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episode 05 久しぶりに揃って




 その日の夕方。

 クレープが食べたいと言う咲良のわがままに、俺たち二人は付き合うことになる。甘い物は別腹だから付き合ってやるけど。いや、むしろ付き合わせて欲しい。


 そういえば、俺は初めて行くかもしれない。咲良が見つけた、あのカフェ。何だかいろいろあって行く機会がなかった。

 女の子が好むような店構えだし、一人ではもちろん恥ずかしい。念願のクレープだ。少し興奮する。


 店内は結構混雑している。クリスマスだからカップルもいて賑わうカフェ。


 母さんが言っていたクリスマスイベントのせいもあるかもしれない。花火大会か。寒いのに花火か。


「なあ」


 慣れているみたいで、トッピングを細かく注文する二人の後ろで俺は声をかける。


「なに、亮ちゃん」

「今、冬だよな」

「そうだけど。どうしたの? 勉強しすぎて頭が夏になっちゃった?」

「おかしいのはお前らだろ!」


 注文が終わり、クレープを受け取った咲良は振り向く。すでに一口食べている。


「なにがおかしいの?」


 クレープから覗く二種類のアイスクリーム。歩いてきたから身体が冷えているというのに、何を考えているんだ。風邪をひいても知らないからな。


「咲良ちゃん、席あったよ!」


 窓際のテーブル。大声で叫ぶ祐介の手にも同じようなクレープ。本当にどうかしている。

 そんな焼きそばヘアで、可愛いサンタのトッピングはどうなんだ。


「亮ちゃん、早く注文しなさい!」

「もう注文したよ」


 驚く咲良の目の前。店員さんがベストスマイルでクレープを差し出す。


「クリスマススペシャル、お待たせいたしました」


 もちろん咲良はふくれっ面。寒いと言っておいてなんだけど、次はいつこのカフェに来られるのか考えたら、つい。


「亮ちゃん、アイス三つじゃない!」

「うるさい。期間限定の誘惑に負けたんだ。俺は心が弱いんだよ。それにトッピングの注文が面倒だったんだ」

「面倒って言うより自信なかったんでしょ」

「うるさい」

「もっと若者らしくなりなよ」

「充分、若いだろ!」


 そう言って祐介のいるテーブルに向かう。

 しかし咲良と言い合っている間に、祐介が焦り顔で電話している。何かトラブルがあったのかもしれないと思いながら、咲良と顔を見合わせる。


「祐介、くん?」


 謝るジェスチャーをしながら、誰もいない窓に謝り続けている。全く話を聞いていない。

 とにかく椅子に座り、アイスが溶けてしまうからと食べながら祐介の電話が終わるのを待つ。


「亮ちゃん、ありがとう」

「え?」


 突然、咲良が照れながら言う。窓の方を見ていたが、すぐに改まったように真っ直ぐに見つめてきた。


「約束、守ってくれたね」

「……いや、守ってない」


 ぽかんとした顔をする。

 本当に百面相だ。見ていて飽きない。怒っている顔も、笑っている顔も好きだ。泣いてさえいなければ、悲しむ顔も綺麗だと思う。泣き顔は辛いから。


「亮ちゃん、キモイ」

「なんだよ、それ」

「人の顔見ながらニヤニヤしないでよ。変態だと思われて捕まるよ?」


 蔑むように睨まれて、本当だったら怒って文句を言うところだ。でも、何だろうな。なんか、ほっとした。


 溢れそうな生クリームを口に含みながら咲良が笑っている。口についたままだから、早く拭けと言いたい。

 チョコのかかったバナナを頬張りながら、祐介が電話している。食べるのか喋るのかどっちかにしろ。


 突っ込みたくなる。そんな姿に安心するのは、やっぱりこいつらが好きだからだ。


 こんなに近くにいるのに。どうにもならない事実を突きつけられて、避けるしかなかった。いつも笑っていてくれたのに、見ないふりをしていた。


 後悔したって、それを受け止めて生きている。二人は強い。俺はきっと弱かったから、あんな願いに振り回されてしまった。


 後悔をやり直せるのならと思って、甘い言葉にのった。今更、変えようがない。もっと早くに気づくべきだったんだ。

 でも時々思ってしまう。あれは夢だった。咲良が死んだことも、姫巫女も夢で、本当は何もなくて。告白出来るんじゃないかって。


「咲良」


 そんな悩みはもう終わりだ。やめてやる。咲良には悪いけど、俺はもう耐えられない。


「話したいことがある」


 生クリームを頬に付けた咲良が、俺の目をじっと見る。


「なに?」

「すごく大事な話」


 咲良が何か言いかけた時だ。祐介が勢いよく立ち上がる。電話が終わって、何やら慌てている。


「どうしよう、咲良ちゃん!」

「なに? 急に」

「理乃、怒らせた」


 食べたアイスクリームを吐き出しそうになりながら俺は立ち上がった。勢いよく飛び出したアイスクリームが祐介の前に落ちる。


「亮ちゃん、汚っ」


 咲良が手近にあったペーパーを取り出してくれる。


「いやいやいや、何だか気になることきこえたんだけど!」

「待て。オレの問題が先だって。理乃が――」

「それだよ!」

「二人とも落ち着いて!!」


 咲良の制止の声さえ届かないほど、俺は混乱していた。




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