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Master Code  作者: 覇牙 暁
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第十五話

第十五話「似たり寄ったり」




 ―――ピッピッピッ!


 携帯端末のスピーカーから聞こえて来る小さな電子音。


 何度か電話をして、やっと繋がって、デカパイ社長が滅茶苦茶忙しいって事は解った。


 まぁ、大方予想通りって奴で。


 世界中で発生してる異常現象。

 原因は解らず、ロクに調べもせずに騒ぎ立てるマスコミと主観の入り混じった人の噂。


 現実世界を侵して行くPYOのゲームシステム。


 これだけ条件が揃っていれば、責任追及の声がアドバンスドブレイン社に殺到するのも無理も無い事だろう。


 でも、私の見解は違う。


 現実世界で人間達を襲っているモンスターの中には、私やPYOの運営陣が知らない物も多く、翌々調べて行くと、PYOの物とは違うUIが見えている人や、存在しなかったアイテム類を所持している人達も大勢居るらしい。


 だから、この現象には多分、別の要因が大きく関わっている筈なのだ。


 たまたまアクティブユーザーの多いPYOの世界観が強く反映されているというだけで、表面には出て来ていない様々なゲームシステムが影響し合っているように見えるから。


 一先ず私は、『梶浦 和幸』と保護を求める一般人を連れ、安全が確保されているというアドバンスドブレイン社の社屋を目指す事にした。


 というか、それが社長からの指示。


 それと、自分でも調べて行く内に幾つか気付いた事がある。

 まず、どうも私は、カプセルの中で3時間近く眠っていたらしいという事。


 その間に、現実世界は劇的な変化を起こしていたようだ。


 加えて、ステータスが異常に高いのは、私だけの仕様のようだという事。


 コッチの情報は、松岡さんからの提供で判明した。


 更に、なんでも、松岡さんが主導で異変発生時、PYOに接続していたエージェントを集め、緊急対策チームを設立する事になったらしい。


 組織名は『エインヘリャル』。


 北欧神話では主神オーディンがヴァルキューレに集めさせた神々と戦う為の不死の軍勢をそう呼ぶ。

 生前は勇猛な戦士だった者達の魂で、“英霊”と意訳される事もあるが……。


 何故、“不死の軍勢”なんて意味の言葉をチーム名に選んだというのか。


 不信に思い、尋ねた結果。



 「―――どうやら、君やそこにいる梶浦君のようにPYOのUIが見えている人間達……ボクらは便宜上“アバターラ”と呼んでいるけど、君達アバターラはアバター能力が現実でも使用出来るだけでなく、死んでも復活地点で蘇生する事が出来るらしいんだ」



 これも予想は出来ていた事だけど、流石に呆れた。


 けど、なるほど。そりゃ確かに“不死の軍勢”なんて呼びたくもなる。


 私は複雑な気持ちでそれを聞きながら、様々な懸念に頭を抱えた。



 「それに関係して、社長から伝言があって―――」


 「―――判ってる。その“エインヘリャル”に私も参加してくれって話しでしょ?」


 「ど、どうして判ったの?!」



 私は更なる追い打ちに頭痛がしたが、その上で嫌気を隠しもせずに答えた。



 「私の立場を考慮して、なんでしょうよ。勿論、あの人にとっても旨味のある話しだし。本人は一挙両得って感じだと思うわよ」


 「うん、そう言ってた……」



 このくらい、私にだって察しが付く。


 異変直前までエキシビジョンマッチで大勢の人々が私とチーターとの試合を見ていた筈だ。


 それに加え、PYOのプレイヤーやGM、松岡さん風に呼ぶなら“アバターラ”にはモンスターと互角以上に渡り合えるだけの戦闘能力がある事も既に知れ渡っている。


 客観的に見て、私はあの戦いを見ていた3億人近いPYOプレイヤーに“英雄的”な目で見られている筈なのだ。


 よりにもよって、あきPに“最強のGM”なんてリングコールまでされてしまったのだから。


 正直に言って、とんでもなく迷惑極まりない。


 けど、此処でもし、私がその“エインヘリャル”に参加しなかったら?


