episode 01 夫婦漫才じゃない2
休み時間になると、俺の席には咲良と祐介が来る。当たり前のように集まる俺たち。中心にいる咲良のお陰で飽きない毎日を送れている。
入学式の時にたまたま隣にいた祐介が話しかけてくれたのが始まりだ。
誰にでも明るく話しかける性格だからか、俺も普通に接することが出来たし、咲良とも気が合う。
今では俺たちの仲裁に入る役割が祐介になっている。別にケンカしてるわけじゃないが、祐介が来ると自然と場が和む。
今では祐介はなくてはならない存在。俺たち幼なじみの親友だ。付き合いは一年ちょっとと俺たちに比べて短いが、信用出来る奴だ。
ただ、野球に少しうるさい。野球部のことからプロ野球まで、一日中言っていることもある。
「ところでおにぎりどうだった?」
咲良が食べ終わった俺を見て質問してくる。
「ミートボールな」
「……ハンバーグとも言う」
「まだ言うか」
「感想は?」
俺は味を思い出す。
「うまかった。ただ、ミートボールが甘すぎたかな」
「なるほど」
咲良は何やらメモを取り始める。明日はどんなおにぎりになるのか、楽しみではある。
期待しているわけじゃない。食べなきゃ空腹に耐えられないからな。だから、楽しみなだけだ。
そう、きっとそうなんだ。
「咲良、ちょっといい?」
「あ。理乃ちゃん、どうしたの?」
クラスメイトの女子に呼ばれて、咲良は背を向ける。何やら次の時間の宿題のことを話している。
宿題。宿題? 家の机に置きっぱなしじゃないか。最悪だな。忘れてきたとか、どんだけ今日はツイてないんだ。
「亮。放課後付き合ってくれないか?」
おもむろに祐介が言う。照れくさそうに下を向いている。チラリと咲良の様子を窺っているところを見ると、あいつには聞かれたくない話みたいだな。
「部活は?」
「今日は休み。グラウンド整備で練習出来ないから自主練だってさ」
「ふうん。今じゃ駄目な話?」
「無理」
「なんだよ、気味悪いな。気になって授業に身が入らないだろ」
「いつもと変わらないし」
「うるさいな」
ケラケラと祐介が笑い、俺は何だかイラッとして睨んでやる。
「話、聞かないぞ」
「それは困る」
「なにをコソコソ話してるの?」
いつの間にか戻ってきていた咲良が、じっと祐介を睨んでいる。
どこから聞かれていたかは知らないが、だいたいのことはわかったみたいだ。女の勘ってやつかな。
「もしかして、好きな人の話なんでしょ!」
「へ?」
「絶対にそう! わたしもまぜて」
「ダメダメダメー!」
「なによ?」
祐介が慌てて咲良から離れる。めげずに威圧的に近づく咲良の迫力はモンスター並だ。
祐介を助けてやりたいが、無理かもしれない。
「どうして?」
「どうしても!」
拗ねたように口を尖らせて、咲良は俺に助けを求めてくる。祐介からも同じような目を向けられ、俺はどうしたらいい。逃げたいのは俺の方だ。
「あー。俺は知らない。なにも聞こえない」
「コラ! 亮ちゃん!!」
俺は耳に手をあてて、聞き取れないぞアピールをしてみる。
「どこの政治家なのよ!」
「政治家に謝れ。きっと聖徳太子並に様々な声を聞く職業なんだ」
「あのね。政治家のことはどうでもいいの!」
「で? さっき理乃ちゃんに呼ばれてたけど?」
わざと話題を変えてみる。我ながらあからさまな時間稼ぎ。それがわかったようで、いつにも増して目付きが悪くなる。