームだというのに、サービス開始から一年が経った今も尚新規ID登録者は増加し続けているという。


 このゲームの特徴は、先ず何といってもゲームの世界を自分自身が五感を通して体験出来るという点。


 地面も、風も、草木や水、温度や匂い、味に至るまで、現実との境界が曖昧になってしまう程完璧に感じ取れる。


 その気になれば、睡眠さえゲームの中でとれてしまうというのだから、最早拡張された現実世界と言っても間違いではない。


 しかし、このゲームの特徴はそれだけではない。


 Virtual Realityという特性を最大限に生かしたゲームシステムが余りにも秀逸なのだ。


 求めたのは、完全なる“リアル(現実)”。

 その謳い文句に恥じる事のない戦闘システムは圧巻の一言に尽きる。


 既存のオンラインゲームと言えば、戦闘に欠かせないのが“スキル”の存在。


 それは名前を変えてどんなゲームにでも存在したものだ。


 ところが、この『Perish Yggdrasil Online(通称:PYO)』には、そうした概念がほぼ存在しない。


 あるのは精々が数種類のパッシブスキルと呼ばれる常時プレイヤーキャラクターの性能に影響を与えている物だけ。


 アクティブスキルやアクションスキル、アタックスキルやウェポンスキルなんて物は一切存在せず、プレイヤーは自身のイメージを元に自分なりの攻撃用スキルや回復用スキルを“創造”するのだ。


 頭の中で思い描いた物を現実の物としてゲーム内にフィードバックするのである。


 その威力は千差万別。

 強力なスキルを生み出すにはコツが必要になる。


 そうしたゲーム故、強いプレイヤーであればソロでの完全攻略も不可能ではないし、プレイヤースキルに自信の無い者であれば多数のプレイヤーで協力して戦うパーティープレイを行えば良い。


 つまり、このゲームは“私”にとってこれ以上ないほど住み心地の良い場所だった。



 「―――平和、だなぁ……」



 今、私の目の前にあるのは、“ラ・ジーク”と呼ばれるこの世界の中心都市。


 大きな噴水が置かれた中央広場には多くの人間たちがごった返し、中世ヨーローッパの街並みをPC(player character)とNPC(non player character)が分け隔てなく仕事に精を出している。


 このラ・ジークという都市はプレイヤーがゲーム開始直後に初めて訪れる場所であり、同時に商業の中心でもある。


 PYOの世界では世界各地で様々な素材アイテムを採取可能なのだが、それらを合成して既存の物にはない全く新しいアイテムを作り出す事も出来る。


 そうしたプレイヤー自身が合成したアイテムを競売にかけて販売する事の出来るシステムがあるのだが、それを行えるのが唯一このラ・ジークだけなのだ。


 つまり、プレイヤー達はほぼ全員、この都市を基点に様々な冒険の旅を楽しんでいるというワケで。



 「人……多過ぎ」



 人間が流れる川を見ているような気分になり、少し気持ち悪くなってきた。


 徐に腰を上げ、踵を返す。



 「あ、わんわんお発見!」


 「―――っ!?」



 突然背後から脇の下に手を突っ込まれ、強引に抱き上げられて驚いた。


 余りに暇で失念していたのだ。


 今この場所が宿屋の二階で、簡単に人が出入りできる場所だったという事を。



 「真っ黒だな、コイツ」


 「カワイイー!」


 「なぁ、オレにも抱かせて!」



 最悪だ……。


 よりにもよって、こんな馬鹿丸出しの厨房(誤字ではない)みたいな連中に捕まるなんて。


 彼らが言う通り、私は子犬の姿をしている。

 真っ黒な。


 通常プレイヤーが選択可能な種族は決められているが、私を含む一部の運営側の人間はその限りではない。


 特に、私は。



 「NPCかな?」


 「でしょ」



 そう、コレだ。


 もし誰かに出くわしたとしても、中身が人間だと気付かれ難くする為。


 勿論、これは仮の姿で、本来はもっと大きく、凛々しい姿をしているのだが。



 「ワンッ」


 「きゃあっ!」



 一吠えし、驚いて力が抜けたその瞬間に脱出。


 着地を決めたと同時に素早く逃げる!