 大衆の目は私を“臆病者”と蔑み、“力があるのに戦わない卑怯者”として扱われる事になるだろう。


 リアルの姿バレまでしてしまっている現状、そう遠くない未来に、外もロクに歩けないような立場になり兼ねない。



 「ホント……、ムカつくくらい頭がキレるよ、あの人……」


 「社長の、こと……?」


 「他に誰が居るっての?」



 そう、だから私には端から選択の余地なんてないのだ。


 そして、それが判っているから、あの女は私を最大限活用する手段を考案した。


 今回の件に関し、原因は追々判明して行くだろう。

 けど、その間、アドバンスドブレイン側も責任の放棄をする訳には行かない。


 民衆に事情が開示され、アドバンスドブレイン社が原因で起こった事件ではないと証明出来るまで、“点数稼ぎ”をしなければならないのだ。


 その為の“エインヘリャル”。

 その為の“エージェント・バーゲスト”。


 こんな事態になるとまでは予想していなかっただろうけど、私にとっては運悪く、あの人にとっては運良く、上手く条件が嵌ったという事なんだろう。



 「―――ま、食い扶持を失う訳にも行かないし……」



 こんな状況だ。

 食いっ逸れない為にも、あの女に着いて行くのは悪い判断ではないだろう。


 まぁ、面倒な物は面倒なのだが。



 「あ、それでね」


 「―――なに? まだ何かあるの?」



 嫌々聞き返したのに、返って来たのはそれ以上の追い打ちだった。



 「カスミちゃんには、チームの副リーダーをお願いしたいんだけど」


 「はぁっ!?」



 何を言っているんだ、コイツは。と、真剣に思った。


 緊急対策チームとやらに参加するってだけでも妥協しまくった結果だっていうのに、その上私を副リーダーにしたいとは何事か。


 コレ以上の面倒は御免だとばかりに、私は即座に拒否する事を考えた、のだが。



 (―――いや、待てよ……?)



 副、って事は、リーダーは別に居るって事だから、面倒事はそっちに任せてしまえばいい。


 それに、副リーダーって事は、それ以外のチームメイトを顎でこき使える訳だ。


 エージェントの連中は、恐らく全員それなりに優秀な人間の筈。

 私がブレインとして働けば、私は楽をしていて尚、成果も十二分に上げられるだろう。


 なら、この立ち位置は案外悪くも無いのではないか? と、そう思えた。



 「……ふむ、いいわ。なってあげる、副リーダー」


 「ホントかい! いやー助かるよ……。やっぱり、社長のいう事ってホント良く当たるなぁ……」


 「……え?」


 「いやね、社長がさ、カスミちゃんならきっと副リーダーの件、引き受けてくれるから、って。ボクなんか、絶対嫌がられるって思ってたんだけどねー……」


 「…………」



 あれ、なんだろ。突然嫌な予感というか……悪寒がしてきた。



 「それじゃ、カスミちゃんの名前で登録して公表させて貰うね!」


 「え、公表? ちょ、まっ―――」



 が、聞き返したその言葉を聞くより早く、松岡さんは電話を切ってしまった。


 硬直。そして、耳に残る“ツー、ツー、ツー”っという音。



 「や、られ、た……っっっ!」



 民衆の認識では事態の中心に据えられているアドバンスドブレイン社。


 会社は責任追求の声が殺到し、その対応が可能な“特殊戦力”を保有している。


 正式に軍隊のように扱う訳には行かないが、アバターラが持つ力は現実世界の軍隊と正面からぶつかっても圧倒的だろう。


 それ程の戦力の中心に据えられているのが“エインヘリャル”だとしたら?


 そして、その副リーダーに任命されたのが、私だとしたら??


 ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ!


 下手すると他国の軍事組織や国連とも共同で事にあたる可能性があるし、そんな大規模な作戦行動の中心で副リーダーなんて立場を任せられる事になると、その責任と重圧は私の想像を遥かに絶する!


 それに、良く考えてみろ?


 エージェントの数は決して多くはなかった。

 その中での副リーダーだぞ?


 椅子の上でふんぞり返っていられる程の人的余裕があるのか??



 「……アカン、オワタ……」



 全身から力、というかもうエクトプラズムが抜けかけて頭がクラリとする。



 「うわ! カスミ殿、大丈夫でござるかッ!?」


 「うわ! 近寄るな変態!」



 倒れかけた私を支えようとしたのか、傍に立っていたブタメンが私を抱き留めたのだが。



 「フぐぉ……ッ!」



 思わずICE込みで綺麗なアッパーカットを決めてしまった。


 どうやらこの格好でも武器こそ使えない物の、格闘能力はステータス相応にあるらしく。


 ブタメンは綺麗に螺旋を描きながら垂直に打ち上げられ、頂点で逆さまに。


 そこからは急降下。

 頭から地面に激突し、アスファルトの道路に突き刺さった。



 「り、理不尽で、ござる……っ」


 「あぁ……なんか、流石にゴメン……」



 着込んでいる超重全身鎧と二枚盾の所為か、その圧倒的な重さでアスファルトに頭から減り込んで突き刺さってしまうとは思わなかった。


 一応、私を助けようとしてくれた訳だし?


