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episode 01 夫婦漫才じゃない1




 どちらかと言えば、校則は緩い。茶髪にしようが、化粧をしようが、ピアスをしようが構わない。

 とは言え、レベルが低いわけでもない。一般的なものが学べる普通の高校。

 なぜか遅刻には厳しい。どういうわけか、生徒指導室はよく訪れる場所になっていた。


 二人で仲良く怒られ、二限目終わりの休み時間にやっと自由な時間が出来た。休み時間最高。さようなら、俺の空腹。


 早速、咲良特製おにぎりをカバンから出す。相変わらず存在感のあるおにぎりだ。確か、ハンバーグが入ってるとか言ってたな。

 普通の具を入れてくれないのか。咲良の頭には梅干しや鮭やたらこという選択肢はないわけだ。

 腹が減ってるし、何でも食べるけど。


 包みを開いていると、

「亮ちゃん、おいしい?」

 早速、咲良が感想を聞きにやってきた。


「まだ食べてないし」

「じゃあ、食べる前の感想を」

「……いただきます」

「それ、感想じゃないよ」

「いいから食わせろ!」


 大事な休み時間を咲良に奪われるなど、俺の腹が許さない。このまま空腹のままでいると、次の授業中に激しく鳴る自信がある。そんな失態はしたくない。


 やっと一口、食べたところで咲良がペットボトルのお茶を出す。


「はい、お茶」

「早いわ!」

「喉つまるよ?」

「まだそこまで食ってねえよ!」


 家でも学校でもこの調子。だからクラスメイトに勘違いされる。


「また夫婦漫才?」

「祐介くん、おはよう!」

「おはようはもう聞いたよ、一ノ瀬」


 俺の座る机の前に座るのは、日下部くさかべ祐介ゆうすけ。入学式で出会って親友という関係になった男。


「相変わらず仲がいいね」


 そんな祐介は相変わらず綺麗な丸刈り。野球部だから仕方ないのかとも思うが、聞けばずっと丸刈りでお気に入りの髪型だとか。

 シャンプーが面倒なだけじゃないのかと予想するも、違うと一蹴されて終わるんだよな。


「亮ちゃん、夫婦漫才好きだね」

「咲良に言え。というか、その呼び方やめろ」

「一ノ瀬は特別?」


 寂しそうにするな、気持ち悪い。男がちゃん付けは勘弁して欲しい。


「咲良はやめてくれないから、仕方なく」

「じゃあ、オレもそうする」

「祐ちゃんって呼ぶぞ」

「ごめんなさい」


 あっちもこっちも騒がしい。どうでもいいから食わせろ。俺は腹が減ってるんだ。


「あ。ハンバーグ出てきた」

「入れたって言ったでしょ」


 味わってみるとなかなかうまい。それにしても甘いな。懐かしい味がするけど、これって……。


「あのさ、咲良」

「ん?」


 口に入っていたそれを飲み込んでから、咲良に聞いてみた。


「これ、ミートボールじゃねえの?」

「……そうとも言う」


 素直じゃねえな。絶対、間違って言ってただろう。いや、普通は間違えないからな。ボケすぎだ。


「やっぱり二人付き合ってんの?」


 何を見てそう思ったかはわからないが、祐介がつぶらな瞳で反応を窺っている。


 どうして世間は幼なじみのやり取りを見るとくっつけたがるんだろうな。謎すぎる。


「告白したことも、されたこともないよ。な、咲良」

「うん」


 付き合っているのかという問いには、いつも同じように答える。咲良もそれを嫌がることはない。

 多分、慣れてしまったんだ。今じゃ、顔を赤くすることもなくなった。


「付き合わないの?」


 親友だからこそ聞けるのかもしれない。真剣な表情で問いかける祐介に、なぜか適当に答えるのも申し訳なくなる。

 咲良の横顔に目を向け、改めて祐介に向き直る。


 咲良のことは好きだ。だけど幼なじみという立ち位置から変わることは想像出来ない。

 俺にはよくわからない。昔みたいに手を繋ぐことは少なくなったけど、ずっと咲良の隣にいる。

 幼なじみという関係上、お互いの家を行き来することも普通だ。まあ、俺はあまり行かなくなったけどな。


 つまり、よくわからないんだよな。言葉だけだって気がして。友達と恋人の違いって何だろうな。

 だからきっと、今のままだったら付き合うことはない。


「亮?」

「例えばさ、付き合うとかいうなら。ラブレターとか貰ったら考えるかも」


 何にしてもきっかけが必要だ。そう、俺は言いたかっただけなんだ。

 頭に思い浮かんだ例えばの話をすると、なぜか二人は互いの顔を見合わせる。次の瞬間、ぷっと噴き出す。


「亮ちゃん、ふるーい!」

「ラブレターはないだろ!」


 同時に言われるとは思わなかった。真剣に考えた俺の時間を返せ。

 そんなにおかしなことだったのか? メールで「好きだ」って言うより感動するだろう。スマホ中毒者にはわからないか、悲しいな。


 俺は咳払いをして咲良特製おにぎりを口にする。


「亮ちゃん、ラブレターほしいの?」

「例えばの話だよ!」


 咲良はやっと落ち着いてきたようで、涙を拭いながら俺の顔を覗き込む。


「書いてあげよっか」

「いらねーよ!」




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