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螺旋のように想いを告げて  作者: 和瀬きの
episode 00 番外編
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episode 00 生かされている者

番外編。姫巫女様の話です。




 それが恋だと気づいたのは本当に最近のこと。二人の人間に出会い、それぞれの螺旋の旅路を目にした時に気づいたのだ。

 そんなことにも気づけなかったなんて、ワラワは本当に人間を知らないのだと思った。


 恋の相手……彼のことはよく覚えている。初めて会った日、ワラワを見て笑った。本当に最悪の出会いだ。


『なにがそんなに可笑しい』

『子供らしくない。そんなキツイ目をしてたら、幸せが逃げていくぞ』

『ワラワは姫巫女。子供扱いなど――』

『姫巫女である前に、君は人間だろう?』


 初めから驚かされてばかりであった。ワラワを人間であると言ってくれたのは彼が最初。その瞬間に恋に落ちたように思う。


 それから彼はワラワのことを姫巫女ではなく、本当の名で呼ぶようになった。いつも朗らかに笑っていて、ワラワには何がそんなに可笑しいのか理解出来なかった。


 会う度に彼はワラワを子供扱いする。頭を撫でて「お役目ご苦労さま」なんて声をかけるのだ。腹が立って毎回、胸を殴るのは決まりのようなもの。


 でも、わからなくもない。


 彼にとってワラワはまだ子供であると自覚している。

 ワラワは十二歳。今から二年前のことだ。彼は二十八歳の大人だったのだから。


 黒服が似合い、同じ色の瞳が綺麗だと思った。羨ましかった。ワラワもその色が欲しくてたまらなかった。


 青い髪に瞳。それは姫巫女と言いふらしながら歩いているようなもの。だから人はワラワに頭を下げ、手を合わせる。この先も平和であるようにと願いを言ってくるのだ。


『もし、この世界に危機が訪れたら……ワラワの意思は関係ない。戦いの中に行かねばならぬ』

『バカだな。生贄じゃないんだ。好きに生きればいい』

『そんなこと出来ぬ!』

『たった一人の少女に頼らなければならないほどの、そんな脆い世界なら。いっそ壊れてしまえばいい』

『なにを……言って……』

『なあ、お前はどうしたいんだ?』


 ワラワは初めて泣いた。生きてもいいんだと言われた気がしたから。死ぬために生まれてきて、道具としての価値しかないワラワ。

 初めて、心から生きたいと思ったのだ。


『我儘じゃない。我儘なのは周りの人間だ』


 考えたこともなかった。彼が言ってくれた"自由"を予感させる言葉は、ワラワを幸せにしてくれた気がしたのだ。


 だからこそ、

『螺旋の終着点だ』

 ワラワは任務に失敗したのだろう。


 姫巫女として非情になれなかった。人間として、女として……そんな感情で世界を救うことは出来ぬとわかっていながら、戦うための力を求めてかの世界へ行ったのだ。


 一ノ瀬咲良は強い目をした女だった。自分の命はいらない。だから雨宮亮を幸せにしろと言う。彼女にとって一番大切な思い出を失ってもいい。その決意にワラワは驚いた。

 雨宮亮は一ノ瀬咲良の命を救うために、想いを告げぬ決意をした。ワラワを睨むあの目は今でも忘れられぬ。とても人間らしくて羨ましかったから。


 雨宮亮は気づいたようであった。永遠に想いを告げぬことは難しい、と。いつかはずみで言ってしまうかもしれない。ならば、と賭けに出た勇気はワラワにも立ち向かう力を与えてくれた。


 ワラワの背中を押してくれた二人を不幸にすることをしたくない。なぜか応援したくなった。

 二人が幸せになれば、ワラワも救われる気がしたから。だから、潔く退くことにしたのだ。


 例えそれが失敗だとしても、構わないと思った。二人の願いを踏み台にしてまで、この世界を守る価値などない。だからと言って滅ぼすつもりもない。ただ、ワラワの力で救いたいと思っただけのこと。


 ワラワの感情が恋だと気づいたのは、二人のお陰。それがわかった今、やることは一つ。


「質問を返そう。そなたはどうしたいのだ?」


 あれからずっと彼には会っていない。今どうしているのかを考えると胸が痛い。優しすぎるからこそ不安なのだ。


 彼はこの世界のあり方に疑問を持ち、ワラワに言ったように思うがまま動いているようだ。今を生きる者を守るのではなく、後の世代が希望を持って生きられるようにしたいのだろう。でも、それによって今を生きる者たちが犠牲になるなど、許されることではない。

 ワラワは姫巫女。そなたが敵となろうとも、守らねばならぬものがある。


 愛した者が道を外してしまうことは、ワラワには耐え難い。そなたを守りたい。もう一度、話がしたい。その大きな手でワラワを撫でて欲しい。

 我儘なのだろうか。姫巫女ともあろう者が、感情で動くのは我儘なのだろうか。


『我儘なのは周りの人間だ』


 だと、いいのだがな。


「そろそろ行こう」


 呼びに来た仲間が部屋を覗く。立ち上がると、桜の花弁が散った。


「……わかっておる」


 姫巫女としては失格。でも、ワラワは人間だ。人間として生きたいと思うのは間違いではないはず。

 彼が教えてくれたたった一つの希望なのだから。


 願いに悩まされ、螺旋を駆け抜けた二人のように幸せになれなくとも……。ワラワはワラワの人生を生きたいと思う。姫巫女ではなく、一人の女ミルロとして。


「ワラワも螺旋の中にいるのかもしれぬな」


 たった一つの願いを叶えるために、ワラワも行こう。そなたの螺旋と共に終わらせるために――。




姫巫女様サイドの話でした。ちょっと語りみたいになりました。完全に作者の自己満足なストーリーですみません。

次に書く異世界転移ものの一場面です。残念ながら姫巫女様は主人公ではありませんので、本編で書けない部分を螺旋の番外編として書きました。

また他の番外編も書いてみたいのですが、もっと執筆パワーがたまってからにします。特に、祐介たち二人の恋模様を書いてみたいですね。


とにかく、読んでいただきありがとうございます。ページを開いてくれたあなたに感謝です。

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