 ちょっとは、悪いなぁ〜という気持ちも芽生え。


 私はしゃーなしで彼の身体をアスファルトから引っこ抜いてあげる事にした。



 「―――そういえば、先ほどの通信でござるが……」



 地面から引っこ抜かれ、土や泥を払い落しながら、ブタメンが私に問う。



 「電話の事? ―――あれ、ウチの上司。とりあえず、社屋の安全は確保出来てるから、連れて来いって」


 「おお! それは良かった! みなさーん、避難場所が見付かったでござるよー!」



 少し離れた位置で瓦礫を背に休んでいた一般人の連中に、そう声をかえるブタメン。


 電話の最中、コイツの存在は完全に頭から抜けてたんだけど……コイツ、こうして話してみると、ワリと話し易い。


 ブタメン、なんて内心では呼んでるけど、普通に愛称くらいで呼んでやっても良いかも知れない。



 「あの、さ、その……カズ」


 「―――っ! な、なな、なんでござろうっ!?」



 ちょっ、何赤くなってんだコイツ! コッチまでハズくなるからヤメロ!



 「やっ、やっぱなんでもない! アッチ向いてろ! ヘンタイ!」


 「ぬぶぉッ!」



 またグーで殴ってしまった。


 まぁ、今回はICEも使ってないから、普通にグリグリしてやっただけだけど。



 「理不尽でござるぅ……」



 頬を摩って涙目になっているカズを背に、誤魔化しがてら私は立ち上がって携帯端末の表示時間を確認した。



 (……9時、か)



 より正確には、21時03分。


 本社屋上から飛び出してから、もう2時間以上も経過していたらしい。


 私一人で走って帰るなら、物の数分とかからずに本社まで辿り着ける筈だけど、この連中を引き連れていたら、あとどれだけかかるか……。


 疲労は判る。周囲にモンスターが潜んでいるかもっていう恐怖心も頷ける。


 けど、気に入らない。



 「あの……避難場所まで、あとどのくらいですか……?」


 「このままのペースなら、30分もかからない筈でござるよ! みなさん、もうちょっとの辛抱でござる!」



 なんて、カズは一生懸命励ましているけど。


 連中の表情にあるのは、不安とか疲れとか、それだけじゃない。

 アレは、明らかに“不満”を感じてる顔だ。


 そういう顔をしてるヤツは、大抵軽傷で、歩く気になればもっと早く歩けるヤツ。


 で、そういうヤツがケガの酷い相手や老人を睨み付けるから、そっちの連中まで不満そうな顔をするようになる。


 中には、まだ自分の家族が何処に居るかも判らないから、探すのを手伝ってくれっていうヤツもいるし、年寄りも居るんだから車くらい出せないのかとか文句まで言うヤツまでいる始末だ。


 自分勝手過ぎる……。それが、気に入らない。



 「な、なぁ、アンタ……」



 と、そんな中の一人が私に声をかけて来た。


 それは、さっき私に掴みかかって来た男で。



 「さっきは、その……悪かった。それで、あの……なんだ」



 何かを言い難そうに、怯えるように、顔色を窺うように、ソイツは私を見ている。


 そして―――。



 「何か……食い物とか、持ってないか? あーいや、配給とかでも、いいんだけど……」



 その瞬間、私は頭の中の血液が沸騰しそうになるのを感じた。



 「―――は?」


 「す、すまん! けど、昼から何も食べてなくて、ハラが……あ、いや! オレだけじゃなくて、他の連中もさ、歩きっぱなしでハラ減ってるんじゃないか、って!」



 限界寸前。爆発直前。


 どうしてコイツらは、そうやって自分の事ばかり……ッ!