 「あーぁ、行っちゃった……」



 頭上からのそんな声を背に、私は宿屋の階段を一気に駆け下りて外へと飛び出した。


 まったく、冗談じゃない。


 建物の脇にある路地裏へと入り込み、トボトボと歩きながら溜め息を吐く。


 他人との接触を避けたいが為に選んだ仕事だというのに、この姿はやはり誤りだっただろうか。


 私とて女だ。

 可愛い物は好きだし、色々な姿に化けられる特性があると聞けばこんな姿になってみたくもなる。


 駄菓子菓子。


 それで望んでもいない他人との接触率が上がるというのは、少し考え物だった。


 ―――と、路地裏の木樽の上へと腰を下ろした瞬間、不意に耳の奥で響く“ピピッ”という音を聞いた。


 呼び出し音。

 GMコールだ。



 『カスミちゃん、今手空いてる?』


 「カスミちゃん言うな! ―――バーゲストだ!」


 『あぁー、ゴメンゴメン。バーゲストさん、ね。うん。でね、カスミちゃん』


 「だぁーも! もういいっ! ……で、なに。仕事?」



 カスミ。

 それが、私の本名。


 正確には、『谷那やな 香澄かすみ』。

 人間嫌いの18歳、女子高生(卒業間近)。


 今はこのPYOを運営するアドバンスドブレイン社でGM兼エージェントとして働く正社員の一人。


 ちなみに、現在通学中の学校に届け出も出しているし、許可も下りてる。



 『仕事……なんだけどさ、その……悪いんだけど……』


 「―――はぁ。もう言わなくても大体解った。聞きたくない」


 『そこを何とか! 人手が足りないんだよぉ……』



 コールしてきた通信相手は、『松岡 慶次 (まつおか けいじ)』。


 このゲームの開発チームを率いる主任研究員なんてやってる男。


 背は高いけど細くてパッとしない感じで、メガネかけた髪もボサボサの兄ちゃん。


 見た目は二十代そこそこってくらい若く見えるのに、実年齢は三十路跨いでるらしい。



 『頼むよ〜……、ほら、またアレ、奢るから!』


 「イチクリぼたスペ?」


 『そうそれ! どうかな?』



 “イチクリぼたスペ”というのは、札幌市内でチェーン展開している甘味処で、井波屋というお店の一番人気商品。


 私の大好物で、正式名称は“イチゴクリームぼたもち・スペシャル”だ。


 この男は、こうやって事あるごとに私を“イチクリぼたスペ”で買収しようとする。


 確かに大好物だし、幾ら食べても食べ飽きない絶品スイーツではあるんだけど……。



 「幾ら何でも、最近ちょっと多過ぎ。他の連中は何してんの?」


 『他もみんな手一杯なんだよ……。プレイヤー人口が増えて嬉しい悲鳴って感じではあるんだけど、やっぱり一般GMの増員も考えるべきかなぁ……』


 「私に相談しないでよ。居るでしょ、ほら……あの爆乳行き遅れ社長とか」


 『カ、カスミちゃんっ、“行き遅れ”はマズイって! あの人、それ言うと本気で落ち込むんだから!』


 「知らないってーの」



 とはいえ、事情が理解出来ないではない。


 エージェントとして働けるGMは人数が限られている。


 世界ランカークラスのプレイヤースキル持ちで、且つオンラインゲームに関する専門的な知識を一通り納めてるPYO・ファーストシーズンのソロクリア経験者なんて早々居る筈もないのだから。



