episode 05 姫巫女との契約2
「そうだ。屁理屈だよ」
言葉が止まらない。何とかして想いを伝えようと努力したが、結局は無駄になったんだ。
「想いを伝えないまま、ずっと幼なじみでいる選択もある。自分が辛いから危険を冒して契約という形を取ったと思われても仕方がない。でも違う。俺のことはどうでもいい」
我ながら低い声だ。怒りをそのままぶつけるなんて俺らしくない。冷静さなんて忘れてしまったみたいだ。
姫巫女は静かに聞いていた。時の止まった教室。音のない世界で。
「俺が気持ちを抑えた結果、咲良も祐介も悲しませていた。望まないものばかりが現実になる。そりゃ、咲良が死ぬことに比べたら大したことのない事柄なんだろう」
実際、幼なじみでいられるならそれでいいと思っていた。だから願いを叶えて祐介に託そうと考えたんだ。
しかし、二人にとって辛いことばかりを経験させた。俺のせいで。
「考えてみれば生き地獄ってやつだ。願いを叶える前も後も、何も変わってない。願いを叶えて代償払って、何の意味もなかったんだよ。あんたにはわからないかもしれないけどな」
皮肉たっぷりに言ってやる。まだ姫巫女は涼しい顔をしたままだ。
「だから決めたんだよ。あんたの真似をして契約で幸せになるってな」
「失敗した時のことは考えなかったのか?」
やっと姫巫女が口を開く。人の色恋沙汰に興味ないような顔をしていたが、聞いてはいたようだ。
「もちろん考えたさ」
「では、なぜだ。なぜ、そこまで強気な行動に出られるのだ?」
「契約違反だと言われて咲良が死ぬことになっても、俺は受け入れるつもりでいたから。元々の運命を受け入れるんだ。それが本来の道なんだろう? 螺旋なんて言って回り道し過ぎたけど、元の道に戻っただけのこと。俺は咲良を愛してる。だからこそ、逃げるのはやめた」
少しだけ間があった。
感情を表に出さない姫巫女が、狼狽えているようにも見られる。そんな姿は初めてだ。
「もしもギリギリで切り抜けられたら、本当に結婚して生きていこうと思ってたんだけどな」
脱力感が体を動かなくする。俺は立っていることもキツくて、ため息とともに座る。
甘かった。そんな契約なんて形で切り抜けられるなら代償とは言えない。俺は咲良に想いを告げてしまったんだ。
これから確実にやってくる咲良の死を覚悟しなければならない。もう一度、あの苦しい想いをしなければならない。
でも、大丈夫だ。今なら。
「不合格、なんだろ? だったら、ちゃんと言葉で伝えていいだろ? 好きだって伝えてから終わりたい」
姫巫女が微笑んでいる。清々しいまでの笑顔は、終わりを予感させる。
俺は姫巫女の条件の下に戦い、負けた――。
「姫巫女さん。あんたって、なんなんだ? ちっとも理解出来ない。願いを叶えて代償決めて。娯楽にしては悪趣味だ」
「人間はすぐに理由を探す。不可解なものを嫌い、理由付けすることで安心する生き物。ワラワにはそっちの方が理解出来ぬ」
「ま、そうかもな」
普通じゃない。それは出会った時にわかっていたが、考え方まで違う所をみると外国人。もしくは違う世界の何者かと考えるのが普通。
そう考えることも理由付けの一つで、姫巫女には理解出来ないんだろうけどな。
でも、姫巫女だってわからないことを聞いてきた気がする。ま、それを言い返せる雰囲気ではないけど。
「ワラワは悪魔なのだろう? それでよいではないか」
「まあ……な」
初めて出会った時のことを思い出す。悪魔の契約でも構わないと、俺は必死だった。