 「たかが半日何も食べてないくらいで、ピーピー騒がないでよ、オッサン」


 「え―――っ」


 「この非常時に、何時でも好きな時にメシが食えるなんて、どうして思えるワケ? ってかさ、あんだけそこら中に人の死骸が転がってて、良く何か食おうって気になるよね。私らが護衛についてるからって、ちょっと気抜き過ぎなんじゃない?」


 「あ……ぅ……」


 「―――アンタみたいなの、ホント死ねば良いのに」



 もう話す事は無い。とばかりに、私はそこで話しをぶった切り、その男に背を向けた、のだが。



 「……駄目でござるよ、そんな事言っちゃ」



 手を捕まれた。



 「なんでよ」



 振り返らずとも、声で解る。カズだ。



 「みんな辛いんでござる。不満だってイロイロ出るのも当然でござるよ。それが、普通なんでござる」


 「ござるござるって、うるさい! アンタ何なの? アイツらの味方する気? あんな身勝手な連中の言う事イチイチ真に受けてたら、本社に着く前に日が明けるっつーの!」


 「―――の味方でござるよ」


 「あっそ。だったら勝手にやってれば? 私は付き合い切れな―――」


 「カスミ殿の、味方でござる」


 「……っ??」



 無理矢理振り向かせる事も出来た筈なのに、カズはそうはしなかった。


 自然にその手を放し、振り返った私に向かって、彼はただ苦笑を浮かべただけだった。



 「カスミ殿の気持ちも解らなくはないでござる。けど、こんな風に他人を拒絶し続けていたら、何時かカスミ殿が辛くなるでござるよ」


 「なに、よ……、それ……」



 孤独が辛いって事くらい、とっくの昔に知ってる。


 でも、他人と向き合う方がもっと辛い思いをするから、だから私は一人で居る事を望むんだ。


 なのに、どうしてそんな憐れむような目で私を見るの?


 私は別に、寂しくなんてない。

 他人は煩わしいだけで、無能な役立たずは側に置いておく理由なんてない。


 私は、何も間違ってなんかいない!



 「人が、嫌いなんでござるね……」


 「そうよ。悪い?」



 不機嫌に、ぶっきら棒に、そう聞き返す私に、カズは。



 「自分もでござる」


 「え……?」



 と、告げ、彼は私に背を向けた。



 「―――申し訳ないでござる! 彼女も、イロイロ混乱していて、気が立っているんでござるよ」


 「いや……、なんか、オレの方こそ、すまん……」



 さっき私が“死ねばいい”と切り捨てた男に、カズはフォローを入れていた。


 どうして? なんでそんな身勝手なヤツにまで気を遣う必要があるの?


 言ったよね? 自分も、人間が嫌いだって。


 私は、聞き間違えてなんてしていない筈だ。


 なのに、なんで……??



 「―――あはは……。人を纏めるっていうのは、やっぱり難しいでござるな、カスミ殿」


 「なんでよ……」


 「……?」


 「アンタだって、人間が嫌いなんでしょ? だったら、なんでワザワザあんな事……」



 解らない。判らない。分らない。


 コイツの言葉は、全然ロジカルじゃない。


 そう、思ったのに。



 「嫌いだからと言って身勝手に振る舞っていたら、それは多分、あの人達と同じって事になるでござるから」


 「―――っ」



 ぐうの音も出ない程にロジカルな答えだった。


 それは、今まで私に向けられてきたどんな言葉より衝撃的で、驚きに溢れていた。


 そう、だと。私も、確かにそうだと、そう感じてしまった。


 今までは、ソイツらが身勝手に振る舞うのだから、私だって身勝手で良いのだと、そう思っていた。


 けれど、それはカズの言う通りで。



 「あんな風になりたくはないから、自分はもっと人を大事にしようって思うようになったのでござるよ」


 「なによ、それ……。アンタ、聖人か何かにでもなるつもり……?」


 「いやいや! そんなの御免でござるよ! その他大勢の為に殉教なんて生き方、自分にはとてもとても」



 そう言って笑うカズの顔には、嘘なんて微塵も感じられなくて。


 私はつい、苦笑いを浮かべていた。



 「―――ま、そういう考え方もある、って事か……」


 「で、ござるよ」



 コイツがどうしてそんな風に考えられるようになったのか、その理由は解らない。


 私は、人間が嫌いだ。

 コイツも、人間が嫌いだ。


 同じように人間の事が嫌いなのに、私達二人が出した結論は、それぞれ違っていた。


 なのに、多分、私とコイツは何処か似ているんだとも思った。


 だから、コイツはブタメンだし、喋り方もキモイけど、やっぱりちゃんと愛称で呼んであげる事に決めたのだった。

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