表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/47

episode 05 その手は離さない2



 世間で盛り上がるのはクリスマスイヴの方。どうしてそうなってしまったのか、俺にはよくわからない。


 俺はクリスマス当日の方が好きだと、理由を説明したら咲良に笑われたけど。


『前夜祭なんかより当日の方が店は空いてるし、時には安くケーキが食べられるんだぞ』


 食いしん坊だなんて笑われた。でも咲良にも、同じようにクリスマス当日を好きにさせてやる。それが今日の目的。


 咲良へ思い出のプレゼント。


 俺はしばらく地元でクリスマスを過ごしていなかった。だから、流行りの場所やイルミネーションが綺麗なスポットなんてわからない。

 事前に母さんに聞いたら、駅前がすごいという話だ。ただ、あまり人混みのある場所には行きたくない。

 特に今日は花火があるから、どこへ行っても人だらけ。特に会場の河川敷は話が出来る雰囲気じゃない。


「そうだ」


 俺が急に方向転換をしたので、咲良が転びそうになった。慌てて引っ張りあげる。


「亮ちゃん!」

「しっかりついてこいよ」

「うん。なんかさ、亮ちゃん。その……なんていうのかな。男みたい」

「俺はずっと男だ!」


 失礼な奴だと睨むと、咲良は頬を赤くしている。少し寒かったかなと後悔していると、小さな声が聞こえた。


「え? なに?」

「ねえ、そろそろ手離してくれない?」

「別にいいだろ」

「……いいけど」


 照れているから赤くなっていたみたいだ。恥ずかしそうにする咲良を目にする日が来るなんて、ちょっと癖になりそうだ。


「どこに行くの?」

「咲良も知っているところ」


 俺は気持ちを落ち着かせるために深呼吸する。


「そういえば咲良、就職は?」


 世間話のつもりで話題をふれば、俯いて暗い顔をする。


「なるほど」


 全て理解した俺が呟けば、咲良はムッとして顔を上げる。


「頑張ってるんだよ? ただね、一ノ瀬咲良の魅力わかってくれる企業が……っ」

「ランク上げすぎなんだろ」


 咲良は言葉を失い、力なく俺についてくる。握った手にも力がない。


「亮ちゃんは?」

「とっくに決まってるよ」

「余裕だね。ムカつくくらいに」


 ぶーっと膨れっ面をする咲良。


「祐介の方は?」

「……決まってるよ」


 まさか祐介にも置いていかれるとは。ちょっと可哀想になってきた。


「ランク上げすぎ……か」


 やっぱり咲良は気にしている。


「高校でも大学でも、背伸びして入ったら後が大変だろ?」

「勉強についていくってところ?」

「そう。就職も同じだ。背伸びしてることくらい、企業のおっさん達にはわかるんだよ」

「えー!」


 咲良はまた項垂れる。俺はそれを笑い飛ばすと、さすがにショックだったみたいだ。


「亮ちゃんは、どこに就職したの?」

「今は秘密」

「ケチ」


 すっかり暗くなり、街灯が壊れたままの通りを歩く。商店街からは随分離れ、懐かしい坂道へと足を踏み入れる。


「あれ?」


 咲良も気づいたようだ。ここが俺の実家に近いこと。よく、一緒に登校した通学路であること。


「行きたいところって、もしかして……」

「気づいたか?」

「嬉しい! というか、懐かしい! あそこ、よく一緒にジュース買った自販機! いつもイルミネーション綺麗だったお家、まだあるのかな?」

「いきなりはしゃぐな」

「落ち着いてらんない!」


 あちこち指をさしては、あの時はこうだったとか。あっちで何があったとか話し始める。

 繋いだ手に力が入り、いつの間にか咲良の方が先に歩く始末。相変わらず、自分の感情のままに動く。


「でも、入れるの?」

「まあ、行ってみる価値はあるだろ」


 突如、ふいてきた風が肌を刺す。真っ白な桜の花びらが俺の顔にあたる。

 驚いて立ち止まりそうになる足を無理やり進め、桜の警告を俺は見ないことにした。


 知っているから。これから俺がやろうとしていることは、とんでもない賭けだ。

 禁を破るようなことになるかもしれない。それでも、俺は終わらせるために決意したんだ。


「――螺旋」


 桜が上空に舞い上がり、風がやんだ。奇妙なほどに、辺りは静かになる。


「行こう、咲良」

「……うん」


 俺は絶対にこの手を離さない。失いたくはない。でも、このまま終わるのは嫌だ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