表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/47

episode 05 その手は離さない1



「祐介のこと、知ってたのか?」


 カフェから離れ、馴染みある商店街を抜ける。ふと思い出して咲良に問いかければ、ニヤニヤしている。知っていて黙っていたみたいだ。

 祐介は今、多分あのカフェで彼女を待っているはず。修羅場にならなければいいなと願いつつ、俺は楽しそうな咲良の横顔を窺う。


「祐介くんに口止めされてたんだもん。仕方ないでしょ」

「俺だけ知らなかったのか」


 祐介が電話していた相手は理乃ちゃんだった。

 クリスマスに彼女を誘わないのはどうなんだと、怒られたと言う。


 それ以前に理乃と呼び捨てる、繋がりのあまりない二人が電話で話していると、俺は大混乱だった。

 まさか恋人の関係になっていたなんて思いもよらない。


「いつからなんだ?」

「最近。理乃ちゃんが告白したの」

「……は?」


 待てよ。聞き間違いか? 高校の時、告白したらぶん殴るとか祐介に言っていたはず。


 最近は確かに落ち着いていた。ただ、決定的だったのはあの日だろう。元彼と言い争った時に、助けてくれたのが祐介だった。

 あのラーメン屋でのことは二人には内緒なのだが、祐介と理乃ちゃんが深い仲になったきっかけは、多分間違いなくそこだ。


「なに、一人で納得してるの。もっと驚くかと思ってたのに」

「……驚いてるって」

「本当かなぁ」


 賑やかな商店街の角。あっという間に暗くなってしまった空を見上げれば、見事な星空。

 寒いだろうと思って買った自販機のコーンポタージュ。熱すぎて持てないから、咲良のコートに忍ばせる。


「ありがとう」


 そう言って手を突っ込んだが、やっぱり熱かったみたいだ。


「で、理乃ちゃんが告白?」

「……うん。わたしも初めてきいた。理乃ちゃんが告白したなんて、本当にびっくりしたんだよ」

「そんなにか?」

「好きって気持ちがわからなかったんだと思う。告白してきたら付き合う。理乃ちゃんの恋愛はそんな感じだったよ」


 咲良は首を傾げる仕草をする。何か腑に落ちないものがあるようだ。


「理乃ちゃんはずっと元彼のことを引きずってて。わたしがどんなに言ってもきいてくれなかったの」


 ちょっとしか見えなかったが、あの最悪な男のことを本当に好きだったのか。いや、好きというよりも……好きだと思い込んでいた。


「それが変わったのは多分、わたしが家に招いた日。それと、元彼とちゃんと別れられた日かな」

「別れた日……」

「話を真剣にきいてくれて、バカみたいなアドバイスにありがとうって言ってくれた人がいる」

「え?」

「理乃ちゃん、嬉しそうに言ってた。最後まで誰だか教えてくれなかったけど。すごい勇気貰って、だから元彼に言いたいこと言えてスッキリ別れられたって」


 俺のことなのか? そんな理乃ちゃんのことなんて知らず、ただ話を聞いていただけだった。

 そんなことで、俺は理乃ちゃんを救ったのか? 失うばかりだと思っていたのに、俺は誰かを幸せに出来た。

 出来るんだ、こんな俺でも……。


「別れる時にトラブルになって、その時に祐介くんが守ってくれたんだよ」

「で、付き合うことになったのか」

「二人の間に挟まれて大変だったんだから。お互い好きなんだから、さっさと告白すればいいのにって思ってたんだよ」

「よく我慢したな。お前なら言っちゃいそうだけどな」

「もう大人ですからねー」


 苦しくて悶えている姿が目に見えるようだ。


「最初さ、二人ともわたしの友達って言ったらお互い驚くし、同じクラスだったって言ったらもっとびっくりしちゃって」


 そうだろうな。祐介のことを理乃ちゃんが覚えているとは思えない。理乃ちゃんの見た目もだいぶ違っていたからな。そうなって当然だ。


「でもさ、祐介くんが彼氏なら。わたしはすごく安心」

「……そうだな」


 祐介が彼氏なら安心。

 何度もそう思ったことがある。祐介が咲良の彼氏だったら、俺は安心出来ると思い込むことに必死だったんだ。


「嬉しかったけど、寂しくなっちゃったの。なんとかしてよ、亮ちゃん」

「なんだよ、それ」

「だって、二人の邪魔出来ないでしょ? 一緒に遊ぶほど図々しくはないよ」

「俺の家で飯を食うのは図々しくないか?」

「それは別腹みたいなもんでしょ」

「違うだろ」


 わからないもんだな。高校の時の関係性を見たら、二人が付き合うことになるなんて思わない。しかも、俺がちょっとだけ絡んでるとか、自慢してもいいだろ。


「ねえ、亮ちゃん」


 やっと冷めてきたコーンポタージュをカイロ代わりにしている咲良が見上げてきた。


「どこ行くの? もう、帰る?」


 まさか。これはチャンスだ。逃すわけにはいかない。いや、そもそも最初から二人になるのが目的だった。

 二人きりで話がしたい。


「行きたい所があるんだ」


 俺は咲良の手を取って歩き出す。


「亮ちゃん……っ」


 戸惑う咲良の声。いつもと違う声音で、緊張のせいかその手を離しそうになってしまう。伝わってくる温もりが肌を刺激する。

 泣きそうなくらい嬉しい。咲良がそばにいる。こうして触れられる。


 やっと歩き出せる。ここから、俺は始める。

 理乃ちゃんに勇気を与えたように、祐介が挑戦し続けたように、どんなに寂しくても待ち続けた咲良のように、俺だって逃げずに進むんだ。


 そして、本当の幸せを手に入れる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