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林間獄舎学校事件 1  作者: かもめ
3/5

柔らかな匂い

 そしてまた夜がやって来て、その夜から〇〇四はおかしくなり始めました。

 というのも、看守の一人の提案を副所長が許可なさったからです。生徒の有意義な提案は受け入れるのが彼女の教育方針なのです。

 その提案とは寝ている囚人を無理やり起こし点呼させ、その時に〇〇四の態度が悪いと叱責させ連帯責任による〇〇四を除いた全員にスクワットのトレーニングをさせるものです。

 五分スクワット、五分「我々は〇〇四のせいで懲罰を受けている」と囚人全員で〇〇四を囲い復唱させていました。勿論〇〇四を追い詰めるためです。

 この後〇〇四は睡眠障害を起こし、寝付けなくなり、腕と脚を血が滲むまでひっかくようになりました。また、髪の毛を自分で抜く癖が出始めました。

 一種の神経衰弱状態で自傷癖です、心の痛みを体に変換しないわけにはいかない状態。

 囚人という役柄は完全に現実を超え、彼女を飲み込んでいました。

 どうです? ほがらかな場面ではありませんか? いじめっ子、問題児、学級崩壊の悪童どもがいまや完全に立場を変え、権力の言いなりになっているのです。

 この素晴らしいアイデアは効果てきめんで、熱心に看守に取り入れられていきました。

 連帯責任というものは囚人たちを囚人として完全に捉えたようです。

 この経験から囚人たちは反抗したり、逃げ出したりという考えを一切持たなくなるようになりましたよ。今この時を耐えるだけ、過去の事は忘れてしまい、未来など考えたくもない。

 それが囚人たちの共通心理なのですから、私にはよくわかりますよ。

 次の日の朝、所長直々に監房に来て、各監房から一人ずつ面談をすることになります。

 やり取りの一例を示しましょう。

「どうにも嫌な噂が流れてきてね、それを君に確かめてほしいんんだ見返りに一日解放を約束しようじゃないか」

「いいいっいいっ一体どどどういう事でしょうか? しょしょっ所長殿殿」

「脱獄を企んでいる者がいるらしいのさ」

「あああっあやしい奴をみみ見つけてほほっ報告しろと?」

「うむまあそんなところだ、そうすれば君は一日自由を手にできる、悪い話じゃあるまい」

「もももし、そそっそんなことがあっあっあるというのななならば……」

(どもり過ぎだぜコイツ、情けねえ……)

 そして次の日、所長が同じく面談を行い、脱走の可能性を探りました。

 そしてその夜、副所長は言われます、「代表者を一人立て所長に面会に行きなさい」

 渋々囚人たちの話し合いで一〇一が代表者に選ばれ、目隠しと首輪を付けられ所長室に向かいます。

 其の後の副所長の言ったことは、囚人たちにとって衝撃的でした。

「〇一三、〇五〇、一七〇のお陰で脱走計画が判明することになりました。ご苦労でしたね」

 つまりは本来秘匿にしなければならない密告者の存在を皆の前で暴いてみせたのです。

 いかなる囚人同士でも最も嫌われるのはチクリ魔で、それを副所長から暴かれてしまったのです。

 この時の副所長鈴木は自分でも自覚できないほど自信満々の態度になり、かつてのびくびくした態度はなりをひそめてしまったご様子でした。

「どうですあなた達は一日自由ですよ? 今すぐここから出ますか? 選択してください、もっとも帰ってきてからのリンチは酷いものでしょうねえ?」

 もちろんこんなことは茶番で、最初から脱走計画などというものも存在しなかったのです。

 ですが囚人がそれを信じさえすればいいのです。

 組織的に精神を追い込んでいく所長の計画でした。

 だから一日自由にしてやるといわれても、密告者として扱われた三人は誰一人ここを出ていこうとはしませんでした、いやできなかったというのが正しいでしょう。

 そしてすぐ戻ってきた代表者の言ったことは囚人達を絶望の奈落に付き落とすが如きものでした。

「所長の奴が言いやがった、計画はお見通しだ、脱出は不可能だ」

 これを所長が言わないで、仲間に言わせたことの意味は絶大ですよ。想像して下さい、権威から「するな」と言われるのと、仲間が「出来ない」といわれる違いをね。

 加藤所長は出来る限り手を汚さずに、もしかしたらあったかもしれない脱出の意思をめちゃめちゃに粉砕してみせたのでした。そのうえで囚人達の仲間意識も疑心暗鬼に変えて見せました(今でも彼の狡猾さには呆れてしまう私です)。

 そんなことがあったためなのか、女子の囚人が夜中、便意をもよおしてしまったようです。

「お願いです、看守殿、トイレに、おトイレに行かせてください」

「駄目だ、それは規則違反だ。なぜ三十分前の便所で出来なかった? それは〇一三の責任である」

 非常に生真面目な答え、所長が見ていたら感心するような受け答え。彼はすっかり役にのめりこみほぼ完全な看守になり切っていました。いい仕事ぶりです。

「ではどうするばいいのですか? 看守殿」

「そのバケツにでもするがいい、見ていてやる」

 流石に私も肝を潰しました。学級崩壊に関わらず、いじめにも無関心で(傍観するのみ)真面目だったこの生徒は囚人に対しては恐るべきことを平気で口にするようになりました。

「中学一年生の女子の排泄を見ていてやる」と言わしめたのですから。

 いくらその女子が学級崩壊の首謀者だとしても、いつの間にか彼は囚人達を人間だとはみなさなくなってきていたのです。

 その夜、その囚人房やその階全体が糞尿の匂いで満たされました。また連帯責任により、次の日一日のシャワーも禁止され空調も止められました。

 真夏の暑い盛り、糞尿の匂いと汗の匂いで本当に嫌な空気が充満する囚人部屋は囚人達も看守をも追い込んでいきます。そう認めましょう、これは虐待です。

 ところでいじめられっ子の柴山はどうしたのでしょうか? 彼は姿こそ見せないが裏で隠しカメラによる映像収集や時折行われる看守たちへの面談の様子の編集にいそしんでいたのです。また、夜中になると看守の格好をして副所長と一緒に囚人の虐待に積極的に参加することもありました。最早迷彩服とサングラスは看守を象徴する記号で、それだけで絶対服従するしかない囚人達でした。仕事ではなく虐待に遊びで参加することはとてもいいストレス発散になることも彼は知り、熱心に囚人を虐待しました。その時の囚人達は皆従順というかゾンビのようでした、人間扱いを受けなくなった人間はみなゾンビに変わってしまうのです。いじめられっ子なんかにしてみれば朗報じゃないですか?


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