 「―――はぁ〜……。で、場所は?」


 『え……、行ってくれるのかい!?』


 「場・所! さっさと言わないと行くの止める」


 『ま、まった! えっと……あぁコレだ、ミッドガルドの……“黒の森”! 位置座標送るね!』



 とのセリフと同時に、私のインターフェイス上でミッドガルド全域を映す地図が表示される。


 その地図の東側に広がる広大な森林地帯。

 そこで、赤い光点がアラームと共に多重サークルを伝播させていた。



 「ったく、コレっきりにしてよね」


 『いやぁーホント申し訳ない。後で“いちくり……”なんだっけ』


 「イチクリぼたスペ」


 『それ! カスミちゃん家宛てで注文しておくから!』


 「はいはい……、じゃーね」



 投げやりにそう答え、ヴォイドフリック(虚空上で行うフリック操作)でマップを縮小、視界端へ寄せた。


 ここから先、やる事は単純だ。


 一般プレイヤーとGMの違い。

 それは、扱える機能の差。


 通常、プレイヤー達は目的の場所まで移動する為に、騎乗用アイテムや転送ゲートを使用する。

 そこから更に徒歩で移動し、ようやく狩場やイベントポイントへと辿り着くワケだが……。



 「―――ほいっと」



 私達GMは、コールサインの出ているマップ上の光点を軽くタップするだけ。


 それだけで、好きな所までワープで一ッ飛びである。


 瞬間的に全身を淡い光の粒子が包み込み、周囲の景色がドットアニメのように変化して行く。


 その間、僅か数秒。


 何時しか路地裏の景色はガラリと姿を変え、視界を覆うのは深緑に染まる樹海。


 そして、目の前には……。



 「……は?」



 私の口から出たのは、そんな間抜けな声だった。


 陽光さえ殆ど通さない樹木が鬱蒼と生い茂る中、地面に転がっているのは複数体の人の死骸。―――というと、少し語弊があるか。


 戦闘不能状態で地面に突っ伏している数名のプレイヤーアバターだった。



 「―――ハッ!」



 突然の出来事で思わず素が出てしまったが、此処から先はGMとしての私になる必要がある。


 GMとしての私。

 それは、エージェントとして契約した際に必ず約束させられる物。



 (余程の事が無い限り、世界観を壊さない為にロールプレイを心掛けよ!)



 ロールプレイとは、即ち“役割演技”の事。


 私はGMではなく、“エージェント・バーゲスト”としてプレイヤー達と接しなければならないのである。


 子犬の姿では流石にいられない。

 それ故、私は本来の姿―――“黒妖犬”としての姿へとアバターを変化させた。


 ヴォイドフリックで変身機能を呼び出し、“黒妖犬モード”を選択。

 同時、足元から膨れ上がった黒い炎が全身を包み込み、子犬の姿を焼き焦がして黒炎その物を黒い巨体の犬へと変化させる。



 「……フッ」



 液体とも気体とも思える艶やかな黒い炎を纏い、薄闇に煌々と輝く深紅の瞳を浮かべる巨犬。


 これが、私の本来の姿。

 厳密に言えば、自分の肉体として更に扱い易くする“モード”があるが、滅多な事では使用しない。



 (ただのGMコールなら、コレで十分)



 足を踏み下ろす度、黒炎が地面を焼く。


 その燻りを足跡のように残し、私は悠然と倒れているプレイヤー達の下まで歩み寄る。



 「うぉっ!?」


 「ちょっ、こわっ!」



 内数人が私の存在に気付き、その容貌に驚いて声を上げた。


 が、無論戦闘不能状態では声を発する事以外出来ず、彼らの身体―――アバターはピクリとも動かない。



 「案ずるな、私はゲームマスター。貴様らが私を呼んだ冒険者で相違ないな?」


 「おお……、ホントにGMさんて役になりきるんだ……!」



 当然だ。むしろ、そうでないと私は他人となんてロクに喋れない!


