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episode 04 思い出す過去。そして未来へ。




 地元ではたくさんの事件があったが、東京に戻ると何も変わらない日々が待っていた。

 だからか月日はどんどん流れていく感じがした。あっという間に季節が変わり、油断すると置いていかれそうになる。


 俺は咲良の言葉を胸に、大学生活を過ごした。


 思い出す、咲良が教えてくれた螺旋。

 きっと大丈夫。消えてしまいそうな希望。でも、それが俺の生きる力になっていた。


 もう、すれ違いは終わりにしよう。俺は咲良を不幸にするかもしれない。俺自身の幸福はないのかもしれない。

 恐怖に押しつぶされそうになる。それでも、進むしかない。


 俺が自分で決めた道だ。


「なんだよ、電話したくらいで驚くなよ」


 久しぶりに咲良の番号をコール。少しだけ緊張したけど、驚きながら応える咲良に助けられる。いつも通りのバカみたいな会話をして、本題に入る。


「お前、就職活動してるの? いや、邪魔したら悪いと思ってさ」


 大学四年の春だ。就職はもう決めなきゃマズイという時期だが、咲良は内定を貰えないみたいだ。


「夏は忙しいだろ。だからさ、十二月に帰るよ。すぐに大学に戻らなきゃだけどさ、顔見せに行くから」


 弾んだ声で騒ぎ出す。そういうところ、まだ子供っぽくて好きだ。子供というより、感情を隠さないのかな。


「わかったから、しっかり就職決めろよ。あと俺が帰ること、母さんにも言ってくれるか?」


 どうせ母さんには毎日会っているんだろう。そう思った俺の耳に入ってきたのは母さんの声。すでに家に来ていたのか。


「ああ、母さん。うん、わかってるよ。ちゃんと決めたから、大丈夫。それとさ、十二月に……何日かって? まだ、そこまでは」


 言いたいことを纏めて言われると混乱する。もっとゆっくり喋ってくれ。本当に疲れる。

 やっと相手が咲良に戻る。こっちはこっちで興奮している。とにかく落ち着いてくれ。


「咲良。そろそろ切るよ。え? もういいだろ。帰ったらちゃんと相手するからさ。あ、あとさ――」


 他愛もない話。こうやって今まで想いを繋いでいたんだ。幼なじみっていう関係に隠れていただけで、本当は咲良の心を捕まえようとしていたのかもしれない。


 不思議と嬉しくなって、俺はどうでもいいことまで話し出す。

 ずっと忘れていたこと。思い出したんだと言えば、咲良の声が明るくなる。気持ちが温かくなった。


 それは、保育園での思い出のこと。高校の卒業式の日に咲良が教えてくれた、あの記憶。びっくりするくらい急に思い出したんだ。


 咲良の言う通りだった。

 迎えが遅くなるって聞いて、拗ねた俺は滑り台で雨にあたっていた。風邪をひいたらそばにいてくれるかもしれないとか、バカなことを考えて。

 でも一番は涙を隠すためだった。


『亮ちゃん。一緒に帰ろう』


 咲良が手を差し伸べてくれた。

 誰も俺のことなんて気にしてくれない。でも咲良は俺を気にしてくれた。

 咲良に呼ばれて安心した。だから、あの日は特に一緒にいたかったんだ。


 たまたまその日、咲良の親父さんが迎えに来ていて一緒に帰った。咲良の家で母さんを待っていた気がするんだ。


 思い出した時は恥ずかしくなった。あの無口な親父さんの車に乗って、はしゃぐ咲良と一緒に帰った。

 子供だったとはいえ、遠慮なく車に乗り込んだんだ。


 今でも、雨の中にいたがるのは咲良との思い出があるからかもしれない。誰かが差し伸べてくれる手を待っているのかも。


 でも、駄目だ。誰かに頼るのではなくて俺から捕まえなければ。


「切るぞ。ああ、十二月にな」


 スマホを机に置き、開いていたノートを閉じる。疲れていた頭が、咲良の声で元気になった。


「必ず約束は守る」


 十二月。俺はそこで賭けに出る。俺自身の手で、未来を掴み取る。




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