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林間獄舎学校事件 1  作者: かもめ
4/5

みんなで手を取り合い、協力し合うことは美しいことです

 もうほとんどの囚人が心身摩耗状態にある7日目に所長は態度を変えられました。私から見て君子豹変するって感じでしたね。

「諸君今までのお勤めご苦労である。プログラムも半分を消化し、残る半分となった。だがここにきて【判断】を下さなければならない段階に来た。そうつまりあの悪臭のする【豚共】は【処分】されなければいけないということだ。我々の授業を壊し、諸君の勉学の邪魔をする愚かな【豚共】を【最終解決】する時が近付きつつある。だが何一つ恐れることはない、我々は目撃してきた【豚共】の所業をだ。奴らは人間ですらない、悪臭のする【豚共】だからだ。我らに力あり、そして正義あり!」

 そういって彼は左手を胸に当て、右腕を斜め下に指を揃えてもう一度大きな声で。

「我らに正義あり!」

 素晴らしい演説でした。

 その演説を聞かされた看守たちはそのセリフ「我らに正義あり!」を看守同士の挨拶としそのポーズを仲間同士取り入れるようになっていったのは圧巻です。

 看守として囚人を虐待するという仕事に加えて彼らの誇りをくすぐる【正義】という言葉は大変魅力的、蠱惑的で彼ら彼女らの選民的意識という共同体意識を育んでいったようでした。

 クラスの半分でしかありませんが、共同体意識というものを完全に作り上げた加藤と鈴木の教育はなかなかのものではないでしょうか? 今も私の憧れです。

 先を続けます、一丸となった看守達は毎日毎日それはもう熱心に囚人達をいじめ、虐待し続けます。

 一例を示すなら、囚人達は皆電撃警棒の恐ろしさを身に染みて分かっています。ですからある夜中に例の如く囚人をたたき起こし、頭からすっぽり目隠しをさせ、腕と脚に電極を括り付け体操の平均台を渡らせるというイジメ、虐待をします。

 賢明な読者ならお分かりでしょうが、地面に落下すると電撃を浴びせる仕組みになっている装置です。

 そう思わせているのではなく、本気で電撃を浴びせる凝ったシステムで考案したのは柴山でした。このシステムは囚人の中で最も恐ろしいシステムとして語られることになったのです。

 そんなシステムから発想を得た物なのかは分かりませんが、加藤の言う【処分】をおぼろげながらも実行するべく看守達が自らアイディアを出し合い、【最終解決】へ向け寝る間も惜しんで計画が練られていきました。

 看守達の最終的ボスは加藤と鈴木で、彼らが責任を取ると言っている以上看守はどこまでも熱心に仕事をこなそうとします。

 例え【最終解決】の意味することがどのようなものであってさえ、一度従った権威に逆らうことなどできはしないものなのです(これも加藤の言った通りでした)。

 場所はプールのシャワー室がイイということになり、そこに木材が運び込まれます。頑丈な足場と枠が組み上げられ、上からもやいに結ばれた丈夫なロープが吊るされました。

 話し合いの結果、【豚】を見張る者二名、【豚】を連行する者二名、【豚】を後ろ手に縛りあげロープに架ける者一名、【豚】の立っている椅子を蹴り飛ばす者一名(ただしこの【命令】を宣言するのは加藤の仕事、呼吸心臓瞳孔反射の確認を行うのは鈴木の仕事)、【処理】の終わった【豚】を運び出すもの一名、穴を掘る者二名、以上の役割が決定します。

 組織がシステムにのっとって【処分】するのは非常に責任があいまいになり人は何の感情も抱かなくなるものです。

 この後の供述でやはり皆一様にいう事は同じで、【豚】の立っている椅子を蹴り飛ばす役の少年ですら「その作業、仕事に没頭していただけです。僕に責任なんてあるはずがないじゃないですか? 真面目にやっていただけなんですよ命令に従っていただけ、他のみんなだって絶対そういうはずでしょう、違いますか?」

 別の少女は又は別の言い方もしました。

「え? 人間だと感じなかったのかって? はい全く感じませんでした、多分他のみんなだってそうのはずですよ~えへ。ただの汚物を処理するとしか感じませんでした、ってか何でこんなコト聴くんですか?」

「早く終わらせたかったに決まっているじゃないですか? だって臭いし、最後糞尿まき散らすんですよコイツ等【豚共】は……プールのシャワーがなかったらきっと酷い臭いですよ。早く家に帰りたいなぁ」は穴を掘っていた少年少女です。ミニショベルカーをちゃんと駆使して割合短時間で仕事をこなしていましたよ。

 さあ物語も終盤、やはり最後にこの男加藤のアジ演説を聞いておきたいですね。今やこの小社会のプロパガンダです。

「我らに力あり、そして正義あり! 諸君いよいよプログラムも大詰めを迎えている。【最終解決】も最早目前だと言っていい、私は諸君らと働けたことを誇りに思う。【豚共】に生きる価値などないことが諸君等に学んでもらったことは大変有意義だ。だが教育者として【豚共】を育ててしまったことも事実だ、そのことを忘れてしまってはいけない。(さも残念そうだという悲しい顔を作る)だが人は前進できる生き物だ、過去から脱却し未来に向かって進むときは今だ! 【豚共を処理し】過去を清算する時!(髪の毛一本も揺らぎのない貌を作り自信満々の態度でした)」

 そう言って彼は左手を胸に当て、右手を斜め下に指を揃えて大きな声でまた全員で復唱しました。

「「「我らに力あり、そして正義あり!」」」



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