 だが、ナリキリボイスチャットなら話しは別だ。


 14才頃に経験した黒歴史が今になって役に立つなどとは思ってもみなかったが、公に認められているのならこれ程悦に入る物を他に知らない。



 「私の事はいい。で、私を呼んだ理由はなんだ?」


 「あぁ、それが……」



 と、何かを言いたそうにしているのに妙に口籠るので、仕方なしに喋り始めた男のアバターを蘇生しようとした所。



 「そっちの連中がいきなりココ来て狩りの邪魔したんですよ」


 「は? 邪魔って何よ、邪魔なんかしてないし。アンタらが突然難癖つけてきたんじゃん」


 「はぁ!? コッチの獲物掻っ攫ってったのオマエらじゃねーか、横取りとかフツーに考えてマナー違反だろ」



 などとまぁ出るわ出るわ。


 松岡さんから連絡が来た段階で大凡理解はしていがた、思った通りの案件だった。


 PYOでは、この手の問題は初心者間で特に起こり易く、また解決策もとっくの昔に準備されている。


 私はただ、それをマニュアル通りに提示するだけだ。



 「―――なるほど、互いの言い分は理解した。その上で双方のログも確認させて貰った」



 私は、今言った通り、実際にこの場での両者のチャット内容や周辺の録画映像を確認している。

 これもGMの特権だが、その気になれば数か月前までの映像記録を各エリア毎にサーバーで管理している為、証拠動画など何時でも閲覧が可能なのだ。


 見た限り、確かに一方のパーティーがレベリング中、もう一方のパーティーが近場にキャンプを始め、POPするモンスターの奪い合いが始まっていた。


 確かに、奪われた側としては気分が良くないだろうが、この場合そうした心情的な問題は一切斟酌する必要が無い。


 何故か?



 「証拠見たんだろ? だったらさっさとソイツらどっかやってくれ。気分わりーわ」


 「確かに、その時の映像は確認させて貰った。だが、彼らをこの場から退去させる理由にはならん」


 「……は?」



 おーおー、キレてるキレてる。


 まぁ、当然だろう。

 コイツらは、今も尚絶対に自分は悪くないと信じて疑っていないのだから。


 だが、しかし、だ。



 「貴様は、“冒険者登録規約”にしっかりと目は通したのか?」


 「え、規約? は?」



 一気に声がキョドり出す。


 どうせ、コイツもロクに確認なんかしちゃいないんだろう。


 “冒険者登録規約”とは、言い換えればPYOの“利用規約”の事。

 運営が設定した、ゲームをする上で必ず順守されなければならないルールを記した物。


 そこには、こうある。



 「特定のエリアを除き、フィールド上のあらゆる場所・物・構造物を個人、または団体が所有・占有する権利は原則として認められない。また、この規約に違反した者・団体には罰則として警告無くアカウントを停止する場合がある。―――と、あるのだが?」


 「今そんなん関係ねーだろ!?」


 「大アリだ。貴様は先ほどこう言ったな? “そっちの連中がいきなりココ来て狩りの邪魔した”と。これは、貴様らが占有権を主張しているようにも聞こえる。と、するなら、これは重大な規約違反という事になる。加えて、映像を確認した限り、アレは横取りというより互いに同じモンスターを狙い合っていた最中、モンスターが相手のチームに向かって行動しただけのように見えた。モンスターの行動を決定するのはモンスター自身だ。それを奪われたとは、そもそも論外だな」


 「はぁ!? オマエナメてんの? ウダウダ言ってねぇでさっさとそいつr―――」


 「GMに対する不当な発言を確認した。規約違反として強制退去の執行対象に認定、規約に則りGMとしての権限を行使、冒険者としての利用権を剥奪する」


 「―――ッ!?」



 有無も言わせず、私は対象となるその口汚い男をヴォイドフリックでターゲットロック。

 次いで、流れるように執行する罰則内容を選択。



 (怒りで興奮するのも解るけどさー、こういう時に冷静さを失うべきじゃないよね。バーカ)



