episode 01 現れないアイツ
家に帰ったのは夜の八時を回った頃だ。こんな時間まで高校生が遊び回って、言うまでもなく母さんに怒られた。
そりゃあ、連絡もなしに八時まで帰らなかったら怒られて当然だ。それでも気が晴れない俺は、風呂にも入らずベッドに倒れ込む。
後悔はしている。悪いとも思っている。
カラオケに行って、ゲームセンターでカーレースやって、ファーストフードでハンバーガー食べて、普通なら気が晴れるはずなんだ。つまり、普通じゃなかったってことだ。
金欠とか言いながら、祐介のやつハンバーガー三個食べてたな。何を争っていたのか、最後に食べたポテトがこたえた。ちょっと吐き気する。
確実に明日起きられない。また咲良の大声に起こされるのか。ちょっと憂鬱だ。もっと憂鬱なのは、祐介が告白するかもしれないってことだ。
とにかく、風呂だけは入ろうと階段を降りる。十時を回っていて、母さんも寝てしまったみたいだ。
そういえば、大事な会議があるから朝が早いとか言っていた気がする。
俺は風呂前に水でも飲もうと、キッチンに足を踏み入れる。
冷蔵庫にメモが貼ってあった。
"母さんもう寝る。明日は会議だから、咲良ちゃんに朝食任せましたので。よろしくね、息子"
任せるなよ!
あいつ、絶対におにぎり作るぞ。好きだけど、今日のことがあるし怖いな。異常にかたいおにぎりとか、闇鍋状態とか、頼むから勘弁してほしい。
冷蔵庫を開けて水を取り出そうとした俺は、占拠されたパックに一度ドアを閉めた。
もう一度、落ち着いてドアを開けるが何も変わらない。
「なんだ、こりゃ?」
静まり返った家に俺の声が響く。
冷蔵庫には様々な形のおにぎり。この大きさ。咲良しか考えられない。
「爆弾かと思った」
本当に爆弾並の衝撃だ。
"夕飯一緒に食べようと思ったのにー。いないから、おにぎり作って帰るね。可愛い咲良ちゃんより"
置き手紙だ。人の家の米を勝手に使うなよ。しかも三食くらいある。
どんな嫌がらせだよ。
多分、今日の祐介の話を聞きに来たのだろう。帰ってこないものだから、おにぎり攻撃か。今日はもう食えないし、明日はおにぎり漬けな一日になりそうだ。
咲良、全部の感想聞くつもりなんだろうな。
そんなことを考えながら、俺は冷蔵庫を閉めた。
翌日の朝、時計を見ると九時だった。有り得ない遅刻時間だ。慌てるよりも笑うしかない。
しかし、妙だとは思う。準備しながら思うのは咲良のこと。なぜか咲良は来なかった。
だいぶ怒らせてしまった。手紙では一緒に夕飯とか書いていたが、帰らなかったせいで怒らせてしまったんだ。
そう思うのが普通だ。
俺は、どうやって謝ろうか考えながら部屋を出た。