 強制ログアウト。

 後は、追って登録メールアドレスに垢BAN通知。


 これで作業は終了だ。



 「え? え?」


 「なんだよ、これ……っ」



 目の前で唐突に光の鎖で拘束され、足元に開いた魔法陣の中へと呑み込まれて行く仲間の姿に、その場に居た他のプレイヤー達は何事かと目を見開き、混乱している。


 その最中、私の深紅の瞳が激しく煌き、同時に魔法陣が集束。

 天に向かって光の柱を立ち昇らせた。



 「貴様らのパーティーリーダーはたった今規約違反としてアカウントを停止された」


 「っ!?」


 「で、貴様らはどうする? まだこの場所での占有権を主張するか? それとも、大人しく私の指示に従うか?」



 こうなると、簡単だ。

 こういう連中の取る行動は決まって何時も同じ。



 「指示、って……えっと、従い、ます……」


 「よろしい」



 勘違いをしてはいけない。

 良くこのゲームのGMは横暴だのなんだのと書き込みが付くが、同時に厳しく取り締まってくれるお陰でゲームが荒れない、という感謝を伝える書き込みも多く寄せられている。


 PYO以外のオンラインゲームではGMが持つ権限が制限され、此処までの踏み込んだ行いは出来ない物だが、PYOは違うのだ。


 PYOに於けるGMとは、即ち現実世界に於ける“警察”と同じ。


 規律を守る法の番人なのだ。


 最初に“冒険者登録規約”を徹底して読むように言い聞かせる理由は此処にある。


 とはいえ、私も鬼ではない。

 他人との関わりを持つという事を忌避してはいるが、それでもコイツらは同じ“ゲーマー”だ。


 中には私と同じような考え方を持つ者も少なからず居る。


 だからこそ、私はああして先ず振るいにかけ、気勢を削いで冷静にさせてからこう言うのだ。



 「―――こうした問題は、初心者のプレイヤー間では非常に起こり易いケースなのだ。何故か解るか?」


 「え、っと……わかり、ません……」


 「だろうな。だが、単純な事だ。貴様らも、そしてそっちの貴様らも、攻略サイトの情報でこの場所にやってきたのではないか?」


 「あ、はい、そうです」


 「です、ね」



 やはり、と私は内心で溜め息を吐いた。


 その上で、もう何度も繰り返した言葉を彼らにも伝える。



 「このPYOの世界は非常に広大だ。この場所、“黒の森”も当然広い。モンスターの狩り易い場所というのも一つや二つではないのだ。故に、経験を積んで行けば、それが自ずと見えてくる。つまり、わざわざ攻略情報を頼りにこんな場所で狩場を奪い合う必要など何処にもないのだよ」


 「そう、なんです?」


 「―――サービスだ。貴様ら二つのパーティーでも共同で利用可能な狩場を教えてやる」


 「え……マジっすか」


 「嘗て私が鍛錬の為に使用した事もある場所だ。だが、他言は無用だぞ?」



 と、言うや否や。



 「え……それって、すごくない! マジすか!?」


 「GMさんって確か、ファーストシーズンをソロクリアしたトッププレイヤーさんしかなれないんですよね!? そんな人から狩場紹介して貰えるの……!?」


 「やべぇ! ちょっと興奮してきた! 超オモシロそうじゃん!」


 「バーゲストさんカッケー!! イケメンッスわー!」



 一転、先ほどまで争い合っていた連中が、今はこうして手を取り合って喜んでいる。


 チョロイ……。と、思わなくもないが、こう言われて気分が悪くはないのもまた事実。



 「私をパーティーに加えてリーダー権を貸せ、そこまで転送してやる」


 「うぉ、GMさん太っ腹ー! アザーッス!」



 先ほど垢BANになった男の事など最早コイツらの頭の中にはない。


 どうせ野良で組んだ即興パーティーで、一時的な連帯感につまされて言い争いをしていたに過ぎないのだ。


 だから、言うなればアレは、スケープゴートのような物。


 ああやって見せしめで一人を生贄にし、他の連中を黙らせ、その上で残ったプレイヤー達から好感を得る。


 効率的で合理的、そして何より論理的。


 これが、私が何より愛する考え方だ。


 とはいえ、面倒な案件であるというのもまた否めない話しで、彼らを例の狩場まで送り届けた後、感謝の言葉とメッセージを受け取りながら、私は深く大きな溜め息を吐き出すのだった。


 「―――あぁ、メンドくさ」

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